68 / 130
第8章 王子の宣言と変化
2
しおりを挟む
ダイニングテーブルに料理を並べる。
アレックスが私邸に戻ると連絡をもらってから、宅配で食材を注文していたのだ。
帰ってきたら、美味しいものを食べさせてあげたい。そう思うのは当然だろう。
彼は食いしん坊さんだから。
私邸のキッチンはバスルームと同様、当然ながら贅沢だ。
パーティーを開催する時などのために、シェフが入る大きな専用の厨房も完備されているが、真理はプライベートスペースの普通のキッチンを使っている。
普通とは言っても、豪華な造りで調理スペースが大理石なこととガスオーブンがあることに驚いたものだ。
ガスオーブンからキャセロールを取り出すとダイニングテーブルに置いた。
焼き上がりは上々、チーズの香ばしい香りが漂う。
今日はラザニアにシンプルなコンソメスープ。温野菜のアンチョビソースをかけたサラダに、グレープフルーツとアボカドのマリネ、という献立だ。
アレックスのメンタルの揺れを思うと、少しでも家庭的な雰囲気で過ごさせてあげたいと思う。
バゲットを切り、炭酸水をテーブルにセットしたところで、アレックスが書斎から出てきた。
あえて、アルコールは出さない。
「うーん、美味そうな匂いだ」
鼻をくんくんさせながら、嬉しそうにテーブルの料理を見ると、アレックスは彼女の身体を緩く抱きしめて、鼻を擦り合わせた。
甘えたような仕草が擽ったくて、真理はふふっと笑うとアレックスを座らせた。
ラザニアを切り分け彼に渡すと嬉しそうに食べ始める。
一口食べて空腹を思い出したのか、美味いといつも通り連発しながら、ガツガツと勢いよく食べ始めた。
その様子に良かった、と安心する。
いつもの彼に戻ってきている。
さすがに朝はベッドから出られず、昼もいささか過ぎた時間のランチだから、お腹も空いたろう。
当たり障りのない会話を続け、食後のコーヒーを出したところで、アレックスが口を開いた。
「パパラッチ達からは何かされたりはしてないか?」
そういえば、忘れていたが、未だに外はすごいメディアの数だった。
真理は、外に出ないでいたから何もされてない、と答えた。
最初の数日は私邸のインターフォンが鳴ることもあったが、護衛が無視で良いと言っていたので、出なかったのだ。
その答えにアレックスは頷くと、コーヒーにミルクを入れながら続けた。
「これからどうするか、考えた」
その言葉に、真理は頷いた。どんな事であれ、アレックスがやる事を受け入れようと思っていたからだ。
自分では、自宅に戻りほとぼりが冷めるまで距離を置くのではないかと考えていた。
彼は多分今までの女性ともそうしていたのではないかと思ったからだ。
そして、メディアを無視するのだ。
記事が出るたびに、王子は無言を貫き皮肉に笑い、それで済ませてきた。
この私邸から女の・・・自分の存在が消えればパパラッチ達も諦めるだろう。
「アレク、大丈夫。私は自宅に戻るから」
「えっ!?」
その言葉に、アレックスは持っていたコーヒーカップをガチャリと乱暴にソーサーに戻すと、
飛び上がらんばかりの勢いで、立ち上がり真理の席にやってきて、彼女の身体を抱き上げた。
「ちょっ、アレクっ!!待っ!待って!ひゃあっ!」
そのまま、リビングのソファーに座ると、ギュッと抱きしめられる。真理はアレックスの膝の上だ。
「ダメだ、戻るのは許さない」
見上げると、思い詰めたような顔のアレックスで。
「絶対にダメだ、君はここにいるんだ」
射抜くような眼差しで見つめられ、あっと思う間も無く口付けられる。
「あんっ!・・・くぅん・・・」
コーヒーの香りをまとった舌が、自分のそれに絡みつくと、真理はくたりと身体の力を抜いた。
強引な舌が自分の口の中を乱暴に擦り、喉の奥まで舐められるのではないかと思うような、彼の舌に翻弄される。
これ以上ない程、深く合わされた唇に、珍しくアレックスのそれがカサついているのに気づいた。
呼吸が苦しくなって、彼の胸を軽く叩くとやっとキスを解かれ、唾液まみれになっているアレックスの唇を見て、真理は羞恥に頬を染めた。
