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Ⅱ.体に優しいお野菜編
74.僕、わかってるから怖いんです① ※
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ヴァルが、感謝してるって言った。僕の力に。僕に。
嬉しい。嬉しい。嬉しい。とっても、嬉しい。
嬉しいと自覚して、何度も温かい感情が心の中で繰り返して、ぐるぐる回る。じんじんと心が痺れてくる。
じわっと深い感情が込み上げてきて。それは喜びとか、幸せとか、全部を混ぜ合わせた情動で。
あれ……なんだか、また泣きたくなってきた。おかしいの。胸いっぱいで、なんかじんじんして。
だけど、これは全然嫌な感じじゃない。
「積年の恨みがある、大神官も、ぶっ飛ばしてくれたしな」
くつくつと愉しそうに笑うヴァルは、とても生き生きしていて。
いつもは切れ長の睨みつけるような瞳だって、やんわり眇められキラキラしてる。
形の良い薄めの唇が弧を描いて、右の口角がより持ち上がっているところが、ちょっと意地の悪い不敵な笑みに見えて、とっても似合っていた。
僕にも、こうやって笑いかけてくれるんだね。
ヴァルの表情と仕草、そして発せられた言葉のすべてに、僕はまるで酔ってしまったみたいだ。
吸い寄せられるように、ベッドの上に胡坐をかいて座っているヴァルの太ももに手をのせる。
そして、少し伸びあがって唇を合わせた。
柔らかな感触に、胸がときめく。きゅうっと引きつれる痛みを感じながら、僕はヴァルの唇を食んだ。
きっとヴァルはこれからも絶対に言わないんだろうな。
僕が、黒い竜気がヴァルを蝕む事実を知れば、僕が自分の竜気を扱えなくてヴァルを苦しめてるんだってことに、気づいてしまうから。
だから、黙ってたってこと。
ヴァルが言っていた理由だって、嘘じゃないと思うけど。
でも……。
でも、関係ない、なんて。無駄な気使うな、なんて。
そんなこと言わないでよ。
僕にだって、関係あるよ。気くらい使わせてよ。
ヴァルの唇は少しかさついていて……ここ数日の一連の出来事で噛んだらしい傷があった。
さっき竜気をもらった時は、気づかなかった。ただ、自分が貪ることしか考えてなかったから。
昂った熱を吐き出して、唇の傷を癒すため、僕はぺろりと舐めた。
「……まだ、腹が減ってんのか?ん?」
言うヴァルの紫色の瞳は、真っ直ぐに僕を見ていて、いつもにも増して優しく鋭く光っている。その光に射抜かれて、僕はヴァルに釘付けになった。
僕の唇をヴァルの指がぬぐう。
いつもならもったいなくて食いつく指を見送って、僕はゆるゆると首を横に振った。
お腹は減ってないよ。ヴァルのくれた黒い竜気が身体に満ちていて、さっきヴァルと一緒にご飯も食べて、僕は今お腹がいっぱいだから。
じゃあ、なぜこんなことをしてるのか。そんなの、答えは一つだ。
「したかったから」
ヴァルとキスしたかった。
お腹はいっぱいだけど。なんだかそんな気持ちになってしまったから。ただ、それだけだよ。
うっとりと見上げた僕を、ヴァルはただじっと見返している。
ああ、本当にきれいな瞳。
僕、この目が大好きだなぁ。
トクトクと自分の鼓動がうるさくて、だけどそれも嫌な気はしなくて、全身が痺れるような疼きに支配されていって、このまま甘いふわふわしたものに溺れたくなってくる。
──と、ぐるりと視界が反転した。
身体が布団に落ちた衝撃で、ふわりとヴァルの残り香に包まれた。
ベッドに仰向けに倒された僕を、ヴァルが覆いかぶさるように上から見下ろしてる。
顔の両脇につかれたヴァルの手に顔を摺り寄せて、ヴァルの匂いを嗅いだ。
