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随分と乗馬がお好きなようだな。お嬢さん。
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身体が熱く、蕩けるような熱が脳髄を焙って意識を朦朧とさせる。ほの紅い湿った薄い皮膚の内側の霧野の太い葉脈のような血管に囲まれた肉細胞ひとつひとつが、さざ波打ったようにざわめいて、心臓が力強く脈打つ程に、毒素でも送り込まれているように、身体が言うことを聞かなくなる。毒。それは淫靡な性の毒。
目の前で扉が開いて、彼の姿を視界にとらえた途端、霞んでいた頭の奥の方の感覚がはっきりとしてきた。しかし血の中には、糖蜜でも溶け込んだような、震える感覚が、また別に、身体のさざ波に乗って拡がるのだった。
川名がこちらを見上げて何か言っているのだが、聞き取ることができず、海の中に居るようなざらざらとした音にしかならない。川名はすぐ察したか途中で口を結んで先に作業を始めた。すぐ近くに川名の匂いと熱がある。彼の熱は他の人間よりずっと低いが、すぐ横で脚立に乗って作業する彼が直ぐ近く、衣服に含まれる熱を感じる。
霧野の身体、腕と首を吊っていた縄紐がまず外された。霧野は、脱力するようにして、木馬の上に束ねられたままの手をつく。上から引っ張られない代わりに、股裂きの感覚が強くなる。川名はするすると脚立から降りて、木馬の側にかしずくような姿勢をとって、霧野の足首にくくっていた錘をひとつずつ外した。手首の拘束と、三角木馬から突き出して、霧野の身体を貫く、一本の楔だけが残された戒めだった。
ようやく解放された霧野は束ねられたままの両手を木馬の上について、頭と身体とが前に項垂らして、その身体は軽くふらふらと夢遊病者の抱擁に前後に揺れ、呼吸を整えながらも、戒めが無くなった分、開かれた血管の内を血が駆け巡り、身体が一個の熱源になったかのように余計に、脱力しながら、熱く、濡れた喉の奥から、求め喘ぐような息遣いが漏れていた。
下から引っ張る異物も、上から引っ張る戒めも無くなった。これで霧野は自力で馬を降りることができるはずだった。ぬるぬると汗ばんだ手を木馬について、身体を引っ張り上げようと、腰を浮かそうとするのだが、手が滑り身体に力が戻らず、広い腰が少し上に上がって、尻もちをつくように、どすんと木馬の上、及び、精巧に作られた男根の楔の上に再び腰をついてしまった。「……!!」声にならない叫びと共に、脊髄から電気が流れ、頭の中に星が舞った。ぐ、と歯を食いしばったと同時にだらだらととめどなく涎が出ていった。
身体が、ゆらゆらする……、霞む視界の端に川名が居るのが霧野からは見えた。霧野はできるだけそちらの方を見ないようにしながら、もう一度腰を浮かそうと、木馬に食い込むほど、ぐっと強く指に力を入れた、血管の雨域出た腕ががくがく震えて革製の枷が勢いぎしぎし軋んで、弾け飛びそうだが、霧野のために作られた皮革錠は霧野の肉に良く食い込むだけで、弾け飛びはしないのだ。
長い間、決して軽くはない霧野の体重+脚に数十キロ錘の負荷を身体にかけられることで、楔は一般的な男根のサイズであったが普段以上に霧野の奥深くまでねじ込まれるようにして到達、挿入されたままになって、緊張しっぱなしで弾けそうに緊張した太ももと尻の肉が汗ばんでそれを握り締めていた。跨ることで左右に裂かれた太ももの股関節のうえ太ももの上にド太い血管が青く浮いて脈打っていた。外側の肉、跳ね返すような弾力のある尻と対称的にその中の桃色の臓物、引きずり出せばほくほくと輝いて温かいだろうモツ、その温かく柔らかい肉の奥深くまで、男根の彫像で貫通させられていた肉門は、入口がわからない程に溶けて熱かった。
霧野が、肉筒の入口、肉の可愛らしい蕾の肉盛が、少し腰を浮かすだけで男根の彫像にいそぎんちゃくのように吸い付いてしまい、霧野はまた、喉の奥で小さく声を漏らし、動けなくなる。木馬の上で、前傾姿勢をとった霧野の脊椎の中の神経を通って、全身に、感覚が拡がって回り、頭の中もぐるぐる回る。
ほんの少しの腰の動きで、ビリビリと全身が感じ、ぐぐぐと歯を食いしばった喉の奥から嬌声を漏らす代わりに、息と共に、どっと汗が全身に噴き出て、汗の皮膚を流れるのが、誰かに指で触られているにも似て、身体を感じさせてしまう。今、触られたらどうなってしまうだろうか、しかし、今目の前にいる相手は川名、触ってこない。それだけが、少しだけ口元をほころばせる。
霧野は自分の身体の腹の面を覗き込むようにして、梁型を咥え込んでいる己の部分を覗き見て、愕然とした。まだ、たった3㎝程度しか未だ身体が浮いていないのだ。梁型は長さにして、15㎝はあったはずだから、軽く見積もってあと5倍は身体を浮かせないといけない。降りられない。霧野の身体に、快楽とは別の焦りの汗が流れだした。それに、もしそこまで浮いてみせて、身体が満足し、力が抜けたら最初からやり直しどころか、15㎝分一気に勢いよく身体を突かれることになるのだ、自分の体重の分。今度は口元に苦笑いが浮かび、くくく、と声を出した。霧野は一度羽化しかけた腰をまた元の位置に戻した。ぐち、と小さな粘着音をたたせて、中にさっきの通り、動かないソレが、定位置に収まった。しかし、少し引っ掻くように動かしたことで、中の物を感じてしまい、居心地の悪さに腰を軽く動かすと、身体が木馬の上でぶるぶると震えだした。
「どうした。せっかく外してやったのだから、早く降りてこないか。」
