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Ⅱ.体に優しいお野菜編

41.俺は、パンケーキである③

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「でも、ヴァルは卵が一番好きなんだよね?あとチーズとか」
「まぁ……そうだな」

 どう考えても、今は食の好みを語らってる場合じゃない。

「じゃあやっぱり、養鶏か酪農から始めればよかったなぁ」

 養鶏か酪農。
 ルルドの言葉に、孤児院の裏にひしめく巨大な怪鳥や猛牛を想像して………。

「ルルド」
「ん?」
「お前の野菜は、最高だよ」
「え!ホントに!?」
「ああ。だからこれからも、お前の作った野菜、ずっと俺に食わせてほしい。
 そしたら俺が、ずっと美味い飯食わせてやるから」
「っ!!うん!わかった!」

 満面の笑みでほくほくと「えへへ。うれしいなぁ」なんて言うルルドに、ほっとすると共に、何故かじくりと罪悪感か襲う。

 いや、嘘は言ってねぇし。ご近所トラブルなんて、ごめんだ。

 でも、この言い方まるで、プロポーズみたいだな。

 ……………………まぁ、いいか。今、それどころじゃねぇし。

 野太い叫び声が続く中、ようやくルルドの意識がワームに拘束された男立ちへと向く。

「あれ?ワームくんに人がくっついてる。
 あの人たちは、何してるの?ワームくんと仲良くなりたかったとか?」

 絶対に違うだろうな。

「今、尋問をしようと考えてたところだ」
「尋問?」
「ああ」

 今日、孤児院の子供たちに起こったこと、そしてこれまでにあった“竜隠し”について、俺はルルドに説明する。

「ふーん」
「何か、知らないか?」
「うーん、わかんない」
「そうか……」

 そもそも、ルルドが何かしていたとしても、それを覚えていないかもしれない。

「あ。でも、臭い馬車を追い払ったら、孤児院の子が一緒に乗ってたことはあるよ」
「……は?」
「どこか、お出かけするところだったのかな?
 あんまり臭いから、こう風をね起こして臭いの元を吹き飛ばしたんだけどね」

 確かに、ここ1年ほどは“竜隠し”は起こっていなかった。それはルルドを……ルゥを俺が保護した時期に一致する。

 当のルルドは「あんなに臭いとご飯がまずくなるでしょ」なんて安定の食いしん坊発言をしているが。

 そうか……ルルドが、奴隷商人たちをそうとは知らず撃退していたのか。
 謎の妨害が重なり、警戒した連中がここ一年はおとなしくしていた、というところか。

 それが今になって、こんな騒動を起こして……そこまでして、俺をどうこうしたかったのか?

 俺の脳裏に、俺を“悪役”と罵った奴の顔がちらついた。

「あと……ケビンが、一昨日から行方知れずになっている」
「ケビン?誰それ?」
「だから、この前うちに来た奴だよ。お前に、料理……俺の好物を教えた」
「ああ。お芋お兄さんね」

 なんだそのお芋お兄さんって。

 そう突っ込もうとしたとき、

「あの人なら、今うちにいるよ」

 ルルドの言った次の言葉に俺は思考が停止した。

「………………は?」

 何だって……?……ケビンが、うちにいる、だと?

「うち……?うちって……俺の家か?」
「ちがうよー」
「は?」
「ヴァルの家、じゃないでしょ。ヴァルと僕の家。僕たちの家でしょ」
「あ?……ああ、そうだな」
「でしょー」
「…………いやっ!今は、んなことどうでもいい!!」

 そう突っ込む俺に、「ええーっ!大事なことなのに!!」と不満気に頬を膨らます。

「一昨日ね、お芋お兄さんがヴァルの好物と一緒に、美味しいキャンディ屋さんを教えてくれたんだ。
 だけど僕、そのお店の名前を忘れちゃってさ。
 ヴァルにあげる飴を早く買いたかったから、お店の名前をまた教えてもらおうと思って、昨日お兄さんを探したんだよね。
 そしたらね。
 街の郊外にある古いお屋敷の地下室で、血まみれで椅子にはりつけにされてるのを見つけてね」

「…………なんだと?」

 昨日はすでに、ケビンが行方知れずになっていて、俺も神殿に事情を聞かれ、自警団の連中と必死に捜索していた時だ。

「なんでかしらないけど右手と、左の指、あと足の爪が全部無くて……全身あざだらけ、血だらけで。あ。喉もつぶされてて声も出なくてさ。
 顔も原形をとどめてなくて、右目がつぶれてて、右耳が無かったんだよね」
「………っ」

 そんなん、明らかに拷問の後じゃねぇか……。

「あと、お腹に刺し傷があって、ぐりぐりと中を抉られたようなあとがあって。
 なんであんな痛いことするんだろう」
「ちょっと……待て……っ」

 怖くなって、その後を聞きたくなくて、俺はルルドを制す。俺の制止に、ルルドは素直に従って、口を噤んだ。

 ケビンは右手を切断され、左の指を失い。足の爪は全部はがされている。全身あざだらけで、血にまみれて……腹に刺し傷があった。声も出せないように喉をつぶされていた。
 原型をとどめないほどに顔を殴られ、右目を抉られ、右耳を切り落とされて。

 俺は想像して、その先を聞くのが怖くなった。

 いや、俺は何を言ってんだ。駄目だろう。聞かなくてどうする。ケビンがどうなっていようと、俺には確かめて、受け止める責任がある。

 きっと俺がケビンを巻き込んだに違いないから。

「すまん………それで……。ケビンは、どうしたんだ?」
「寝てるよ。僕のベッドで」
「……………それは、…」

 どういう意味だ……?

 ルルドの言葉をそのまま信じれば、その時点でケビンは死にかけていただろう。もう、助からない。絶対に、助からない。そういう状態だったはずだ。

 つまり……永遠の眠りについた。そういう意味で眠っている。
 続く言葉を覚悟し、ぎゅっと心臓が痛んだ。

「僕が全部キレイにしたけど。受けた負荷は変わらないからねぇ。侵襲っていうんだよ」
「………………は?」
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