上 下
18 / 238
Ⅰ.主食編

17.僕、腹ぺこ改め瀕死だったようです②

しおりを挟む



「……僕は、どうしてこんなにも自分のことが、わからないの?」

 竜は生れながらに、自分のことも、この世のことも、全てを理解しているものじゃないの?

「ああ。それには、色々と複雑な事情があるのだけど……。
 人の子に聞かせるにも憚られるが……まあ、いい。君は、ルルドに必要な存在のようだから」

 そうそう。ヴァルは僕にとって、とっても必要な存在だよ。無くてはならない、重要な、美味しい存在だ。

 力強く頷いて肯定する僕を、ヴァルは半眼で眺めながら言う。

「そもそも、こいつとあんた。結局は、どういう関係なんだ?竜に、親も子もねぇだろ」

 親も子もない?

「テティ、そうなの?」
「ああ、ルルドは、本当に何も知らないんだね」

 あ、はい。そのようです。全部、一から十まで教えてください。

「竜はね、竜気の結晶として発生して、竜気に還る。そういう存在だ。
 ただ、それだけのこの世の一部さ。交配しないし、子など成さない。そもそも生物という概念は当てはまらない。
 だから、親子なんて関係性は存在しないのさ」

 テティはそう言って、「でも、ルルドはちょっと特別だ」と続ける。

「ルルドは、私と、他の竜の長の竜気を分け与えて生れた特別な竜だから。
 だから、私はルルドにとって、親のような存在なのさ」
「他の竜の長……」

 つまり、僕にはあと二人……黄金竜の長と、赤銅竜の長の二人、親のような存在がいるということだ。

「でも……僕が生まれたとき、一人だったよ」

 温かなものを感じなくなって、誰の声も聞こえなくなって……僕の意識は、そんな中から始まっている。
 さっき、ヴァルが『は?親のような存在?今まで放置しといて、良く言うぜ』って言ってたけど……ごめんなさい、テティ。
 僕も、ヴァルが言っているようなこと、ちょっとだけ、思ったよ。

 それでも、あんまり寂しくなかったのは、やっぱり僕が竜だからなのかも。

「200年と少し前だったか……何しろ私たちは、長い時を過ごしているからね。時間は曖昧になるのだけど。
 つまり、ルルドが生まれた少し前に、迷い星が降ってきてね。ルルドの卵にぶつかったんだ。
 その衝撃で、ルルドは行方不明になってしまった」
「迷い星って……?」

 流れ星のこと?

「迷い星というのは、この世と違う世界から、迷い混んだ魂のことだ。
 世界と世界には隔たりがあって、通常は交流しない。決して混じり合わないのだけれど、稀に巡る過程で異界へと迷い込む魂があるんだ。それを迷い星と呼んでいる。
 運悪く、というべきか、運命、というべきか。200年前のある日、迷い星がルルドに直撃したのさ」

 何、そのミラクル。直撃って。どんな確率なの。

「もちろん皆で探したよ。けれど、探しても探しても見つけられなくて。
 見つからないはずだね。どうやらルルドは完全に迷い星と混ざってしまっているようだから、私たちの知っているルルドの気配とはまるで違う」

 つまり僕は、迷い星……迷い込んだ別の世界の魂とやらが混じった結果、迷子……迷竜?になってしまったってことらしい。

ルルドは本来、もっと私たちの竜気を注いでから孵化する予定だったんだよ。
 そうだなぁ。本来なら、今頃に孵化する予定だったのだけどね。
 混じり合った星の影響で、君の孵化は早まってしまったようだ」

 竜の言う『今頃』が、前後何年くらい誤差があるのかはわからないけど。
 いずれにしろ、つまり……。

「僕……200年も早く生まれちゃったんだ……」
「そのようだね。
 竜としては未熟な形で生まれ、かつ混じり合った星のせいで、自己の竜としての認識にも影響がでているようだね」
「つまり、こいつが妙に人臭いのは、その迷い星の影響ってことか……」

 ヴァルは一人、納得したように腕組した。

「私たち竜は、この人の子が言うように生まれた時からこうした成熟した人型をとっている。そして、さっきも言ったように自然と自らの竜気を吸収して存在しうる。そうと意識せずとも、ね。
 竜体でいるのは……卵の中と、この世に竜気となって還る間際だけだ」

 それって、つまり……。

「僕……未熟に生まれた挙句、生まれたときからずっと死にかけてたってこと?」
「まあ、そうなるね。もっと言えば、今も瀕死だ。竜気が薄くて、今にも実体を無くし竜気に還ってしまいそうだ」
「ええ……っ」

 それつまり、死ぬってこと?

「僕……どうしたらいいの?」

 死ぬ前に、まだまだ美味しいものたくさん食べたいんだけど。
 せめて、一度くらいお腹いっぱいになってから死にたいです!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

主人公の兄になったなんて知らない

さつき
BL
レインは知らない弟があるゲームの主人公だったという事を レインは知らないゲームでは自分が登場しなかった事を レインは知らない自分が神に愛されている事を 表紙イラストは マサキさんの「キミの世界メーカー」で作成してお借りしています⬇ https://picrew.me/image_maker/54346

転生先がハードモードで笑ってます。

夏里黒絵
BL
周りに劣等感を抱く春乃は事故に会いテンプレな転生を果たす。 目を開けると転生と言えばいかにも!な、剣と魔法の世界に飛ばされていた。とりあえず容姿を確認しようと鏡を見て絶句、丸々と肉ずいたその幼体。白豚と言われても否定できないほど醜い姿だった。それに横腹を始めとした全身が痛い、痣だらけなのだ。その痣を見て幼体の7年間の記憶が蘇ってきた。どうやら公爵家の横暴訳アリ白豚令息に転生したようだ。 人間として底辺なリンシャに強い精神的ショックを受け、春乃改めリンシャ アルマディカは引きこもりになってしまう。 しかしとあるきっかけで前世の思い出せていなかった記憶を思い出し、ここはBLゲームの世界で自分は主人公を虐める言わば悪役令息だと思い出し、ストーリーを終わらせれば望み薄だが元の世界に戻れる可能性を感じ動き出す。しかし動くのが遅かったようで… 色々と無自覚な主人公が、最悪な悪役令息として(いるつもりで)ストーリーのエンディングを目指すも、気づくのが遅く、手遅れだったので思うようにストーリーが進まないお話。 R15は保険です。不定期更新。小説なんて書くの初めてな作者の行き当たりばったりなご都合主義ストーリーになりそうです。

【完結】悪役令息の役目は終わりました

谷絵 ちぐり
BL
悪役令息の役目は終わりました。 断罪された令息のその後のお話。 ※全四話+後日談

新しい道を歩み始めた貴方へ

mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。 そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。 その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。 あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。 あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?

愛などもう求めない

白兪
BL
とある国の皇子、ヴェリテは長い長い夢を見た。夢ではヴェリテは偽物の皇子だと罪にかけられてしまう。情を交わした婚約者は真の皇子であるファクティスの側につき、兄は睨みつけてくる。そして、とうとう父親である皇帝は処刑を命じた。 「僕のことを1度でも愛してくれたことはありましたか?」 「お前のことを一度も息子だと思ったことはない。」 目が覚め、現実に戻ったヴェリテは安心するが、本当にただの夢だったのだろうか?もし予知夢だとしたら、今すぐここから逃げなくては。 本当に自分を愛してくれる人と生きたい。 ヴェリテの切実な願いが周りを変えていく。  ハッピーエンド大好きなので、絶対に主人公は幸せに終わらせたいです。 最後まで読んでいただけると嬉しいです。

【完結】婚約破棄したのに幼馴染の執着がちょっと尋常じゃなかった。

天城
BL
子供の頃、天使のように可愛かった第三王子のハロルド。しかし今は令嬢達に熱い視線を向けられる美青年に成長していた。 成績優秀、眉目秀麗、騎士団の演習では負けなしの完璧な王子の姿が今のハロルドの現実だった。 まだ少女のように可愛かったころに求婚され、婚約した幼馴染のギルバートに申し訳なくなったハロルドは、婚約破棄を決意する。 黒髪黒目の無口な幼馴染(攻め)×金髪青瞳美形第三王子(受け)。前後編の2話完結。番外編を不定期更新中。

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺

福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。 目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。 でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい… ……あれ…? …やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ… 前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。 1万2000字前後です。 攻めのキャラがブレるし若干変態です。 無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形) おまけ完結済み

悪役令息に転生したけど…俺…嫌われすぎ?

「ARIA」
BL
階段から落ちた衝撃であっけなく死んでしまった主人公はとある乙女ゲームの悪役令息に転生したが...主人公は乙女ゲームの家族から甘やかされて育ったというのを無視して存在を抹消されていた。 王道じゃないですけど王道です(何言ってんだ?)どちらかと言うとファンタジー寄り 更新頻度=適当

処理中です...