ハッとして、霧野は木馬に手をついたまま川名の方へ頭を向けた。川名は腕を組んで霧野の方を見上げて、口元は結ばれていたが、目元に隠しきれてない若干の嗜虐心の揺らぎが浮かんでいた。
こいつ、わかっているくせに、俺が何で降りれないのかわかってて。
川名は芝居がかった調子で右腕を拡げた。
「随分と乗馬がお好きなようだな。お嬢さん。」
「……、……」
川名は黙って霧野を見上げていた。その言葉の意味、第三者が聞けば、その通りの意味にしか聞こえないだろうが、霧野は川名が騎乗位のことを暗に被せて言っているのではないではないかと感じていた。川名の目を見ている内、それが確信に変わる。怒涛のように押し寄せる憎しみと官能の感情の中で川名を見下げていた。
「10数えてやるから、その間に降りてこい。10……」
霧野は視線を自分の手元に戻し、また腰を浮かせる作業に戻った。焦らせるな。焦ると、ろくなことにならないんだっ、慎重にやるのだ……。7、6……。熱く濡れた肉管の中を、いい具合に凹凸の彫り込まれた楔が、霧野の繊細な動きに合わせて、優しく濡れそぼった中を撫で上げる。ぐぅ……、思わず声が漏れ、滴った汗がぽたぽたと垂れた。5……。喘ぐように息しながら、腹の方を見た。たった半分!、しかし、少なくとも8㎝位は出ている。希望と絶望が綯交ぜになって、また腕と身体にぐっと力を込めた。首筋と額にまで青筋立つ。4、3……。きゅうんきゅうんと肉門の入口の盛り上がりが、決して放さぬとでもいうように痙攣し始め、中が、揺れがはじめた。
あ、やばい、と思うと一瞬腕の力が抜けかけ、手が滑りかけ、1㎝ほど落ちる、上がる、……堕ちる、……騰がる、……堕ちる、……騰がる、が続き、ぬちっ!ぬちぃ……と粘着質な音と共に、滴った薄ピンク色の液が霧野の股の間からほとばしり、木馬に垂れ、腸液と木材の混じった臭いがあたりに立ち込めた、2、1……。火事場の馬鹿力、と、頭を空にして全身に力をいれ、身体をはね上げさせた、ずちずちずち!身体は上がるが、下半身の調子も一緒に上がる!一気に中を下から上へ勢い擦られ、出口に向かっていくと、とめどない、快!、あああああ!さっきまで、じわじわと与え続けられていた拷問の激痛からの解放が伴ったせいで、解放された身体が、肉の散々耕された分厚い畝の道のようになったような部分が、激烈に震えながら感じ、ぷりぷりとして中で膨張したかのように思われた、!!!!、飢えた獣の唸るような堪え声と共に、あとほんのちょっとの頑張りで抜けるのにというところで、霧野の獣性、もしくは肉欲か、淫の入り混じった悪魔的な欲望が、栓を勢いよく抜かれたシャンパンの如く噴き出しはじめていた。あとちょっとがどうしてか、抜けない。
霧野の重い身体は、また、沈みかける、手から、力が、抜けかける。「うぁ…‥っ」の後に言葉にならない声が漏れた。震える身体を支えるのは腕にしていたが、身体を総動員させて、抵抗する。自由になった脚を折り曲げて、膝を何とか木馬の側面に強く押し付けて、ひきあげようとするが、すべる。もう川名の声も、遠く聞こえない。上がろうともがく程、悪手。「火事場の馬鹿力みてぇなやり口は止せよな」との二条薫の冷静な分析の声が聞こえた。と、同時に、身体は勢いよく、沼の奥に沈んだ。一瞬意識が飛びかけたが、勢いよく股間を強打した痛みで、意識ははっきりとさせられ、涙が出た。
結局、元のザマに戻ってしまい、もっと悪いことに、身体が余計に敏感に挿された部分を感じてしまうようになってしまった。霧野はバツの悪そうな顔をして腕で顔を半分隠しながら、川名の方を盗み見た。再度目が合った。10秒はとっくに過ぎているはずであり、霧野は機嫌を損ねた川名から叱責や罵倒のひとつやふたつ飛んでくることを想定していた。しかし、川名は反対に軽い笑みを浮かべていた。
「なんだよ、その物欲しそうな顔は。」
霧野は咄嗟に視線をぐっと下に下げた。顔がすぐに熱くなって視線が定まらず床のアタリをふらふらとする。そこに川名の近づいてきた足元が見える。悔しいから、もう一度、彼の顔を拝んでやろうと思うのだができない。結んだ口から、息がふぅふぅ漏れ出て、その度一緒に別のものが出そうになるのを堪えた。
川名の手が木馬の方に触れ、霧野の太ももの近くの木の表面を厭らしい手つきでいつまでも触っていた。それが何故か霧野の頭の奥をじりじりと焦がすのだった。厭らしい手つきと霧野が思うのは、その手が自分の身体の上を這ったことを無意識に想像してのことだった。
「へぇ、これまた随分とそのおもちゃが気に入ったらしいな。じゃ、もうしばらくそうしてな。お前の身体のためにもなるだろう。身体も鍛えられ、感度も上がり、懲罰にもなる、最高だな。ただ、現状、お前だけにしか使えない道具であることが厄介だ。鞭だったら何本あったって困らないのだけど。」
川名は、まあでも、作らせて良かったよ、と言おうかと思ったが、止めたのだった。
「そうだ、で、結論は出たか?ここに居続けるか、ここを出て、ちょっとした闇バイトをして俺達に対する慰謝料の足しにするか。」
川名から、考える時間を与えられて、霧野はそれについてはもう答えを出していた。
「……る、」
「あ?」
「やる……」
やらない、を選んだ場合、ここに居続ける以上の隠されたデメリットがある。
それは、川名の期待を裏切ることだ。川名は、選ばせているようで、確認しているだけだ。
