157 / 238
Ⅲ.大好きな卵編
37.俺は、迷い竜に惑わされる①
しおりを挟む
読んでいただいてる皆様、ありがとうございます。またもや予約ミスで更新が滞ってしまいました。申し訳ありません。
本日は、きちんと3話更新予定です。(11:30、18:30に更新します)
今後もよろしくお願いします。
**********
巡礼の旅に出て、何度あいつらの立てた杜撰な計画を罵ったか知れない。
鬱蒼とした草木の生える、岩の多い未開の湿地というだけでも、歩くのには気を遣う。野生の凶暴な生物や、奇怪な植物が次々と襲ってくる状況は常に気を張る必要があった。
辺りを常に警戒しつつ、想定内とは言え予測不能な襲撃に備えるってのは、そこそこに神経をすり減らしていくもんだ。
けど、これって俺の日常とさして変わらないんだよな。
ルルドと合流して以降、いろんな意味で巡礼は様相を変えた。
つまり……目的を見失うほど穏やかな道程となった。
まず、生物が襲ってこねぇ。
そりゃあ、そうだ。なんたってこの辺りの生物は竜気で育った分、竜の力には敏感なはずだ。
以前の……クラーケンに襲われた頃の腹ぺこで死にかけのルルドにならいざ知らず、以前よりずっと竜として成長したらしいほぼ竜のルルドに食って掛かる奴なんていねぇ。
で、俺とルルドが共にいることで、ユーリの存在で一層乱れたこの辺りの竜気が安定し、知覚として感じると感じざると、心身を震わしていた不穏な威圧感が、いたって普通の凪いだ空気に変わった。
当の本人は、自覚してねぇようだが。
むしろ、竜気が濃いせいで、いつもより“匂い”が判りづらいらしい。
ルルドが合流した直後は、その容姿と、さらに降誕の地まで一人で俺について来た(わけじゃねぇんだけど……)事実に、他の連中は様子を伺っていたものの。
3日も経つと、ルルドがいる現状が不思議と馴染んでいた。
「ちょっと、そこの赤い人。暇なんでしょ。だったらこのお鍋の火、消えないようにしといてくれる?」
今日の夕食のスープが入った大鍋の前にしゃがみこんだルルドが、テントの脇に腰を下ろして休んでいたメイナードへと声をかけている。
なんで、また。そんな面倒くせぇ奴に頼むんだよ。
「なんだと……?なぜ、私がそのようなことを……」
ほらな。メイナードは、神官としてのプライドが高い。自分より高位の者の指示しか、基本的に受け入れない。
「えー?働かざる者、食うべからずって言うでしょ?僕が見てる限り、あなた何も働いて無くない?あ。ご飯いらないのか」
「私は自分の務めは果たしている」
「え?いつ……?あなた、ずっと歩いてるだけでしょ?」
「だから、それが巡礼の務めだと言っている」
「えー?どういうこと?僕にもわかるように説明してくれる?
…………え。まさか、歩いてるだけであなたの務めが果たされてるって意味なの?皆してることなのに?えー??まさかねぇ。冗談だよね?」
なんてルルドが言う。さらに、「面白くなーい」なんて言いながら楽しそうにきゃはきゃは笑ってる。
で、メイナードは絶句してる。
「そもそも、そのようなことに竜気術を使うなど――」
「え?黄色い人はテント立てるとこを固めて平べったくしてくれてるよ?」
「な……っ」
ルルドが指さす方を見れば、カインが竜気術を使い湿地を平坦にならしているところだった。
あっちでさっき、二人で何を話してんのかと思ったら……。
「ていうか、ヴァルがいつもやってることだし」
「なに……?」
「こんな湿地帯で、みんながちゃんとまっ直ぐ道を進めてるのは、ヴァルが地面を歩きやすいように、適宜ならしたり、固めたりしてくれてるからだよって言ったら、すっごく驚いてたなぁ。
あなたたち、何度もヴァルと旅してるんだよね?知らなかったの?鈍感さんだね。節穴にもほどがあるでしょ」
あいつら俺の粗探しばっかで、何してるかなんて興味も関心もなかったんだよ。
わざわざ言うほどのことでもねぇし、言う意味もなかったろうしな。
俺がちまちまと竜気術を使ってんのを知ってたのは、デュランくらいのもんで……。
あー……よりにもよって、ルルドに鈍感だの節穴だの言われるなんてな。お前、人のこと言えねぇだろ。
ホントに竜の……いや、ルルドの感覚は、一体どうなってんだろうな。
「竜気術なんて、結局は便利な力ってだけなんだからさ。
何をもったいぶって…………。
あー……そっか……そうなのか」
と、ここでルルドがしゅんとうなだれた。
「ごめんね。あなた、無能なんだもんね……」
「は……?」
「僕、無神経に……またやっちゃった。ヴァルにも注意されてんのに。うっかりして……。
そっか、そっか……できないって言えなかったんだね。
いつも赤い竜石を持ってるから、てっきりできると思いこんでて……僕の勘違いだったんだね。自分でも無能だって言ってたのに。できないことを、お願いしちゃって……。
ホントにごめんなさい」
「っ!!誰が、無能だ!いつ私ができないと言った!?」
「ムリしないでいいんだよー。
僕には簡単なことだから、大した負担じゃないし。ヴァルにも良く、お前は普通じゃないから気をつけろって言われてるんだけど。
ごめんね。気にしないで。ほら、僕には全然、ホントに大したことじゃないからさ」
「火をつければいいんだろ!」
「え?違うよー」
「はぁ?」
「えーっと、煮立つまでは強めの中火……この量だと、大体15分くらいかな。
その後は、弱火でじっくりコトコトと30分くらい煮込んで――」
「………まさか、その間ずっと竜気術で調整しろということではないだろうな……?」
「あ。……ほら、だからムリしなくていいって――」
「できないとは言っていない!……できないとは………」
「やっぱり、難しいことなんだよね、これって。ヴァルはちゃちゃっとやっちゃってるからさ。
もう、ヴァルってば、いつも僕のことおかしいだの普通じゃないだの言うけど、自分だって人のこと言えないじゃんねぇ」
お前と比べんなよ。
俺のはあくまで、人の常識の中での優だよ。
お前のは種類が違うだろーが。そもそもの種類がよ。
もう……止める気にもならねぇよ。好きにしてくれ。
だってお前……どうせ、俺の言うことなんて聞かねぇんだから。
本日は、きちんと3話更新予定です。(11:30、18:30に更新します)
今後もよろしくお願いします。
**********
巡礼の旅に出て、何度あいつらの立てた杜撰な計画を罵ったか知れない。
鬱蒼とした草木の生える、岩の多い未開の湿地というだけでも、歩くのには気を遣う。野生の凶暴な生物や、奇怪な植物が次々と襲ってくる状況は常に気を張る必要があった。
辺りを常に警戒しつつ、想定内とは言え予測不能な襲撃に備えるってのは、そこそこに神経をすり減らしていくもんだ。
けど、これって俺の日常とさして変わらないんだよな。
ルルドと合流して以降、いろんな意味で巡礼は様相を変えた。
つまり……目的を見失うほど穏やかな道程となった。
まず、生物が襲ってこねぇ。
そりゃあ、そうだ。なんたってこの辺りの生物は竜気で育った分、竜の力には敏感なはずだ。
以前の……クラーケンに襲われた頃の腹ぺこで死にかけのルルドにならいざ知らず、以前よりずっと竜として成長したらしいほぼ竜のルルドに食って掛かる奴なんていねぇ。
で、俺とルルドが共にいることで、ユーリの存在で一層乱れたこの辺りの竜気が安定し、知覚として感じると感じざると、心身を震わしていた不穏な威圧感が、いたって普通の凪いだ空気に変わった。
当の本人は、自覚してねぇようだが。
むしろ、竜気が濃いせいで、いつもより“匂い”が判りづらいらしい。
ルルドが合流した直後は、その容姿と、さらに降誕の地まで一人で俺について来た(わけじゃねぇんだけど……)事実に、他の連中は様子を伺っていたものの。
3日も経つと、ルルドがいる現状が不思議と馴染んでいた。
「ちょっと、そこの赤い人。暇なんでしょ。だったらこのお鍋の火、消えないようにしといてくれる?」
今日の夕食のスープが入った大鍋の前にしゃがみこんだルルドが、テントの脇に腰を下ろして休んでいたメイナードへと声をかけている。
なんで、また。そんな面倒くせぇ奴に頼むんだよ。
「なんだと……?なぜ、私がそのようなことを……」
ほらな。メイナードは、神官としてのプライドが高い。自分より高位の者の指示しか、基本的に受け入れない。
「えー?働かざる者、食うべからずって言うでしょ?僕が見てる限り、あなた何も働いて無くない?あ。ご飯いらないのか」
「私は自分の務めは果たしている」
「え?いつ……?あなた、ずっと歩いてるだけでしょ?」
「だから、それが巡礼の務めだと言っている」
「えー?どういうこと?僕にもわかるように説明してくれる?
