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Ⅰ.主食編
19.僕、我慢ができる竜です①
しおりを挟む性交。交接。情交。セックス。つまり、おしべとめしべ的な、あれ。
僕と、ヴァルが!?
「してない!そんなこと、してないよ!?」
そんなこと、するわけないでしょ!?だって、僕この前まで犬……じゃなくて、竜体だったんだよ?!
いやいや、待って。
えーっと、これまでの話から考察すると。
僕が、初めて、人型になった時……つまり、あの時にヴァルから黒い竜気をもらったから、僕は人型になれたってことで。
うーん、僕が人型になった時、……どうしたんだっけ。
なんか、ヴァルがものすごく美味しそうで、美味しいものにつられて、ぺろぺろして……何したんだっけ?
うーん………………………………………。
え?してないよね?
確かめるように、ヴァルを見れば、露骨に顔を顰められた。
「むしろ、動けねえ俺を襲ってきたのは、お前の方だろうが。
あの状況で、俺がどうこうできるわけがねぇ」
だよね。あの時のヴァル、とっても具合が悪そうだったもんね。
原因はわからないけど、死にかけっていうか。
………それを、襲ったのは。はい、僕です。たぶん。
正直記憶も朧気で、ちょっと定かじゃないんだけど。
大体さ、ヴァルはこの前まで僕のこと犬だと思ってたんだよ?そんなことするはずないじゃんね。
ヴァルに特殊な性癖があるなら、いざ知らずさ。
……………え?無いよね?
「お前、妙なこと考えてんな?」
「え?妙なことなんて、考えてないよ。
ただ、ヴァルのためなら、バター犬もやぶさかでは無いと言うか……」
僕も長生きだからね。色んな人がいるのは知ってるよ。
「は?…………ああ、クソっ。アホすぎて突っ込む気にもならねぇ」
「え?違うよー、ヴァル。バター犬は突っ込むんじゃなくて、主にはこうぺろぺろと――」
「その突っ込む、じゃねぇよ!!この!馬鹿!!」
ええー?じゃあどういう意味なの?
「はぁ……頭いてぇ」
「え。ヴァル、大丈夫?まだ具合悪いの?」
「主にお前のせいだっつーの。
あー……しかし、そうか。つまり、あのタイミングでお前が血を舐めて人にならなけりゃ、あながち……」
ヴァルは苦々しい顔で、頭を抱えてぶつぶつと呟いている。
え?やっぱりご所望ですか?
「ああ、なるほど。こっちのお口から、受け取ったのか」
テティは合点がいったとばかりに、僕の唇に人差し指を押し当てた。
むに、と下唇を押し下げられて、僕の口が薄く開く。
何いってるの。こっちもなにも、お口はここだけだよ。
「ルルドが、飲んだんだね。彼の精液を」
え?……あ。ああ……あー……あの、気失う前にごっくんした、あの甘くてぱちぱちして美味しいやつのこと?
えー……?へぇ、そうだったんだ。あれ、そうだったんだ……へぇ……なるほど。そういう……。ふーん……。
言われてみれば、段々思い出してきたような……無いような?
いやいや待って。僕が、ヴァルの精液を飲んだって?ホントに?
あれが、そうだったってこと?僕、ヴァルの精液飲んだの?
「噓だよね?信じられない……」
「………お前、あんなこと人にやっといて、信じるも信じないも――」
「精液があんなに甘くて美味しいものだったなんて…っ!!」
「っ!!!」
あんなに美味しいとか、知らなかった!
ヴァルも、びっくりしてる。
さてはこの表情……ヴァルも知らなかったんだね?
「美味しいと感じるのは、彼の精液に特別黒い竜気が多く含まれるからだろうね」
「え。それってつまり、ヴァルのが特別美味しいってこと?」
「まぁ、そうなるね」
「おいっ!!」
「あれなら僕、いくらでもいただけるよ!」
「馬鹿っ!お前は、何を――」
「まあ、彼の体液に黒い竜気が含まれているのだから、口でも竜気を交換できるけれど。
あまり効率が良い方法とは言えないな」
「………竜っていうのは、人の話を聞かねぇ奴らだってことが、良く分かった」
僕、ちゃんと聞いてるし。つまり、ヴァルの体液は全部美味しいって話でしょ。
「性交が最も効率よく、性質に関係なく竜気が与えられる方法だから。今後はそうした方がいい」
今後って?そうした方がいいって、何?
「え?えええ?ちょっと待って。
それって、ヴァルとセッ……しろってこと?
えええぇぇっっ!?」
「ルルドの身体は今、渇いたスポンジのようなものだからね。彼の澱みを効率よくどんどん吸収できるはずさ」
何その、今ならお得キャンペーン中!みたいな、言い方。いやいや、そういう問題じゃなくってね!?
「だから……さっきから、何を勝手なことを……俺は、」
「人の子よ。君にとってこそ、またとない僥倖じゃないか」
「……っ!」
ヴァルの言葉を遮って、テティが言う。
「え?何?どういうこと?」
「お前は、知らなくていい」
「ええー、ケチ!教えてよ!」
僕のお願いにヴァルは顔をそらしたまま、全く教えてくれる気配が無い。
僕が不満に頬を膨らませていると、テティが笑った。
「ルルドも全てを知れば、自ずと理解できるようになる」
ええ……それまで、お預けってこと?むう。
でも、ちょっと待って。
今はそれよりも、えー……ヴァルと、セ……ックスする、て話の方で。
えーっと、どうやって?
「……だって、僕……男、だよ?」
ちゃんと、ついてるよ。おしべ的な僕のぼくが。
「ね?ヴァル、そうだよね?」
「いや……俺に確かめんじゃねぇよ」
だって、ヴァル、何回も見てるでしょ。
「竜が人族でいう所の、男性体をしているというのは事実だけど。そもそも、竜に性別という概念はないよ」
へぇ。竜って性別も無いのか。
「いや、ううーんと……でも…僕は、やっぱり男だと思う」
「混ざり合った星の影響で、竜でありながら性別を認識しているのかもね。実に興味深い。
でも、ルルドが男であるかどうか、今そんなに問題かい?」
「え……だって、……まさか、ヴァルが実は女の子?」
「なんで、そうなるんだよ。んなわけがあるか」
だよね。どう見ても、男だよね。ちゃんと、ついてたもんね。立派なおしべが。
……はっ!
ということはつまり、あの時に僕がかじりついたのは、ヴァルのおしべってことだ。
おっきな甘いキャンディみたいで、美味しそうだったから、つい。
大丈夫かな?もげてない??
「ルルドは澱みを受け入れる側なんだから、彼が女性体では具合が悪いよ」
「……まあ、それは……なるほど?」
噛み合わない会話に、僕はただ一人、眉を顰める。
「ふーむ……つまり。ルルドは、異性での行為を前提としているんだね」
「へ?え……だって……」
だって、凸と凹がないと成り立たないじゃない。
僕とヴァルじゃ、凸と凸だよ。
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