「……そう。……やるのだな。わかったよ。久しぶりにお前の誠意を感じたよ。お前が自分でやると言って引き受けた仕事なのだから、いつものように責任を持って最後までやりきれよ。俺はいつだって、お前を正しく評価してきたつもりだ。他の誰よりも、正当にな。なあ、霧野、この世界は数え切れない程の不正で成り立っていて、お前はその中でさぞ絶望してきたことだろうな。俺もそうだ。だからせめて自分の世界の中でだけは、正しく居たいんだ。」
「……。」
適当なこと言い腐って、それで俺を懐柔するつもりか。浅薄なことだ。
「俺はお前に、正当な罰を与えているんだ。今のお前になら、少しくらい理解できるかな。少し間をおいてやるから、次俺が戻ってくるまでに自力でそこから降りていろ。降りたら床の上で待て。」
「……。」
「”待て”だぜ、霧野。どういう恰好で待つのが俺を一番満足させるのか、もしくは不愉快にさせるのか。わかってるな、散々教え仕込んだのだから。」
川名は踵を返し、霧野はようやく川名の姿を視界にとらえた。去っていく背中だけはまともに見ることができる。彼は一度も振り返ることも無く、再び部屋を出ていった。
◆
木馬から降りるまでの時間、それが一体どのくらいかかったのか、わからなかった。
なんとか滑り降りて、ただ、しばらく溶けるように脱力して冷たい床に転がり、床までが呼応するように鉄板のような熱さになったような気がしていた。力の入らない身体を引きずって入口の方まで這って行った。無駄とわかっていながら、部屋の鍵が開いているかどうか、ドアノブに革枷で束ねられたままの手を伸ばしかけた。
霧野の指はドアノブの先を掠って、落ちた。痺れる腕、手を開いたり閉じたりして、感覚を取り戻す。もし扉が開いていたとして、どうする気だろう。今の自分に、そこから先屋敷の中を抜けて外まで行く力は、無い。それに今この瞬間、この扉が開く可能性だってあるのだ。霧野は低い位置から獣のように部屋の様相を見回した。部屋の中心にさっきまで自分を虐めていたばかでかい三角木馬という凶器が設置されて、他にめぼしい物は置かれていない。事務所の地下室であれば、ざっくばらんに、鉄パイプの一本や二本片付け忘れられていることもありえようものだが、何もない。這ったまま扉から後ろへじりじりと後退して、身体を床に横たえ、少しだけ休んだ、しかし、今すぐにでも、川名の、川名と一対一で会う時の姿勢にならないといけない。
川名が次に部屋に戻ってきた時、霧野は仕込まれた姿勢をとって待っていた。頭を上げる前に、川名の気配がすぐ側までやってきて、霧野の目元を布地で覆ったのだった。川名が立ち上がる気配、移動する気配。突いて来いと言われる前に、川名の移動する音に従ってついていくと、束ねられたままになっている手首をとられ縄が結わえられ、床の近くに縫い留められたらしかった。おそらく木馬の脚に結ばれたように思える。四つん這いのままでいると、背後から、徐に挿入され、「う゛……」と太い声が出た。一瞬だけ、川名のモノかと思うが、違う、さっきまで身体の中にあったのと同じものだ。上から小さな下着を履かされ(この着心地、それは、何度か履かされたこともある、おそらく川名の愛人の下着である)、挿入された肉棒を象った異物を出せないようにさせられる。
異物の底面を下着の上から靴の甲の部分で軽く蹴られたようだった。
「ぁ゛……!」
声を出すと、次に川名は靴の甲ではなく、靴底で踏み込むようにして霧野の身体の中にディルドを穿ちこむのだった、自然と、霧野の身体は四つん這いからだんだんと完全に床に臥せった姿勢になっていった。その上、背後から川名が一定の感覚で靴で霧野の尻を踏んだり、ディルドの底面を心地よい具合に踏み、蹴り込み、中を描きまわしているのだった。ぱんぱんと打撃が加えられるたびに、霧野の口から甘い声が漏れ始めていた。
「ぁ……っ、ぁ゛‥‥っ、ふ…ぅ゛…んん゛……っ」
蹴り込まれると、中の芯だけでなく、身体全身が揺らされ、全身で感じてしまうのだ。ぎしぎし、両手を強く握って理性をとどめようとする。やめてくれ、と、気持ちいい、とがないまぜになって、唸りになる。ぎしぎしと手首が音を立てる度、高まった。川名の靴底の感覚が尻肉に食い込んで、彼の体重と共に奥の奥にまでグぅ……っと彼の物ではないが、彼の物でもある肉棒が霧野の肉筒をまっすぐに押し開いては戻り、霧野が床に伏せながら、身体が逃げようとすれば、今度は背中、肩甲骨の間に足が乗せられて、ゆっくりと体重をかけられるのだった。
体重がかかって背面から、踏まれることで、うつ伏せになった身体の下で、肺が潰れる。はぁっ、はぁっ、と、呼吸が自然浅くなり、必死な感が出てくる。酸素が回らず、朦朧としてくると、全身がふわふわと浮いたような感じになるのに、目の奥が熱く脈打つのと、身体を踏まれた感触そして肉の中に彼の脚で何度も丁寧と同時に乱暴に蹴り込まれて打ち込まれたままになっている箇所は、火を噴いたように余計にはっきりとしてきて、霧野の雄は霧野の腹の下で大きく膨張して濡れ、床を濡らしていた。
ぁ、息が、できない、つまる、死、そのぎりぎりで肺の上の脚がどかされ、また同じように、いや、さっきより強くパンパンと靴裏で踏みつけられ淫欲で高まった柔らかな霧野の肉の谷間は延々と犯され続けた。
さっき木馬の上で自分の自重で苛め抜いた箇所を、霧野の望むような強さで、文字通り足蹴にされるという屈辱的な形で犯され続け、霧野は声を上げて鳴いたが、川名は入ってきてからまだ一言も声を出していない。しかし、川名がソコに居る気配、忘れられない視線、ふるまいのひとつひとつで、彼がそこにあることがわかる。霧野が達しても関係なく蹂躙は続く。背、肺を、時に頭を上から押さえつけらえる度、性の高まりと一緒に何かが壊れていった。
