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Ⅲ.大好きな卵編

31.僕、ヴァルだけについていきます②

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 僕は悶々とした思いを抱きながら、配膳を手伝った。

「ルルド、お前、飯食ったのか?」 
「まだ……だけど……」 
「じゃあ、これ食っとけ」
「え……?」

 はっ!これはっ!!

 ヴァルが、長期間お外に出た時にしか作らない、乾燥キノコと干し肉のスープだ!
 僕、これ大好きなんだよね!

 ううっ……なんてことだ。ここにきて、こんな誘惑ある!?
 でも、ダメダメ。ヴァルにはちゃんとご飯食べてもらわないと!

「これ、ヴァルのでしょ?
 食料は貴重でしょ。こんな場所だから、荷物のほとんどが食べ物なんじゃないの?僕は大丈夫だから、ヴァルがちゃんと食べなよ」 

 僕は途中参加だからね。僕の分の食料は用意されてないはずだ。
 だから別に、大丈夫だよ。

 僕にまでご飯をあげて、ヴァルが変な難癖つけられたら、僕、嫌だもん。

 僕は僕で果物食べたりしてるから大丈夫だよ。ヴァルのくれた黒い竜石もあるし。

 ………もちろん、ヴァルのご飯に勝てるものなんてないけど。

 ………………じゅるり。

「いいんだよ、俺は。作りながらちょこちょこ食ってたからな」 
「どうせ野菜の皮とか、端切れでしょ」 
  
 ヴァルは家でも作りながら、ポリポリしてるから。もう、そんなの食べたうちに入らないんだからね。 
  
「食えるものを食ってたら、腹に溜まるんだよ」 
「だからって、ちゃんと食べないと……」 
「お前だって、俺が出てからまともに飯食ってんのか?」
「え?そんなのちゃんと食べてるに決まって──」

 ぐきゅるるうぅぅ~………

「はう……っ」
「ぶはっ……くく……腹の方がずっと正直だな」

 こら!お腹の虫たち、主である僕を裏切る気!?君たち、ここは黙秘を貫くとこでしょ!!
 何あっさりと自白してんの!どんだけヴァルに手懐けられてるの!

 はぁ……まったく……。
 君たち、本当に見る目があるね。さすが僕のお腹の虫だ。
 そうだよ。ヴァルのご飯より美味しいものなんてあるわけないもんね。

 うんうん。わかってるね!僕は実に誇らしいよ。

「いいから。食っとけよ。大したもんはねぇけど」
「うう……」

 大したもんだよ。ヴァルが作れば、全部ごちそうなんだから。

 でも……でも……だって。
 このご飯は、この人たちのために作ったのでしょ。

 僕のため、じゃなくて。

 うっ……。僕、今とってもしょうもないこと、考えてる。
 ヴァルは悪くないのに。ご飯も悪くないのに。

 食べたくないんじゃない。食べたいよ。ものすごく食べたいよ!
 でも、嫌なんだもん。ヴァルが、僕以外にご飯作るの、嫌なんだもん!

 ああ……でも……。

「ほら。お前、これ好きだろ」

 好き。大好き。好き、好き、好き、大好物です!

 漂う湯気と共にふんわりと香るキノコのかおり。
 黄金色の水面が、ゆらりと僕を誘惑する。

 ごきゅり……。

「お前が美味そうに食ってる様子を、俺が見たいんだよ。今は特に。
 ほら、食って俺を癒せ」 

 ええ!?なんなのその口説き文句!!

 ぐだぐだ言う僕を、一見不機嫌そうに眉をひそめて睨んでるけど。僕その顔も大好きだし!滲み出る優しさが隠せてなくて、ものすごい甘いんだけど。何なのその顔!

 こんなの、こんなの………ああーっ!もう!!

「いただきます!!」 
  
 はい、ムリ!もう、ムリ!!ていうか、初めから我慢とかムリ!!!

「むう……ヴァルが、甘い」

 どろどろに甘い。色々……甘い。あっちもこっちも全部、甘いよ。
 どうしたの。何があったの?

「は?何だよ?聞こえねーぞ」 
「もう、こんなこと他の人には言わないでよ!」

 僕だけにしといて。なんだかわからないけど、他の人に言っちゃいやだよ!

「は?言うかよ。お前以外に」
  
 はうっ……今、ズッキューンってきた!心臓撃ち抜かれた。

 え?ええ?これってどういうこと。え?ヴァルってこんな感じだった?
 久しぶりに会ったから?僕が変なのかな?ヴァルってこんなに甘々だったっけ?

 パンケーキから、お砂糖にジョブチェンジですか……?

 僕、虫歯になっちゃいそうなんだけど。浸透圧でしおしおになっちゃいそうだけど。

 それになんか、キラキラして眩しい。
 いや、しかめっ面にいつも人を睨んだみたいな鋭い眼差しと、しゅっとした悪人顔は変わらないんだよ?いつものヴァルだよ?僕の大好きな。

 なのに、直視できない程に、キラキラーっと光って見えるんだけど。

 僕、目が悪くなっちゃったのかな??え?乱視??竜も乱視??

 虫歯の次は、乱視?もう、ヴァルは僕をどこまでおかしくするつもり?

 と、そこでヴァルの手が伸びてきて、僕はさっと頭を後ろへと反った。僕の顔の前でヴァルの手が空をきる。

 あぶなっ……あぶな過ぎる。ヴァル何しようとしたの?今、僕のお鼻、ぎゅっとしようとしたでしょ。
 今、ヴァルにお鼻なんて摘ままれたら、僕の顔ごと爆発しちゃうから。ヴァルもまきこまれちゃうよ。

 なんて恐ろしい人……。さては、ぼくを殺す気だね?
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