上 下
44 / 238
Ⅱ.体に優しいお野菜編

5.僕、役に立つ竜です⑤

しおりを挟む



「だあぁぁぁっ!いいから!お前は、大人しくしてろ!!」
「え?なんで?僕、こう見えても竜だよ。
 きれいさっぱり初めから無かったみたいに、いい感じに片付けれるから。心配しないで」

 心配しなくても、お残しするとかヘマなんてしないよ。

「俺のいう掃除は、そのものズバリ掃除だよ!」
「でもほら、大は小を兼ねるっていうし」

 ちょっとくらいキレイにしても絶対バレないから。
 それに、バレたとしても大した問題じゃないよ。50年もすれば人は皆、入れ替わっちゃうんだから。

「ただ掃除するだけなんて、つまんなくない?」
「掃除は娯楽じゃねぇ!つまんなくて当然だろう!!」
「むう……でもさぁ。何をするにもちょっとでも楽しもう、ていう精神は大切だと思うよ?」
「お前はっ……ただでさえ目立つんだよ……っ」
「え?え?何で?何が?」

 僕、何もしてないけど?

「全部だよ、馬鹿っ!それがわかんねぇなら、せめて大人しくしとけっつってんだよ!」

 むう。納得いかないんですけど。

「いいな?じゃなきゃ、飯抜きだぞ」
「ああっ!またそうやって!人の弱みに付け込んで!!」

 ヴァルのご飯抜きとか、正気!?あり得ないんだけど!!

「僕が、ヴァルのご飯をどんだけ大好きかわかってるでしょ!?」
「っ!…………はぁ、とにかく。大人しくしとけ。わかったか?」
「………………」
「わかったな!」
「……………はーい」

 全然、わからないけど。
 でも、これ以上言い合っても平行線だ。だから、とりあえず了承したふりをしとくことにする。

「じゃあ、あと、お掃除だけ手伝ったら帰るね」
「いや……もう、帰れよ。ほら、飴やるから」
「んぐっ」

 ヴァルはポケットから飴を取り出して、僕の口におもむろに突っ込んだ。

 柑橘系の甘酸っぱい味が口いっぱいに広がった。さらに3粒ほど僕に飴を僕の手に握らせて、しっしと追い払う。

「やだ。飴はもらうけど」
「ほら、クラーケンのスルメもやるから」

 ヴァルは腰のポーチから、細く裂いたクラーケンの干物を取り出し、僕に差し出した。

 僕の強い希望で持ち帰ったクラーケンは、ヴァルの手によって無事に調理された。
 生では噛み切れなかったあの肉も、根菜類と煮込めばあら不思議。とっても柔らかい絶品の煮物になった。
 
 あんな、美味しいなんて、僕もびっくりだよ。ね。捨てなくてよかったでしょ。

 あんなにクラーケンを持ち帰るのに反対したヴァルだけど、食べきらない分は頼んでもないのに、保存食として薄くスライスして、スルメに加工していた。
 ちょっと気まずそうに「なかなか良い出汁が出るんだよな」なんて言って、料理しながら美味しそうにしゃぶしゃぶかみかみしてたのは知ってたけど……。

「スルメはいらないよ」

 ヴァルが食べて。実はものすごく気に入ってるんじゃない。持ち歩くほど。
 まったく、素直じゃないんだから。うーん……こんなことなら、もっと持って帰ってあげればよかったな。

「でも、絶対ヴァルのお手伝いする。お掃除、手伝うから」
「あー……だからだな……」
「どうせまた、一人じゃできないくらい広い場所のお掃除なんでしょ?」
「………………」

 ほら、やっぱり。

「手伝わせてくれないなら、神殿ごと全部キレイさっぱり大掃除する」

 皆、いなくなっちゃう感じで。なんなら、神殿ごと跡形も無くしちゃう感じで。

「はぁ……わかった」

 僕の意図をしっかりと理解して、ヴァルは額に手を当て頭を抱えるように唸った。

「いいか。今度こそ、自重しろよ。つまり……普通に掃除するだけ、だ」
「うんうん。普通に掃除するだけだね」
「普通に掃除する、ていうのは、ゴミとか汚れを落とすだけ、だからな」
「わかってるよ」
「箒で床を掃いたり、モップで拭いたり……布で窓や彫像を清拭するやつだからな」
「知ってるよ。掃除くらい。
 心配しなくても、人とか物とかの存在そのものを消したりしないから。安心して?」

 僕はヴァルの神官服についた汚れを、腕振り一つでまっさらに綺麗にしてみせる。
 洗濯したてのようにピカピカになった服を見て、ヴァルは「全然安心できねぇ……」と、苦悩に満ちた顔をした。




 その後、普通に掃除を手伝った僕は、再びものすごくヴァルに怒られた。
 怒られて、ものすごい鬼みたいな形相で、「お前は二度と神殿に来るな」て怒鳴られて、そのまま神殿から追い出されてしまった。

 僕、おつかいもできたよ。
 ヴァルのお手伝いだってちゃんとした。

 ちゃんと普通に掃除して、神殿の中をピカピカにしただけなのに。

 なんで?

 あーあ……僕、人型になってから、ヴァルに怒られてばっかりだな。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

主人公の兄になったなんて知らない

さつき
BL
レインは知らない弟があるゲームの主人公だったという事を レインは知らないゲームでは自分が登場しなかった事を レインは知らない自分が神に愛されている事を 表紙イラストは マサキさんの「キミの世界メーカー」で作成してお借りしています⬇ https://picrew.me/image_maker/54346

転生先がハードモードで笑ってます。

夏里黒絵
BL
周りに劣等感を抱く春乃は事故に会いテンプレな転生を果たす。 目を開けると転生と言えばいかにも!な、剣と魔法の世界に飛ばされていた。とりあえず容姿を確認しようと鏡を見て絶句、丸々と肉ずいたその幼体。白豚と言われても否定できないほど醜い姿だった。それに横腹を始めとした全身が痛い、痣だらけなのだ。その痣を見て幼体の7年間の記憶が蘇ってきた。どうやら公爵家の横暴訳アリ白豚令息に転生したようだ。 人間として底辺なリンシャに強い精神的ショックを受け、春乃改めリンシャ アルマディカは引きこもりになってしまう。 しかしとあるきっかけで前世の思い出せていなかった記憶を思い出し、ここはBLゲームの世界で自分は主人公を虐める言わば悪役令息だと思い出し、ストーリーを終わらせれば望み薄だが元の世界に戻れる可能性を感じ動き出す。しかし動くのが遅かったようで… 色々と無自覚な主人公が、最悪な悪役令息として(いるつもりで)ストーリーのエンディングを目指すも、気づくのが遅く、手遅れだったので思うようにストーリーが進まないお話。 R15は保険です。不定期更新。小説なんて書くの初めてな作者の行き当たりばったりなご都合主義ストーリーになりそうです。

新しい道を歩み始めた貴方へ

mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。 そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。 その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。 あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。 あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?

愛などもう求めない

白兪
BL
とある国の皇子、ヴェリテは長い長い夢を見た。夢ではヴェリテは偽物の皇子だと罪にかけられてしまう。情を交わした婚約者は真の皇子であるファクティスの側につき、兄は睨みつけてくる。そして、とうとう父親である皇帝は処刑を命じた。 「僕のことを1度でも愛してくれたことはありましたか?」 「お前のことを一度も息子だと思ったことはない。」 目が覚め、現実に戻ったヴェリテは安心するが、本当にただの夢だったのだろうか?もし予知夢だとしたら、今すぐここから逃げなくては。 本当に自分を愛してくれる人と生きたい。 ヴェリテの切実な願いが周りを変えていく。  ハッピーエンド大好きなので、絶対に主人公は幸せに終わらせたいです。 最後まで読んでいただけると嬉しいです。

【完結】婚約破棄したのに幼馴染の執着がちょっと尋常じゃなかった。

天城
BL
子供の頃、天使のように可愛かった第三王子のハロルド。しかし今は令嬢達に熱い視線を向けられる美青年に成長していた。 成績優秀、眉目秀麗、騎士団の演習では負けなしの完璧な王子の姿が今のハロルドの現実だった。 まだ少女のように可愛かったころに求婚され、婚約した幼馴染のギルバートに申し訳なくなったハロルドは、婚約破棄を決意する。 黒髪黒目の無口な幼馴染(攻め)×金髪青瞳美形第三王子(受け)。前後編の2話完結。番外編を不定期更新中。

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺

福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。 目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。 でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい… ……あれ…? …やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ… 前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。 1万2000字前後です。 攻めのキャラがブレるし若干変態です。 無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形) おまけ完結済み

悪役令息に転生したけど…俺…嫌われすぎ?

「ARIA」
BL
階段から落ちた衝撃であっけなく死んでしまった主人公はとある乙女ゲームの悪役令息に転生したが...主人公は乙女ゲームの家族から甘やかされて育ったというのを無視して存在を抹消されていた。 王道じゃないですけど王道です(何言ってんだ?)どちらかと言うとファンタジー寄り 更新頻度=適当

兄たちが溺愛するのは当たり前だと思ってました

不知火
BL
温かい家族に包まれた1人の男の子のお話 爵位などを使った設定がありますが、わたしの知識不足で実際とは異なった表現を使用している場合がございます。ご了承ください。追々、しっかり事実に沿った設定に変更していきたいと思います。

処理中です...