どのくらい蹂躙が続いたか、すっかり身体が動かなくなって、霧野の声も子猫の鳴くような程になったころ、気が付くと身体に触れるものがなくなり、目の前に川名の座って居る匂いと気配だけが感じられた。こっちへ来いと声に出して言っていないが、望まれている。
身体をそちらの方へ這わせていくと川名のさっきまで霧野の身体を蹂躙していた脚に到達した。上等なスーツの肌触りを右肩から腕にかけて、感じた。首輪に指がひっかけられ、頭の奥が、じん、とする。脳、熟れた果実、腐る直前の少し触れば崩れてしまいそうな果実の指を突き入れられたような、感覚。一本、軽く。
彼は椅子に座っている。指に導かれるように、彼の足もとにすり寄るようにして身を預けた。霧野の口からは小さな吐息が漏れ出ていた。指はまだ引っ掛けられたままで居て、頭をもっと上の方へ、と指示されている。彼の太ももに頬をこすり付けるようにしながらもっていくと、頬に彼の太ももから熱い血潮の感じが伝わってくるのだった。太ももに走る動脈、ここを切られると人は致命傷になって、死ぬ。だから、獣に襲われるとき、太ももを突かれる噛まれるなどすると、死ぬ。その部分に走る太い血脈に霧野は頬を当てていた。太ももに触れていない方の頬に冷たい手が触れて、まるで産毛を触るような手つきでなぞるのだった。一度撫でられるたびに全身に鳥肌が立ったあとに温かい感覚が全身に巡った。覆われた布の下で、霧野の視線も涙も自由であった。
川名の手は霧野の頬を何度か優しく往復し離れた。霧野の頭は何も瞳にうつさないまま、川名の離れ入った手を追うように、川名の太ももから離れて上を向いた。そこに、手のひらが飛んで、肉を打つ音がし、のけ反った顔の反対側を今度は川名の手の甲の側が打って、霧野の頭を真正面に向かせた。
目隠しをされた霧野の顔面は紅潮し、半ば口角が上がったまま開いて喘ぐ口からダラダラと涎が垂れていた。その涎が、川名の手を汚すので川名は手をハンカチで拭いながらしばらく、霧野を見下ろしていた。
霧野は再び川名の手が伸びてくるのを感じ、頭は逃げるでもなく媚びるように、川名の太ももに最初したように押し付けられるのだった。それで、浅い呼吸がまだ収まらない。このままだと、呼吸する度馬鹿になる。霧野は、自分を叱責する自分と、もっと欲しいと、欲望に溺れ、葛藤しながら身体が勝手に川名に擦り寄ってゆくのを感じた。
そうだ。今、この世界には、川名と、この情けの無い自分しかいないのだ。情けの無い自分など見ていたくない、自分では、ない、存在しなくていい。だから今だけ、別の者になったって、いいんじゃないか。誰が見ているでもない。見ているとすれば、この自分自身だけ。自分自身だけが、自分自身を許せないだけ。ああ!許せない!と思う程に、身体がどくどくとして、川名にすり寄ってしまう。はぁはぁと息づくたびに、自分という人間が、呼吸と汗や体液と一緒に、自我と言うものが流れ出ていってしまう様な感覚に襲われていた。消えろ、消えてしまえ自分なんか。そう思うと、獣の部分の自分が川名の太ももに噛みつきじゃれついてみたくもなる。
川名の手が、再び霧野の打たれて熱くなった頬を撫でた。身体の奥の肉芯が振るわされたような気になって、まだいれっぱなしになっている、さっき散々弄ばれた中の異物を、腰が勝手に動き、感じ始めた。ねだるようにくねる腰。川名の指が頬から目元の方へとのび、目隠しと顔の間に入り、ゆっくりとずらし始めた。光が、眩しい。
眩しすぎて、最初、世界は白かった。
だんだんと軽い冷笑を浮かべた、それは他人が見ればわからないが、霧野から見れば随分楽しそうな表情を浮かべた川名の顔が見えてきた。霧野の瞳は一瞬彼に呼応するように半ば口を開いたまま細められかけたが、その直後、霧野は川名の背後に立っている人間を目にして頭を殴られたようになって愕然と、目を右上の方から素早く右下、川名の靴元の方へと動かしたかと思うとそれきり、動けなくなってしまった。手放したはずの理性がみるみる鮮やかに色を噴いて目の前に戻ってきて霧野を襲った。
川名の座るすぐ背後に、川名以上に冷ややかな顔つきをした美里が、霧野を無言で見下していたのである。
ついぞ見たことの無い程に冷えた瞳をしていた。
だるいような倦怠の視線とも殺意の視線とも違う。
一体いつから居たのだろう。霧野の呆けていた口は元のように結ばれて奥歯を噛みしめていた。いくら噛みしめても、噛みしめれば噛みしめる程、顔が熱い。目を閉じても、彼らの瞳が頭に焼き付いて、離れてくれない。
考えるまでも無く、最初から居たのに違いなかった。扉の開く音はたった一度しかしなかったのだから。どれだけ都合よく考えようとしても、無理だ。彼は川名と一緒に入ってきて気配を消し、今までの愚直の、醜態の全てを直ぐ近くで観ていたのだ。それ以外の可能性を考えることができない。美里のことを恐ろしいと思ったことは、霧野にはこれまで殆ど無かった。霧野の心臓は、不思議な痛み方をして、呼吸が乱れ始めた。ほとんど忘れていた、誰かに何かされても俺のことを考えて俺にやられていると思えよと言った美里の言葉が急に頭の中に現れた。
霧野は盗み見るようにして、もう一度、川名ではなく美里の方へ目を向けた。美里は殆どさっきと変わらない顔をしていたが、川名ではなくまず先に彼の方を先に見たことに機嫌を良くしたのか一瞬だけ目元の険しさが和らいだ気がしたが、それもほんの瞬き一瞬のことで、すぐ戻る。霧野の都合の良い妄想かもしれなかった。心臓が音を立てはじめた。霧野はとても見ていられず、再び彼らを前にして首を垂れた。
「どうした?」