下からはヴァルのベッドの匂い、両脇も前も、生のヴァルの香りに覆われて、全部をヴァルに包まれてるみたい。
何これ。なんだかすごく贅沢じゃない?ご褒美みたい。
「はぁ……幸せそうなツラしやがって……状況わかってんのか」
ヴァルは苦虫を嚙み潰したような表情で、呻いた。
だって、今。僕、幸せなんだもん。たぶん。
うん、なんだか、すごく幸せだよ。
頬を撫でられ、耳介をさすって、そのまま頭から首筋を優しく撫でてくれる。
「あ、…あーっ…気持ちいい」
ヴァルの手はやっぱり気持ちいい。
でも、今日は特別気持ちいい。気持ちくて、美味しくて……なんだか触れてるところから、甘くて濃厚なものが流れ込んでくるみたい。
これで全部いっぱいになりたい。もっと、もっと、なでなでして。
肌に直接触れるヴァルの指先の感覚が、竜体のときと違って、なんだかちょっとドキドキする。
撫でられて気持ちいいのに、きゅんとするむず痒い気持ちいいが混じってる。
じんわりと滲んた視界の先で、ヴァルは優しい、だけどちょっと熱っぽい表情で僕をじっと見ていた。
ヴァルはただ無言で僕の顔を観察しながら、シャツのボタンを一つずつ外していく。されるがままでいると、あっという間にお腹と胸が露になって、初めて僕は身をすくめた。
あれ。僕、何だか急に恥ずかしくなってきた。
だって、偶然裸を見られることはあっても、上の服を脱がされるなんてこと、これまでなかったから。
今、僕は人型で、自慢のもふもふもない。髪の手触りは、竜体の時と変わらないけど、他のところはただ生っ白い肌があるだけだ。
ヴァルの視線が僕のむき出しの肌に絡みつく。
ヴァル、じっと見すぎだよ。ドキドキして困るよ。穴が開いちゃいそう。
じわじわと顔が赤くなって、熱がこもって、なんだか涙がにじんできちゃう。
こんな風に裸をまじまじと見られるの、初めてだから。
僕、恥ずかしい。恥ずかしくて、もじもじしちゃう。
あんなぐちゃぐちゃになるようなこと、何度もしてるのに。いまさら裸が恥ずかしいなんて、僕おかしいのかな。
嬉しい。嬉しい。嬉しい。とっても、嬉しい。
嬉しいと自覚して、何度も温かい感情が心の中で繰り返して、ぐるぐる回る。じんじんと心が痺れてくる。
じわっと深い感情が込み上げてきて。それは喜びとか、幸せとか、全部を混ぜ合わせた情動で。
あれ……なんだか、また泣きたくなってきた。おかしいの。胸いっぱいで、なんかじんじんして。
だけど、これは全然嫌な感じじゃない。
「積年の恨みがある、大神官も、ぶっ飛ばしてくれたしな」
くつくつと愉しそうに笑うヴァルは、とても生き生きしていて。
いつもは切れ長の睨みつけるような瞳だって、やんわり眇められキラキラしてる。
形の良い薄めの唇が弧を描いて、右の口角がより持ち上がっているところが、ちょっと意地の悪い不敵な笑みに見えて、とっても似合っていた。
僕にも、こうやって笑いかけてくれるんだね。
ヴァルの表情と仕草、そして発せられた言葉のすべてに、僕はまるで酔ってしまったみたいだ。
吸い寄せられるように、ベッドの上に胡坐をかいて座っているヴァルの太ももに手をのせる。
そして、少し伸びあがって唇を合わせた。
柔らかな感触に、胸がときめく。きゅうっと引きつれる痛みを感じながら、僕はヴァルの唇を食んだ。
きっとヴァルはこれからも絶対に言わないんだろうな。
僕が、黒い竜気がヴァルを蝕む事実を知れば、僕が自分の竜気を扱えなくてヴァルを苦しめてるんだってことに、気づいてしまうから。
だから、黙ってたってこと。
ヴァルが言っていた理由だって、嘘じゃないと思うけど。
でも……。
でも、関係ない、なんて。無駄な気使うな、なんて。
そんなこと言わないでよ。
僕にだって、関係あるよ。気くらい使わせてよ。