キスなんて今さらだが、恥ずかしいのは仕方がない。
彼の唇をティッシュで拭おうと、サイドテーブルに手を伸ばしかけるが、それを阻まれて少し抱き起こされる。
アレックスが鋭い眼差しで見つめてきて、真理はここに来てやっと自分の言ったことが間違っていたことを悟った。
ただでさえ、今の彼は繊細だ。
「えっと・・・ごめんなさい、ここに居ます・・・」
その言葉に、アレックスの厳しい表情がやっと緩む。
ホッとしたように表情を緩めると、アレックスは口を開いた。
「色々考えたが、ちゃんと真理とのことを国民に説明しようと思う」
「えっ!?ええっーーーー?!」
素っ頓狂な声をあげたのは今度は真理だ。
「どういうこと」
アレックスはニヤリと悪い笑みを浮かべると
「隠すから、みんな知りたがるだろう。だから写真の女性は、大切な女性だ、と言う」
「それって・・・」
真理は言ってる意味が飲み込めず、クラクラしてきたが、アレックスは嬉しそうで。
「父上と兄上には相談していて、了承をもらった。二人とも大賛成だ。もちろん、まだ真理の名前も写真も出さないから安心して。プライバシーは侵害させない」
言われてる事はひどく重大なのに、彼の輝くような笑顔で、真理は混乱した。
「なっ、何をするの?国民に説明って?」
アレックスは動揺しまくる真理の頬と耳朶をすりすりと撫でると甘い声で答えた。
「会見にするか、囲み取材にするか、それとも他にするかはまだ考え中だけど・・・だから真理、許して欲しい」
——-君を俺の恋人だと、国民に紹介するのを——-
アレックスが私邸に戻ると連絡をもらってから、宅配で食材を注文していたのだ。
帰ってきたら、美味しいものを食べさせてあげたい。そう思うのは当然だろう。
彼は食いしん坊さんだから。
私邸のキッチンはバスルームと同様、当然ながら贅沢だ。
パーティーを開催する時などのために、シェフが入る大きな専用の厨房も完備されているが、真理はプライベートスペースの普通のキッチンを使っている。
普通とは言っても、豪華な造りで調理スペースが大理石なこととガスオーブンがあることに驚いたものだ。
ガスオーブンからキャセロールを取り出すとダイニングテーブルに置いた。
焼き上がりは上々、チーズの香ばしい香りが漂う。
今日はラザニアにシンプルなコンソメスープ。温野菜のアンチョビソースをかけたサラダに、グレープフルーツとアボカドのマリネ、という献立だ。
アレックスのメンタルの揺れを思うと、少しでも家庭的な雰囲気で過ごさせてあげたいと思う。
バゲットを切り、炭酸水をテーブルにセットしたところで、アレックスが書斎から出てきた。
あえて、アルコールは出さない。
「うーん、美味そうな匂いだ」
鼻をくんくんさせながら、嬉しそうにテーブルの料理を見ると、アレックスは彼女の身体を緩く抱きしめて、鼻を擦り合わせた。
甘えたような仕草が擽ったくて、真理はふふっと笑うとアレックスを座らせた。
ラザニアを切り分け彼に渡すと嬉しそうに食べ始める。
一口食べて空腹を思い出したのか、美味いといつも通り連発しながら、ガツガツと勢いよく食べ始めた。
その様子に良かった、と安心する。
いつもの彼に戻ってきている。
さすがに朝はベッドから出られず、昼もいささか過ぎた時間のランチだから、お腹も空いたろう。
当たり障りのない会話を続け、食後のコーヒーを出したところで、アレックスが口を開いた。
「パパラッチ達からは何かされたりはしてないか?」
そういえば、忘れていたが、未だに外はすごいメディアの数だった。
真理は、外に出ないでいたから何もされてない、と答えた。
最初の数日は私邸のインターフォンが鳴ることもあったが、護衛が無視で良いと言っていたので、出なかったのだ。
その答えにアレックスは頷くと、コーヒーにミルクを入れながら続けた。
「これからどうするか、考えた」
その言葉に、真理は頷いた。どんな事であれ、アレックスがやる事を受け入れようと思っていたからだ。
自分では、自宅に戻りほとぼりが冷めるまで距離を置くのではないかと考えていた。
彼は多分今までの女性ともそうしていたのではないかと思ったからだ。
そして、メディアを無視するのだ。
記事が出るたびに、王子は無言を貫き皮肉に笑い、それで済ませてきた。
この私邸から女の・・・自分の存在が消えればパパラッチ達も諦めるだろう。
「アレク、大丈夫。私は自宅に戻るから」
「えっ!?」
その言葉に、アレックスは持っていたコーヒーカップをガチャリと乱暴にソーサーに戻すと、
飛び上がらんばかりの勢いで、立ち上がり真理の席にやってきて、彼女の身体を抱き上げた。
「ちょっ、アレクっ!!待っ!待って!ひゃあっ!」
そのまま、リビングのソファーに座ると、ギュッと抱きしめられる。真理はアレックスの膝の上だ。
「ダメだ、戻るのは許さない」
見上げると、思い詰めたような顔のアレックスで。
「絶対にダメだ、君はここにいるんだ」
射抜くような眼差しで見つめられ、あっと思う間も無く口付けられる。
「あんっ!・・・くぅん・・・」
コーヒーの香りをまとった舌が、自分のそれに絡みつくと、真理はくたりと身体の力を抜いた。
強引な舌が自分の口の中を乱暴に擦り、喉の奥まで舐められるのではないかと思うような、彼の舌に翻弄される。
これ以上ない程、深く合わされた唇に、珍しくアレックスのそれがカサついているのに気づいた。
呼吸が苦しくなって、彼の胸を軽く叩くとやっとキスを解かれ、唾液まみれになっているアレックスの唇を見て、真理は羞恥に頬を染めた。
キスなんて今さらだが、恥ずかしいのは仕方がない。
彼の唇をティッシュで拭おうと、サイドテーブルに手を伸ばしかけるが、それを阻まれて少し抱き起こされる。
アレックスが鋭い眼差しで見つめてきて、真理はここに来てやっと自分の言ったことが間違っていたことを悟った。
ただでさえ、今の彼は繊細だ。
「えっと・・・ごめんなさい、ここに居ます・・・」
その言葉に、アレックスの厳しい表情がやっと緩む。
ホッとしたように表情を緩めると、アレックスは口を開いた。
「色々考えたが、ちゃんと真理とのことを国民に説明しようと思う」
「えっ!?ええっーーーー?!」
素っ頓狂な声をあげたのは今度は真理だ。
「どういうこと」
アレックスはニヤリと悪い笑みを浮かべると
「隠すから、みんな知りたがるだろう。だから写真の女性は、大切な女性だ、と言う」
「それって・・・」
真理は言ってる意味が飲み込めず、クラクラしてきたが、アレックスは嬉しそうで。
「父上と兄上には相談していて、了承をもらった。二人とも大賛成だ。もちろん、まだ真理の名前も写真も出さないから安心して。プライバシーは侵害させない」
言われてる事はひどく重大なのに、彼の輝くような笑顔で、真理は混乱した。
「なっ、何をするの?国民に説明って?」
アレックスは動揺しまくる真理の頬と耳朶をすりすりと撫でると甘い声で答えた。
「会見にするか、囲み取材にするか、それとも他にするかはまだ考え中だけど・・・だから真理、許して欲しい」
——-君を俺の恋人だと、国民に紹介するのを——-
1
お気に入りに追加
21
あなたにおすすめの小説
【完結】やさしい嘘のその先に
鷹槻れん
恋愛
妊娠初期でつわり真っ只中の永田美千花(ながたみちか・24歳)は、街で偶然夫の律顕(りつあき・28歳)が、会社の元先輩で律顕の同期の女性・西園稀更(にしぞのきさら・28歳)と仲睦まじくデートしている姿を見かけてしまい。
妊娠してから律顕に冷たくあたっていた自覚があった美千花は、自分に優しく接してくれる律顕に真相を問う事ができなくて、一人悶々と悩みを抱えてしまう。
※30,000字程度で完結します。
(執筆期間:2022/05/03〜05/24)
✼••┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈••✼
2022/05/30、エタニティブックスにて一位、本当に有難うございます!
