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5.そして『英雄』になる編

5-9.これからも二人で① (※)

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「ねえ、アレクはこれからどうしたいの?」

 俺たちは、祝賀会が終わると、王宮に宿泊を進める国王の好意を、丁重に断った。
 あんなところで寝れる気がしない。

 俺は、初めてセフィリオの移動魔術というものを体感した。

 どうやら眠っている間に、経験したことがあるらしいが覚えていないので体感したのははじめてだ。

 普通は、自分以外の他者と共に転移することは出来ないとレイチェルさんは言っていたが。どうやらセフィリオがたまに俺の動きを封じるのに使う、魔力で直接他者に干渉する、という技術自体が、他の魔術師には出来ないらしい。

 それを応用すれば、共に転移できる、と平然と言うセフィリオに唖然としていた。

 転移自体は、乗り物に乗ったような、ふわっとした感じも、酔った感じも全くなく、レイチェルさんが以前表現していたように、ぱっと屋敷へと到着した。

 本当にぱっとだ。移動魔術すごい。

 感動する俺に、「言うほど大したことじゃあないよ」というセフィリオはそれでも少し自慢げで、特別に可愛かった。


 早々に、正装を脱ぐと、屋根裏部屋へと引っ込んだ。体には、セフィリオが浄化魔術をかけてくれて、固められていた髪もすっきりだ。

 二人でベッドに座りなりながら、セフィリオが俺に尋ねてきた。

 これから、俺がどうしたいか。とりあえず、セフィリオを思いっきり余すとこなく、堪能したい。
 けど、これからって、そうじゃないよな。いや、分かってるけどな。それは今じゃないと駄目なのだろうか。
 はっきり言って、俺は一刻も早くセフィリオを確かめたい。

 そう考えていると、セフィリオが言う。

「僕は、アレクのこと、もっと色々知りたい。
 二人で、これからどうしていくのか、想像したい。
 想像しながら、アレクに抱かれたい」

 そんなこと、言われてしまうと。

 俺はセフィリオを抱き寄せ、髪をすくい、キスをする。

 くすぐったそうに、セフィリオが笑って、吐息がかかり俺もくすぐったくて、笑ってしまう。

 ああ、今日も星空が綺麗だ。
 藍色の夜空には、無数の金の粒がちらちらと瞬いて、降り注ぐように部屋を包んでいる。しんとした空気が部屋に漂い、俺とセフィリオの呼吸も、鼓動さえも聞こえてきそうだ。

 一息吐いて、俺は考えていたことを、セフィリオに話す。

「俺は……とりあえず【スタンピード】が終息して、色々と落ち着いたら。
 一度故郷に帰ってみようかと思ってる。
 そして、国中を回ってこれまで、見過ごしてきた景色や、食べ物や、そこに住んでる人と、交流してみたい。
 出来れば、セフィリオと一緒に」

 俺は、実は故郷を離れてから、一度もあの地を踏んでいない。
 区切りが着いたら、セフィリオと一緒なら、行ける気がしている。

 これまで、俺は多くの場所を巡ってきて、それなりに過ごしていたが、北の大地に行ったときに思ったのだ。
 一人で見た景色も、場所も、俺は簡単に忘れてしまう。
 でも、そこにセフィリオがいれば、きっと忘れないと、あの景色を見つめて佇む彼を見て思った。


「うん。僕も、一緒に行きたい」

 そう、セフィリオは静かに答えてくれる。

「俺は、セフィリオの研究は手伝えないけどな」

「ふふ。僕のこと、こんなにお世話してくれていて、僕をこんなに自由にさせて、まだそんなこと言うの?」

「あのくらい大したこと無い」

「甘やかし過ぎだよ」

「本当は、もっと世話したい。甘やかしたい」

「それじゃあ僕、自分では一歩も動かなくて良くなってしまうよ。それなのに、何でも出来てしまう」

 そう、面白そうに目を細めて笑った。

「セフィリオ一人、抱えるくらいは丈夫なつもりだ」

 俺もそう答えて、微笑んだ。

「アレクが、変わらずそこにいてくれるから、僕は安心して間違わずに自由でいることが出来るんだよ」

「俺は、セフィリオが受け入れてくれるから、ここに在ることができる」

 その顔をまじまじと見つめていたセフィリオが、そっと俺の目元に手を添える。

「僕、アレクの瞳が大好きなんだ。
 何だか懐かしくて、澄んでいて、力強くて…北の大地に行ったときに、あの森で…この翠と同じ色だと、そう思った」

 俺の瞳を覗きこむセフィリオの、その瞳には、やはり煌めく星がきらきらと浮かび、深い夜空が優しく俺を包んでくれるようだった。

 俺にやんわりと触れるセフィリオの手をとると、その手のひらに口づけを落とす。

「俺は…ずっと、お前の瞳に囚われてるよ。あの日から…ずっとだ。
 お前に魅了されて、俺はここまでやってきた。
 これからも、ずっと…一緒にいてくれるんだろ?」

 俺は、セフィリオの頬に触れて。藍色の星空の中に映る、自分を確認するように見つめながら言った。

「アレクの、そういうところ、本当にずるい。そんな眼で言われたら…。
 僕…アレクのこと、ずっと縛り付けてしまいたくなる」

「そんなの、ずっと縛り付けてもらって構わない。それが、俺の願いなのに」

あのかつては激しく心を乱された、首筋の白印に触れて。今はもう、そんなことはどうでもいいほどに、セフィリオは自分のものなのだと確信している自分に驚きながら、それでもそこに印をつけなくては気が済まなかった。

「んっ…あ、…アレク。今日は、たくさん…して。僕にたくさん触って……一番近くに、いて」

「セフィ…お前が、どこへ行っても、どうなっても、そのままでお前が愛おしくて仕方ないよ。
 俺は、ずっとお前のものだよ」

 そう、俺がいうとセフィリオは甘く艶やかに微笑んで、俺に深く口づけた。
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