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Ⅲ.大好きな卵編
66.俺は、救済の予言の面倒な本質を知る③
しおりを挟む「確かに小説『救済の予言、竜と共にある者』はこの世の出来事を綴ったお話で間違いないよ。あなたは読んだの?ちゃんと最後まで」
「っ!読んだよ!
最後は、黒き竜と黒い神官を倒して、この世が救済されて、俺は英雄になる。
予言が完成したって、小説では最後にそう書いているじゃないか!」
「書いて無いよ。そんなこと。
よく思い出しなよ。あの本の最後のページに、なんて書いてあったか。
きちんと、正確に思い出して」
「最後のページ?は……だから、『予言、ここに終結す』って……」
ユーリの奴、マジで『小説』の内容を覚えてんだな。
はぁ……信じらんねぇ執着だな。こっちの世界に来ちまうくらいだから。こんなのもはや、狂気で恐怖だろ。
「そうだよ。予言が『終結』しちゃうんだよ。あの小説では」
「だったら……っ」
「『終結』はつまり、終わっちゃうってこと。決して予言が成されたとは書いてない」
「!!!」
どういうことでもって、ユーリが誤解してんのか気になってたが。
俺もつかえがとれた気分だ。
なるほど、な。『予言、ここに終結す』ね。そういうことか。
「『小説』だと、竜の神子と竜騎士が黒い神官と、黒き竜を倒してしまうから。
だから予言は、その時点で『終結』しちゃうんだよ。
つまり、予言は成されない、この世が滅んで救済されないことが決する。
だから『終結』なんだよ。
あの『救済の予言、竜と共にある者』は、真っ黒な闇にこの世が包まれたところで終わる。
ハッピーエンドのようでいて、決してハッピーエンドにはなり得ない、バッドエンドな物語なんだよ」
「な……」
決して予言が成就しない。つまり、この世は滅びる。終末を暗示するとこで、『小説』は終わってるってことだ。
でも。それ……おかしくねぇか。
「おいルルド。それってつまり、その『小説』じゃ、結局この世が滅びるので決定じゃねぇか。
救済の予言は、この世が滅びねぇようにするための措置じゃなかったのか?」
「………そうだよ。ヴァルの言う通りだ。この世は滅びない。予言のせいで」
黄金竜の長は言っていた。竜の予言は絶対的にこの世の行く末を縛り、規定するんだと。
『200年後に、黒き竜が迷いこの世の危機が訪れる。異界の者が現れて、澱み溢れ混沌に落ちる世を、竜と共に救済する』
この救済の予言がある限り、この世の存続は約束されて、絶対に滅びない。
「で、その『小説』とやらは、確かにこの世のある時、ある場所を記したもんだって話だったじゃねぇか」
今はそんなことにはなってねぇし、これから先、そうなるのは無理がある。
現在でも未来でもない。
そうなったら、『小説』に描かれてる、ある時、ある場所として、考えられる時と場所なんて、一つしかねぇ。
「やっぱり……そういうことか」
「………そうだよ。ヴァルが思ってる通り」
ルルドが静かに、俺の答えを肯定する。
「この世は回帰する。救済の予言に従って。この世が確かに在れる、その時点まで。
この世の理をたがえないように。竜の言葉に従うように。世界が存続しようとする力に従って」
無表情なルルドが、泣きそうに、悲壮な顔に見えたのは、気のせいじゃない。
――回帰。
「つまり……繰り返してるってことだな?この世が救済されるまで」
ルルドはただ、無言でこくりと頷く。
なるほど。
救済の予言が成されないと決定した時点で、この世界は巻き戻る。この世が在れるその時点まで。
何かしらの形で世界があり続ける限り、何度だって繰り返し、やり直してきたってことか。
この世が在り続けるため、救済の予言に秘められた竜の力の本質か。
「ヴァルは……何でわかったの?」
わかった……わけじゃねぇよ。こんな奇想天外なこと、確証なんてねぇ。それこそ、
「ただ……違和感があっただけだ。
青銀竜の長は、竜騎士のことを聞いたとき『かつて隷属させた人族がいた』って言ってたのが気になったとか、黄金竜の長は、俺らの魂のことを『何度でも引かれ合う』だとかなんとか言ってただろ。『数多ある時、場所で同じように出会い、同じ道を歩む』ともな。
あの言い方が、ちょっと引っかかってたってだけで」
「えー……?言ってたっけ?」
「言ってたんだよ。
で、あとはまぁ……なんつーか、確かな史実もねぇのに、過去にあったらしい出来事の伝承が多すぎるっていうか……。
俺は、違和感があったんだよ。ずっとな」
この世にも、俺自身にも。
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