上 下
186 / 238
Ⅲ.大好きな卵編

66.俺は、救済の予言の面倒な本質を知る③

しおりを挟む

「確かに小説『救済の予言、竜と共にある者』はこの世の出来事を綴ったお話で間違いないよ。あなたは読んだの?ちゃんと最後まで」
「っ!読んだよ!
 最後は、黒き竜と黒い神官を倒して、この世が救済されて、俺は英雄になる。
 予言が完成したって、小説では最後にそう書いているじゃないか!」
「書いて無いよ。そんなこと。
 よく思い出しなよ。あの本の最後のページに、なんて書いてあったか。
 きちんと、正確に思い出して」
「最後のページ?は……だから、『予言、ここに終結す』って……」

 ユーリの奴、マジで『小説』の内容を覚えてんだな。
 はぁ……信じらんねぇ執着だな。こっちの世界に来ちまうくらいだから。こんなのもはや、狂気で恐怖だろ。

「そうだよ。予言が『終結』しちゃうんだよ。あの小説では」
「だったら……っ」
「『終結』はつまり、終わっちゃうってこと。決して予言が成されたとは書いてない」
「!!!」

 どういうことでもって、ユーリが誤解してんのか気になってたが。
 俺もつかえがとれた気分だ。

 なるほど、な。『予言、ここに終結す』ね。そういうことか。

「『小説』だと、竜の神子と竜騎士が黒い神官と、黒き竜を倒してしまうから。 
 だから予言は、その時点で『終結』しちゃうんだよ。 
 つまり、予言は成されない、この世が滅んで救済されないことが決する。
 だから『終結』なんだよ。
 あの『救済の予言、竜と共にある者』は、真っ黒な闇にこの世が包まれたところで終わる。
 ハッピーエンドのようでいて、決してハッピーエンドにはなり得ない、バッドエンドな物語なんだよ」
「な……」

 決して予言が成就しない。つまり、この世は滅びる。終末を暗示するとこで、『小説』は終わってるってことだ。

 でも。それ……おかしくねぇか。

「おいルルド。それってつまり、その『小説』じゃ、結局この世が滅びるので決定じゃねぇか。
 救済の予言は、この世が滅びねぇようにするための措置じゃなかったのか?」
「………そうだよ。ヴァルの言う通りだ。この世は滅びない。予言のせいで」

 黄金竜の長は言っていた。竜の予言は絶対的にこの世の行く末を縛り、規定するんだと。

『200年後に、黒き竜が迷いこの世の危機が訪れる。異界の者が現れて、澱み溢れ混沌に落ちる世を、竜と共に救済する』

 この救済の予言がある限り、この世の存続は約束されて、絶対に滅びない。

「で、その『小説』とやらは、確かにこの世のある時、ある場所を記したもんだって話だったじゃねぇか」

 今はそんなことにはなってねぇし、これから先、そうなるのは無理がある。

 現在いまでも未来さきでもない。

 そうなったら、『小説』に描かれてる、ある時、ある場所として、考えられる時と場所なんて、一つしかねぇ。

「やっぱり……か」
「………そうだよ。ヴァルが思ってる通り」

 ルルドが静かに、俺の答えを肯定する。

「この世は回帰する。救済の予言に従って。この世が確かに在れる、その時点まで。
 この世の理をたがえないように。竜の言葉に従うように。世界が存続しようとする力に従って」

 無表情なルルドが、泣きそうに、悲壮な顔に見えたのは、気のせいじゃない。

 ――回帰。

「つまり……繰り返してるってことだな?この世が救済されるまで」

 ルルドはただ、無言でこくりと頷く。

 なるほど。
 救済の予言が成されないと決定した時点で、この世界は巻き戻る。この世が在れるその時点まで。

 何かしらの形で世界があり続ける限り、何度だって繰り返し、やり直してきたってことか。

 この世が在り続けるため、救済の予言に秘められた竜の力の本質か。

「ヴァルは……何でわかったの?」

 わかった……わけじゃねぇよ。こんな奇想天外なこと、確証なんてねぇ。それこそ、

「ただ……違和感があっただけだ。
 青銀竜の長は、竜騎士のことを聞いたとき『隷属させた人族がいた』って言ってたのが気になったとか、黄金竜の長は、俺らの魂のことを『引かれ合う』だとかなんとか言ってただろ。『数多ある時、場所で同じように出会い、同じ道を歩む』ともな。
 あの言い方が、ちょっと引っかかってたってだけで」
「えー……?言ってたっけ?」
「言ってたんだよ。
 で、あとはまぁ……なんつーか、確かな史実もねぇのに、過去にあったらしい出来事の伝承が多すぎるっていうか……。
 俺は、違和感があったんだよ。ずっとな」

