上 下
11 / 238
Ⅰ.主食編

10.僕、これでもグルメです③

しおりを挟む


 きゅうぐるるるるうううぅぅぅ……

 うん。お腹の音、もう少し空気読もうか。いい加減、学ぼうか。

「いや、それを俺が聞いてんだよ。
 でも……つまり。神官が信じて疑わない、『竜は全てを知っている』てーのは、少なくとも嘘っつーことだな」
「ああ、うん。そうみたいだね!」

 僕の力強い返答に、ヴァルは何故か、眉を顰めた。
 何?その残念なものを見るような目は。

「はぁ……自分の名前をルゥなんて、地面に字を書いてみたり、犬にしては異常に賢いな、と思ってたが……」

 あ。これはわかるよ。
 つまり、「竜にしては異常に馬鹿だな」て、そういう意味でしょ。
 さっき、駄竜とか言ってたしね。

 きゅうぐるるるるうううぅぅぅ……

「ったく!さっきから、うるせえなぁ!お前の腹の虫!!」
「え、ごめん。でも……」

 ぐるるるうきゅうううぅぅぅ……

「自分でも止められなくて」

 腹の虫のしつけ方があるなら、是非、教えて下さい。

 ヴァルは、呆れた表情で盛大に溜息をつくと、魔法の言葉を口にした。

「とりあえず、朝飯にするか」
「っ!!」

 やった!ヴァルのご飯だ!

 僕は喜び勇んで前足からベッドを降りようとして。
 前足じゃないことに気づいたときには遅くて、裸でそのまま床に前のめりに崩れ落ちた。

 ヴァルが、「やっぱり、鈍くせぇ」なんて、呆れていたのは、聞こえなかったことにする。

 それでも、自分の持っていた予備の服を貸してくれたヴァルは、やっぱり優しい。

 まぁ、白シャツががばがばで……。
 ヴァル、意外とがっちりしてんね。僕が、ひょろひょろみたいじゃない。

 ズボンはかなり大きかったから、腰を紐で縛って裾を2回折り曲げた。
 何これ。ヴァルの足、長すぎなんじゃない?

 決して僕が短足なわけじゃ無いから!!
 ………え?違うよね?



 *



 朝食は、スープといつものかちこちのパンだった。

 スープの具は干し肉と、乾燥きのこだけ。味付けは、塩のみ。シンプルながら、調和のとれたその味は、そこら辺の食堂に確実に勝る味だ。

 スープをスプーンですくって、もぐもぐと咀嚼し、そして、こくり、と飲み干す。

「ほあー……美味しいよぉ」

 やっぱり、ヴァルのご飯はとっても美味しい。安定安心の美味しさだ。

 パンを手でちぎって、スープに浸し口に運ぶ。じゅわり、とパンに染みこんだスープの旨味と、パンの香ばしさが相まって、最高に美味しい。かちこちのパンも、まるで初めからこのために作られた完璧食材のようだ。

 ああ、手があるって、道具が使えるって素晴らしい!スプーン、最高。フォーク、万歳。
 むふふ。ああ、美味しい。ヴァルのご飯が一番美味しい。いくらでも食べられる気がする。

「あー……やっぱり……お前は、ルゥなんだな」
「へ……?」

 声に反応して目線を上げれば、千切った硬いパンを片手にヴァルが口を開けたままで、ぼうっと僕を見つめていた。

「飯を食べてる姿が、そのまんまだ」
「ええ……」

 ヴァル、ちょっと待って。
 聞き捨てならないんですけど。

 僕、手ができて道具も使ってるのに!犬食いと同じなの?!
 それがホントなら、由々しき事態だよ!!

「口の周りに食べカスつけてんのも、そのまんまだな」

 くつくつと笑いながら、ヴァルが言う。

「うっ……だって、ヴァルのご飯が美味しいから」

 そうだよ。美味しいごはんが悪い。つまり、ヴァルが悪い。

 僕はもう裸じゃないし、服も着ててこんなに人っぽいのに。犬型のときと……いや、竜体と一緒だなんて、そんなことあるはずない。

 僕はむくれて、ちょっと恥ずかしくて赤くなりながら、口元を拭った。

 だけど、ヴァルの僕を見る目が……ちょっと、あのいつもの優しい目つきになったから。まあ、本当にほんのちょっとだけど。

 だから、その評価も僕は甘んじて受け入れることにする。

「ねぇ……ヴァルは、ここに何をしに来たの?」

 僕は、聞きたくてたまらなかったことをやっと口にした。

 どうしてあんなにところに、傷だらけで、一人で倒れてたんだろう。

 僕の問いに、ヴァルは特に表情を変えず口の中のスープを飲み込むと淡々と答える。

「この先の湖に、クラーケンっていう化け物が出る。竜気に当てられて狂暴化した生物なんだが、今回はその調査と………」
「調査と?」
「いや……その調査がまあ、今回の本来の目的だった」
「だった?」
「ああ。調査しようとして調べる間もなく……色々あってな」

 言って、ヴァルは苛立たし気にがぶり、とパンをかじった。

 つまり、昨日のヴァルの怪我や体調不良は、そのクラーケンによるものなのだろうか。
 でも……竜気にあてられる、てなんだろう。

「普通の生物も、竜石を飲み込んだり、濃い竜気に飲まれると、巨大化して害をなすことがあるんだよ」

 僕の疑問を察して、ヴァルが説明してくれる。
 へぇ。そうなんだ。やっぱりヴァルは、物知りだな。

「ヴァルは、一人で来たの?」
「いや。俺と、あと4人で来たが……他の連中は、先に帰ったよ」

 え?それって……。
 まさか、怪我をしたヴァルを置き去りにしたってこと?

