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《最終章》― お前も…お前の心の傷も…何もかも…愛している… ―
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目の前に置かれた琥珀の液体に亮は視線を落としていた。
リナは、亮の席につこうとしたホステス達を全員下がらせると、自ら酒を作って亮の向かいに座った。
「Bar Blue Bird」のVIP専用の個室に通されて、座ったものの亮は何も言うことも出来ず、ぎこちない沈黙のまま、黙りこくっていた。
いつでもそうだが、リナを前にすると上手く話の切り出しが出来ない。亮は置かれたグラスに手を伸ばすと取り上げた。しかしウィスキーを口にする事もせず、黙ったままグラスを意味もなく揺らし続ける。
リナは黙りのままの亮を、顔を顰めたまま眺めると、ほぅっと小さい吐息を吐き出した。
「…今日は物に買収されるつもりはないわよ」
同じ手は通用しない…そう、言外に滲ませて、エスプレッソ・マシンの事をあからさまに皮肉られても、亮は黙って軽く頭を振った。
「そんな、つもりはない…」
言ったきり、また亮は黙りこくった。
「…なんか言いなさいよ」
リナは苛立って、きつい口調で亮に続きを促す。
「…か…つらに…逢いたい…」
色々考え続けた。どんな風に頼んだらいいか…。
― 桂の居場所を教えろ…
― 桂はどこにいるんだ…
― 桂をどこにやった…
― 桂に逢わせろ…
― 頼む…桂の連絡先を…
でも、所詮桂が絡めば、虚勢も見栄も剥がれてしまう。一番シンプルな言葉が本心となって零れ落ちる…。
リナがフッと厳しい表情を和らげた。ジッと亮を見つめる。見つめられて亮はうろたえたように視線を泳がせた。
「…何のために…?」
リナの問いに、亮がさっと表情を変えた。噴きあがる怒りを押し殺しながら、食いしばった歯の間から何とか答えを絞り出す。
「…桂と…始めるために…」
その言葉にとうとうリナが声を荒げた。
「格好つけないで。そんな戯言聞きたくないわ!」
亮も精一杯リナを真っ直ぐに見返すと
「戯言でも、嘘でもない…!そんなことお前に言われる筋合いはない!!」怒鳴るように声を張り上げた。
し…ん…と一瞬二人の間の空気が凍りつく。身動ぎせず睨みあっていたが、先制したのはリナだった。
「…かっちゃんは…全部終わったって…言ったわ」
「…ぁ…」
言われた言葉に亮の心臓がギュッと千切られるように痛む。ショックで返す言葉が出てこない亮を、なぜかリナが優しい瞳で見つめている。
リナの言葉に、桂の決意の固さが滲んできて、いまさら亮は激しい衝撃に打ちのめされていた。
「……終わって・・・なんか…いない……いないんだ…!!」
内心の動揺を押し込めながら、震える手でウィスキーのグラスを取り上げると一気にそれを喉に流し込む。
…そうだ、終わってなんかいない…俺たちは…まだ始まってすらいない…やっと、始める事ができるのに…。
健志と形はどうあれ、終わっているのだという事実を自分の中で確認すると、亮はやっとリナを見返した。
静かに口を開いた。
「俺は、桂を愛してる…。やっと健志とも切れた。…だから…桂に…逢わせてくれ。…頼む」
言って、亮は以前と同じように深く頭を垂れた。
リナは、亮の席につこうとしたホステス達を全員下がらせると、自ら酒を作って亮の向かいに座った。
「Bar Blue Bird」のVIP専用の個室に通されて、座ったものの亮は何も言うことも出来ず、ぎこちない沈黙のまま、黙りこくっていた。
いつでもそうだが、リナを前にすると上手く話の切り出しが出来ない。亮は置かれたグラスに手を伸ばすと取り上げた。しかしウィスキーを口にする事もせず、黙ったままグラスを意味もなく揺らし続ける。
リナは黙りのままの亮を、顔を顰めたまま眺めると、ほぅっと小さい吐息を吐き出した。
「…今日は物に買収されるつもりはないわよ」
同じ手は通用しない…そう、言外に滲ませて、エスプレッソ・マシンの事をあからさまに皮肉られても、亮は黙って軽く頭を振った。
「そんな、つもりはない…」
言ったきり、また亮は黙りこくった。
「…なんか言いなさいよ」
リナは苛立って、きつい口調で亮に続きを促す。
「…か…つらに…逢いたい…」
色々考え続けた。どんな風に頼んだらいいか…。
― 桂の居場所を教えろ…
― 桂はどこにいるんだ…
― 桂をどこにやった…
― 桂に逢わせろ…
― 頼む…桂の連絡先を…
でも、所詮桂が絡めば、虚勢も見栄も剥がれてしまう。一番シンプルな言葉が本心となって零れ落ちる…。
リナがフッと厳しい表情を和らげた。ジッと亮を見つめる。見つめられて亮はうろたえたように視線を泳がせた。
「…何のために…?」
リナの問いに、亮がさっと表情を変えた。噴きあがる怒りを押し殺しながら、食いしばった歯の間から何とか答えを絞り出す。
「…桂と…始めるために…」
その言葉にとうとうリナが声を荒げた。
「格好つけないで。そんな戯言聞きたくないわ!」
亮も精一杯リナを真っ直ぐに見返すと
「戯言でも、嘘でもない…!そんなことお前に言われる筋合いはない!!」怒鳴るように声を張り上げた。
し…ん…と一瞬二人の間の空気が凍りつく。身動ぎせず睨みあっていたが、先制したのはリナだった。
「…かっちゃんは…全部終わったって…言ったわ」
「…ぁ…」
言われた言葉に亮の心臓がギュッと千切られるように痛む。ショックで返す言葉が出てこない亮を、なぜかリナが優しい瞳で見つめている。
リナの言葉に、桂の決意の固さが滲んできて、いまさら亮は激しい衝撃に打ちのめされていた。
「……終わって・・・なんか…いない……いないんだ…!!」
内心の動揺を押し込めながら、震える手でウィスキーのグラスを取り上げると一気にそれを喉に流し込む。
…そうだ、終わってなんかいない…俺たちは…まだ始まってすらいない…やっと、始める事ができるのに…。
健志と形はどうあれ、終わっているのだという事実を自分の中で確認すると、亮はやっとリナを見返した。
静かに口を開いた。
「俺は、桂を愛してる…。やっと健志とも切れた。…だから…桂に…逢わせてくれ。…頼む」
言って、亮は以前と同じように深く頭を垂れた。
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