 この世にも、俺自身にも。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

主人公の兄になったなんて知らない

さつき
BL
レインは知らない弟があるゲームの主人公だったという事を レインは知らないゲームでは自分が登場しなかった事を レインは知らない自分が神に愛されている事を 表紙イラストは マサキさんの「キミの世界メーカー」で作成してお借りしています⬇ https://picrew.me/image_maker/54346

転生先がハードモードで笑ってます。

夏里黒絵
BL
周りに劣等感を抱く春乃は事故に会いテンプレな転生を果たす。 目を開けると転生と言えばいかにも!な、剣と魔法の世界に飛ばされていた。とりあえず容姿を確認しようと鏡を見て絶句、丸々と肉ずいたその幼体。白豚と言われても否定できないほど醜い姿だった。それに横腹を始めとした全身が痛い、痣だらけなのだ。その痣を見て幼体の7年間の記憶が蘇ってきた。どうやら公爵家の横暴訳アリ白豚令息に転生したようだ。 人間として底辺なリンシャに強い精神的ショックを受け、春乃改めリンシャ アルマディカは引きこもりになってしまう。 しかしとあるきっかけで前世の思い出せていなかった記憶を思い出し、ここはBLゲームの世界で自分は主人公を虐める言わば悪役令息だと思い出し、ストーリーを終わらせれば望み薄だが元の世界に戻れる可能性を感じ動き出す。しかし動くのが遅かったようで… 色々と無自覚な主人公が、最悪な悪役令息として(いるつもりで)ストーリーのエンディングを目指すも、気づくのが遅く、手遅れだったので思うようにストーリーが進まないお話。 R15は保険です。不定期更新。小説なんて書くの初めてな作者の行き当たりばったりなご都合主義ストーリーになりそうです。

新しい道を歩み始めた貴方へ

mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。 そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。 その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。 あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。 あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?

愛などもう求めない

白兪
BL
とある国の皇子、ヴェリテは長い長い夢を見た。夢ではヴェリテは偽物の皇子だと罪にかけられてしまう。情を交わした婚約者は真の皇子であるファクティスの側につき、兄は睨みつけてくる。そして、とうとう父親である皇帝は処刑を命じた。 「僕のことを1度でも愛してくれたことはありましたか?」 「お前のことを一度も息子だと思ったことはない。」 目が覚め、現実に戻ったヴェリテは安心するが、本当にただの夢だったのだろうか?もし予知夢だとしたら、今すぐここから逃げなくては。 本当に自分を愛してくれる人と生きたい。 ヴェリテの切実な願いが周りを変えていく。  ハッピーエンド大好きなので、絶対に主人公は幸せに終わらせたいです。 最後まで読んでいただけると嬉しいです。

推しの完璧超人お兄様になっちゃった

紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。 そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。 ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。 そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。

【完結】婚約破棄したのに幼馴染の執着がちょっと尋常じゃなかった。

天城
BL
子供の頃、天使のように可愛かった第三王子のハロルド。しかし今は令嬢達に熱い視線を向けられる美青年に成長していた。 成績優秀、眉目秀麗、騎士団の演習では負けなしの完璧な王子の姿が今のハロルドの現実だった。 まだ少女のように可愛かったころに求婚され、婚約した幼馴染のギルバートに申し訳なくなったハロルドは、婚約破棄を決意する。 黒髪黒目の無口な幼馴染(攻め)×金髪青瞳美形第三王子(受け)。前後編の2話完結。番外編を不定期更新中。

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺

福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。 目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。 でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい… ……あれ…? …やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ… 前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。 1万2000字前後です。 攻めのキャラがブレるし若干変態です。 無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形) おまけ完結済み

悪役令息に転生したけど…俺…嫌われすぎ?

「ARIA」
BL
階段から落ちた衝撃であっけなく死んでしまった主人公はとある乙女ゲームの悪役令息に転生したが...主人公は乙女ゲームの家族から甘やかされて育ったというのを無視して存在を抹消されていた。 王道じゃないですけど王道です(何言ってんだ?)どちらかと言うとファンタジー寄り 更新頻度=適当

処理中です...