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Ⅱ.体に優しいお野菜編

17.俺は、白い竜を餌付けしている②

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『そっか、自警団って森の見回りしてる人たちのことだったんだねぇ。なるほど、なるほど』

 いや、そこは俺が着てる自警団の制服で分かれよ。

 って、今はそうじゃねぇだろう。

「その姿は、どういうことだ?」
『え?え?どうって……どういう意味?』

 ルルドは俺から黒い竜気を食って、人型になった。
 それ以前は瀕死の状態であって、この姿をとっていたのだ。この姿しかできなかった、ともいう。

 竜はもはや竜気に還る間際にのみ、つまり人でいう瀕死の時にだけ、竜体をとるはずだろう?

 竜は基本的には人と同じ姿を、人に見せる。そういう存在だって、あのいけ好かない青い竜も言ってたじゃねぇか。

 それなのにルルド、お前はなんで、今、こうして竜体をとってるんだよ。

 じわりと冷たい嫌な汗が頬を伝った。

「お前……実は、腹がすいてんのか?」
『ええーっ!?違うよ!!今はお腹いっぱいだし!だって、今朝も………あっ!』

 ルルドは、その場を尻尾を追いかける犬のようにぐるぐると回転しながら、「いやだって、朝襲ったのは悪かったと思うけど、いやでもね……ヴァルが、あんまりいい匂いだったから……寝ぼけてて、その……ほら、ね?」なんて、弁解じみたことをべらべらと一人で百面相する。

「ああ。今朝だって、俺から搾り取って、これでもかってくらい腹いっぱい食ったもんな」
『ううぅぅ……っ。だって、だってぇ………』

 あれだけのことをしておいて、今更何を照れるんだ。

 俺を……俺に溜まった黒い竜気を求めてくるときのルルドは、ただただ欲求に素直だ。

 性欲というよりも食欲なのか?いずれにしろ、その欲に満ちてギラついた黒々とした瞳も、そして、求める先が唯一俺であるという事実が、今の俺にはどうしようもなく嬉しい事実だったりするわけで。

 加えて、こんな可愛い反応をされれば、からかいたくもなる。
 
 白い毛でおおわれた姿では、今現在のルルドの顔色はわからないが、人型ならきっと顔と耳まで真っ赤にして狼狽えているに違いない。

「つまり、別に竜気が足らないってわけじゃ、無いんだな?」
『だから、ちがうってば!』

 ルルドはあからさまな羞恥を誤魔化すように、必死に主張する。

「はぁ……無駄な心配、させてんじゃねぇよ」

 今朝、あんだけヤったにもかかわらず、竜体になるなんて……。

 俺のやってる黒い竜気が足りなくて死にかけてんのかって、不安になっただろうが。

 自警団にいて竜気術を使うことはほとんどない。
 竜気に当てられた怪物の討伐や、竜石の採掘では、ぼんぼんと使っていた竜気術だが。さすがに街の防衛のためだけでは、それほど使う局面がないのだ。

 加えて、俺はルルドの腹へり具合を感知できない。知るすべもない。

 そして、この腹ぺこ駄竜は、食い意地が張っているようでいて、妙に我慢強いところがあるから質が悪い。

『え?なに?なんて言ったの?』
「何でもねぇよ」

 俺はルルドのピンク色の鼻をきゅっとつまむ。
 ふがっと変な声を上げて、逃れるようにぶんぶんと首を振った。

 しっとりと湿った鼻の懐かしい感触に、ふっと笑いが込み上げる。

 俺は、目の前で竜気に還るルルドなんて見たくないんだよ。
 ましてや俺の知らぬところでなんて、論外だ。

「竜体は、おいそれと人に見せて良いものなのか?」

 竜にとっては、まさにこの世から消える間際、最高に無防備な瞬間の儚い姿じゃないのか。
 少なくとも、俺の認識ではそうだ。

『ええー??いいんじゃない?
 僕、200年ずっとこの姿で過ごしてきたんだよ?いまさらだよ』
「それ言ったら……それまでだけどよ」
『神殿にも竜体の姿の像があったもん。誰も見たことが無いなら、あんなのないでしょ。
 別に見せちゃいけないなんてこと、無いでしょ!全然平気だよ。たぶん』
「まぁ……確かに。……おまえがそういうなら……」
『それにね。この犬の格好、何かと便利なんだよ』
「犬の格好、ね……」
『うん。だってほら、孤児院に怪しい人が来たときとかさ。
 吠えてれば院長と話ができないし、煩い犬だなぁって皆帰っていくから!』

 なるほど。そうやって、院長の無駄な買い物を減らしてくれてたのか。
 まぁ……お前が犬だと思われてんのに不満がねぇなら、もう俺が言うことは何もねぇわ。

「…………ん?そう言えば、お前言葉が……」
『そうそう。ヴァルにだけ人の言葉に聞こえるんだよー。
 あ、でも他の人にはわからないから、安心してね!』

 は?マジかよ。それ、全然安心できねーわ。
 俺が堂々と話してると、犬と会話してるヤバい奴になるってことじゃねぇか。
 あぶねーな。先に言っとけよ。
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