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Ⅱ.体に優しいお野菜編
5.僕、役に立つ竜です⑤
しおりを挟む「だあぁぁぁっ!いいから!お前は、大人しくしてろ!!」
「え?なんで?僕、こう見えても竜だよ。
きれいさっぱり初めから無かったみたいに、いい感じに片付けれるから。心配しないで」
心配しなくても、お残しするとかヘマなんてしないよ。
「俺のいう掃除は、そのものズバリ掃除だよ!」
「でもほら、大は小を兼ねるっていうし」
ちょっとくらいキレイにしても絶対バレないから。
それに、バレたとしても大した問題じゃないよ。50年もすれば人は皆、入れ替わっちゃうんだから。
「ただ掃除するだけなんて、つまんなくない?」
「掃除は娯楽じゃねぇ!つまんなくて当然だろう!!」
「むう……でもさぁ。何をするにもちょっとでも楽しもう、ていう精神は大切だと思うよ?」
「お前はっ……ただでさえ目立つんだよ……っ」
「え?え?何で?何が?」
僕、何もしてないけど?
「全部だよ、馬鹿っ!それがわかんねぇなら、せめて大人しくしとけっつってんだよ!」
むう。納得いかないんですけど。
「いいな?じゃなきゃ、飯抜きだぞ」
「ああっ!またそうやって!人の弱みに付け込んで!!」
ヴァルのご飯抜きとか、正気!?あり得ないんだけど!!
「僕が、ヴァルのご飯をどんだけ大好きかわかってるでしょ!?」
「っ!…………はぁ、とにかく。大人しくしとけ。わかったか?」
「………………」
「わかったな!」
「……………はーい」
全然、わからないけど。
でも、これ以上言い合っても平行線だ。だから、とりあえず了承したふりをしとくことにする。
「じゃあ、あと、お掃除だけ手伝ったら帰るね」
「いや……もう、帰れよ。ほら、飴やるから」
「んぐっ」
ヴァルはポケットから飴を取り出して、僕の口におもむろに突っ込んだ。
柑橘系の甘酸っぱい味が口いっぱいに広がった。さらに3粒ほど僕に飴を僕の手に握らせて、しっしと追い払う。
「やだ。飴はもらうけど」
「ほら、クラーケンのスルメもやるから」
ヴァルは腰のポーチから、細く裂いたクラーケンの干物を取り出し、僕に差し出した。
僕の強い希望で持ち帰ったクラーケンは、ヴァルの手によって無事に調理された。
生では噛み切れなかったあの肉も、根菜類と煮込めばあら不思議。とっても柔らかい絶品の煮物になった。
あんな、美味しいなんて、僕もびっくりだよ。ね。捨てなくてよかったでしょ。
あんなにクラーケンを持ち帰るのに反対したヴァルだけど、食べきらない分は頼んでもないのに、保存食として薄くスライスして、スルメに加工していた。
ちょっと気まずそうに「なかなか良い出汁が出るんだよな」なんて言って、料理しながら美味しそうにしゃぶしゃぶかみかみしてたのは知ってたけど……。
「スルメはいらないよ」
ヴァルが食べて。実はものすごく気に入ってるんじゃない。持ち歩くほど。
まったく、素直じゃないんだから。うーん……こんなことなら、もっと持って帰ってあげればよかったな。
「でも、絶対ヴァルのお手伝いする。お掃除、手伝うから」
「あー……だからだな……」
「どうせまた、一人じゃできないくらい広い場所のお掃除なんでしょ?」
「………………」
ほら、やっぱり。
「手伝わせてくれないなら、神殿ごと全部キレイさっぱり大掃除する」
皆、いなくなっちゃう感じで。なんなら、神殿ごと跡形も無くしちゃう感じで。
「はぁ……わかった」
僕の意図をしっかりと理解して、ヴァルは額に手を当て頭を抱えるように唸った。
「いいか。今度こそ、自重しろよ。つまり……普通に掃除するだけ、だ」
「うんうん。普通に掃除するだけだね」
「普通に掃除する、ていうのは、ゴミとか汚れを落とすだけ、だからな」
「わかってるよ」
「箒で床を掃いたり、モップで拭いたり……布で窓や彫像を清拭するやつだからな」
「知ってるよ。掃除くらい。
心配しなくても、人とか物とかの存在そのものを消したりしないから。安心して?」
僕はヴァルの神官服についた汚れを、腕振り一つでまっさらに綺麗にしてみせる。
洗濯したてのようにピカピカになった服を見て、ヴァルは「全然安心できねぇ……」と、苦悩に満ちた顔をした。
その後、普通に掃除を手伝った僕は、再びものすごくヴァルに怒られた。
怒られて、ものすごい鬼みたいな形相で、「お前は二度と神殿に来るな」て怒鳴られて、そのまま神殿から追い出されてしまった。
僕、おつかいもできたよ。
ヴァルのお手伝いだってちゃんとした。
ちゃんと普通に掃除して、神殿の中をピカピカにしただけなのに。
なんで?
あーあ……僕、人型になってから、ヴァルに怒られてばっかりだな。
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