川名の口調に明らかに揶揄するような雰囲気が含まれていた。それは霧野だけでなく、彼の後ろにいる人間に対し、同時に言っているように霧野には思えた。やめてくれ、余計に頭が下がる。川名が立ち上っても霧野はそのまま俯いて、顔を上げることができずにいた。
「どうだ。俺の言った通り、誰が、どう見たって、元気だろ、こいつは。お前の心配なぞ杞憂なんだよ。……。いいぞ、連れて帰って。地下にでも戻しておいてやれ。こいつのためにも、これから色々と準備することがあるからな。」
目の前で扉が開いて、彼の姿を視界にとらえた途端、霞んでいた頭の奥の方の感覚がはっきりとしてきた。しかし血の中には、糖蜜でも溶け込んだような、震える感覚が、また別に、身体のさざ波に乗って拡がるのだった。
川名がこちらを見上げて何か言っているのだが、聞き取ることができず、海の中に居るようなざらざらとした音にしかならない。川名はすぐ察したか途中で口を結んで先に作業を始めた。すぐ近くに川名の匂いと熱がある。彼の熱は他の人間よりずっと低いが、すぐ横で脚立に乗って作業する彼が直ぐ近く、衣服に含まれる熱を感じる。
霧野の身体、腕と首を吊っていた縄紐がまず外された。霧野は、脱力するようにして、木馬の上に束ねられたままの手をつく。上から引っ張られない代わりに、股裂きの感覚が強くなる。川名はするすると脚立から降りて、木馬の側にかしずくような姿勢をとって、霧野の足首にくくっていた錘をひとつずつ外した。手首の拘束と、三角木馬から突き出して、霧野の身体を貫く、一本の楔だけが残された戒めだった。
ようやく解放された霧野は束ねられたままの両手を木馬の上について、頭と身体とが前に項垂らして、その身体は軽くふらふらと夢遊病者の抱擁に前後に揺れ、呼吸を整えながらも、戒めが無くなった分、開かれた血管の内を血が駆け巡り、身体が一個の熱源になったかのように余計に、脱力しながら、熱く、濡れた喉の奥から、求め喘ぐような息遣いが漏れていた。
下から引っ張る異物も、上から引っ張る戒めも無くなった。これで霧野は自力で馬を降りることができるはずだった。ぬるぬると汗ばんだ手を木馬について、身体を引っ張り上げようと、腰を浮かそうとするのだが、手が滑り身体に力が戻らず、広い腰が少し上に上がって、尻もちをつくように、どすんと木馬の上、及び、精巧に作られた男根の楔の上に再び腰をついてしまった。「……!!」声にならない叫びと共に、脊髄から電気が流れ、頭の中に星が舞った。ぐ、と歯を食いしばったと同時にだらだらととめどなく涎が出ていった。
身体が、ゆらゆらする……、霞む視界の端に川名が居るのが霧野からは見えた。霧野はできるだけそちらの方を見ないようにしながら、もう一度腰を浮かそうと、木馬に食い込むほど、ぐっと強く指に力を入れた、血管の雨域出た腕ががくがく震えて革製の枷が勢いぎしぎし軋んで、弾け飛びそうだが、霧野のために作られた皮革錠は霧野の肉に良く食い込むだけで、弾け飛びはしないのだ。
長い間、決して軽くはない霧野の体重+脚に数十キロ錘の負荷を身体にかけられることで、楔は一般的な男根のサイズであったが普段以上に霧野の奥深くまでねじ込まれるようにして到達、挿入されたままになって、緊張しっぱなしで弾けそうに緊張した太ももと尻の肉が汗ばんでそれを握り締めていた。跨ることで左右に裂かれた太ももの股関節のうえ太ももの上にド太い血管が青く浮いて脈打っていた。外側の肉、跳ね返すような弾力のある尻と対称的にその中の桃色の臓物、引きずり出せばほくほくと輝いて温かいだろうモツ、その温かく柔らかい肉の奥深くまで、男根の彫像で貫通させられていた肉門は、入口がわからない程に溶けて熱かった。
霧野が、肉筒の入口、肉の可愛らしい蕾の肉盛が、少し腰を浮かすだけで男根の彫像にいそぎんちゃくのように吸い付いてしまい、霧野はまた、喉の奥で小さく声を漏らし、動けなくなる。木馬の上で、前傾姿勢をとった霧野の脊椎の中の神経を通って、全身に、感覚が拡がって回り、頭の中もぐるぐる回る。
ほんの少しの腰の動きで、ビリビリと全身が感じ、ぐぐぐと歯を食いしばった喉の奥から嬌声を漏らす代わりに、息と共に、どっと汗が全身に噴き出て、汗の皮膚を流れるのが、誰かに指で触られているにも似て、身体を感じさせてしまう。今、触られたらどうなってしまうだろうか、しかし、今目の前にいる相手は川名、触ってこない。それだけが、少しだけ口元をほころばせる。
霧野は自分の身体の腹の面を覗き込むようにして、梁型を咥え込んでいる己の部分を覗き見て、愕然とした。まだ、たった3㎝程度しか未だ身体が浮いていないのだ。梁型は長さにして、15㎝はあったはずだから、軽く見積もってあと5倍は身体を浮かせないといけない。降りられない。霧野の身体に、快楽とは別の焦りの汗が流れだした。それに、もしそこまで浮いてみせて、身体が満足し、力が抜けたら最初からやり直しどころか、15㎝分一気に勢いよく身体を突かれることになるのだ、自分の体重の分。今度は口元に苦笑いが浮かび、くくく、と声を出した。霧野は一度羽化しかけた腰をまた元の位置に戻した。ぐち、と小さな粘着音をたたせて、中にさっきの通り、動かないソレが、定位置に収まった。しかし、少し引っ掻くように動かしたことで、中の物を感じてしまい、居心地の悪さに腰を軽く動かすと、身体が木馬の上でぶるぶると震えだした。
「どうした。せっかく外してやったのだから、早く降りてこないか。」
ハッとして、霧野は木馬に手をついたまま川名の方へ頭を向けた。川名は腕を組んで霧野の方を見上げて、口元は結ばれていたが、目元に隠しきれてない若干の嗜虐心の揺らぎが浮かんでいた。
