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Ⅲ.大好きな卵編

30.僕、ヴァルだけについていきます①

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 うーん……もしかして、ヴァルに“迷い星”と異界の者が、双子だって言ったの……マズかったのかな?

 僕もはっきりと言葉で表現できる形に自覚したのは、最近のことなんだけど。うんうん、成長してるね!

 ずっと……根っこではぼんやりとわかってたんだと思う。意識してなかっただけで。それでも改めて言葉にしたら、ぞわりって寒気がした。

 僕があの人と双子だったって告げた時のヴァルの顔が脳裏に焼き付いた。

 あの顔……ものすごい衝撃を受けてて、言葉も出ないって感じっていうの?

 いつもの険しい顔の眉間により一層深く皺が刻まれて、ぐっと歯を食いしばって、何かに耐えるみたいな、苦しそうな顔だった。

 やっぱり、ヴァルのこと悪く言って苦しめる人と……ヴァルが嫌いな人と、同じとこがある僕なんてイヤだったのかな?
 そうだよ。僕だって少しだろうと何か似てるなんて、絶対にイヤだって思ったじゃない。

 だって、前に僕がヴァルに『嫌いな竜の神子と同じ異界の魂が僕に入ってるって……ヴァルは僕といて、不快にならない?』って聞いたとき、ヴァルは……、

 『ルルドはその世界から来た“迷い星”と混ざって、今のルルドになったんだろう?
 だったら、最高だ、て話だよ』

 って言ったじゃない。
 双子は魂が混ざり合い、肉体を分かち合う存在なんだよ。だから、同じ性質の魂を持ってるんだから。

 それに、もう双子だったなんて、関係ないんだよ。
 もはや迷い星たましいぼくと混ざり合って、今のルルドになっちゃったんだから。
 肉体はあっちの世界で無くなってるんだから。

 ね?だから、もう僕とあの人には何の関係もないでしょ?

 ヴァルが「今の僕が最高だ」なんて言うから、双子だって言っても大丈夫だと思ったのに……。

 僕、うれしかったから……今のままで、このままでいいってヴァルに言ってもらってとっても嬉しかったから。言葉を真に受けすぎちゃったのかも。

 はぁ……もっと、慎重になるべきだったかな。黙ってれば、さすがに双子とまではバレなかったはずだから。

 でも今、僕、浮かれてるから。

 そりゃあ、浮かれるでしょ!
 ヒクイドリさんたちを捕まえて卵くれる約束もして。リッキーにも許可はもらって。

 つまり僕は、「ヴァルにささげる最高の卵を手に入れる」っていう目的を達成したんだからね!

 それに……僕、久しぶりにヴァルに会えて、うきうきしてるから。こうして二人で歩いてると、お出かけしてるみたいで、わくわくしちゃう。ふわふわしちゃう。

 うふふ。楽しいなぁ。早く帰って、美味しい卵をヴァルと二人で食べたいな。

 ヴァルにわしゃわしゃと強めに頭を撫でられた時を思いだして、両手で自分頭に触れる。

 うんうん、そうだよ!今こうやって、ヴァルと一緒に入れるんだから。前向きに考えないとね!!





 ヴァルに案内されて、行き着いたとこには、僕がこの前見た旅の一行がいた。

「遅い。偵察にどれだけ時間を費やす気だ。だから無能なんだ。さっさと、夕食にしろ」

 ヴァルを待ち構え立っていた赤い髪の人が、偉そうに吐き捨てて、僕を一瞥して何も言わずに去っていった。

 あれれ?今、むのう、て聞こえた気がするんだけど?………無能?もしかして、無能?
 あの人、ヴァルに向かって、無能って言わなかった?

 あはは。まさかね!だって、ヴァルは有能、もしくは万能しかないもんね!

「ええー?何、あの人?ご飯も自分で作れない人?
 え?もしかして、ヴァルを待ってたの?自分はこんなとこで何もしないで、ヴァルが作ってくれるの待ってたの?待ってただけのくせに偉そうに――んぐっ」

 ここで、ヴァルの手に口を塞がれて、言葉を遮られてしまった。

 ああ、そっか。あの人、自分のことを無能って言ったのか。納得、納得。

 うんうん。僕もそう思うよ!

「思うのは自由だが、口にすることを考えろ」

 ヴァルに至近距離に詰め寄られて、ぶわりと漂ってきた美味しい匂いに、僕はごくりと唾をのんで、こくこくと首を縦に振った。

 わかったから、わかったから!
 ヴァル、早く手をお口からどけて!僕、ぺろぺろしたくなっちゃうから!!

「なんだ、どうしたんだ?……その青年は」 

 さっきの赤い人と入れ違うように、金髪の人が現れて、僕とヴァルを見て目を見開いた。

「あー……孤児院で保護してる奴なんだが……ついてきちまった……らしい」
「ついてきた?こんなところまで?」

 違うよ。本当は運命的な出会いを、再会をはたしたんだよ。
 でもこれは、僕とヴァルの秘密だからね!

「ああ。悪いが同行させる。お前らに迷惑はかけねぇよ」 
  
 ヴァルは悪くないし、僕だって迷惑なんてかけないよ。

 ……ヴァル以外には。

 僕のせいでヴァルが謝ってるのは、なんだか申し訳ない。
 ちゃんとヴァルの役に立たないとね!

 ヴァルが黄色い人と話している間に、僕はヴァルの荷物から簡易テントを取り出して、前と同じ要領で程よいところに紐を結わえて、布をはる。

 ちょっと皆とは離れたところに張ったのは、わざとだ。
 だって、なんとなく漂ってくるから。不味いのが。

 テントができたら、食事の準備をしているヴァルのところへ行って、お料理のお手伝いする。
 と、言っても、ほとんど出来上がっていたのを、温めなおしているだけだった。

 つまり、ヴァルは食事の準備をしてから、周囲の見回りにきてたってこと?一人で?

 何それ。ヴァル、一人で何でも出来過ぎでしょ。

 でも、ダメだよ、ヴァル。自分のテントだけ後回しにするなんて。

 僕が来たからには、そんなことさせないからね!
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