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Ⅱ.体に優しいお野菜編
21.僕、8割がヴァルでできています②
しおりを挟む「あの子は……自分にも、持っているものにも、本当に執着の薄い子でねぇ」
「そうなんだよねぇ」
わかる、わかるよ。
「孤児院をでてからは特に一人でいることが多かったあの子が、ルゥくんのことはとても大切にしているようだから」
ホントそう、僕、すごく大切にしてもらってる。
ご飯は美味しいし、ヴァルも美味しいしで、毎日ぽっかぽかだ。
「ルルド君も見かけたらよろしくね」
「うん!」
つまり、僕を大切にしろってことだね!
でもね。僕より、ヴァルの方が心配だよ。
だって、ヴァルは、自分のしたくないこともやれちゃう人だから。
僕みたいなえたいの知れない角が生えた犬、見捨てられなくて拾っちゃうような人だよ。
で、さらに、自分のご飯を全部くれちゃったりしてたし。
今では、僕を全身で気もちよくして、お腹いっぱい注いでくれてるし。
……………………………いやいやいやいや!
こんな言い方したら、ヴァルが僕に性的サービスしてるみたいじゃない!?
………いや、してくれてるのか?
うーん。してくれてるね。どう考えても。
はい。僕、ヴァルにエッチなご奉仕してもらってます!
最高に美味しい思いしてますけど、何か?
ヴァルのくれるものなら、すべて残らず、余すことなく、まるごと全部いただいちゃうから!
ていうか、もういただいてる!いつも、ごちそうさまです!
……………………………。
あーもう。ヤバい。こんなの、ダメだよ。
最近、お腹がすいてくると、すぐにエッチな思考になっちゃう。
もちろん、ヴァルのこと限定だけど。
ええー……もしかして、竜ってすごくエッチな存在だったりする?
いやいや、そうじゃないよ。
そうじゃなくて、僕が言いたいのは、ヴァルにはもっと自分を大切にしてほしい、てことであってね。
ヴァルは僕に黒い竜気を、当たり前みたいにくれてるけどさ。
普通に考えたら、おかしいからね!あんなこと、受け入れて……いや、突っ込んで?
いやいや、だから、そういう話じゃなくて!
僕が、竜なのに迷子になってるのと同じくらい、ヴァルも絶対におかしいからね。
拾った竜に竜気もくれて、ご飯もつくってくれて、一緒に住んでくれてさ。
まったくもう、ヴァルってどんだけいい人なのっ!僕、心配だよ!!
でも、あの日から……僕が竜体になってるってバレた日から、なぜだかヴァルに避けられてる気がする。
ヴァルは昨日も帰ってくるのが遅くて、「自警団って、そんなに忙しいの?」て聞いたら、「あー……ちょっと調べもんをな」だって。
さらに、「まだやることあるから、先に寝てろ」て言われた。
調べものくらい僕だってお手伝いできるのに、て思ってたら、「それとも、ヤっとくか?」て顎くいってされた。
何それ。悪い人の顔で、顎くいってしたらダメだよ!様になりすぎでしょ!
こんなの、まんまと恥ずかしくなって、さっさと寝ちゃうしかないでしょ!
はいこれ。これ以上は教えてくれないやつ。
僕、すっかり誤魔化されちゃったじゃない。
もうっ!ヴァルってホントにケチなんだから。
ケチとケチじゃないとこのバランス、完全におかしいから!
あーあ。なんで、避けられてるんだろ。僕、また何かしちゃったのかなぁ。いやさ、色々しでかしてるんだろうけど。心当たりが多すぎて、逆に心当たりが見つからない。
ヴァル、今朝もおっきなあくびしてたもんなぁ……。やっぱり、寝不足だよね。
でも僕、今朝はちゃんと我慢できたよ!
まあ、一昨日の朝に、これまたがっつり目にいただいたばっかりだからだけど。
はう。僕、ダメダメな竜です!
「そういえば、今日は、ルルド君の畑の見学を希望していた子が来る日だね。よろしく頼むね」
え?何それ。何の話?
僕、全然知らないんだけど。
*
院長の言っていた、『僕の畑の見学を希望していた子』はその日の午後にやってきた。
どうやら僕は、院長から僕の畑を学びたい人がいるから教えてもらっていいか、って聞かれて、「いいよ!」と答えたらしい。
うーん、正直、そんなこと聞かれた記憶も了承した記憶もない。
でも、こういうことは良くあるから、いちいち気にしない。だって僕、200歳だから。
「えーっと、ルルド君、だっけ。君、ヴァル兄と一緒に住んでるんだよね?」
孤児院の裏一面に広がる畑。
その中で、黙々と作業していた僕に、『僕の畑の見学を希望していた子』は尋ねてきた。
「え?ヴァル兄……って、ヴァルの知り合いなの?」
ヴァルの名前が耳に入り、僕は雑草を抜く手を止める。
ずいっとその人に近づけば、逆にお兄さんは一歩後退した。
「っと……そうだよ。俺もこの孤児院の出身だから」
へぇ……ヴァルの知り合いかぁ。
僕は改めて、畑をまじまじと観察するその人間を観察する。
ヴァルより短い髪で、色は栗色。ヴァルには無いそばかすが頬にたくさんある。そして、ヴァルより背もおっきながっちりしたお兄さんだ。
名前は初めに聞いた気もするけど……えーっと、なんだっけ?覚えてない。
なんか、「目力が……」とか、「髪、さらさら…」とか、「ヴァル兄の名前、どんだけ威力あるんだよ」とかぶつぶつ言ってる。
何言ってるのか、全然わからない。
なんにしても、まったく『子』じゃない。歳はヴァルよりちょっと若いかもしれない。
ヴァルはやつれてる分、ちょっと老けて見えるから、正確にはわからないけど。
あれ?ていうか、ヴァルって何歳なんだろう。
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