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Ⅲ.大好きな卵編

79.僕、迷子のお知らせ希望してませんけど……?⑤

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 えーっと………ヴァルはどうして、僕がヴァルを好きだってわかったんだろう。

 好きって、好きってそういう好きだよね……?

 僕が自覚したのだって、最近なのに。
 うーん……………。

 ま、いっか!どうせホントのコトだし!

「それでも、どうしてだかくだんねぇ疑いが捨てきれなかったんだよ。
 お前が黒い竜気めしのために……それだけのために、俺にたかってんじゃねぇかって。ずっと疑ってた。
 これって予言のせいで……回帰するたびに、繰り返し黒き竜にいいように使い捨てにされてたから、だよな?」
『っ!』
「違うか?」
『…………ちがわ……ない。その通りだよ』

 そうだよ。

 ヴァルが覚えてなくても、無かったことにはならないから。
 ヴァルが繰り返し傷つけられてきたことは、ずっと、ずっと……ヴァルの魂に記憶されている。

『それがわかってるなら……っ!』
「だから、俺が今、救済の予言に物申すことは、一つだけだよ。
 あんだけわかりやすかったルルドの言動に、無駄に懐疑的になって、時間を無駄にしたじゃねぇかって。それだけだ」

 それだけって……。

「あれが無けりゃあ、俺は……もっと正しく、早く、お前の感情を理解できたのになって、ムカつくよ」

 いやぁ……おかしいよ。あるでしょ。もっと、こう………他にたくさんあるでしょ。

 恨み、とか。つらみ、とか。

 僕の心情とは裏腹に、ヴァルはすっきりとした顔をしていて。

 ヴァルの手が僕の頬を解放し、乱れた毛並みを整えて、僕の首にかかった首飾りに触れて、じっと僕の瞳を覗き込む。

「お前は、お前だろ。ルルド」
『ヴァル……』

「行き先もアテも無く彷徨ったあげく、腹ぺこで死にかけて、土も食っちまうような、自分のことも何もわかってねぇ、鈍くさい上に、食い意地が張ってて、その癖、訳わかんねぇこといつまでもうだうだもだもだ考えてる、駄竜だよ」

『………うっ』

「で、真っ白でふわふわの手触り最高の極上の毛並みがあって、俺が死にかけるたびに腹をならしては、俺を見つけてくれて、温めてくれて、救ってくれた。
 俺がヤバイときに思い浮かぶのは、いつだってお前だ」

 ヴァルの指の背に鼻先を撫でられて、ふわりと優しいイイ匂いに擽ったくて。
 僕の鼻が勝手にスピスピと鳴った。

 うう……ダメだぁ……。僕のしっぽが……しっぽが、正直すぎる。
 勝手にぶんぶん揺れちゃうっ。

「俺にとっては、お前はお前だけだよ。ルルド。
 他のお前なんて知らねぇし、要らねぇよ」
『ヴァル……』
「それがすべてだ。それでいいじゃねーか」 

 それでいい。
 そう……なのかな。

 でも……僕は……やっぱり……。

 ぶんぶん振れていたしっぽが、徐々にゆっくりとなって。また、くったりとうなだれた。

 考え込む僕の頭の上から、はぁ……と聞きなれた大きなため息して、ふわふわと白い毛を揺らした。

「あのな、ルルド。お前、俺が偶然ここにたどり着いたと思ってんのか?」

 へ……?どういう意味?


「こんな森の中、どうやってたまたま来んだよ。馬鹿」
『え?だって、……だから……院長のもってる土地だから……でしょ?』

 見回りとか、整備とかそういうのでヴァルは来たんでしょ。
 さっき、自分で言ってたじゃない。もう忘れちゃったの?

 うーん。でも、ここって、この森でもかなり奥深いとこなんだよね。誰も見回りなんて来たこと無いし。

 ……………さては、ヴァルの方こそ迷子だね?

「なんだ。その仕方ないなぁ、みたいな微笑みは。
 …………まぁ、実際、カーリー家には言い伝えがあるらしいけどよ。
 この地には他の侵害を許さない白い守り神がいるってな」

 ふーん。

「何を他人事みたいな顔してんだ。お前のことじゃねーか」
『えー?』

 心当たりがないんだけど。だって、こんな何もないところで何を守るの?

『僕は、今も昔もぼーっとごろごろしてただけだし!』

 そりゃあ、ヴァルのご飯とかなら、何がなんでも死守するけどさ。

「んなこと胸張んなよ。
 はぁ……今は言い伝えはどうでもいいんだよ。
 俺がここがわかったのは……お前のいる場所がわかったのは、お前の竜気をたどったからだよ」
『へ?』

 ええっと……竜気をたどるって、どういうこと??

「竜は意識せずとも、流れるように自分の竜気が集まってくるって言うが。
 お前、予定より早く赤銅竜の竜気をもらったせいで、自分の竜気の取り込みが自然とできないんだろ?」

 ギクリッ

『…………えー……?なんのこと?』

 僕、全然わからないなぁ。

「んな毛を逆立てて、尻尾ゆらゆら自信なさそうにしてとぼけても、バレバレだっつーの。
 赤銅竜の長も、言ってただろう。
 竜気を早めにもらった場合、『黒い竜気の取り込みに、何かしらの支障をきたすだろうな。通常竜は、意識せずとも己の竜気がおのずと流れてくるものだが……意識せねば、取り込めぬこととなるだろうよ』って」
「え。」
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