…………え。まさか、歩いてるだけであなたの務めが果たされてるって意味なの?皆してることなのに?えー??まさかねぇ。冗談だよね?」
なんてルルドが言う。さらに、「面白くなーい」なんて言いながら楽しそうにきゃはきゃは笑ってる。
で、メイナードは絶句してる。
「そもそも、そのようなことに竜気術を使うなど――」
「え?黄色い人はテント立てるとこを固めて平べったくしてくれてるよ?」
「な……っ」
ルルドが指さす方を見れば、カインが竜気術を使い湿地を平坦にならしているところだった。
あっちでさっき、二人で何を話してんのかと思ったら……。
「ていうか、ヴァルがいつもやってることだし」
「なに……?」
「こんな湿地帯で、みんながちゃんとまっ直ぐ道を進めてるのは、ヴァルが地面を歩きやすいように、適宜ならしたり、固めたりしてくれてるからだよって言ったら、すっごく驚いてたなぁ。
あなたたち、何度もヴァルと旅してるんだよね?知らなかったの?鈍感さんだね。節穴にもほどがあるでしょ」
あいつら俺の粗探しばっかで、何してるかなんて興味も関心もなかったんだよ。
わざわざ言うほどのことでもねぇし、言う意味もなかったろうしな。
俺がちまちまと竜気術を使ってんのを知ってたのは、デュランくらいのもんで……。
あー……よりにもよって、ルルドに鈍感だの節穴だの言われるなんてな。お前、人のこと言えねぇだろ。
ホントに竜の……いや、ルルドの感覚は、一体どうなってんだろうな。
「竜気術なんて、結局は便利な力ってだけなんだからさ。
何をもったいぶって…………。
あー……そっか……そうなのか」
と、ここでルルドがしゅんとうなだれた。
「ごめんね。あなた、無能なんだもんね……」
「は……?」
「僕、無神経に……またやっちゃった。ヴァルにも注意されてんのに。うっかりして……。
そっか、そっか……できないって言えなかったんだね。
いつも赤い竜石を持ってるから、てっきりできると思いこんでて……僕の勘違いだったんだね。自分でも無能だって言ってたのに。できないことを、お願いしちゃって……。
ホントにごめんなさい」
「っ!!誰が、無能だ!いつ私ができないと言った!?」
「ムリしないでいいんだよー。
僕には簡単なことだから、大した負担じゃないし。ヴァルにも良く、お前は普通じゃないから気をつけろって言われてるんだけど。
ごめんね。気にしないで。ほら、僕には全然、ホントに大したことじゃないからさ」
「火をつければいいんだろ!」
「え?違うよー」
「はぁ?」
「えーっと、煮立つまでは強めの中火……この量だと、大体15分くらいかな。
その後は、弱火でじっくりコトコトと30分くらい煮込んで――」
「………まさか、その間ずっと竜気術で調整しろということではないだろうな……?」
「あ。……ほら、だからムリしなくていいって――」
「できないとは言っていない!……できないとは………」
「やっぱり、難しいことなんだよね、これって。ヴァルはちゃちゃっとやっちゃってるからさ。
もう、ヴァルってば、いつも僕のことおかしいだの普通じゃないだの言うけど、自分だって人のこと言えないじゃんねぇ」
お前と比べんなよ。
俺のはあくまで、人の常識の中での優だよ。
お前のは種類が違うだろーが。そもそもの種類がよ。
もう……止める気にもならねぇよ。好きにしてくれ。
だってお前……どうせ、俺の言うことなんて聞かねぇんだから。
0
お気に入りに追加
1,446
あなたにおすすめの小説
主人公の兄になったなんて知らない
さつき
BL
レインは知らない弟があるゲームの主人公だったという事を
レインは知らないゲームでは自分が登場しなかった事を
レインは知らない自分が神に愛されている事を
表紙イラストは マサキさんの「キミの世界メーカー」で作成してお借りしています⬇ https://picrew.me/image_maker/54346
転生先がハードモードで笑ってます。
夏里黒絵
BL
周りに劣等感を抱く春乃は事故に会いテンプレな転生を果たす。
目を開けると転生と言えばいかにも!な、剣と魔法の世界に飛ばされていた。とりあえず容姿を確認しようと鏡を見て絶句、丸々と肉ずいたその幼体。白豚と言われても否定できないほど醜い姿だった。それに横腹を始めとした全身が痛い、痣だらけなのだ。その痣を見て幼体の7年間の記憶が蘇ってきた。どうやら公爵家の横暴訳アリ白豚令息に転生したようだ。
人間として底辺なリンシャに強い精神的ショックを受け、春乃改めリンシャ アルマディカは引きこもりになってしまう。