✼••┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈••✼
---------------------
○表紙絵は市瀬雪さまに依頼しました。
(作品シェア以外での無断転載など固くお断りします)
○雪さま
(Twitter)https://twitter.com/yukiyukisnow7?s=21
(pixiv)https://www.pixiv.net/users/2362274
---------------------
政略結婚の約束すら守ってもらえませんでした。
克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
「すまない、やっぱり君の事は抱けない」初夜のベットの中で、恋焦がれた初恋の人にそう言われてしまいました。私の心は砕け散ってしまいました。初恋の人が妹を愛していると知った時、妹が死んでしまって、政略結婚でいいから結婚して欲しいと言われた時、そして今。三度もの痛手に私の心は耐えられませんでした。
【完結】殿下、自由にさせていただきます。
なか
恋愛
「出て行ってくれリルレット。王宮に君が住む必要はなくなった」
その言葉と同時に私の五年間に及ぶ初恋は終わりを告げた。
アルフレッド殿下の妃候補として選ばれ、心の底から喜んでいた私はもういない。
髪を綺麗だと言ってくれた口からは、私を貶める言葉しか出てこない。
見惚れてしまう程の笑みは、もう見せてもくれない。
私………貴方に嫌われた理由が分からないよ。
初夜を私一人だけにしたあの日から、貴方はどうして変わってしまったの?
恋心は砕かれた私は死さえ考えたが、過去に見知らぬ男性から渡された本をきっかけに騎士を目指す。
しかし、正騎士団は女人禁制。
故に私は男性と性別を偽って生きていく事を決めたのに……。
晴れて騎士となった私を待っていたのは、全てを見抜いて笑う副団長であった。
身分を明かせない私は、全てを知っている彼と秘密の恋をする事になる。
そして、騎士として王宮内で起きた変死事件やアルフレッドの奇行に大きく関わり、やがて王宮に蔓延る謎と対峙する。
これは、私の初恋が終わり。
僕として新たな人生を歩みだした話。
皇太子夫妻の歪んだ結婚
夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。
その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。
本編完結してます。
番外編を更新中です。
運命の歯車が壊れるとき
和泉鷹央
恋愛
戦争に行くから、君とは結婚できない。
恋人にそう告げられた時、子爵令嬢ジゼルは運命の歯車が傾いで壊れていく音を、耳にした。
他の投稿サイトでも掲載しております。
家に帰ると夫が不倫していたので、両家の家族を呼んで大復讐をしたいと思います。
春木ハル
恋愛
私は夫と共働きで生活している人間なのですが、出張から帰ると夫が不倫の痕跡を残したまま寝ていました。
それに腹が立った私は法律で定められている罰なんかじゃ物足りず、自分自身でも復讐をすることにしました。その結果、思っていた通りの修羅場に…。その時のお話を聞いてください。
にちゃんねる風創作小説をお楽しみください。
夫の不貞現場を目撃してしまいました
秋月乃衣
恋愛
伯爵夫人ミレーユは、夫との間に子供が授からないまま、閨を共にしなくなって一年。
何故か夫から閨を拒否されてしまっているが、理由が分からない。
そんな時に夜会中の庭園で、夫と未亡人のマデリーンが、情事に耽っている場面を目撃してしまう。
なろう様でも掲載しております。
婚約破棄ですか???実家からちょうど帰ってこいと言われたので好都合です!!!これからは復讐をします!!!~どこにでもある普通の令嬢物語~
tartan321
恋愛
婚約破棄とはなかなか考えたものでございますね。しかしながら、私はもう帰って来いと言われてしまいました。ですから、帰ることにします。これで、あなた様の口うるさい両親や、その他の家族の皆様とも顔を合わせることがないのですね。ラッキーです!!!
壮大なストーリーで奏でる、感動的なファンタジーアドベンチャーです!!!!!最後の涙の理由とは???
一度完結といたしました。続編は引き続き書きたいと思いますので、よろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる