140 / 238
Ⅲ.大好きな卵編
20.僕、もう迷子になりません③
しおりを挟むたまらないイイ匂いに、気配を探れば、十数人程度の人の動きを察知する。
この場所、なんだか他の竜の竜気に満ちてて、人の気配が感じにくいんだよね。
僕は気配を消したまま物陰から先を行く集団を覗き見た。
「やっぱり」
僕が、間違うはずがない。だって、こんなに美味しそうなイイ匂いをさせてる人がほかにいるはずがないもの。
僕は自分の予想が当たって、一人呟く。
僕が見つめているのは、どうみても旅の一行という風体の集団。
その中の一人に、ヴァルがいた。
なんで、こんなところにヴァルがいるんだろう?
神殿の何かのお仕事なのかな?
ヴァルが出発して、1週間はたってるけど……。
僕はしゅびっと飛んでここまで来たけど。きっと馬とか馬車とか使って近くまで来て、湿地帯を徒歩で進んでるんだよね。
何してるんだろうな。この辺り、たくさん危険な生き物がいるのに。
もう、ヴァルはすぐに危ないことするんだから。
よし。僕、陰ながら見守っちゃうから!
ヴァルは先頭を歩いていて、足場を確認しながら慎重に進んでいる。
なるほどな。ヴァルってすごく気配に敏感だからね。
だから、ヴァルが先陣を切って周囲を警戒して進むっていうのは、いい配置だと思う。
うんうん。やっぱりヴァルはすごいな。
でも、でもね。
だったら、ヴァルが背負ってる大きな荷物は、別の人が背負った方がいいんじゃない?て思うわけ。
大きな荷物背負ってる人は5人だけど、ほとんど荷物持ってない人いるしさ。
ヴァルは力持ちだよ。とっても、力持ちだけど、だからと言って疲れないわけじゃないんだよ。
できるからって、できる人にばっかり任せたら、できる人ばっかり頑張らなくちゃいけなくなるでしょ!
あ。ヴァルが身構えてる。
何か来るのかな?ああ、今、ヴァルが一撃で切り捨てたのは猿の一種だね。小型だけど、すばしっこくて、凶暴なやつ。
ちなみに、お肉は美味しくない。がりがりで、あまり食べるとこもないし。
後ろからついてきてた赤い人が、先頭を行くヴァルに「この程度の獣、もっと近づく前に処理をしろ。血で汚れるだろう」とか言って、さらに「蒸し暑くて仕方ない」だとか、「足場が悪い」だとか言ってる。
で、黄色の人が「ユーリ、大丈夫だったか」とか、「もう少しゆっくり進んでくれ」だとか、「そろそろ休憩を」だとか言って、最終的に真っ黒な人をおんぶしてあげてる。
えーっと………お馬鹿さん?なのかな?
で、2人ともぬかるみに足を取られて、3人がべちゃりと泥まみれになった。
さっきヴァルが、「そこは滑りやすいから気をつけろ」て言って、わざわざ枝や葉を積んでくれたとこだよ?聞いてなかったの?
ああ、なるほど。この人たち、お馬鹿さんなんだね。
うーん……。
僕の素朴な疑問なんだけど。
なんでヴァルがこのお馬鹿さんたちのお守をしてるのかな?
全然、意味わからないんですけど!!
ヴァルは、優しいんだから。その優しさにつけ込むようなことしちゃ、いけないんだから。
……………。
ぐふぅっ……言ってて、僕がダメージ受けてる。ブーメランきたね、これ。
だって、僕も似たようなもんだから。 僕が言うなって感じだから。
うーん。でも、1週間ぶりの、ヴァルの姿。ぎゅうっと胸が締め付けられた。
ずっと見てたいのに、ずっと見てると、僕、ぽわぽわしてきそうな、変な気分。
今日はあの白いぞろぞろ長いのは来ていない。神官服の下のぴったりしたのだけ着てて、その上に胸当てなどの防具をつけて、上着を羽織ってる。
腰には長剣。そして、反対の大腿にナイフ。茶色のズボンに、黒い皮のブーツ。
ふむ……いいね。これ。
似合ってる。ヴァル、自分がわかってんね!とっても似合ってて、すっごくかっこいいよ!!
ヴァルって手足が長いよね。スラっとしてて。最近さらに逞しくなって。
で、何が一番いいって、あの胸当てとか、籠手とか、剣帯とかベルトとか、太ももにナイフ付けてるベルトとか、あれ全部ヴァルのお手製でしょ。絶対。
僕は、自分の首から下がった肌身離さずつけている首飾りに触れた。ヴァルも、僕があげたおそろいの、ずっとつけてくれてるもんね。
なんか、きゅんとした。自分で作ったお気に入りに身を包んでるヴァルに、僕、きゅんきゅんしちゃった。
はぁ……かわいいなぁ。ヴァル、かわいい。むふふ。
でもあれって、防具全部外したら、一体どうなってんの?ぴったり、ぴちっとなってない?
いや、それが動きやすいんだろうけど。あのずるずるたぼだぼじゃ、こんなとこ危ないもんね。
でも。でもだよ。そんなに体の線を強調した格好したら、ダメじゃない?なんだかとってもやらしくない?裸よりエッチな感じがしない?
僕、もしヴァルがそんな恰好で現れたら、目のやり場に困る。
だって……かっこいいヴァル見てると僕……。
変になっちゃうから。
そんなこと思ってたら、ヴァルの頬から伝った汗が首筋まで流れて。ヴァルが煩わしそうに眼を細めて、険しい表情で手の甲で拭った。
たった、それだけの仕草なのに。
──ドキンッ……
あれ、おかしいな。
僕、なんでこんなにドキドキしてるんだろう。変だな。なんだか身体がむずむずしてきた。
ううん。変じゃない。わかってる。僕、最近ヴァルを見てると、視線とか動作とかに、いちいち昂ってたまらなくなるから。
あの切れ長な目の鋭い視線とか。
不機嫌そうにしかめた表情とか。
ここのところ一層逞しくなった、腕とか。
前から変わらない、長くてごつごつした器用な指とか。
全部、僕をドキドキさせる。
あの大きな手が、僕に触れて………。
それで………。
うわぁ……これダメ。ダメだよ。
僕の大事なとこ、じんじんしてきて、窮屈になってきた。わかる。どくどくと脈打ってる。
ヴァルを見守らなきゃいけないのに、ヴァルを見てると、僕……もう、ダメだ。
もう、このままおさまりそうもなくて、もじもじと体を揺する。
僕、我慢できなくなっちゃったよ。
0
お気に入りに追加
1,446
あなたにおすすめの小説
主人公の兄になったなんて知らない
さつき
BL
レインは知らない弟があるゲームの主人公だったという事を
レインは知らないゲームでは自分が登場しなかった事を
レインは知らない自分が神に愛されている事を
表紙イラストは マサキさんの「キミの世界メーカー」で作成してお借りしています⬇ https://picrew.me/image_maker/54346
転生先がハードモードで笑ってます。
夏里黒絵
BL
周りに劣等感を抱く春乃は事故に会いテンプレな転生を果たす。
目を開けると転生と言えばいかにも!な、剣と魔法の世界に飛ばされていた。とりあえず容姿を確認しようと鏡を見て絶句、丸々と肉ずいたその幼体。白豚と言われても否定できないほど醜い姿だった。それに横腹を始めとした全身が痛い、痣だらけなのだ。その痣を見て幼体の7年間の記憶が蘇ってきた。どうやら公爵家の横暴訳アリ白豚令息に転生したようだ。
人間として底辺なリンシャに強い精神的ショックを受け、春乃改めリンシャ アルマディカは引きこもりになってしまう。
しかしとあるきっかけで前世の思い出せていなかった記憶を思い出し、ここはBLゲームの世界で自分は主人公を虐める言わば悪役令息だと思い出し、ストーリーを終わらせれば望み薄だが元の世界に戻れる可能性を感じ動き出す。しかし動くのが遅かったようで…
色々と無自覚な主人公が、最悪な悪役令息として(いるつもりで)ストーリーのエンディングを目指すも、気づくのが遅く、手遅れだったので思うようにストーリーが進まないお話。
R15は保険です。不定期更新。小説なんて書くの初めてな作者の行き当たりばったりなご都合主義ストーリーになりそうです。
新しい道を歩み始めた貴方へ
mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。
そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。
その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。
あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。
あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?
愛などもう求めない
白兪
BL
とある国の皇子、ヴェリテは長い長い夢を見た。夢ではヴェリテは偽物の皇子だと罪にかけられてしまう。情を交わした婚約者は真の皇子であるファクティスの側につき、兄は睨みつけてくる。そして、とうとう父親である皇帝は処刑を命じた。
「僕のことを1度でも愛してくれたことはありましたか?」
「お前のことを一度も息子だと思ったことはない。」
目が覚め、現実に戻ったヴェリテは安心するが、本当にただの夢だったのだろうか?もし予知夢だとしたら、今すぐここから逃げなくては。
本当に自分を愛してくれる人と生きたい。
ヴェリテの切実な願いが周りを変えていく。
ハッピーエンド大好きなので、絶対に主人公は幸せに終わらせたいです。
最後まで読んでいただけると嬉しいです。
【完結】婚約破棄したのに幼馴染の執着がちょっと尋常じゃなかった。
天城
BL
子供の頃、天使のように可愛かった第三王子のハロルド。しかし今は令嬢達に熱い視線を向けられる美青年に成長していた。
成績優秀、眉目秀麗、騎士団の演習では負けなしの完璧な王子の姿が今のハロルドの現実だった。
まだ少女のように可愛かったころに求婚され、婚約した幼馴染のギルバートに申し訳なくなったハロルドは、婚約破棄を決意する。
黒髪黒目の無口な幼馴染(攻め)×金髪青瞳美形第三王子(受け)。前後編の2話完結。番外編を不定期更新中。
【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺
福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。
目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。
でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい…
……あれ…?
…やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ…
前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。
1万2000字前後です。
攻めのキャラがブレるし若干変態です。
無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形)
おまけ完結済み
悪役令息に転生したけど…俺…嫌われすぎ?
「ARIA」
BL
階段から落ちた衝撃であっけなく死んでしまった主人公はとある乙女ゲームの悪役令息に転生したが...主人公は乙女ゲームの家族から甘やかされて育ったというのを無視して存在を抹消されていた。
王道じゃないですけど王道です(何言ってんだ?)どちらかと言うとファンタジー寄り
更新頻度=適当
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる