上 下
55 / 95
第九章 普通の恋人同士なら行かないで…そう言うのかな…

しおりを挟む
 店を出てジュリオは携帯を取り出した。
 
 桂に「スミマセン。ちょっとメッセージを聞きます。」と言うと、桂から少し離れたところで電話をする。 
 
 ひとしきり留守電を聞いたのだろう。携帯をスーツのポケットにしまいながら戻ってくると、桂に苦笑を見せながら言った。

「ウルサイお邪魔虫、騒いでいます。カツラをリョーの所に送ります。いいですか?」
「え…?ジュリオさん…でも…俺」 

 桂は困惑してジュリオを見た。今日はもう自分の部屋へ帰るつもりだった。
桂の困った表情を見て、ジュリオがウインクをして続けた。

「カツラ…。もっと頑張ってください。リョーはカツラに会いたいです。それが一番です。今リョーと居るのはカツラです」

 一生懸命言葉を探しながら励ましてくれるジュリオの気持が嬉しくて…桂は微かに微笑むと「分かりました」と答えていた。

 亮のマンションへ着くとジュリオは慣れた様子で亮の部屋のインターフォンを押した。その様子でジュリオが亮の部屋に何度も来た事があるのだと桂にも分かる。

 亮は部屋に人を入れることがあまり好きではないと言っていた。恋人とごく親しい友達しか部屋に入れないよと言っていたのを思い出して、桂は笑みを浮かべた。なんだかんだ言っても亮とジュリオは仲が良いのだろう。

『はい』

 相変わらず不機嫌そうな亮の声がインターフォンごしに聞こえてくる。その声を聞いてジュリオと桂は顔を見合わせてプッと吹き出した。笑いを滲ませた声音でジュリオが喋る。

「リョー。私です。カツラを送りました。私帰ります。だからカツラを迎えにきなさい」

 ガチャッとインターフォンの音が途切れる。ジュリオがやれやれと言うように肩をすくめると、桂を見やりながら言った。

「リョー。頭良いです。仕事できます。でも、私思います。リョー、単純でわかりやすいですね。時々子供みたいです」

 ジュリオの亮の形容に桂がまた笑った。

 自分も時々亮の事をそう思っていたが、他の人から言われると面白かった。カッコイイ男も長年の友人に掛かっては形無しだな。と思って笑いが滲んでしまう。

 その桂の笑みを見てジュリオもニッコリと笑った。

「カツラ、笑っているほうが良いですね」

 言ってジュリオがそっと桂の頬を撫でた。

 ギッと言う乱暴な音と共にマンションのガラス扉が開くと、亮が転がるように飛び出してくる。

 ロビーに立っている二人に気付くと亮はムッとしたように更に機嫌の悪い顔を顰めた。

 ツカツカと二人に近づくと、まだ桂の頬に触れていたジュリオの腕を乱暴に掴んで引き離した。低い声で呟くように言う。

「いい加減にしろよ。ジュリオ。桂に手を出すな。桂は俺と…」

 ニヤニヤしながら亮の言葉を聞いていたジュリオが大袈裟に手を振って亮の言葉を遮った。そして意地悪く言う。

「知っています。リョー。でも私、カツラのこと好きです。カツラに好きと言いました。リョーとカツラ付き合っています。でもリョー、リョーの恋人はタケシです。だから、私はカツラと恋人になるつもりです」

 ペラペラと得意そうに喋るジュリオの言葉に亮の顔が赤らんだ。その様を楽しそうにクスクス笑いながら見るとジュリオは続けた。

「今日は、カツラの気持、優先して口説くの、止めました。でもタケシが戻ったら…」

 ジュリオはニッコリ微笑みながら、一呼吸おいて脅すように亮に指を突き出して言った。

「私がカツラとコイビトになります。良いですね」

 何かを言おうとして亮が口を開き掛ける。それでも沸きあがる怒りを押し込めるようにグッと唇を引き結ぶと一言「勝手にしろ」と呟いた。

 ジュリオはニッコリと笑うと、それまでオロオロと二人のやりとりを見守っていた桂を労わるように見詰めて、もう一度頬に手を触れた。

「カツラ…私帰ります。今日とても楽しかったです。それじゃおやすみなさい。」

 言いながら優しい笑みを浮かべて、ゆったりと桂の頬にキスを落とす。

「おい…。ジュリオ!やめろよ!」

 亮が、とっさにジュリオの肩を掴んで引き戻した。

「あ…」

 桂は、ジュリオの突然のキスにドキドキしてホワンと脱力したようにジュリオを見詰めた。

 それを見て亮が歯噛みをすると桂の腰を抱き寄せる。そして乱暴にジュリオの手の中に、それまで持っていたものを押し込んで叫んだ。

「ほら、車のキーだ。俺の車使って良いから。さっさと帰れよ。じゃぁな!」

 そう言うと、まだ力が抜けたようになっている桂を引きずってマンションの中へ入っていく。

 ジュリオは相変わらずニヤニヤと笑みを浮かべて二人を見送っていたが、押しつけられたキーを眺めると

 「マンマミーヤ!。それじゃ一人寂しくおやすみしましょう」と楽しそうに言って、亮の駐車場へと軽い足取りで歩いて行った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【R18】奴隷に堕ちた騎士

蒼い月
BL
気持ちはR25くらい。妖精族の騎士の美青年が①野盗に捕らえられて調教され②闇オークションにかけられて輪姦され③落札したご主人様に毎日めちゃくちゃに犯され④奴隷品評会で他の奴隷たちの特殊プレイを尻目に乱交し⑤縁あって一緒に自由の身になった両性具有の奴隷少年とよしよし百合セックスをしながらそっと暮らす話。9割は愛のないスケベですが、1割は救済用ラブ。サブヒロインは主人公とくっ付くまで大分可哀想な感じなので、地雷の気配を感じた方は読み飛ばしてください。 ※主人公は9割突っ込まれてアンアン言わされる側ですが、終盤1割は突っ込む側なので、攻守逆転が苦手な方はご注意ください。 誤字報告は近況ボードにお願いします。無理やり何となくハピエンですが、不幸な方が抜けたり萌えたりする方は3章くらいまでをおススメします。 ※無事に完結しました!

