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《第10章》—何もかもが思惑とはずれていく、それも自分が犯した罪のせいか—
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健志が指定した時間を亮はジリジリしながら待っていた。
ニューヨークへ到着してから、この2日間というもの亮はホテルの部屋から一歩も出ていなかった。
観光になど興味はない。最もニューヨークは何度も訪れた地だったせいもある。
亮にとっては、早くこのくだらない…亮は心のそこからくだらないと思っていたらしいのだが…別れ話に蹴りをつけて桂の元へ帰る事だけが、今回の旅の、唯一最大の目的だったのだ。
ソファに転がったまま何とはなしに点けっぱなしのテレビを眺める。画面はヒッチコックの古い映画を放送していた。
ケーリー・グラントが複葉機に飛び乗るシーンをぼんやりと見つめた。ストーリーはちっとも頭に入ってはこなかった。考えるのは桂の事ばかり…。
そういや、こんな風に一人でボーっと過ごすのは久し振りかもしれないな…亮は桂の顔を思い出しながら考えた。仕事をしていない時間は殆ど桂と一緒にいた。
にぎやかに美味しそうな湯気や香りをたてる桂のお手製の料理が並ぶ食卓。キッチンで楽しそうに鮮やかな手つきで調理をしていく桂の笑顔。
そんな何気ない光景に居心地の良さを感じていた。
いつのまにか、自分の部屋にその光景が無いと心の中が咽ぶような寂しさを覚えるようになっていた。
自分が美味しいと料理を褒める度に、はにかんだ笑みを零す桂。テーブルで頬杖をつきながら、自分の話しに熱心に聞き入る桂の真剣な瞳。
桂の事を考えると、いつも胸の詰まるような息苦しさと…そして体の奥がさざめくようにドクンと鼓動を打つのを感じてしまう。
それが、なんなのかに気付くのが遅すぎたために…今こうして厄介な付けを払おうとしている。
健志は絶対別れないと言い張っていた。健志の語気鋭い言葉を思い出して亮は溜息を吐いた。健志の考えが変わっていれば良いのだが…。
亮は一昨日の健志に対して取った自分に腹立ちを感じていた。余りにも愚かで、普段の自分だったらバカにする行動だった。
後先考えず見切り発進のように、せっかちに健志に別れ話を切り出してしまっていた。
これじゃぁ…健志だって受けいれられないはずだ…。
亮はソファから起き上がると、部屋に備え付けのミニ・バーを漁る。目当てのウィスキーを見つけると、ロックにして口に含む。芳醇なウィスキーの味が口中に広がっていくと、自然それまで昂ぶっていた気持が落ち着き始めた。
亮がテレビを消したのと同時に来客を告げるインターフォンが部屋に響いた。
―健志だ—
亮はウィスキーのグラスをテーブルに置くと、気持を引き締めて来客を迎えるべくドアに向かった。
ニューヨークへ到着してから、この2日間というもの亮はホテルの部屋から一歩も出ていなかった。
観光になど興味はない。最もニューヨークは何度も訪れた地だったせいもある。
亮にとっては、早くこのくだらない…亮は心のそこからくだらないと思っていたらしいのだが…別れ話に蹴りをつけて桂の元へ帰る事だけが、今回の旅の、唯一最大の目的だったのだ。
ソファに転がったまま何とはなしに点けっぱなしのテレビを眺める。画面はヒッチコックの古い映画を放送していた。
ケーリー・グラントが複葉機に飛び乗るシーンをぼんやりと見つめた。ストーリーはちっとも頭に入ってはこなかった。考えるのは桂の事ばかり…。
そういや、こんな風に一人でボーっと過ごすのは久し振りかもしれないな…亮は桂の顔を思い出しながら考えた。仕事をしていない時間は殆ど桂と一緒にいた。
にぎやかに美味しそうな湯気や香りをたてる桂のお手製の料理が並ぶ食卓。キッチンで楽しそうに鮮やかな手つきで調理をしていく桂の笑顔。
そんな何気ない光景に居心地の良さを感じていた。
いつのまにか、自分の部屋にその光景が無いと心の中が咽ぶような寂しさを覚えるようになっていた。
自分が美味しいと料理を褒める度に、はにかんだ笑みを零す桂。テーブルで頬杖をつきながら、自分の話しに熱心に聞き入る桂の真剣な瞳。
桂の事を考えると、いつも胸の詰まるような息苦しさと…そして体の奥がさざめくようにドクンと鼓動を打つのを感じてしまう。
それが、なんなのかに気付くのが遅すぎたために…今こうして厄介な付けを払おうとしている。
健志は絶対別れないと言い張っていた。健志の語気鋭い言葉を思い出して亮は溜息を吐いた。健志の考えが変わっていれば良いのだが…。
亮は一昨日の健志に対して取った自分に腹立ちを感じていた。余りにも愚かで、普段の自分だったらバカにする行動だった。
後先考えず見切り発進のように、せっかちに健志に別れ話を切り出してしまっていた。
これじゃぁ…健志だって受けいれられないはずだ…。
亮はソファから起き上がると、部屋に備え付けのミニ・バーを漁る。目当てのウィスキーを見つけると、ロックにして口に含む。芳醇なウィスキーの味が口中に広がっていくと、自然それまで昂ぶっていた気持が落ち着き始めた。
亮がテレビを消したのと同時に来客を告げるインターフォンが部屋に響いた。
―健志だ—
亮はウィスキーのグラスをテーブルに置くと、気持を引き締めて来客を迎えるべくドアに向かった。
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