「まあ、またいつものように、有ること無いこと報告してんだろうな。このまま戻っても、どうせ、俺一人が責任を問われるのがオチだ」
「え?何それ?なんで、逃げた奴らが何も言われないで、ヴァルが責められるの?」
「あちらには、200年前の予言を体現した、ありがたーい竜の神子様がいるからなぁ。でもって、他の3人もその神子様が直々に選んだ、竜騎士候補だ。
 俺の言うことなんて、誰も聞きやしねぇし、信じねぇ」

 200年前の予言。竜の神子。竜騎士。何それ。

 ヴァルの言っていることはほとんどわからないけど、僕はヴァルを探している途中で遭遇した4人組を思い出した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

主人公の兄になったなんて知らない

さつき
BL
レインは知らない弟があるゲームの主人公だったという事を レインは知らないゲームでは自分が登場しなかった事を レインは知らない自分が神に愛されている事を 表紙イラストは マサキさんの「キミの世界メーカー」で作成してお借りしています⬇ https://picrew.me/image_maker/54346

転生先がハードモードで笑ってます。

夏里黒絵
BL
周りに劣等感を抱く春乃は事故に会いテンプレな転生を果たす。 目を開けると転生と言えばいかにも!な、剣と魔法の世界に飛ばされていた。とりあえず容姿を確認しようと鏡を見て絶句、丸々と肉ずいたその幼体。白豚と言われても否定できないほど醜い姿だった。それに横腹を始めとした全身が痛い、痣だらけなのだ。その痣を見て幼体の7年間の記憶が蘇ってきた。どうやら公爵家の横暴訳アリ白豚令息に転生したようだ。 人間として底辺なリンシャに強い精神的ショックを受け、春乃改めリンシャ アルマディカは引きこもりになってしまう。 しかしとあるきっかけで前世の思い出せていなかった記憶を思い出し、ここはBLゲームの世界で自分は主人公を虐める言わば悪役令息だと思い出し、ストーリーを終わらせれば望み薄だが元の世界に戻れる可能性を感じ動き出す。しかし動くのが遅かったようで… 色々と無自覚な主人公が、最悪な悪役令息として(いるつもりで)ストーリーのエンディングを目指すも、気づくのが遅く、手遅れだったので思うようにストーリーが進まないお話。 R15は保険です。不定期更新。小説なんて書くの初めてな作者の行き当たりばったりなご都合主義ストーリーになりそうです。

新しい道を歩み始めた貴方へ

mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。 そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。 その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。 あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。 あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?

愛などもう求めない

白兪
BL
とある国の皇子、ヴェリテは長い長い夢を見た。夢ではヴェリテは偽物の皇子だと罪にかけられてしまう。情を交わした婚約者は真の皇子であるファクティスの側につき、兄は睨みつけてくる。そして、とうとう父親である皇帝は処刑を命じた。 「僕のことを1度でも愛してくれたことはありましたか?」 「お前のことを一度も息子だと思ったことはない。」 目が覚め、現実に戻ったヴェリテは安心するが、本当にただの夢だったのだろうか?もし予知夢だとしたら、今すぐここから逃げなくては。 本当に自分を愛してくれる人と生きたい。 ヴェリテの切実な願いが周りを変えていく。  ハッピーエンド大好きなので、絶対に主人公は幸せに終わらせたいです。 最後まで読んでいただけると嬉しいです。

【完結】婚約破棄したのに幼馴染の執着がちょっと尋常じゃなかった。

天城
BL
子供の頃、天使のように可愛かった第三王子のハロルド。しかし今は令嬢達に熱い視線を向けられる美青年に成長していた。 成績優秀、眉目秀麗、騎士団の演習では負けなしの完璧な王子の姿が今のハロルドの現実だった。 まだ少女のように可愛かったころに求婚され、婚約した幼馴染のギルバートに申し訳なくなったハロルドは、婚約破棄を決意する。 黒髪黒目の無口な幼馴染(攻め)×金髪青瞳美形第三王子(受け)。前後編の2話完結。番外編を不定期更新中。

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺

福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。 目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。 でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい… ……あれ…? …やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ… 前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。 1万2000字前後です。 攻めのキャラがブレるし若干変態です。 無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形) おまけ完結済み

悪役令息に転生したけど…俺…嫌われすぎ?

「ARIA」
BL
階段から落ちた衝撃であっけなく死んでしまった主人公はとある乙女ゲームの悪役令息に転生したが...主人公は乙女ゲームの家族から甘やかされて育ったというのを無視して存在を抹消されていた。 王道じゃないですけど王道です(何言ってんだ?)どちらかと言うとファンタジー寄り 更新頻度=適当

兄たちが溺愛するのは当たり前だと思ってました

不知火
BL
温かい家族に包まれた1人の男の子のお話 爵位などを使った設定がありますが、わたしの知識不足で実際とは異なった表現を使用している場合がございます。ご了承ください。追々、しっかり事実に沿った設定に変更していきたいと思います。

処理中です...