上 下
43 / 238
Ⅱ.体に優しいお野菜編

4.僕、役に立つ竜です④

しおりを挟む




「ヴァルってホントに器用なんだねぇ。
 ふーん、そっか。ヴァルの今日のお仕事は、これを使えるようにすることなんだね」

 器用だから、このたくさんの武器の手入れや修理を任されてるんだね!
 やっぱり、ヴァルは優秀なんだな。うんうん。ご飯も上手で、手先も器用で、さらに獣の討伐なんかもできて、竜気も扱えちゃうなんて。

 すごい!一人で何でもできちゃうじゃん!

「まぁな。とりあえず、使えんのと使えねぇのをわけて……そっからだな」

 神官なのに、武器の手入れって……益々僕のイメージと違う。
 それに地面に所狭しと並べられた剣は折れたものや、錆びたものが多い。弓だって弦が切れていたり……状態が悪い物ばかりだ。

「なんか……ばっちいね」

 あのこべりついてる固形物は何だろうな……うん、考えたくない。そして、触りたくない。

「さらに修理して、整理するとなると……5日はかかるな」

 ヴァルは深々と嘆息して、軽く肩を回した。

「僕、手伝ってもいい?こっそりなら、大丈夫だよね?」
「ああ……そりゃあ、手伝ってくれんならありがたいが……。
 けどなぁ……お前、大丈夫か?」
「え?大丈夫って何が?これを綺麗にしたらいいんだよね?」
「ああ。まぁ……そのくらいなら、大丈夫か……?」

 ヴァルはどこか不安気に、ぶつぶつと考え込んでいる。

 安心していいのに。
 僕、ヴァルに僕の竜気をもらえるようになって、たくさんのことできるようになったんだから!
 ヴァルだって知ってるでしょ。

「念のため、言っとくが……お前、自重しろよ?」

 自重って?何を?

「ただ綺麗にするだけでしょ?」

 ヴァルのために全力で張り切って綺麗にしちゃうから!

 僕は地面に乱雑に転がしてある一つ一つを意識の中に認識し、識別していく。
 細かい組成や元来の形状を想定すれば、あとはそれらがそうであると定めるだけ。

「おいっ……お前、ちょっ──」

 パァァーっっ!

 僕の手のひらから薄暗い光が放たれ、地面を転がる一つ一つを包み込む。
 霞みがかったモヤはふっと霧散する。すると、そこには何事もなかったようにキレイになった剣や弓が在った。

「どうかな?ちゃんとできてる?ねぇ?ねぇ?」
「っ……………」

 その光景を見て、ヴァルが絶句する。

 ふふ。声も出ないくらい、喜んでくれてるのかな?

「はぁ………だから、自重しろって言ってんのに」

 苦々しいヴァルの声が聞こえてくる。

「え?でも……ただ、言ったとおりに綺麗にしただけだよ?」
「まるで新品みたいに元通り綺麗に、な」

 うん、そう。
 先ほどまで、単なる汚れのみならず、腐食や錆、そして欠損が見られた剣や弓は、まるで何事もなかったように、使われる前のキレイな新品同然の状態になっていた。

「これで、また使えるね!」

 これで整理や清掃をするだけじゃなくて、修理する手間も無くなったでしょ?
 使えるものは使った方がいいもんね!

 折り重なりように散乱しているのは許してね。これは一つ一つ並べていくしか無いから。

 ヴァルは「かえって手間が増えたんじゃ……いや、でもちょうどいい誤魔化しになるか……?」と一人でぶつぶつ言いながら、考え込んでしまう。

「だって、これヴァルが一人でやるの、大変だよ」

 僕は竜だから。ぱぱぱのぱ、だったけど。
 これらを全部汚れを落として、使えないのを修理して、整理するのって一人でやる量じゃない気がするけど。

「ま、ほぼ嫌がらせみたいなもんだからな」

 うん?

 僕はヴァルの言葉にすっと目を細めて、じっと見返した。
 一方のヴァルは言った瞬間に、マズいという表情で固まってしまう。

「嫌がらせ?ヴァル、嫌がらせうけてるの?」

 ヴァル、僕が神殿やめたらって言った時、特に変わったことは無いから大丈夫だって、そう言ってなかったっけ。

「嫌がらせってなんで?ね?ヴァル、誰から?」

 ヴァルにそんなことする人、一人残らず、どこの誰か教えて欲しいな。

「あー……まぁ、色々あんだよ」
「色々あるって何が?」

 色々あっても、嫌がらせはダメなんだよ。そんなこと、子供だって知ってるよ。

「俺にも考えがあるってことだ。余計なことすんじぇねーぞ」

 これってつまり……これまでもこうやって嫌がらせを受けてたってことじゃんね。
 何それ。信じられない。

 でも、こういう風にヴァルが言う時は、絶対教えてくれない時だ。

 もう。ヴァルのケチ。何なの、考えって。教えてくれてもいいのに。
 良く分からないけど……結局のところ、やっぱり神殿でヴァルが不当な扱いを受けてるってことじゃない。

「神殿内の掃除もしねぇといけねぇから。これなら明日には終わるだろう」

 そう言って、ヴァルは立ち上がると、神官服の汚れをぱたぱたと払う。

 神殿内の掃除。

「いいね、それ!」

 なるほど!そういうことか!ヴァルは神殿をキレイにしようと思ってるんだね?
 うんうん。なるほど、なるほど。ヴァルが神殿にいなきゃいけないって言うなら、その神殿自体をまとめてキレイにしちゃうっていうのは、とってもいい考えだね!