しかしとあるきっかけで前世の思い出せていなかった記憶を思い出し、ここはBLゲームの世界で自分は主人公を虐める言わば悪役令息だと思い出し、ストーリーを終わらせれば望み薄だが元の世界に戻れる可能性を感じ動き出す。しかし動くのが遅かったようで…
色々と無自覚な主人公が、最悪な悪役令息として(いるつもりで)ストーリーのエンディングを目指すも、気づくのが遅く、手遅れだったので思うようにストーリーが進まないお話。
R15は保険です。不定期更新。小説なんて書くの初めてな作者の行き当たりばったりなご都合主義ストーリーになりそうです。
新しい道を歩み始めた貴方へ
mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。
そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。
その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。
あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。
あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?
愛などもう求めない
白兪
BL
とある国の皇子、ヴェリテは長い長い夢を見た。夢ではヴェリテは偽物の皇子だと罪にかけられてしまう。情を交わした婚約者は真の皇子であるファクティスの側につき、兄は睨みつけてくる。そして、とうとう父親である皇帝は処刑を命じた。
「僕のことを1度でも愛してくれたことはありましたか?」
「お前のことを一度も息子だと思ったことはない。」
目が覚め、現実に戻ったヴェリテは安心するが、本当にただの夢だったのだろうか?もし予知夢だとしたら、今すぐここから逃げなくては。
本当に自分を愛してくれる人と生きたい。
ヴェリテの切実な願いが周りを変えていく。
ハッピーエンド大好きなので、絶対に主人公は幸せに終わらせたいです。
最後まで読んでいただけると嬉しいです。
推しの完璧超人お兄様になっちゃった
紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。
そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。
ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。
そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。
【完結】婚約破棄したのに幼馴染の執着がちょっと尋常じゃなかった。
天城
BL
子供の頃、天使のように可愛かった第三王子のハロルド。しかし今は令嬢達に熱い視線を向けられる美青年に成長していた。
成績優秀、眉目秀麗、騎士団の演習では負けなしの完璧な王子の姿が今のハロルドの現実だった。
まだ少女のように可愛かったころに求婚され、婚約した幼馴染のギルバートに申し訳なくなったハロルドは、婚約破棄を決意する。
黒髪黒目の無口な幼馴染(攻め)×金髪青瞳美形第三王子(受け)。前後編の2話完結。番外編を不定期更新中。
【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺
福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。
目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。
でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい…
……あれ…?
…やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ…
前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。
1万2000字前後です。
攻めのキャラがブレるし若干変態です。
無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形)
おまけ完結済み
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる