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Ⅱ.体に優しいお野菜編

24.僕、お野菜の次を考えます①

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「そうそう。上手だよ。本当に初めて?」

 僕は今、お芋お兄さんの指導の元、ヴァルにご飯を作り中です!

 この前まで僕の手はスプーンも持てない前足だったから。初めてのはずだ。

「うーん……」

 お芋の皮をむくのって、なんでこんなに面倒なんだろうね?
 ヴァルは魔法みたいにスルスル剥いていくのに。

 こんなの、もう皮だけぱぱぱのぱって消しちゃえばよくない?

 もっとも、人前で簡単に竜の力を使うな、て言われてるから使わないけど。

 やっとのことで皮を剥いたお芋を、1センチ程度の幅の薄切りにする。
 玉ねぎはくし切り。
 燻製肉は細切り。

 燻製肉から熱したフライパンに投入する。ジュウジュウと音をたて、油が出てきたところで玉ねぎを投入する。
 そして、ジャガイモも加えて、周囲が透き通るくらいにさっと炒める。

「あとは、チーズをのせてオーブンで焼き上げるから、熱が入りきらなくても大丈夫だよ。
 味付けも、軽く塩と胡椒で。燻製肉とチーズの塩気があるからね」

 なるほど。

 さっと炒めたものを、お皿に移して上からチーズをたっぷりとかける。
 余熱したオーブンに入れる。

 15分ほど焼けば完成らしい。

「どう?簡単だろう?」
「うん。このくらいならできそうかな」
「ヴァル兄が帰ってきそうな時間を見計らって焼くか……帰ってきてから焼いても、そう時間はかからないよ。
 同じ具で、さらに野菜を増やしてスープにしてもおいしいし」
「ミルクスープとか、ヴァルは好きそうだよね」
「そうそう。よくわかってるね」

 そっか。人型ってことは、人と同じことができるってことなんだ。

 僕、どうにかして竜の力でヴァルの役に立たなきゃ!て思ってたのかも。

 そうだよ。別に、わざわざ力を使わなくても、こういう風に人と同じようにヴァルを助けることだってできるんだ。

 こういうの、目から鱗が落ちる、ていうんだよね!

 200年、犬に準じた生活してたからなぁ。加えてヴァルのご飯が美味しかったから、僕がご飯を作ってあげるって発想自体がなかった。

「ヴァル兄は、あんな感じだけど、意外と甘いものも好きで」

 ふーん。そうなんだ。甘いの食べてるとこ、飴くらいしか見たことないけど。

「肉より魚が好き。チーズとかヨーグルトみたいな乳製品とか……あと卵が大好きなんだよね」
「へぇ……」

 そういえば、チーズの出番は多い気がする。あと、卵も。

「ちょっと前までは、体調悪くて食欲もなかったみたいで、スープばっかり食ってたけどさ。
 最近は、いい感じっぽいし?」

 だよねぇ。
 以前のヴァルは、お野菜のスープばっかり食べてたから、あんまり肉やこってりしたものが嫌いなのかと思っていたけど、どうもそうじゃないらしい。

 これは……野菜に続いて、鶏や乳牛を飼う方向で検討したほうがいいのでは……?

「やっぱり、一人で食べるより二人で食べる方が、食が進むのかなぁ」

 なんて、お芋お兄さんはニヤニヤしながら僕を見ている。

 え?何?その顔。食が進むのは、ヴァルのご飯が美味しいからでしょ。
 
 ――その時。

 ガチャリ、とドアの開く音がして、ひやりと冷えた外の空気がオーブンの熱で温まった部屋を瞬時に冷ます。

 この匂い。見なくてもわかる。

「ヴァル!おかえりなさい!」
「ああ、ただい――……は?なんで、お前がいるんだ?ケビン」

 僕と、そしてお芋お兄さんをみて、ヴァルが顔を顰めた。
 狭い家では、玄関から台所が、部屋全体が全部見通せる。

「夕ご飯を一緒にどうかって、ルルド君に誘われたんだ」
「はあ?」

 その言葉に、ヴァルの表情が明らかに険しくなる。

「え?僕、そんなこと言ってな――」
「まぁまぁ、もうすぐジャガイモのラクレットが焼きあがるからねぇ。ヴァル兄は、ゆっくり休んどいて。
 夕飯は、僕とルルド君で作っちゃうからさ」

 そう言うお芋お兄さんにぐいぐいと背中を押され、台所の奥に押し詰められてしまった。

 いや、僕は誘ってないし。
 あれ。なんか僕、ヴァルににらまれてない?

「あとは、パンとサラダか果物があれば十分かな。今日、間引いた葉物とゆで卵でサラダを作って――」
「パンは買ってきてあるぞ」

 お芋お兄さんの後ろから、ヴァルの声が飛び越えてきて、紙袋のがさがさとした音が近くでなる。
 そして、上着を脱いだヴァルが「俺も手伝う」と言って、台所へ入ってきた。

 ヴァルは狭い台所の通路でお芋お兄さんを何とか通り越して、奥にいる僕の手から今日間引いたばかりの葉野菜を奪い取る。

「あと、リンゴがある。ルルド、奥から取ってくれ」
「ヴァル、いいよ。休んでてよ。僕できるから」
「人が働いてんのに、自分だけのんびりしてらんねぇだろうが」

 そんなこと言うヴァルは今までお仕事してきて、自分が働いているとき、人にはのんびりさせてるくせに。

 僕の胸中を知ってか知らずか、いつものように慣れた手つきで、野菜を手際よく洗っていく。

「ヴァル兄ってホント、損な性分だね」

 お芋お兄さんがヴァルの隣でゆで卵の殻をむきながら言う。

「でも……絶対それだけじゃないよね?」 
「なんのことだ?」
「だって、こんな狭い台所に男3人って無理があると思うんだけど。
 しかも、わざわざ俺を押しのけて、間に入ってさ」
「じゃあ、お前こそ遠慮なく座ってろよ。お前は招かれた客なんだろ?」
「うわぁ。へぇ……ヴァル兄って案外、嫉妬深いんだな」

 僕が隅に追いやられた横で、ヴァルとお芋お兄さんは何やら仲良く言い合いながら、それでも手を休めずに夕食の準備が進む。

 あれ。結局、僕やることがないんだけど。

「二人って仲がいいんだね」

 隅っこでリンゴを抱えてじっと動けなくなった僕に、二人の視線が集まる。

 そしてヴァルの溜息と、お芋お兄さんの笑い声が狭い台所に広がった。

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