「おい、ルルド。多分だがお前が考えてるような掃除じゃないぞ」
「え?色々キレイにしちゃおうかな、って……そう思ってるだけだよ?」
「色々キレイ……」

「そうそう!臭いのとか汚いのを、全部綺麗にさっぱり消し去ってしまえば、何の憂いもなくなるもんね?
 ほとんどの人がいなくなるかもだけど、それは臭いのが悪いんだからね?」

 全部キレイにするなら、誰がヴァルに嫌がらせしてるのかわざわざ特定しなくても、関係ないもんね?

 まとめて全部、お掃除しちゃおう!!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

主人公の兄になったなんて知らない

さつき
BL
レインは知らない弟があるゲームの主人公だったという事を レインは知らないゲームでは自分が登場しなかった事を レインは知らない自分が神に愛されている事を 表紙イラストは マサキさんの「キミの世界メーカー」で作成してお借りしています⬇ https://picrew.me/image_maker/54346

転生先がハードモードで笑ってます。

夏里黒絵
BL
周りに劣等感を抱く春乃は事故に会いテンプレな転生を果たす。 目を開けると転生と言えばいかにも!な、剣と魔法の世界に飛ばされていた。とりあえず容姿を確認しようと鏡を見て絶句、丸々と肉ずいたその幼体。白豚と言われても否定できないほど醜い姿だった。それに横腹を始めとした全身が痛い、痣だらけなのだ。その痣を見て幼体の7年間の記憶が蘇ってきた。どうやら公爵家の横暴訳アリ白豚令息に転生したようだ。 人間として底辺なリンシャに強い精神的ショックを受け、春乃改めリンシャ アルマディカは引きこもりになってしまう。 しかしとあるきっかけで前世の思い出せていなかった記憶を思い出し、ここはBLゲームの世界で自分は主人公を虐める言わば悪役令息だと思い出し、ストーリーを終わらせれば望み薄だが元の世界に戻れる可能性を感じ動き出す。しかし動くのが遅かったようで… 色々と無自覚な主人公が、最悪な悪役令息として(いるつもりで)ストーリーのエンディングを目指すも、気づくのが遅く、手遅れだったので思うようにストーリーが進まないお話。 R15は保険です。不定期更新。小説なんて書くの初めてな作者の行き当たりばったりなご都合主義ストーリーになりそうです。

新しい道を歩み始めた貴方へ

mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。 そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。 その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。 あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。 あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?

愛などもう求めない

白兪
BL
とある国の皇子、ヴェリテは長い長い夢を見た。夢ではヴェリテは偽物の皇子だと罪にかけられてしまう。情を交わした婚約者は真の皇子であるファクティスの側につき、兄は睨みつけてくる。そして、とうとう父親である皇帝は処刑を命じた。 「僕のことを1度でも愛してくれたことはありましたか?」 「お前のことを一度も息子だと思ったことはない。」 目が覚め、現実に戻ったヴェリテは安心するが、本当にただの夢だったのだろうか?もし予知夢だとしたら、今すぐここから逃げなくては。 本当に自分を愛してくれる人と生きたい。 ヴェリテの切実な願いが周りを変えていく。  ハッピーエンド大好きなので、絶対に主人公は幸せに終わらせたいです。 最後まで読んでいただけると嬉しいです。

【完結】婚約破棄したのに幼馴染の執着がちょっと尋常じゃなかった。

天城
BL
子供の頃、天使のように可愛かった第三王子のハロルド。しかし今は令嬢達に熱い視線を向けられる美青年に成長していた。 成績優秀、眉目秀麗、騎士団の演習では負けなしの完璧な王子の姿が今のハロルドの現実だった。 まだ少女のように可愛かったころに求婚され、婚約した幼馴染のギルバートに申し訳なくなったハロルドは、婚約破棄を決意する。 黒髪黒目の無口な幼馴染(攻め)×金髪青瞳美形第三王子(受け)。前後編の2話完結。番外編を不定期更新中。

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺

福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。 目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。 でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい… ……あれ…? …やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ… 前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。 1万2000字前後です。 攻めのキャラがブレるし若干変態です。 無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形) おまけ完結済み

悪役令息に転生したけど…俺…嫌われすぎ?

「ARIA」
BL
階段から落ちた衝撃であっけなく死んでしまった主人公はとある乙女ゲームの悪役令息に転生したが...主人公は乙女ゲームの家族から甘やかされて育ったというのを無視して存在を抹消されていた。 王道じゃないですけど王道です(何言ってんだ?)どちらかと言うとファンタジー寄り 更新頻度=適当

兄たちが溺愛するのは当たり前だと思ってました

不知火
BL
温かい家族に包まれた1人の男の子のお話 爵位などを使った設定がありますが、わたしの知識不足で実際とは異なった表現を使用している場合がございます。ご了承ください。追々、しっかり事実に沿った設定に変更していきたいと思います。

処理中です...