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4.厄災編

4-5.セフィリオの憂慮 ※

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俺は、北の大地についてのセフィリオの気持ちについて、自分からは聞かないことにした。
 いつもは、聞くことが怖くて、聞かないのだが。もしくは、吐き出す方が良いと思って、話させる。

 俺には、セフィリオが話す時期を考えていることに確信があって、いつか自ら話してくれることを信じることが出来た。

 10日の間に、中央ギルドの【スタンピード】担当職員や、コンラートさんと俺たちが不在の際の体制について協議し、準備を進めた。
 中央ギルドでの作業中は集中しているのか、普段とあまり変わった様子は無かったが、屋敷に帰ると彼には珍しく、ぼう、としてぼんやり何かを考えていることが多かった。

 魔素計の設置や北の大地に関する調査に必要なものは俺には分からないので、俺は旅に必要な身の回りのものを準備をして、しばらく空けることになる屋敷についての整理や手配をした。


 早いもので出発が明後日に迫った夜。
 一通りの準備が終わり、出発の前日は中央ギルドでの作業も休みをもらっている。
 明日は最終的な確認をして、明後日に備えるだけだ。
 明後日の朝にレイチェルさんが移動魔術でこちらへ来てくれることになっていて、エミール伯爵家の手配してくれた馬車で北の大地へ発つ予定だ。

 夕食で食材も粗方使いきって、キッチンと部屋の片付けを終える。セフィリオは先に屋根裏部屋に下がっており、俺も少し早めであるが寝ることにした。

 北の大地に行くことが決まってからというもの、セフィリオは夜にうなされることが何度かあって、本人は覚えていないようだが、それが気になって夜の鍛錬は休んでいる。


 俺が部屋に入ると、セフィリオはもうベッドに入っているが、起きていたようで、身体を起こしてこちらを見た。

「起きてたのか」

 俺が言ってベッドへ上がると、セフィリオが無言で抱き着いてきた。

 ぎゅうぎゅうと、その腕が俺の身体を締め付けて、肩口に顔を強く押しつける。

 俺は、セフィリオの背に手を回し、何も言わず抱きしめ返す。

 セフィリオが、何か不安かそのような類の強い感情に苛まれて、それと戦っていることは、ここしばらくの様子で分かっていた。
 俺に、聞きだして欲しいような、欲しくないような、そんな視線も感じながら、俺はそれを無視していた。
 俺が聞きだすことは、セフィリオの本意ではないような気がして、一人で耐える彼を傍で見ていた。

 俺は、酷いやつなのかもしれない。

「セフィリオどうした?」

 出来るだけ、優しい口調で尋ねる。
 返事は、ない。

 しばらく静寂があって、セフィリオが何度か身動ぎ、けれど何も言わない。

「セフィ、キスしていい?」

 そう言って、俺はセフィリオの身体を少し離すと、顎をすくって唇を重ねた。
 重ねた唇は冷たくて、震えていて、それが俺をひどく切なくさせる。
 自分の体温で温めるように何度も繰り返して、段々と深く混じり合うように求める。
 絡まる舌が心地よくて、何度も追いかけて、唾液が混ざりあって、俺の熱が広がって、少しはセフィリオも温まってくれたらいいと思う。