膀胱を虐められる男の子の話

煬帝
BL
常におしがま膀胱プレイ 男に監禁されアブノーマルなプレイにどんどんハマっていってしまうノーマルゲイの男の子の話 膀胱責め.尿道責め.おしっこ我慢.調教.SM.拘束.お仕置き.主従.首輪.軟禁(監禁含む)

隠れSubは大好きなDomに跪きたい

みー
BL
⚠️Dom/Subユニバース 一部オリジナル表現があります。 ハイランクDom×ハイランクSub

とろとろ【R18短編集】

ちまこ。
BL
ねっとり、じっくりと。 とろとろにされてます。 喘ぎ声は可愛いめ。 乳首責め多めの作品集です。

壊れた番の直し方

おはぎのあんこ
BL
Ωである栗栖灯(くりす あかり)は訳もわからず、山の中の邸宅の檻に入れられ、複数のαと性行為をする。 顔に火傷をしたΩの男の指示のままに…… やがて、灯は真実を知る。 火傷のΩの男の正体は、2年前に死んだはずの元番だったのだ。 番が解消されたのは響一郎が死んだからではなく、Ωの体に変わっていたからだった。 ある理由でαからΩになった元番の男、上天神響一郎(かみてんじん きょういちろう)と灯は暮らし始める。 しかし、2年前とは色々なことが違っている。 そのため、灯と険悪な雰囲気になることも… それでも、2人はαとΩとは違う、2人の関係を深めていく。 発情期のときには、お互いに慰め合う。 灯は響一郎を抱くことで、見たことのない一面を知る。 日本にいれば、2人は敵対者に追われる運命… 2人は安住の地を探す。 ☆前半はホラー風味、中盤〜後半は壊れた番である2人の関係修復メインの地味な話になります。 注意点 ①序盤、主人公が元番ではないαたちとセックスします。元番の男も、別の女とセックスします ②レイプ、近親相姦の描写があります ③リバ描写があります ④独自解釈ありのオメガバースです。薬でα→Ωの性転換ができる世界観です。 表紙のイラストは、なと様(@tatatatawawawaw)に描いていただきました。

くまさんのマッサージ♡

はやしかわともえ
BL
ほのぼの日常。ちょっとえっちめ。 2024.03.06 閲覧、お気に入りありがとうございます。 m(_ _)m もう一本書く予定です。時間が掛かりそうなのでお気に入りして頂けると便利かと思います。よろしくお願い致します。 2024.03.10 完結しました!読んで頂きありがとうございます。m(_ _)m 今月25日(3/25)のピクトスクエア様のwebイベントにてこの作品のスピンオフを頒布致します。詳細はまたお知らせ致します。 2024.03.19 https://pictsquare.net/skaojqhx7lcbwqxp8i5ul7eqkorx4foy イベントページになります。 25日0時より開始です! ※補足 サークルスペースが確定いたしました。 一次創作2: え5 にて出展させていただいてます! 2024.10.28 11/1から開催されるwebイベントにて、新作スピンオフを書いています。改めてお知らせいたします。 2024.11.01 https://pictsquare.net/4g1gw20b5ptpi85w5fmm3rsw729ifyn2 本日22時より、イベントが開催されます。 よろしければ遊びに来てください。

大好きなBLゲームの世界に転生したので、最推しの隣に居座り続けます。 〜名も無き君への献身〜

7ズ
BL
 異世界BLゲーム『救済のマリアージュ』。通称:Qマリには、普通のBLゲームには無い闇堕ちルートと言うものが存在していた。  攻略対象の為に手を汚す事さえ厭わない主人公闇堕ちルートは、闇の腐女子の心を掴み、大ヒットした。  そして、そのゲームにハートを打ち抜かれた光の腐女子の中にも闇堕ちルートに最推しを持つ者が居た。  しかし、大規模なファンコミュニティであっても彼女の推しについて好意的に話す者は居ない。  彼女の推しは、攻略対象の養父。ろくでなしで飲んだくれ。表ルートでは事故で命を落とし、闇堕ちルートで主人公によって殺されてしまう。  どのルートでも死の運命が確約されている名も無きキャラクターへ異常な執着と愛情をたった一人で注いでいる孤独な彼女。  ある日、眠りから目覚めたら、彼女はQマリの世界へ幼い少年の姿で転生してしまった。  異常な執着と愛情を現実へと持ち出した彼女は、最推しである養父の設定に秘められた真実を知る事となった。  果たして彼女は、死の運命から彼を救い出す事が出来るのか──? ーーーーーーーーーーーー 狂気的なまでに一途な男(in腐女子)×名無しの訳あり飲兵衛  

新しいパパは超美人??~母と息子の雌堕ち記録~

焼き芋さん
BL
ママが連れてきたパパは超美人でした。 美しい声、引き締まったボディ、スラリと伸びた美しいおみ足。 スタイルも良くママよりも綺麗…でもそんなパパには太くて立派なおちんちんが付いていました。 これは…そんなパパに快楽地獄に堕とされた母と息子の物語… ※DLsite様でCG集販売の予定あり

処理中です...