こいつ、わかっているくせに、俺が何で降りれないのかわかってて。
川名は芝居がかった調子で右腕を拡げた。
「随分と乗馬がお好きなようだな。お嬢さん。」
「……、……」
川名は黙って霧野を見上げていた。その言葉の意味、第三者が聞けば、その通りの意味にしか聞こえないだろうが、霧野は川名が騎乗位のことを暗に被せて言っているのではないではないかと感じていた。川名の目を見ている内、それが確信に変わる。怒涛のように押し寄せる憎しみと官能の感情の中で川名を見下げていた。
「10数えてやるから、その間に降りてこい。10……」
霧野は視線を自分の手元に戻し、また腰を浮かせる作業に戻った。焦らせるな。焦ると、ろくなことにならないんだっ、慎重にやるのだ……。7、6……。熱く濡れた肉管の中を、いい具合に凹凸の彫り込まれた楔が、霧野の繊細な動きに合わせて、優しく濡れそぼった中を撫で上げる。ぐぅ……、思わず声が漏れ、滴った汗がぽたぽたと垂れた。5……。喘ぐように息しながら、腹の方を見た。たった半分!、しかし、少なくとも8㎝位は出ている。希望と絶望が綯交ぜになって、また腕と身体にぐっと力を込めた。首筋と額にまで青筋立つ。4、3……。きゅうんきゅうんと肉門の入口の盛り上がりが、決して放さぬとでもいうように痙攣し始め、中が、揺れがはじめた。
あ、やばい、と思うと一瞬腕の力が抜けかけ、手が滑りかけ、1㎝ほど落ちる、上がる、……堕ちる、……騰がる、……堕ちる、……騰がる、が続き、ぬちっ!ぬちぃ……と粘着質な音と共に、滴った薄ピンク色の液が霧野の股の間からほとばしり、木馬に垂れ、腸液と木材の混じった臭いがあたりに立ち込めた、2、1……。火事場の馬鹿力、と、頭を空にして全身に力をいれ、身体をはね上げさせた、ずちずちずち!身体は上がるが、下半身の調子も一緒に上がる!一気に中を下から上へ勢い擦られ、出口に向かっていくと、とめどない、快!、あああああ!さっきまで、じわじわと与え続けられていた拷問の激痛からの解放が伴ったせいで、解放された身体が、肉の散々耕された分厚い畝の道のようになったような部分が、激烈に震えながら感じ、ぷりぷりとして中で膨張したかのように思われた、!!!!、飢えた獣の唸るような堪え声と共に、あとほんのちょっとの頑張りで抜けるのにというところで、霧野の獣性、もしくは肉欲か、淫の入り混じった悪魔的な欲望が、栓を勢いよく抜かれたシャンパンの如く噴き出しはじめていた。あとちょっとがどうしてか、抜けない。
霧野の重い身体は、また、沈みかける、手から、力が、抜けかける。「うぁ…‥っ」の後に言葉にならない声が漏れた。震える身体を支えるのは腕にしていたが、身体を総動員させて、抵抗する。自由になった脚を折り曲げて、膝を何とか木馬の側面に強く押し付けて、ひきあげようとするが、すべる。もう川名の声も、遠く聞こえない。上がろうともがく程、悪手。「火事場の馬鹿力みてぇなやり口は止せよな」との二条薫の冷静な分析の声が聞こえた。と、同時に、身体は勢いよく、沼の奥に沈んだ。一瞬意識が飛びかけたが、勢いよく股間を強打した痛みで、意識ははっきりとさせられ、涙が出た。
結局、元のザマに戻ってしまい、もっと悪いことに、身体が余計に敏感に挿された部分を感じてしまうようになってしまった。霧野はバツの悪そうな顔をして腕で顔を半分隠しながら、川名の方を盗み見た。再度目が合った。10秒はとっくに過ぎているはずであり、霧野は機嫌を損ねた川名から叱責や罵倒のひとつやふたつ飛んでくることを想定していた。しかし、川名は反対に軽い笑みを浮かべていた。
「なんだよ、その物欲しそうな顔は。」
霧野は咄嗟に視線をぐっと下に下げた。顔がすぐに熱くなって視線が定まらず床のアタリをふらふらとする。そこに川名の近づいてきた足元が見える。悔しいから、もう一度、彼の顔を拝んでやろうと思うのだができない。結んだ口から、息がふぅふぅ漏れ出て、その度一緒に別のものが出そうになるのを堪えた。
川名の手が木馬の方に触れ、霧野の太ももの近くの木の表面を厭らしい手つきでいつまでも触っていた。それが何故か霧野の頭の奥をじりじりと焦がすのだった。厭らしい手つきと霧野が思うのは、その手が自分の身体の上を這ったことを無意識に想像してのことだった。
「へぇ、これまた随分とそのおもちゃが気に入ったらしいな。じゃ、もうしばらくそうしてな。お前の身体のためにもなるだろう。身体も鍛えられ、感度も上がり、懲罰にもなる、最高だな。ただ、現状、お前だけにしか使えない道具であることが厄介だ。鞭だったら何本あったって困らないのだけど。」
川名は、まあでも、作らせて良かったよ、と言おうかと思ったが、止めたのだった。
「そうだ、で、結論は出たか?ここに居続けるか、ここを出て、ちょっとした闇バイトをして俺達に対する慰謝料の足しにするか。」
川名から、考える時間を与えられて、霧野はそれについてはもう答えを出していた。
「……る、」
「あ?」
「やる……」
やらない、を選んだ場合、ここに居続ける以上の隠されたデメリットがある。
それは、川名の期待を裏切ることだ。川名は、選ばせているようで、確認しているだけだ。
「……そう。……やるのだな。わかったよ。久しぶりにお前の誠意を感じたよ。お前が自分でやると言って引き受けた仕事なのだから、いつものように責任を持って最後までやりきれよ。俺はいつだって、お前を正しく評価してきたつもりだ。他の誰よりも、正当にな。なあ、霧野、この世界は数え切れない程の不正で成り立っていて、お前はその中でさぞ絶望してきたことだろうな。俺もそうだ。だからせめて自分の世界の中でだけは、正しく居たいんだ。」
「……。」
適当なこと言い腐って、それで俺を懐柔するつもりか。浅薄なことだ。
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「……。」
「”待て”だぜ、霧野。どういう恰好で待つのが俺を一番満足させるのか、もしくは不愉快にさせるのか。わかってるな、散々教え仕込んだのだから。」
川名は踵を返し、霧野はようやく川名の姿を視界にとらえた。去っていく背中だけはまともに見ることができる。彼は一度も振り返ることも無く、再び部屋を出ていった。
◆
木馬から降りるまでの時間、それが一体どのくらいかかったのか、わからなかった。
なんとか滑り降りて、ただ、しばらく溶けるように脱力して冷たい床に転がり、床までが呼応するように鉄板のような熱さになったような気がしていた。力の入らない身体を引きずって入口の方まで這って行った。無駄とわかっていながら、部屋の鍵が開いているかどうか、ドアノブに革枷で束ねられたままの手を伸ばしかけた。
霧野の指はドアノブの先を掠って、落ちた。痺れる腕、手を開いたり閉じたりして、感覚を取り戻す。もし扉が開いていたとして、どうする気だろう。今の自分に、そこから先屋敷の中を抜けて外まで行く力は、無い。それに今この瞬間、この扉が開く可能性だってあるのだ。霧野は低い位置から獣のように部屋の様相を見回した。部屋の中心にさっきまで自分を虐めていたばかでかい三角木馬という凶器が設置されて、他にめぼしい物は置かれていない。事務所の地下室であれば、ざっくばらんに、鉄パイプの一本や二本片付け忘れられていることもありえようものだが、何もない。這ったまま扉から後ろへじりじりと後退して、身体を床に横たえ、少しだけ休んだ、しかし、今すぐにでも、川名の、川名と一対一で会う時の姿勢にならないといけない。
川名が次に部屋に戻ってきた時、霧野は仕込まれた姿勢をとって待っていた。頭を上げる前に、川名の気配がすぐ側までやってきて、霧野の目元を布地で覆ったのだった。川名が立ち上がる気配、移動する気配。突いて来いと言われる前に、川名の移動する音に従ってついていくと、束ねられたままになっている手首をとられ縄が結わえられ、床の近くに縫い留められたらしかった。おそらく木馬の脚に結ばれたように思える。四つん這いのままでいると、背後から、徐に挿入され、「う゛……」と太い声が出た。一瞬だけ、川名のモノかと思うが、違う、さっきまで身体の中にあったのと同じものだ。上から小さな下着を履かされ(この着心地、それは、何度か履かされたこともある、おそらく川名の愛人の下着である)、挿入された肉棒を象った異物を出せないようにさせられる。
異物の底面を下着の上から靴の甲の部分で軽く蹴られたようだった。
「ぁ゛……!」
声を出すと、次に川名は靴の甲ではなく、靴底で踏み込むようにして霧野の身体の中にディルドを穿ちこむのだった、自然と、霧野の身体は四つん這いからだんだんと完全に床に臥せった姿勢になっていった。その上、背後から川名が一定の感覚で靴で霧野の尻を踏んだり、ディルドの底面を心地よい具合に踏み、蹴り込み、中を描きまわしているのだった。ぱんぱんと打撃が加えられるたびに、霧野の口から甘い声が漏れ始めていた。
「ぁ……っ、ぁ゛‥‥っ、ふ…ぅ゛…んん゛……っ」
蹴り込まれると、中の芯だけでなく、身体全身が揺らされ、全身で感じてしまうのだ。ぎしぎし、両手を強く握って理性をとどめようとする。やめてくれ、と、気持ちいい、とがないまぜになって、唸りになる。ぎしぎしと手首が音を立てる度、高まった。川名の靴底の感覚が尻肉に食い込んで、彼の体重と共に奥の奥にまでグぅ……っと彼の物ではないが、彼の物でもある肉棒が霧野の肉筒をまっすぐに押し開いては戻り、霧野が床に伏せながら、身体が逃げようとすれば、今度は背中、肩甲骨の間に足が乗せられて、ゆっくりと体重をかけられるのだった。
体重がかかって背面から、踏まれることで、うつ伏せになった身体の下で、肺が潰れる。はぁっ、はぁっ、と、呼吸が自然浅くなり、必死な感が出てくる。酸素が回らず、朦朧としてくると、全身がふわふわと浮いたような感じになるのに、目の奥が熱く脈打つのと、身体を踏まれた感触そして肉の中に彼の脚で何度も丁寧と同時に乱暴に蹴り込まれて打ち込まれたままになっている箇所は、火を噴いたように余計にはっきりとしてきて、霧野の雄は霧野の腹の下で大きく膨張して濡れ、床を濡らしていた。
ぁ、息が、できない、つまる、死、そのぎりぎりで肺の上の脚がどかされ、また同じように、いや、さっきより強くパンパンと靴裏で踏みつけられ淫欲で高まった柔らかな霧野の肉の谷間は延々と犯され続けた。
さっき木馬の上で自分の自重で苛め抜いた箇所を、霧野の望むような強さで、文字通り足蹴にされるという屈辱的な形で犯され続け、霧野は声を上げて鳴いたが、川名は入ってきてからまだ一言も声を出していない。しかし、川名がソコに居る気配、忘れられない視線、ふるまいのひとつひとつで、彼がそこにあることがわかる。霧野が達しても関係なく蹂躙は続く。背、肺を、時に頭を上から押さえつけらえる度、性の高まりと一緒に何かが壊れていった。
どのくらい蹂躙が続いたか、すっかり身体が動かなくなって、霧野の声も子猫の鳴くような程になったころ、気が付くと身体に触れるものがなくなり、目の前に川名の座って居る匂いと気配だけが感じられた。こっちへ来いと声に出して言っていないが、望まれている。