「あ、…ふっ…あ、…アレクっ」

 可愛くて、愛しくて。
 抱き締めた手で背中をさすり、頬に口づけて、こめかみに、額に何度も唇で触れる。

 ぽろぽろと、藍色の瞳から涙があふれて、きらきらと星々が一緒にこぼれ落ちていくようだ。

「僕、…僕はっ……。」

 湿った声は、何かを絞り出すように、震えていて。そこから言葉が繋がらない。
 俺はたくさん、口づけを落としながら言う。

「セフィリオの好きにしていい」

 何を恐れているのか。何が不安なのか。
 話せないならそれでもいい。

「何も変わらないよ」
「んん…ふぅ、……あ、アレク…あ…はっ」
「思うように、していいんだ」

 俺の想いは何も変わらない。
 左の首筋に顔を寄せ、そこにある白い華に甘く噛みつき、舌を這わす。

「あ、ああ、…ん、…アレク、アレク」
「セフィ、好きだよ。大好きだ」

 首筋にいくつも印を重ねてつけて、膝の上に強く抱き寄せる。
 くっついたところから、少しでも俺の想いが伝わればいいのに。

「…あ、アレク…ぼく、…あ、あっ…ん…」
「ずっと、セフィと一緒にいる」

 もう、離れるなんて考えられない。
 背を撫で、腰をさすって、ぴったりと身体が触れ合うように。

「セフィ、愛してる」

 他のものがどうでも良くなるほど。

 星空の瞳がこちらを見ている。俺の翠色の瞳を見つめている。
 俺の頭を抱き込んで、ぎゅっと身を寄せると、震える声でセフィリオがいった。

「…アレク、…ぼくを、…めちゃくちゃに、してっ…」

 やっぱり、可愛くて、愛しくて。そして、哀しい。
 その瞳に飲まれるように、もう一度深く口づけた。




 セフィリオの身体は、体幹には熱がこもっているのに、指先はとても冷たかった。
 とても性急に強く求められて、早々に浄化魔法を自分でかけて、早くもっと、と欲しがる。

 胸の突起に吸い付いて、舌で舐めて弾くように繰り返し刺激すると、身体はびくびく、と反応する。
 いつもより、強く腰を抱き、空いた手で全身を撫でていく。

「あ、もう…アレク、…もっと…ぁん、もっと」

 酷く喉が渇いたような焦燥感や強い不安がセフィリオの身体に充満していて、それが強い衝動となって、満たされたくて、欲っしているのだと、分かっているからこそ。
 俺は、いつもより、ずっと、もっと丁寧に、けれど強くセフィリオを愛撫する。

 口づけを深く舌を絡め、飲み込まれるほどに口内を蹂躙し、全身を撫でる手も傷にならない強さで引っ掻いていく。
 胸の突起を噛み、食むようにそれを繰り返し、反対の粒をぐり、と強く圧迫する。

 そのたびに、セフィリオは高い声をあげて、いつもよりも激しく喘いだ。
 その声も、姿も、扇情的で、俺の欲望を激しく揺さぶる。

「ああっ…アレク、もう…まてない、…おねがいっ、はやく…ああっ!」

 ひときわ強く首筋に噛みついて、その歯型を確かめるように舐めて、強く尻を掴む。

 すがる様に懇願され、すでにてらてらと蜜を垂らす彼の中心を俺の腹にこすりつけるように腰を揺すられて、それでも俺はその口に自分の唇で蓋をして、深く強く口内を貪る。

「好きだ」

 口許で囁き、繰り返し、何度も口づける。

 香油を垂らして、後ろの蕾を撫でると、その腕を掴むようにセフィリオの手が伸びてきて、「ひどくして」とキスの合間に吐息が漏れるのだけど、ぐるり、と蕾を強く撫でつけて、少しだけ強引に指を差し入れる。

「あ、ああっ、…もっと、めちゃ…くちゃに、…わからな、…してっ」
「すぐにしてあげる。セフィ、可愛い。
 どろどろに、してやる」

 指を抜き差ししながら、ぬちぬちといやらしい音が響いて、彼の気持ちいい所を強く押し付けて、指を増やしていく。
 何度もそこを強くこすりつけていると、セフィリオの腰が振れてきて、奥に刺激を求めるように指を深く飲み込んでいく。
 彼のすがる手が、爪を立て、俺の皮膚が抉られる痛みも、愛おしくて切なくて、胸が締め付けられて、深く指を差し入れながら、ばらばらと中を激しく犯す。

「ああっ!…アレクっ…アレク、…いじわる…しないでっ!ああっ!」

 とろとろと、熱く指に絡みつくように、蕾が締め付けるのが、堪らなく愛しいのに。
 からからの綿のように快感を吸って、どんどん敏感になっていくセフィリオが哀しくて。それがまたひどく愛しい。

「好きだよ。セフィ…堪らなく、どうしようもなく」

 俺はそう言って、指を引き抜いて、セフィリオの腰を強く抱いて、自分のものを欲しがる彼の蕾にあてがうと、ぬるりと香油をまとわして、一気に深く挿し入れた。

「――ああぁっ!」

 びくり、と身体が大きく反って、触れていない彼の中心からは、弾けるように白濁が溢れて、中が激しくうねり、俺を締め上げて、それでもさらに暴くように奥に奥に侵入する。

「んっ…あ…っ…ああっ!…いっ…てる、…アレクっ!」
「もっと、もっと、………わけ、分からなくなるほど、溶かしてやる」

 縋ってくるセフィリオの、妖艶で甘い姿に、ずくずくと欲望が渦巻いて、どくり、と硬く張りつめていく。
 セフィリオの瞳からはずっと涙がぽろぽろとこぼれていて、嗜虐心がくすぐられる。

「ああっ、…アレク、アレク…すき、すき…もっと、もっとして」

 セフィリオの奥をこする様に圧迫し、腰を押し付け、彼の身体を覆うように閉じ込めて、首筋を舐めあげると、そのまま口を塞ぐようにして、口づける。

「ふあっ…ん…はぁっ、あっ!…なか…いっぱい、…あっ!」

 喘ぐような隙間から漏れる吐息が甘く脳を刺激して、熱く絡みつく中に搾り取られて、ぐっと押し寄せる欲望の波に抗えず、奥に打ち付けると、そこに熱いものが吐き出された。
 自分の腰が溶かされるような強い快感に、全身の力が抜けて、小刻みに震えるように注ぎ込むと、セフィリオに抱き着いて、その存在を確かめて、

「セフィ、好きだ。好きだ」

 焦がれて、愛しくてたまらなくて。

 こんなに近くにいるのに。とても遠くにいる気がした。


「一緒にいてくれ。どこにもいくなっ」

 俺の目からも涙がこぼれた。

 涙が止まらなくなって、セフィリオにまた口づけて、唇に吸い付き、舌を絡めて、上顎を味わうように撫でて、それでも足りなくて、両頬を包むように顔を手で覆って、いつまでも口づけて。

「アレク、アレクっ…ぼくも、好き、大好きっ…」

 セフィリオの腕が首に回されて、足が絡んで腰を締め付けて、もうこれ以上近づけない距離にいるのに、それでももっと傍にいたくて。
 一度果てた熱が冷めずに、もっと滾るのが分かって、奥に深く突き入れて、もっともっと欲しくなる。

「ああっ!アレク、…アレクっ…おく、きもち…もっと……んんっ!」
「俺も、…熱い…、…ずっとこうして…たい」

 ゆっくりと、だけど強く彼の快感を抉り、奥を突く。そうすると、一層熱くなり、善がるセフィリオの中は、俺に絡みついて、締め付けて、その腰が揺れて一緒に求めているのが、心にひどく沁みる。

「あ、はぁ、んっ…もっと…ふかく…アレクっ…あ」

 何度も何度も繰り返し、お互いの快感を貪る。

「ぼくも、…ずっと、いっしょが…いい、アレク、アレクっ…そのままっ」

 そのまま、ずっと溶け合うように、二人ともぐずぐずになって、何度も果てて、それでも心が渇いてお互いを求めて、強く抱きしめ合って、沈むように落ちていった。

 こんなに近くにいるのに、切なくて、愛しくて離れられない存在があるなんて、信じられない。
 その存在が、同じように俺を求めて、願ってくれるなんて、本当に奇跡のようだと、夢のようだと、心から溢れる思いが、涙となってしたたり、止まらなかった。



 *



 流石の俺も、翌日は5時には、目が覚めなかった。


 今日は起きたときには明るくなっていたけれど、隣に寄り添う存在に、満ち足りた気持ちになる。

 俺は、いつも先に目が覚めて、先にベッドを抜け出していたが、セフィリオはそれをどう思っていたのだろう。

 そんなことを、これまで疑問にも思わなかったことに、俺は疑問を感じた。

 セフィリオは、目が覚めると、横にいる俺を見つけて、寝ぼけ眼で微笑むと、すり寄ってきて、しばらく間があって、明るいことに気付いたようで、飛び上がる様に起きて、周囲を見渡し、また俺を見て、また周囲を見てそのまま動かなくなった。

「セフィリオ、おはよう」

 そう言って、俺が額にキスすると、一気に顔が紅潮した。耳まで真っ赤にして、視線を彷徨させている。

 おお。珍しい反応だ。どうやら昨夜のことを照れているらしい。
 そんなセフィリオもやはりとても可愛らしい。

 こういう朝もいいものだ。



 その日は、結局だらだらと屋敷で過ごした。久しぶりに、一緒に料理をして、といっても食材がほとんど無かったから、備蓄していった芋と干し肉を使い、煮込み料理を作った。

 芋を洗うセフィリオが、少し残った泥に気を取られて一生懸命洗っていて、さらに芋を切るときにその幅の差を気にするあまり、一向に作業が進まなかったが、そんな姿もセフィリオらしくてとても愛らしかった。

 急ぐ理由もなく、俺も適当に手伝って、一緒に配膳して、一緒に食べた。

 そういえば、エミール伯爵領のこの屋敷に来て以来、家でも外でも役割もなんとなく固定して、それぞれのやることに忙しく、こういう時間を過ごしていなかったことに思い当たった。

 それはそれで、効率的ではあるのだが、二人の間であればそういう無駄があっても、それはとても楽しく、幸せなものだと思った。

 今後は、是非こういう時間を大切にしたい。
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