ヴァルの唇は少しかさついていて……ここ数日の一連の出来事で噛んだらしい傷があった。
さっき竜気をもらった時は、気づかなかった。ただ、自分が貪ることしか考えてなかったから。
昂った熱を吐き出して、唇の傷を癒すため、僕はぺろりと舐めた。
「……まだ、腹が減ってんのか?ん?」
言うヴァルの紫色の瞳は、真っ直ぐに僕を見ていて、いつもにも増して優しく鋭く光っている。その光に射抜かれて、僕はヴァルに釘付けになった。
僕の唇をヴァルの指がぬぐう。
いつもならもったいなくて食いつく指を見送って、僕はゆるゆると首を横に振った。
お腹は減ってないよ。ヴァルのくれた黒い竜気が身体に満ちていて、さっきヴァルと一緒にご飯も食べて、僕は今お腹がいっぱいだから。
じゃあ、なぜこんなことをしてるのか。そんなの、答えは一つだ。
「したかったから」
ヴァルとキスしたかった。
お腹はいっぱいだけど。なんだかそんな気持ちになってしまったから。ただ、それだけだよ。
うっとりと見上げた僕を、ヴァルはただじっと見返している。
ああ、本当にきれいな瞳。
僕、この目が大好きだなぁ。
トクトクと自分の鼓動がうるさくて、だけどそれも嫌な気はしなくて、全身が痺れるような疼きに支配されていって、このまま甘いふわふわしたものに溺れたくなってくる。
──と、ぐるりと視界が反転した。
身体が布団に落ちた衝撃で、ふわりとヴァルの残り香に包まれた。
ベッドに仰向けに倒された僕を、ヴァルが覆いかぶさるように上から見下ろしてる。
顔の両脇につかれたヴァルの手に顔を摺り寄せて、ヴァルの匂いを嗅いだ。
下からはヴァルのベッドの匂い、両脇も前も、生のヴァルの香りに覆われて、全部をヴァルに包まれてるみたい。
何これ。なんだかすごく贅沢じゃない?ご褒美みたい。
「はぁ……幸せそうなツラしやがって……状況わかってんのか」
ヴァルは苦虫を嚙み潰したような表情で、呻いた。
だって、今。僕、幸せなんだもん。たぶん。
うん、なんだか、すごく幸せだよ。
頬を撫でられ、耳介をさすって、そのまま頭から首筋を優しく撫でてくれる。
「あ、…あーっ…気持ちいい」
ヴァルの手はやっぱり気持ちいい。
でも、今日は特別気持ちいい。気持ちくて、美味しくて……なんだか触れてるところから、甘くて濃厚なものが流れ込んでくるみたい。
これで全部いっぱいになりたい。もっと、もっと、なでなでして。
肌に直接触れるヴァルの指先の感覚が、竜体のときと違って、なんだかちょっとドキドキする。
撫でられて気持ちいいのに、きゅんとするむず痒い気持ちいいが混じってる。
じんわりと滲んた視界の先で、ヴァルは優しい、だけどちょっと熱っぽい表情で僕をじっと見ていた。
ヴァルはただ無言で僕の顔を観察しながら、シャツのボタンを一つずつ外していく。されるがままでいると、あっという間にお腹と胸が露になって、初めて僕は身をすくめた。
あれ。僕、何だか急に恥ずかしくなってきた。
だって、偶然裸を見られることはあっても、上の服を脱がされるなんてこと、これまでなかったから。
今、僕は人型で、自慢のもふもふもない。髪の手触りは、竜体の時と変わらないけど、他のところはただ生っ白い肌があるだけだ。
ヴァルの視線が僕のむき出しの肌に絡みつく。
ヴァル、じっと見すぎだよ。ドキドキして困るよ。穴が開いちゃいそう。
じわじわと顔が赤くなって、熱がこもって、なんだか涙がにじんできちゃう。
こんな風に裸をまじまじと見られるの、初めてだから。
僕、恥ずかしい。恥ずかしくて、もじもじしちゃう。
あんなぐちゃぐちゃになるようなこと、何度もしてるのに。いまさら裸が恥ずかしいなんて、僕おかしいのかな。
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