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Ⅲ.大好きな卵編

20.僕、もう迷子になりません③

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 たまらないイイ匂いに、気配を探れば、十数人程度の人の動きを察知する。

 この場所、なんだか他の竜の竜気に満ちてて、人の気配が感じにくいんだよね。

 僕は気配を消したまま物陰から先を行く集団を覗き見た。 

「やっぱり」 
  
 僕が、間違うはずがない。だって、こんなに美味しそうなイイ匂いをさせてる人がほかにいるはずがないもの。

 僕は自分の予想が当たって、一人呟く。 

 僕が見つめているのは、どうみても旅の一行という風体の集団。
 その中の一人に、ヴァルがいた。

 なんで、こんなところにヴァルがいるんだろう?
 神殿の何かのお仕事なのかな?

 ヴァルが出発して、1週間はたってるけど……。

 僕はしゅびっと飛んでここまで来たけど。きっと馬とか馬車とか使って近くまで来て、湿地帯を徒歩で進んでるんだよね。 

 何してるんだろうな。この辺り、たくさん危険な生き物がいるのに。
 もう、ヴァルはすぐに危ないことするんだから。

 よし。僕、陰ながら見守っちゃうから!

 ヴァルは先頭を歩いていて、足場を確認しながら慎重に進んでいる。

 なるほどな。ヴァルってすごく気配に敏感だからね。
 だから、ヴァルが先陣を切って周囲を警戒して進むっていうのは、いい配置だと思う。

 うんうん。やっぱりヴァルはすごいな。

 でも、でもね。

 だったら、ヴァルが背負ってる大きな荷物は、別の人が背負った方がいいんじゃない?て思うわけ。

 大きな荷物背負ってる人は5人だけど、ほとんど荷物持ってない人いるしさ。
 ヴァルは力持ちだよ。とっても、力持ちだけど、だからと言って疲れないわけじゃないんだよ。

 できるからって、できる人にばっかり任せたら、できる人ばっかり頑張らなくちゃいけなくなるでしょ!

 あ。ヴァルが身構えてる。
 何か来るのかな?ああ、今、ヴァルが一撃で切り捨てたのは猿の一種だね。小型だけど、すばしっこくて、凶暴なやつ。

 ちなみに、お肉は美味しくない。がりがりで、あまり食べるとこもないし。

 後ろからついてきてた赤い人が、先頭を行くヴァルに「この程度の獣、もっと近づく前に処理をしろ。血で汚れるだろう」とか言って、さらに「蒸し暑くて仕方ない」だとか、「足場が悪い」だとか言ってる。

 で、黄色の人が「ユーリ、大丈夫だったか」とか、「もう少しゆっくり進んでくれ」だとか、「そろそろ休憩を」だとか言って、最終的に真っ黒な人をおんぶしてあげてる。

 えーっと………お馬鹿さん?なのかな?

 で、2人ともぬかるみに足を取られて、3人がべちゃりと泥まみれになった。
 さっきヴァルが、「そこは滑りやすいから気をつけろ」て言って、わざわざ枝や葉を積んでくれたとこだよ?聞いてなかったの?

 ああ、なるほど。この人たち、お馬鹿さんなんだね。

 うーん……。
 僕の素朴な疑問なんだけど。
 なんでヴァルがこのお馬鹿さんたちのお守をしてるのかな?

 全然、意味わからないんですけど!! 
 ヴァルは、優しいんだから。その優しさにつけ込むようなことしちゃ、いけないんだから。 
  
 ……………。 
  
 ぐふぅっ……言ってて、僕がダメージ受けてる。ブーメランきたね、これ。

 だって、僕も似たようなもんだから。 僕が言うなって感じだから。 

 うーん。でも、1週間ぶりの、ヴァルの姿。ぎゅうっと胸が締め付けられた。

 ずっと見てたいのに、ずっと見てると、僕、ぽわぽわしてきそうな、変な気分。

 今日はあの白いぞろぞろ長いのは来ていない。神官服の下のぴったりしたのだけ着てて、その上に胸当てなどの防具をつけて、上着を羽織ってる。
 腰には長剣。そして、反対の大腿にナイフ。茶色のズボンに、黒い皮のブーツ。

 ふむ……いいね。これ。

 似合ってる。ヴァル、自分がわかってんね!とっても似合ってて、すっごくかっこいいよ!!
 ヴァルって手足が長いよね。スラっとしてて。最近さらに逞しくなって。

 で、何が一番いいって、あの胸当てとか、籠手とか、剣帯とかベルトとか、太ももにナイフ付けてるベルトとか、あれ全部ヴァルのお手製でしょ。絶対。

 僕は、自分の首から下がった肌身離さずつけている首飾りに触れた。ヴァルも、僕があげたおそろいの、ずっとつけてくれてるもんね。

 なんか、きゅんとした。自分で作ったお気に入りに身を包んでるヴァルに、僕、きゅんきゅんしちゃった。

 はぁ……かわいいなぁ。ヴァル、かわいい。むふふ。

 でもあれって、防具全部外したら、一体どうなってんの?ぴったり、ぴちっとなってない?
 いや、それが動きやすいんだろうけど。あのずるずるたぼだぼじゃ、こんなとこ危ないもんね。

 でも。でもだよ。そんなに体の線を強調した格好したら、ダメじゃない?なんだかとってもやらしくない?裸よりエッチな感じがしない?

 僕、もしヴァルがそんな恰好で現れたら、目のやり場に困る。

 だって……かっこいいヴァル見てると僕……。

 変になっちゃうから。

 そんなこと思ってたら、ヴァルの頬から伝った汗が首筋まで流れて。ヴァルが煩わしそうに眼を細めて、険しい表情で手の甲で拭った。

 たった、それだけの仕草なのに。

 ──ドキンッ……

 あれ、おかしいな。
 僕、なんでこんなにドキドキしてるんだろう。変だな。なんだか身体がむずむずしてきた。

 ううん。変じゃない。わかってる。僕、最近ヴァルを見てると、視線とか動作とかに、いちいち昂ってたまらなくなるから。

 あの切れ長な目の鋭い視線とか。
 不機嫌そうにしかめた表情とか。
 ここのところ一層逞しくなった、腕とか。
 前から変わらない、長くてごつごつした器用な指とか。

 全部、僕をドキドキさせる。

 あの大きな手が、僕に触れて………。
 それで………。

 うわぁ……これダメ。ダメだよ。
 僕の大事なとこ、じんじんしてきて、窮屈になってきた。わかる。どくどくと脈打ってる。

 ヴァルを見守らなきゃいけないのに、ヴァルを見てると、僕……もう、ダメだ。

 もう、このままおさまりそうもなくて、もじもじと体を揺する。
 僕、我慢できなくなっちゃったよ。
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