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1.出会い編

1-6.アレクの功績① ※

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 アレクさんのこれまでの功績を説明してあげる、と楽しそうに息巻くセフィリオにつれられて、俺は書斎に案内された。 

「この部屋には、10年前から起こり始めた【スタンピード】の資料、報告書を整理してる」

 そういって、整理された棚から、迷いなく冊子を抜き取っては、部屋の中央にあるローテーブルに置いていく。

 部屋の奥には書斎机と椅子があり、そちらはまだ作業中なのか、幾分乱れた様子だ。


「年々、回数が増えてて、はじめの3年で6回数、その後2年で8回、その次の3年で毎年5回、さらに次の年が7回、直近1年で9回。
 10年間で45回の【スタンピード】の報告がある」


 俺にローテーブル横のソファに座るよう促す。


「もっとも、個人や小規模パーティーで討伐が済んでしまう程度の出現は把握出来ないけど」


 と俺の左横に座りながら、セフィリオは説明する。


「その規模の魔獣の発生は【スタンピード】とは呼ばず、被害の規模としても大きくならないから、調査の対象外なんだけどね。
 そもそも【スタンピード】の定義というのが、」


 あ、これ長くなるやつだ。
 セフィリオは、興味のある分野の話題になると、熱が入り延々話し続ける傾向があって、どうやら2年経つ今も変わらないらしい。むしろ、酷くなっている。


 ずらりと並んだ、45冊の分厚い報告書と、【スタンピード】が発生した場所をマーキングしてある地図を前に、セフィリオが熱弁を繰り広げている。


 2年前より、背が伸び、やや精悍な顔立ちになったものの、俺よりも華奢な体つきで、母親似らしい顔立ちは可愛らしいままだ。


 ああ、一生懸命話す姿が、可愛くて堪らないな。


 束ねられた銀髪がさらりと揺れて、この下に前国王につけられた白印とやらがあるのか、と思い出して、ふっと顔も覚えていない前国王へ黒い感情が沸いた。


「セフィリオ」


 俺は話の途中で声をかける。


「何?ていうか、アレクさん聞いてた?」


 うん、右から左には聞いてたよ。聞き流すともいうかな。


「俺、確認したいことがあるんだ」

「それ、今の話より重要?」

「それは間違いなく」

 きっぱりと告げる俺に、セフィリオは渋い顔になった。

 セフィリオかどんな表情をしても、自分の胸に熱が灯る。


 けれどセフィリオは「アレクさんの素晴らしさを語るより重要な話なんて無くない?」などと、独りでぼそぼそ呟いている。

 いや、素晴らしさって。

 しかし、まぁ、今から俺が話したいことがとても大切であることは、間違いない。

 俺は一呼吸置いて、言う。


「俺たち、想いが通じあった、てことでいいんだよな」

「………え?」


 突然の話題転換に、セフィリオは意表を突かれたようだ。

 きょとんとする、その表情も愛らしいな。


「いや、だから両想い、だよな」
「両想い」
「恋人、ていう認識でいいんだよな」
「恋人」
「俺としては、伴侶でもいいけど、それは色々現実問題があるから、追々」
「…………。」


 こういう認識の齟齬は始めに確認しておかくのがとても重要、というのが俺の持論だ。

 これまで、顔見知り程度の相手と、いつの間にか付き合っていることになっていた事が何度かあって、その経験則なのだが。


 こちらは身に覚えのない好意と関係を、時に行為を押し付けられた時の恐怖と言ったら、Sランク冒険者の俺をしても震撼するレベルだ。


 セフィリオと出会ってかれこれ7年。
 色々と拗らせた時間があった自覚もあり、二人の関係に明確な名前をつけておくことは重要だと思う。


「えーっと……ああ、うん。そう、恋人……?」


 何で疑問系なんだ。


「恋人だよな」
「………う、うん。」

 恥ずかしそうに、戸惑いながら肯定するセフィリオはとても可愛らしくて。

 でも、俺はジリジリと焦げるような憤りが胸の内に燻るのを抑えきれない。


「嬉しい。じゃあさ、」

 俺は、セフィリオの肩を軽く触れ、そのままソファへと押し倒した。

「ちょっと、実感させて」


 言って、仰向けに呆然と俺を見るセフィリオの、束ねられた銀髪を首をなぞるようによける。
 
 そして、はじめて晒される左の首筋に顔を埋めると、そこに強く吸い付いた。

 小さなリップ音が響き、セフィリオがその刺激に身を捩る。
 
 何度か同じことを繰り返すと、首筋に赤い花弁が散った。銀髪が俺の鼻先をくすぐって、さらさらと柔らかくて気持ちがいい。


 言われた白印は、左の首筋の髪の生え際近くにあって、華のような美しい紋様だった。

 紅潮したセフィリオの肌に白く浮き出ている。

 そこを指でなぞって、また唇を寄せて、もう一つ紅い花弁を増やす。


「…っ……ん……」


 白い華の周りに俺のつけた印をみて、白い華を舌でなぞって、その上にもう一つ。


「…っつ、……なに?」


 どうやらセフィリオは、何をされているのか分からないらしく、チクリとした痛みと、快感に戸惑っているようだった。

 白い華が自分のつけた印に埋め尽くされたのをみて、少し気が収まる。


 セフィリオの左手を取ると手首の内側に口づけて、同じように印を落とす。

 セフィリオは、自分の手首についた紅い痕をみて、ようやく今までの事が、理解できたらしい。

「…うわぁ」


 自身の首筋を擦りながら、セフィリオは呟く。


 俺はそれを聞きながら、するり、とリボンタイを解くと、シャツの前をすべて開き、胸元に手を差し入れる。
 首に下げられた細い鎖には、冒険者のランクプレートが揺れている。

 ああ、お前、Aランクになってたのか。


「……ちょっと、アレクさんっ」


 慌ててセフィリオが俺の手を押さえるのを、逆にやんわり拘束し、ソファに縫い付けた。

 滑らかな肌が、俺の手にしっとりと吸い付くようで。何度かその感触を堪能するように撫でさすり、胸の色づいた小さな粒を親指の腹で擦った。


「…あ、……もっ」


 抗議の声をあげるセフィリオを無視して、立ち上がってきたその粒をくにくにと弄ると、びくりと身体が揺れて、吐息が漏れる。


「…アレクさん、…あっ…」


 何だか気に入らない。


「アレク、て呼んで」

「…え?……ん…やあ…」

 言って、反対側を口に含むと、舌先でつついて、ころころと飴を舐めるように転がし、唇で食む。
 セフィリオの肌は甘い香りがして、俺の気持ちを高揚させる。


「セフィリオ、名前呼んで」

 両方の立ち上がった小さな突起を弄びながら、言う。


「…あっ…あ、あ、…っ」

「セフィリオ。名前」


 可愛い。
 快感に悶えて、瞳が潤んで、紅潮した頬と、乱れた息づかい。すべてが俺の感覚を刺激して、可愛くて、愛しくて。

 なのに、そこに黒い感情がポタリと落ちてがじわりじわりと拡がっていく。
 嫉妬なのか、独占欲なのか、それとも違う不安なのか。


 お願い、名前を呼んで。俺を求めて。俺を欲しがって。
 そんな欲求が、むくむくと大きくなって、セフィリオを責め立てている。


「…っ…う、……ふっ」

「名前」

 お願いだから、俺を呼んで。
 ここにいるのは、俺なのだと、わからせて。


 「…や、…も……へん……っ」


 慣れない感覚に、戸惑っているのか、惚けているのか、身悶えして身体が逃げていく。

 俺が顔をあげると、てらてらと光る小さな粒がぷくりと主張し、とてもいやらしい気がした。

 ソファに縫い付けていた手を離し、俺は手をセフィリオの頬に寄せると、目尻に溜まった涙を拭う。


 すると、セフィリオが目を開きこちらを見上げた。
 
 
 潤んだ瞳が俺を見つけて、頬に添えた俺の手に自分の手を重ね、すり、と頬を寄せて、

「……アレク」

 と、呼んだ。


 ああ、ここにいる。

 俺は、貪るように、セフィリオの唇を塞ぎ、舌で口の中を蹂躙する。二人の乱れた吐息が混ざりあって、淫らな水音が部屋に響く。

 唇から全身がじわり、と満たされていく感覚がして。

 頬の手をおろし、左の首筋するすると撫でながら、反対の手を胸元から脇腹を伝い、腹を擦り、さらに下に伸ばした。

 身体が緊張に強ばったが、口づけで塞いで飲み込み、手を肌に沿わせて服の下に差し込む。


「…も……だめ……んんっ……」


 抗議は流して、トラウザーズを下着ごと下げると、セフィリオの中心はすでに緩く立ち上がっていて、ぴくりと震えて、先端から溢れた蜜で濡れている。

 自分がそうさせていることに、途方もなく心が擽られて、自分の中にある征服欲に驚きながらも、優しく包むと撫でるように上下に扱く。


「あ!……ああっ……や…っ!」


 セフィリオが身を捩り逃げようとするのを、腰を捕まえ許さない。


「セフィリオ。セフィ、可愛い」


 耳元で囁きながら、耳介を舐め上げて食む。身体が小刻みに震え、小さな白い耳が朱にそまり、軽く歯をたてて甘噛みし、耳に舌を挿し込み啜る。


「ああ、…セフィ、好きだ。好きだよ」

「…あっ……それ……んっ…ああ!」


 彼が耳に気をとられている内にも、中心をゆるゆると手で扱き続けると、すぐに芯をもって硬くなった。とろとろと蜜が溢れて、それを鈴口から撫でて纏わせると、ぬるぬるとした感触に変わり、握る力を強くする。

 もっと。もっと俺を欲しがって。


「…んんっ……あ…だめっ…や……いくっ……い…ちゃう…っ!」


 ぐっとセフィリオの身体に快感が汲み上げているのが分かる。

「あぁっ……ぅんん――……っっ!!」


 ぐりぐりと強めに先端を刺激して擦ると、セフィリオは嬌声をあげながら、俺の胸元をぐっと掴み、達した。
 手に熱いものが放たれて、じわり、と愛しさが込み上げてくる。



 己の下でぐったりと汗ばむセフィリオは、恍惚として艶やかで、その中でも彼は確かに俺を見つめていて、胸にどうしようもない幸福感が沸き起こって、俺の心は震えた。

 彼の額に口づけを落として、薄い肩に頭を押し付けるとその身体を抱きしめた。



 セフィリオの香りが、現実なのに夢のような甘美な充足感を教えてくれて。
 
 胸がぎゅっと詰まって。

 ひんやりと、自分の頬が濡れている。
 俺はまた、泣いているらしかった。
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