上 下
68 / 84
4.厄災編

4-10.北の大地をあとにする

しおりを挟む
「この、北の大地は、様々な力の流れ着く場所でな。
 君たちが、魔素と呼ぶ力も、その一つだろう。
 私たち、北の守り人は、そういった様々な力の流れを常に感じて、時の中に身を委ねてきた」

 朝食を食べると、族長が、俺たちに話してくれる。

 昨夜の、レイチェルさんとのマギトークで、触れられた話題のようだった。

「【厄災】と呼ばれるものは、数百年の時を経て、この北の大地から繰り返し起こる、均衡を保つためには必要な、力の発露なのだよ。
 止めることは決して出来ないし、止めることは世界の崩壊を意味するだろう」

 その説明は、俺にはすっと理解できた。

 俺の感じる【スタンピード】の知覚は、禍々しくどす黒いものではなく、他の力の変化と同様の、悪意のない力の波として感じられているからだ。

「おそらく、これまでは、【厄災】が広がり、国を覆ってから認知されていたから、発生地を特定することなど出来なかったのだと思う」

 セフィリオが、族長の言葉を聞いて、続けた。


「アレクセイ、君の、そのソフィアの護符にはどんな術が、込められているかわかるかね」

 族長が俺の方を見て、そう尋ねる。

「このピアスは、俺のセフィリオに対する想いに呼応して、その能力を強化してくれているように思う。知覚も、能力も、その思いの強さや深さに応じて、反応しているのを感じる」

 俺は答える。

 俺の知覚が鋭敏になったのも、この身体的な能力が向上しているのも、精神的には何者にも屈っせず強くあれるのも、すべては、セフィリオを想っているからだ。


「マギは、君たちにはとても、不確かな力のように思うかもしれないが。
 みえる私たちには、確かなものとして、その想いや言葉の力が理解できる。
 セフィリオが、【厄災】へと向かい、『加護』を受けし方が、その護符を持つということは、とても数奇な巡り合わせだと、私には感じられる。
 ソフィアには、みえていたのだろうか。
 あの娘は、とりわけ先見の、その流れを読む力に優れていたからなあ」


 そう言われてしまうと、これまでの俺の苦しみや、選択は、その想いはどうなるのだろうか。

 セフィリオのこれまでの苦悩や努力は、そこに込められた想いは、何だったというのだろうか。



 まるで、決まっていた事のように、語られるのは不快だった。

 その俺の想いを察してか、族長はやはり穏やかに言う。


「マギの先見は、未来を決めるような類のものではない。
 選んできたのは、そして選ぶのは君たちだ。
 これからの君たちの想いは、きっと良いものを運んでくるだろう」

 そして、ほほほ、と笑った。


 特に、この集落のことを秘密にしてほしいというようなことは言われることなく、確認されることもなく、けれど、それは違えない約束として確かにそこに存在した。


 俺たちは、魔素計を予定通りに設置して、族長や、その奥さん、その他の北の守り人と別れを交わした。

 特にセフィリオは祖父母との別れを惜しんで、互いに自然と抱擁を交わして、それを見守るレイチェルさんは噎び泣き、それを俺はなだめながら、帰路に着いた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

勇者の股間触ったらエライことになった

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
勇者さんが町にやってきた。 町の人は道の両脇で壁を作って、通り過ぎる勇者さんに手を振っていた。 オレは何となく勇者さんの股間を触ってみたんだけど、なんかヤバイことになっちゃったみたい。

異世界転移したら豊穣の神でした ~イケメン王子たちが僕の夫の座を奪い合っています~

奈織
BL
勉強も運動もまるでダメなポンコツの僕が階段で足を滑らせると、そこは異世界でした。 どうやら僕は数十年に一度降臨する豊穣の神様らしくて、僕が幸せだと恵みの雨が降るらしい。 しかも豊穣神は男でも妊娠できて、生まれた子が次代の王になるってマジですか…? 才色兼備な3人の王子様が僕の夫候補らしい。 あの手この手でアプローチされても、ポンコツの僕が誰かを選ぶなんて出来ないです…。 そんな呑気で天然な豊穣神(受け)と、色々な事情を抱えながら豊穣神の夫になりたい3人の王子様(攻め)の物語。 ハーレムものです。

転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!

音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに! え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!! 調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。

モフモフになった魔術師はエリート騎士の愛に困惑中

risashy
BL
魔術師団の落ちこぼれ魔術師、ローランド。 任務中にひょんなことからモフモフに変幻し、人間に戻れなくなってしまう。そんなところを騎士団の有望株アルヴィンに拾われ、命拾いしていた。 快適なペット生活を満喫する中、実はアルヴィンが自分を好きだと知る。 アルヴィンから語られる自分への愛に、ローランドは戸惑うものの——? 24000字程度の短編です。 ※BL(ボーイズラブ)作品です。 この作品は小説家になろうさんでも公開します。

【完結済】(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。

キノア9g
BL
完結済。騎士エリオット視点を含め全10話(エリオット視点2話と主人公視点8話構成) エロなし。騎士×妖精 ※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。 気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。 木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。 色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。 ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。 捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。 彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。 少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──? いいねありがとうございます!励みになります。

魔王討伐後に勇者の子を身篭ったので、逃げたけど結局勇者に捕まった。

柴傘
BL
勇者パーティーに属していた魔術師が勇者との子を身篭ったので逃走を図り失敗に終わるお話。 頭よわよわハッピーエンド、執着溺愛勇者×気弱臆病魔術師。 誰もが妊娠できる世界、勇者パーティーは皆仲良し。 さくっと読める短編です。

処理中です...