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4.厄災編
4-10.北の大地をあとにする
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「この、北の大地は、様々な力の流れ着く場所でな。
君たちが、魔素と呼ぶ力も、その一つだろう。
私たち、北の守り人は、そういった様々な力の流れを常に感じて、時の中に身を委ねてきた」
朝食を食べると、族長が、俺たちに話してくれる。
昨夜の、レイチェルさんとのマギトークで、触れられた話題のようだった。
「【厄災】と呼ばれるものは、数百年の時を経て、この北の大地から繰り返し起こる、均衡を保つためには必要な、力の発露なのだよ。
止めることは決して出来ないし、止めることは世界の崩壊を意味するだろう」
その説明は、俺にはすっと理解できた。
俺の感じる【スタンピード】の知覚は、禍々しくどす黒いものではなく、他の力の変化と同様の、悪意のない力の波として感じられているからだ。
「おそらく、これまでは、【厄災】が広がり、国を覆ってから認知されていたから、発生地を特定することなど出来なかったのだと思う」
セフィリオが、族長の言葉を聞いて、続けた。
「アレクセイ、君の、そのソフィアの護符にはどんな術が、込められているかわかるかね」
族長が俺の方を見て、そう尋ねる。
「このピアスは、俺のセフィリオに対する想いに呼応して、その能力を強化してくれているように思う。知覚も、能力も、その思いの強さや深さに応じて、反応しているのを感じる」
俺は答える。
俺の知覚が鋭敏になったのも、この身体的な能力が向上しているのも、精神的には何者にも屈っせず強くあれるのも、すべては、セフィリオを想っているからだ。
「マギは、君たちにはとても、不確かな力のように思うかもしれないが。
みえる私たちには、確かなものとして、その想いや言葉の力が理解できる。
セフィリオが、【厄災】へと向かい、『加護』を受けし方が、その護符を持つということは、とても数奇な巡り合わせだと、私には感じられる。
ソフィアには、みえていたのだろうか。
あの娘は、とりわけ先見の、その流れを読む力に優れていたからなあ」
そう言われてしまうと、これまでの俺の苦しみや、選択は、その想いはどうなるのだろうか。
セフィリオのこれまでの苦悩や努力は、そこに込められた想いは、何だったというのだろうか。
まるで、決まっていた事のように、語られるのは不快だった。
その俺の想いを察してか、族長はやはり穏やかに言う。
「マギの先見は、未来を決めるような類のものではない。
選んできたのは、そして選ぶのは君たちだ。
これからの君たちの想いは、きっと良いものを運んでくるだろう」
そして、ほほほ、と笑った。
特に、この集落のことを秘密にしてほしいというようなことは言われることなく、確認されることもなく、けれど、それは違えない約束として確かにそこに存在した。
俺たちは、魔素計を予定通りに設置して、族長や、その奥さん、その他の北の守り人と別れを交わした。
特にセフィリオは祖父母との別れを惜しんで、互いに自然と抱擁を交わして、それを見守るレイチェルさんは噎び泣き、それを俺はなだめながら、帰路に着いた。
君たちが、魔素と呼ぶ力も、その一つだろう。
私たち、北の守り人は、そういった様々な力の流れを常に感じて、時の中に身を委ねてきた」
朝食を食べると、族長が、俺たちに話してくれる。
昨夜の、レイチェルさんとのマギトークで、触れられた話題のようだった。
「【厄災】と呼ばれるものは、数百年の時を経て、この北の大地から繰り返し起こる、均衡を保つためには必要な、力の発露なのだよ。
止めることは決して出来ないし、止めることは世界の崩壊を意味するだろう」
その説明は、俺にはすっと理解できた。
俺の感じる【スタンピード】の知覚は、禍々しくどす黒いものではなく、他の力の変化と同様の、悪意のない力の波として感じられているからだ。
「おそらく、これまでは、【厄災】が広がり、国を覆ってから認知されていたから、発生地を特定することなど出来なかったのだと思う」
セフィリオが、族長の言葉を聞いて、続けた。
「アレクセイ、君の、そのソフィアの護符にはどんな術が、込められているかわかるかね」
族長が俺の方を見て、そう尋ねる。
「このピアスは、俺のセフィリオに対する想いに呼応して、その能力を強化してくれているように思う。知覚も、能力も、その思いの強さや深さに応じて、反応しているのを感じる」
俺は答える。
俺の知覚が鋭敏になったのも、この身体的な能力が向上しているのも、精神的には何者にも屈っせず強くあれるのも、すべては、セフィリオを想っているからだ。
「マギは、君たちにはとても、不確かな力のように思うかもしれないが。
みえる私たちには、確かなものとして、その想いや言葉の力が理解できる。
セフィリオが、【厄災】へと向かい、『加護』を受けし方が、その護符を持つということは、とても数奇な巡り合わせだと、私には感じられる。
ソフィアには、みえていたのだろうか。
あの娘は、とりわけ先見の、その流れを読む力に優れていたからなあ」
そう言われてしまうと、これまでの俺の苦しみや、選択は、その想いはどうなるのだろうか。
セフィリオのこれまでの苦悩や努力は、そこに込められた想いは、何だったというのだろうか。
まるで、決まっていた事のように、語られるのは不快だった。
その俺の想いを察してか、族長はやはり穏やかに言う。
「マギの先見は、未来を決めるような類のものではない。
選んできたのは、そして選ぶのは君たちだ。
これからの君たちの想いは、きっと良いものを運んでくるだろう」
そして、ほほほ、と笑った。
特に、この集落のことを秘密にしてほしいというようなことは言われることなく、確認されることもなく、けれど、それは違えない約束として確かにそこに存在した。
俺たちは、魔素計を予定通りに設置して、族長や、その奥さん、その他の北の守り人と別れを交わした。
特にセフィリオは祖父母との別れを惜しんで、互いに自然と抱擁を交わして、それを見守るレイチェルさんは噎び泣き、それを俺はなだめながら、帰路に着いた。
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