80 / 238
Ⅱ.体に優しいお野菜編
41.俺は、パンケーキである③
しおりを挟む「でも、ヴァルは卵が一番好きなんだよね?あとチーズとか」
「まぁ……そうだな」
どう考えても、今は食の好みを語らってる場合じゃない。
「じゃあやっぱり、養鶏か酪農から始めればよかったなぁ」
養鶏か酪農。
ルルドの言葉に、孤児院の裏にひしめく巨大な怪鳥や猛牛を想像して………。
「ルルド」
「ん?」
「お前の野菜は、最高だよ」
「え!ホントに!?」
「ああ。だからこれからも、お前の作った野菜、ずっと俺に食わせてほしい。
そしたら俺が、ずっと美味い飯食わせてやるから」
「っ!!うん!わかった!」
満面の笑みでほくほくと「えへへ。うれしいなぁ」なんて言うルルドに、ほっとすると共に、何故かじくりと罪悪感か襲う。
いや、嘘は言ってねぇし。ご近所トラブルなんて、ごめんだ。
でも、この言い方まるで、プロポーズみたいだな。
……………………まぁ、いいか。今、それどころじゃねぇし。
野太い叫び声が続く中、ようやくルルドの意識がワームに拘束された男立ちへと向く。
「あれ?ワームくんに人がくっついてる。
あの人たちは、何してるの?ワームくんと仲良くなりたかったとか?」
絶対に違うだろうな。
「今、尋問をしようと考えてたところだ」
「尋問?」
「ああ」
今日、孤児院の子供たちに起こったこと、そしてこれまでにあった“竜隠し”について、俺はルルドに説明する。
「ふーん」
「何か、知らないか?」
「うーん、わかんない」
「そうか……」
そもそも、ルルドが何かしていたとしても、それを覚えていないかもしれない。
「あ。でも、臭い馬車を追い払ったら、孤児院の子が一緒に乗ってたことはあるよ」
「……は?」
「どこか、お出かけするところだったのかな?
あんまり臭いから、こう風をね起こして臭いの元を吹き飛ばしたんだけどね」
確かに、ここ1年ほどは“竜隠し”は起こっていなかった。それはルルドを……ルゥを俺が保護した時期に一致する。
当のルルドは「あんなに臭いとご飯がまずくなるでしょ」なんて安定の食いしん坊発言をしているが。
そうか……ルルドが、奴隷商人たちをそうとは知らず撃退していたのか。
謎の妨害が重なり、警戒した連中がここ一年はおとなしくしていた、というところか。
それが今になって、こんな騒動を起こして……そこまでして、俺をどうこうしたかったのか?
俺の脳裏に、俺を“悪役”と罵った奴の顔がちらついた。
「あと……ケビンが、一昨日から行方知れずになっている」
「ケビン?誰それ?」
「だから、この前うちに来た奴だよ。お前に、料理……俺の好物を教えた」
「ああ。お芋お兄さんね」
なんだそのお芋お兄さんって。
そう突っ込もうとしたとき、
「あの人なら、今うちにいるよ」
ルルドの言った次の言葉に俺は思考が停止した。
「………………は?」
何だって……?……ケビンが、うちにいる、だと?
「うち……?うちって……俺の家か?」
「ちがうよー」
「は?」
「ヴァルの家、じゃないでしょ。ヴァルと僕の家。僕たちの家でしょ」
「あ?……ああ、そうだな」
「でしょー」
「…………いやっ!今は、んなことどうでもいい!!」
そう突っ込む俺に、「ええーっ!大事なことなのに!!」と不満気に頬を膨らます。
「一昨日ね、お芋お兄さんがヴァルの好物と一緒に、美味しいキャンディ屋さんを教えてくれたんだ。
だけど僕、そのお店の名前を忘れちゃってさ。
ヴァルにあげる飴を早く買いたかったから、お店の名前をまた教えてもらおうと思って、昨日お兄さんを探したんだよね。
そしたらね。
街の郊外にある古いお屋敷の地下室で、血まみれで椅子にはりつけにされてるのを見つけてね」
「…………なんだと?」
昨日はすでに、ケビンが行方知れずになっていて、俺も神殿に事情を聞かれ、自警団の連中と必死に捜索していた時だ。
「なんでかしらないけど右手と、左の指、あと足の爪が全部無くて……全身あざだらけ、血だらけで。あ。喉もつぶされてて声も出なくてさ。
顔も原形をとどめてなくて、右目がつぶれてて、右耳が無かったんだよね」
「………っ」
そんなん、明らかに拷問の後じゃねぇか……。
「あと、お腹に刺し傷があって、ぐりぐりと中を抉られたようなあとがあって。
なんであんな痛いことするんだろう」
「ちょっと……待て……っ」
怖くなって、その後を聞きたくなくて、俺はルルドを制す。俺の制止に、ルルドは素直に従って、口を噤んだ。
ケビンは右手を切断され、左の指を失い。足の爪は全部はがされている。全身あざだらけで、血にまみれて……腹に刺し傷があった。声も出せないように喉をつぶされていた。
原型をとどめないほどに顔を殴られ、右目を抉られ、右耳を切り落とされて。
俺は想像して、その先を聞くのが怖くなった。
いや、俺は何を言ってんだ。駄目だろう。聞かなくてどうする。ケビンがどうなっていようと、俺には確かめて、受け止める責任がある。
きっと俺がケビンを巻き込んだに違いないから。
「すまん………それで……。ケビンは、どうしたんだ?」
「寝てるよ。僕のベッドで」
「……………それは、…」
どういう意味だ……?
ルルドの言葉をそのまま信じれば、その時点でケビンは死にかけていただろう。もう、助からない。絶対に、助からない。そういう状態だったはずだ。
つまり……永遠の眠りについた。そういう意味で眠っている。
続く言葉を覚悟し、ぎゅっと心臓が痛んだ。
「僕が全部キレイにしたけど。受けた負荷は変わらないからねぇ。侵襲っていうんだよ」
「………………は?」
10
お気に入りに追加
1,446
あなたにおすすめの小説
主人公の兄になったなんて知らない
さつき
BL
レインは知らない弟があるゲームの主人公だったという事を
レインは知らないゲームでは自分が登場しなかった事を
レインは知らない自分が神に愛されている事を
表紙イラストは マサキさんの「キミの世界メーカー」で作成してお借りしています⬇ https://picrew.me/image_maker/54346
転生先がハードモードで笑ってます。
夏里黒絵
BL
周りに劣等感を抱く春乃は事故に会いテンプレな転生を果たす。
目を開けると転生と言えばいかにも!な、剣と魔法の世界に飛ばされていた。とりあえず容姿を確認しようと鏡を見て絶句、丸々と肉ずいたその幼体。白豚と言われても否定できないほど醜い姿だった。それに横腹を始めとした全身が痛い、痣だらけなのだ。その痣を見て幼体の7年間の記憶が蘇ってきた。どうやら公爵家の横暴訳アリ白豚令息に転生したようだ。
人間として底辺なリンシャに強い精神的ショックを受け、春乃改めリンシャ アルマディカは引きこもりになってしまう。
しかしとあるきっかけで前世の思い出せていなかった記憶を思い出し、ここはBLゲームの世界で自分は主人公を虐める言わば悪役令息だと思い出し、ストーリーを終わらせれば望み薄だが元の世界に戻れる可能性を感じ動き出す。しかし動くのが遅かったようで…
色々と無自覚な主人公が、最悪な悪役令息として(いるつもりで)ストーリーのエンディングを目指すも、気づくのが遅く、手遅れだったので思うようにストーリーが進まないお話。
R15は保険です。不定期更新。小説なんて書くの初めてな作者の行き当たりばったりなご都合主義ストーリーになりそうです。
新しい道を歩み始めた貴方へ
mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。
そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。
その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。
あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。
あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?
愛などもう求めない
白兪
BL
とある国の皇子、ヴェリテは長い長い夢を見た。夢ではヴェリテは偽物の皇子だと罪にかけられてしまう。情を交わした婚約者は真の皇子であるファクティスの側につき、兄は睨みつけてくる。そして、とうとう父親である皇帝は処刑を命じた。
「僕のことを1度でも愛してくれたことはありましたか?」
「お前のことを一度も息子だと思ったことはない。」
目が覚め、現実に戻ったヴェリテは安心するが、本当にただの夢だったのだろうか?もし予知夢だとしたら、今すぐここから逃げなくては。
本当に自分を愛してくれる人と生きたい。
ヴェリテの切実な願いが周りを変えていく。
ハッピーエンド大好きなので、絶対に主人公は幸せに終わらせたいです。
最後まで読んでいただけると嬉しいです。
推しの完璧超人お兄様になっちゃった
紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。
そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。
ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。
そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。
【完結】婚約破棄したのに幼馴染の執着がちょっと尋常じゃなかった。
天城
BL
子供の頃、天使のように可愛かった第三王子のハロルド。しかし今は令嬢達に熱い視線を向けられる美青年に成長していた。
成績優秀、眉目秀麗、騎士団の演習では負けなしの完璧な王子の姿が今のハロルドの現実だった。
まだ少女のように可愛かったころに求婚され、婚約した幼馴染のギルバートに申し訳なくなったハロルドは、婚約破棄を決意する。
黒髪黒目の無口な幼馴染(攻め)×金髪青瞳美形第三王子(受け)。前後編の2話完結。番外編を不定期更新中。
【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺
福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。
目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。
でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい…
……あれ…?
…やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ…
前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。
1万2000字前後です。
攻めのキャラがブレるし若干変態です。
無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形)
おまけ完結済み
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる