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Ⅱ.体に優しいお野菜編
71.僕、わからないけどわかってます①
しおりを挟む「おい、ルルド!」
ぐんと僕は屈強な力に引き上げられ、明るい中に引き上げられた。
「あっ……あ、え?……ヴァル?」
あれ?僕、いつのまにが寝ちゃってた?
お散歩から帰って、ご飯作って、ヴァルを待ってたら、うとうとしちゃって………それで……。
わぁ。ヴァル、こわい顔。もしかして、また誰かに嫌なことされたの?
「ルルド、……どうした?」
「どうしたって………どうしたの?ヴァル……怖い顔してる、何かあったの?」
「お前、今……何か……夢でも見てたのか?」
「え?………夢……どうかな。全然、覚えてないけど……」
ヴァルの表情に驚いて、僕はさっきまで見ていた夢の内容を、すっぽりとどこかに手放してしまった。
わからない。とっても痛々しい、忘れてはいけない夢だったような気もするし、だけど、同時に忘れてしまいたいことだったような……。
「あれ……?なんでだろう。手が……体が、震えてる、ねぇ?」
ああ。だからヴァルは、僕が寒いと思って上着をかけてくれたのか。優しいなぁ。
でも、僕なんで震えてるんだろ……?
「ルルド……」
「なんだろう、これ。えー……?なんで?」
さっきの夢?なんて全然覚えてないのに。すごく嫌な気持ちが、くっついて、僕の中にへばりついてるみたい。
「お前、それ」
「あー……うん。僕……なんだか……」
怖いみたい。そう、怖いみたい。これ、怖いんだ。
でも僕は、その気持ちを言葉にできなかった。言葉にしたら、気持ちがもっと強く形になってしまうような気がして。
何故だか震える全身に、僕はただ自分の中から侵食してくる感情を、どうしていいのかわからない。
「変なのぉ。これ、変だよ。だって、竜はこんな風に何かに怖がったりしないもの」
これは僕の気持じゃない。僕が感じている気持じゃない。
「こんなの、僕……おかしい。イヤだ。イヤだよ……この気持ちは、すごくイヤだ」
黄金竜の長、グノに竜気をもらったばっかりだからかな。僕の中に混ざっている、違ったものの気配がはっきりとわかる。
これは、僕の中にある“迷い星”の感情だ。僕だけど、僕じゃない。
震える指先がじんじんと冷たく痺れてくる。溢れてくる不穏な情動と一緒に、僕の竜気がうねりだす。
僕は、どうしたらいい。この激しい感情を、その感情と一緒に暴れたいと訴えてくる自分の黒い竜気を、どうしたらいい。
こんなの、変でしょ。僕、竜なのに。僕がちゃんとした竜だったら、こんな気持ち知らなくていいはずなのに。
ああ。ほら。ヴァルが心配そうに僕を見てる。ダメだよ。ヴァルにあんな顔させたら。
イヤだよ。とってもイヤだ。苦しい。つらい。イヤだ、イヤだ、イヤだ。
こんな思い、全部捨ててしまいたい……──
そう思った時、ぎゅうっと身体を抱きしめられた。
あ。いい匂い。僕の大好きなヴァルの匂い。美味しい、匂い。
それだけじゃなくて、甘くて、ぽかぽかする……安心する匂い。
あったかいな。離れたくないよ。ヴァル、離れないで、もっと僕とくっついといて。
そう思って、僕はヴァルの腕をぎゅっと握りしめた。ヴァルの胸に頭を寄せると、どきどきといつもより大きく早いヴァルの鼓動が聞こえた。
「変じゃねーよ。おかしくもねぇ」
僕を抱きしめるヴァルの腕に力がこもる。
「イヤならイヤで、話くらい聞いてやる。だから……」
ぎゅうっと強く抱きしめられて、とっても温かい。
なんだか、ヴァルの方が震えてるみたい。声も、腕も。凍えてるみたいに、震えてる。
ああ、僕のこと、心配してくれたんだ。
こんな怯える竜、僕くらいかもしれないのに。僕をおかしくないって言うヴァルは、やっぱりちょっとおかしいと思う。
僕、竜なのに。竜だけど。
ヴァルが僕を心配してくれるのが、何よりも嬉しいみたい。
僕も、イヤなことは、イヤだって言っていいんだよね?
そして、ヴァルがそれを聞いてくれるってことでしょう?
「ふふ。ヴァル、いい匂い。温かい」
イヤなことをイヤと言えて、それを聞いてくれる人がいる。
そのことが、こんなにうれしい。
だから、大丈夫。この気持ちも、全部、僕で大丈夫。だって、ヴァルが一緒に受け止めてくれるから。
じわりと視界がにじんだのは、嬉しい僕の気持ちが僕の中に収まりきらなくて、溢れてしまったから。
さっきまでの重苦しい気持ちが嘘みたいに、心が身体が緩む。
じんわりと温かくなって、ぽかぽかで、ふわふわと心地よくなってくる。
ずっとこうしてヴァルとくっついていたくて、僕は幸せな気分に包まれた。
なんか、さっきのイヤな気持ちなんて、僕、どうでも良くなっちゃった。
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