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Ⅱ.体に優しいお野菜編
63.僕、秘密の夜のお散歩に行きます
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孤児院のある神殿からは、馬でも5日はかかる場所。
真っ暗闇の森の奥に、人影ががさがさと揺れる。
「青い人……みーつけた」
「っ!!!なっ……お前は……っ」
「すごいね、ヴァル。こんなとこまで送ってあげたんだね。ヴァルの匂いがついてるから、遠くてもすぐわかっちゃった」
突然現れた僕に、青い人は言葉を失った。
あたりまえだよね。
何の気配もなく、声をかけられたら誰だってびっくりするもんね。
ましてや、追われている自覚のある人間ならなおのことだ。
青い人は、僕へと背を向け、一目散にかけていく。
ああ、なるほど。青はススメ、だもんね。
一定の距離をとって、音もなくついてくる僕に、青い人は何かをわめきながら、逃げていく。
「来んな……っ!」
「あ。これってもしかして、鬼ごっこ?悪いことしたら鬼が来るぞ的な?」
僕、鬼ってこと?もう、遊びにきたわけじゃないんだけどなぁ。
でも、大丈夫だよ。僕、飛べちゃうし。絶対逃がさないから。
「はい、タッチ」
僕が後ろから腕をとって押さえつけると、信じられないものを見るような、驚愕の表情がこちらを向いた。
「なっ……離せよっ!」
「やだな、離すわけ無いでしょ。
知らないの?悪いことしたら怒られるんだよ」
僕、貴方のことお仕置きに来たんだよ。
「なっ……まさか、ヴァレリウスが──」
「違うよー。僕が、貴方を許せなくて、僕がしたくてしてることだよ」
ヴァルがそんなこと、するわけないよね。だったら、こんなに遠くまで貴方を逃がしたりしないよ。
「ヴァルが優しすぎて、またヴァルが傷つくんじゃないか心配な僕が、勝手に内緒でしてること」
僕はね、もう貴方のことで悲しんだり苦しむヴァルを見たくないんだ。
にっこりと笑って間合いをつめる僕に、青い人は「ひっ」と短い悲鳴を上げた。
人の顔見て、「ひっ」て。失礼だなぁ。
暗闇でもわかる、蒼白の顔。呼吸も荒くて、全然戦えそうもない。漂ってくる香りは、絶望を孕んでいる。
ああ、もう色々挫かれちゃった感じだね。
自信とか、矜持とか、希望とか、意欲とか。
色々と生きていくのに必要なものが、根こそぎごそっと無くなっちゃってるね。
でも、そんな中でも、ヴァルに対する思いだけが、青い人の内側でちろちろと燃えている。
「貴方、ヴァルのこと大好きなんだね」
「っ!!??」
わかるよ。僕も大好きだからね。
全部失っても、それだけは残っちゃうくらい、ヴァルがどうしようもなく好きなんだね。
「で、ヴァルのことが、好き過ぎて拗らせちゃったんだね」
ヴァルみたいになりたくて、なれなくて、なりたくなくなっちゃったんだよね。
「でも、ヴァルのを欲しがっちゃダメだよ。
それは全部ヴァルのだからね。ヴァルが、自分の力で手にしたものだから。
ヴァルがいなくなっても、貴方のものにはならないんだよ?」
絶対に、あげないよ。ヴァルがあげようとしても、僕は渡さない。僕が絶対に守ってあげるから。
「そんなにヴァルが妬ましいんだ?羨ましいんだ?
わかるよー。すっごくよくわかる。だって、ヴァルはすごいからね。
でも、貴方のしてることは逆恨みだよって教えてあげようと思って。もしくは八つ当たり、かな」
この青い人、昔からヴァルを知ってるんだよね?
それなら、どれだけヴァルが素晴らしいか、よく知ってるはずだもんね。
この人よりは、僕の方が知ってる自信があるけどね。
「ほら。僕が、お芋お兄さんも院長もキレイに治しちゃったから、貴方がやった悪いこと、まるでなかったことみたいになっちゃったからさ。
でも、一度やったことが無かったことにはならないからね。わかるよね?」
「ひっ……寄るな、……来るな!」
距離を詰める僕から、一生懸命逃げて森へと分け入っていく青い人は、面白いほどに怯えていた。
「あいつが、あいつが悪いんだ……!!」
あいつって……ヴァルのことだよね?
「まだそんなこと、言ってるの?ヴァルは何も悪くないでしょ」
貴方がしたことは、貴方のしたことだよ。
「自分のしたことは、ちゃんと自分で責任を取ろっか。ね?」
どうすればいいか、わかるかな?
「あいつは……いつも俺の、邪魔を……ユーリだって、あいつにっ……あいつがいなきゃ、俺はっ!」
「えー?それを言うなら、ヴァルがいなかったら、僕は貴方をとっくにサクッとヤっちゃってたよ」
「ヒッ……!なんだよ、お前は……お前だって、」
あれ?でもヴァルがいなきゃ、僕、この人のこときっと知らなかったよね。
うーん……つまり、どういうこと?もう、わかんないや。
でも、今はそんなタラレバ、どうでもいいよ。
ヴァルがいなければ、なんて考えられないから。
「くだらないことばっかり言ってないで、ヴァルにごめんなさい、しなきゃでしょ。迷惑かけた人に、ごめんなさい、でしょ。
あ、でもヴァルに会うのは当然ダメだよ。ヴァルを複雑な気持ちにして、困らせないでね」
「は……、お前、なんなんだよ……離せよ…っ」
腕振りほどこうとしても、無駄だよ。僕、こう見えても結構力強いからね。
ああ、もう。なんだか全然話にならないな。わかってたけど。
「ごめんなさい、が言えないお口は必要ないよね?」
もう、しゃべれなくしちゃおう。
「っ……!……?!」
「うーん……こんなにヴァルが好きなんて。困るな。
復讐なんて、絶対にできないようにしておかないとな」
今、ヴァルだけが、この人の生きる希望になっちゃってるもんね。
まったくもう。魅力的過ぎるのも、問題だね。ヴァルの魅力は、人をおかしくしちゃうのかも。
もちろん、おかしくなるのは本人の問題だけど。
「あ。最後にいいこと教えといてあげるね。
好きな子にはね、とびきり優しくしないとダメなんだよ」
好きな子いじめると、普通は普通に嫌われるからね?ヴァルが普通じゃないだけで。
まぁ、いまさら知っても、もう遅いかもしれないけど。
「ばいばい。青い人。二度とヴァルの前に現れないでね」
ヴァルは、貴方を見ると、どうしたって悲しい気持ちになっちゃうから。
僕、ヴァルにはたくさん笑っててほしいんだよ。
森の中を黒い風が駆け抜けて、声無き悲鳴があがる。うん、声出せなくしてて正解だったな。
あとは僕と、静寂が残った。
はぁ……夜の森って、風が気持ちいいよね。
あ。そういえば。僕、夕ご飯がまだだったな。ヴァルもまだ食べてないって言ってたし。
お家に帰って、何か簡単なものでも作って、ヴァルを待ってようっと。
これは、僕一人だけの内緒の夜のお散歩。
真っ暗闇の森の奥に、人影ががさがさと揺れる。
「青い人……みーつけた」
「っ!!!なっ……お前は……っ」
「すごいね、ヴァル。こんなとこまで送ってあげたんだね。ヴァルの匂いがついてるから、遠くてもすぐわかっちゃった」
突然現れた僕に、青い人は言葉を失った。
あたりまえだよね。
何の気配もなく、声をかけられたら誰だってびっくりするもんね。
ましてや、追われている自覚のある人間ならなおのことだ。
青い人は、僕へと背を向け、一目散にかけていく。
ああ、なるほど。青はススメ、だもんね。
一定の距離をとって、音もなくついてくる僕に、青い人は何かをわめきながら、逃げていく。
「来んな……っ!」
「あ。これってもしかして、鬼ごっこ?悪いことしたら鬼が来るぞ的な?」
僕、鬼ってこと?もう、遊びにきたわけじゃないんだけどなぁ。
でも、大丈夫だよ。僕、飛べちゃうし。絶対逃がさないから。
「はい、タッチ」
僕が後ろから腕をとって押さえつけると、信じられないものを見るような、驚愕の表情がこちらを向いた。
「なっ……離せよっ!」
「やだな、離すわけ無いでしょ。
知らないの?悪いことしたら怒られるんだよ」
僕、貴方のことお仕置きに来たんだよ。
「なっ……まさか、ヴァレリウスが──」
「違うよー。僕が、貴方を許せなくて、僕がしたくてしてることだよ」
ヴァルがそんなこと、するわけないよね。だったら、こんなに遠くまで貴方を逃がしたりしないよ。
「ヴァルが優しすぎて、またヴァルが傷つくんじゃないか心配な僕が、勝手に内緒でしてること」
僕はね、もう貴方のことで悲しんだり苦しむヴァルを見たくないんだ。
にっこりと笑って間合いをつめる僕に、青い人は「ひっ」と短い悲鳴を上げた。
人の顔見て、「ひっ」て。失礼だなぁ。
暗闇でもわかる、蒼白の顔。呼吸も荒くて、全然戦えそうもない。漂ってくる香りは、絶望を孕んでいる。
ああ、もう色々挫かれちゃった感じだね。
自信とか、矜持とか、希望とか、意欲とか。
色々と生きていくのに必要なものが、根こそぎごそっと無くなっちゃってるね。
でも、そんな中でも、ヴァルに対する思いだけが、青い人の内側でちろちろと燃えている。
「貴方、ヴァルのこと大好きなんだね」
「っ!!??」
わかるよ。僕も大好きだからね。
全部失っても、それだけは残っちゃうくらい、ヴァルがどうしようもなく好きなんだね。
「で、ヴァルのことが、好き過ぎて拗らせちゃったんだね」
ヴァルみたいになりたくて、なれなくて、なりたくなくなっちゃったんだよね。
「でも、ヴァルのを欲しがっちゃダメだよ。
それは全部ヴァルのだからね。ヴァルが、自分の力で手にしたものだから。
ヴァルがいなくなっても、貴方のものにはならないんだよ?」
絶対に、あげないよ。ヴァルがあげようとしても、僕は渡さない。僕が絶対に守ってあげるから。
「そんなにヴァルが妬ましいんだ?羨ましいんだ?
わかるよー。すっごくよくわかる。だって、ヴァルはすごいからね。
でも、貴方のしてることは逆恨みだよって教えてあげようと思って。もしくは八つ当たり、かな」
この青い人、昔からヴァルを知ってるんだよね?
それなら、どれだけヴァルが素晴らしいか、よく知ってるはずだもんね。
この人よりは、僕の方が知ってる自信があるけどね。
「ほら。僕が、お芋お兄さんも院長もキレイに治しちゃったから、貴方がやった悪いこと、まるでなかったことみたいになっちゃったからさ。
でも、一度やったことが無かったことにはならないからね。わかるよね?」
「ひっ……寄るな、……来るな!」
距離を詰める僕から、一生懸命逃げて森へと分け入っていく青い人は、面白いほどに怯えていた。
「あいつが、あいつが悪いんだ……!!」
あいつって……ヴァルのことだよね?
「まだそんなこと、言ってるの?ヴァルは何も悪くないでしょ」
貴方がしたことは、貴方のしたことだよ。
「自分のしたことは、ちゃんと自分で責任を取ろっか。ね?」
どうすればいいか、わかるかな?
「あいつは……いつも俺の、邪魔を……ユーリだって、あいつにっ……あいつがいなきゃ、俺はっ!」
「えー?それを言うなら、ヴァルがいなかったら、僕は貴方をとっくにサクッとヤっちゃってたよ」
「ヒッ……!なんだよ、お前は……お前だって、」
あれ?でもヴァルがいなきゃ、僕、この人のこときっと知らなかったよね。
うーん……つまり、どういうこと?もう、わかんないや。
でも、今はそんなタラレバ、どうでもいいよ。
ヴァルがいなければ、なんて考えられないから。
「くだらないことばっかり言ってないで、ヴァルにごめんなさい、しなきゃでしょ。迷惑かけた人に、ごめんなさい、でしょ。
あ、でもヴァルに会うのは当然ダメだよ。ヴァルを複雑な気持ちにして、困らせないでね」
「は……、お前、なんなんだよ……離せよ…っ」
腕振りほどこうとしても、無駄だよ。僕、こう見えても結構力強いからね。
ああ、もう。なんだか全然話にならないな。わかってたけど。
「ごめんなさい、が言えないお口は必要ないよね?」
もう、しゃべれなくしちゃおう。
「っ……!……?!」
「うーん……こんなにヴァルが好きなんて。困るな。
復讐なんて、絶対にできないようにしておかないとな」
今、ヴァルだけが、この人の生きる希望になっちゃってるもんね。
まったくもう。魅力的過ぎるのも、問題だね。ヴァルの魅力は、人をおかしくしちゃうのかも。
もちろん、おかしくなるのは本人の問題だけど。
「あ。最後にいいこと教えといてあげるね。
好きな子にはね、とびきり優しくしないとダメなんだよ」
好きな子いじめると、普通は普通に嫌われるからね?ヴァルが普通じゃないだけで。
まぁ、いまさら知っても、もう遅いかもしれないけど。
「ばいばい。青い人。二度とヴァルの前に現れないでね」
ヴァルは、貴方を見ると、どうしたって悲しい気持ちになっちゃうから。
僕、ヴァルにはたくさん笑っててほしいんだよ。
森の中を黒い風が駆け抜けて、声無き悲鳴があがる。うん、声出せなくしてて正解だったな。
あとは僕と、静寂が残った。
はぁ……夜の森って、風が気持ちいいよね。
あ。そういえば。僕、夕ご飯がまだだったな。ヴァルもまだ食べてないって言ってたし。
お家に帰って、何か簡単なものでも作って、ヴァルを待ってようっと。
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