身体をそちらの方へ這わせていくと川名のさっきまで霧野の身体を蹂躙していた脚に到達した。上等なスーツの肌触りを右肩から腕にかけて、感じた。首輪に指がひっかけられ、頭の奥が、じん、とする。脳、熟れた果実、腐る直前の少し触れば崩れてしまいそうな果実の指を突き入れられたような、感覚。一本、軽く。
彼は椅子に座っている。指に導かれるように、彼の足もとにすり寄るようにして身を預けた。霧野の口からは小さな吐息が漏れ出ていた。指はまだ引っ掛けられたままで居て、頭をもっと上の方へ、と指示されている。彼の太ももに頬をこすり付けるようにしながらもっていくと、頬に彼の太ももから熱い血潮の感じが伝わってくるのだった。太ももに走る動脈、ここを切られると人は致命傷になって、死ぬ。だから、獣に襲われるとき、太ももを突かれる噛まれるなどすると、死ぬ。その部分に走る太い血脈に霧野は頬を当てていた。太ももに触れていない方の頬に冷たい手が触れて、まるで産毛を触るような手つきでなぞるのだった。一度撫でられるたびに全身に鳥肌が立ったあとに温かい感覚が全身に巡った。覆われた布の下で、霧野の視線も涙も自由であった。
川名の手は霧野の頬を何度か優しく往復し離れた。霧野の頭は何も瞳にうつさないまま、川名の離れ入った手を追うように、川名の太ももから離れて上を向いた。そこに、手のひらが飛んで、肉を打つ音がし、のけ反った顔の反対側を今度は川名の手の甲の側が打って、霧野の頭を真正面に向かせた。
目隠しをされた霧野の顔面は紅潮し、半ば口角が上がったまま開いて喘ぐ口からダラダラと涎が垂れていた。その涎が、川名の手を汚すので川名は手をハンカチで拭いながらしばらく、霧野を見下ろしていた。
霧野は再び川名の手が伸びてくるのを感じ、頭は逃げるでもなく媚びるように、川名の太ももに最初したように押し付けられるのだった。それで、浅い呼吸がまだ収まらない。このままだと、呼吸する度馬鹿になる。霧野は、自分を叱責する自分と、もっと欲しいと、欲望に溺れ、葛藤しながら身体が勝手に川名に擦り寄ってゆくのを感じた。
そうだ。今、この世界には、川名と、この情けの無い自分しかいないのだ。情けの無い自分など見ていたくない、自分では、ない、存在しなくていい。だから今だけ、別の者になったって、いいんじゃないか。誰が見ているでもない。見ているとすれば、この自分自身だけ。自分自身だけが、自分自身を許せないだけ。ああ!許せない!と思う程に、身体がどくどくとして、川名にすり寄ってしまう。はぁはぁと息づくたびに、自分という人間が、呼吸と汗や体液と一緒に、自我と言うものが流れ出ていってしまう様な感覚に襲われていた。消えろ、消えてしまえ自分なんか。そう思うと、獣の部分の自分が川名の太ももに噛みつきじゃれついてみたくもなる。
川名の手が、再び霧野の打たれて熱くなった頬を撫でた。身体の奥の肉芯が振るわされたような気になって、まだいれっぱなしになっている、さっき散々弄ばれた中の異物を、腰が勝手に動き、感じ始めた。ねだるようにくねる腰。川名の指が頬から目元の方へとのび、目隠しと顔の間に入り、ゆっくりとずらし始めた。光が、眩しい。
眩しすぎて、最初、世界は白かった。
だんだんと軽い冷笑を浮かべた、それは他人が見ればわからないが、霧野から見れば随分楽しそうな表情を浮かべた川名の顔が見えてきた。霧野の瞳は一瞬彼に呼応するように半ば口を開いたまま細められかけたが、その直後、霧野は川名の背後に立っている人間を目にして頭を殴られたようになって愕然と、目を右上の方から素早く右下、川名の靴元の方へと動かしたかと思うとそれきり、動けなくなってしまった。手放したはずの理性がみるみる鮮やかに色を噴いて目の前に戻ってきて霧野を襲った。
川名の座るすぐ背後に、川名以上に冷ややかな顔つきをした美里が、霧野を無言で見下していたのである。
ついぞ見たことの無い程に冷えた瞳をしていた。
だるいような倦怠の視線とも殺意の視線とも違う。
一体いつから居たのだろう。霧野の呆けていた口は元のように結ばれて奥歯を噛みしめていた。いくら噛みしめても、噛みしめれば噛みしめる程、顔が熱い。目を閉じても、彼らの瞳が頭に焼き付いて、離れてくれない。
考えるまでも無く、最初から居たのに違いなかった。扉の開く音はたった一度しかしなかったのだから。どれだけ都合よく考えようとしても、無理だ。彼は川名と一緒に入ってきて気配を消し、今までの愚直の、醜態の全てを直ぐ近くで観ていたのだ。それ以外の可能性を考えることができない。美里のことを恐ろしいと思ったことは、霧野にはこれまで殆ど無かった。霧野の心臓は、不思議な痛み方をして、呼吸が乱れ始めた。ほとんど忘れていた、誰かに何かされても俺のことを考えて俺にやられていると思えよと言った美里の言葉が急に頭の中に現れた。
霧野は盗み見るようにして、もう一度、川名ではなく美里の方へ目を向けた。美里は殆どさっきと変わらない顔をしていたが、川名ではなくまず先に彼の方を先に見たことに機嫌を良くしたのか一瞬だけ目元の険しさが和らいだ気がしたが、それもほんの瞬き一瞬のことで、すぐ戻る。霧野の都合の良い妄想かもしれなかった。心臓が音を立てはじめた。霧野はとても見ていられず、再び彼らを前にして首を垂れた。
「どうした?」
川名の口調に明らかに揶揄するような雰囲気が含まれていた。それは霧野だけでなく、彼の後ろにいる人間に対し、同時に言っているように霧野には思えた。やめてくれ、余計に頭が下がる。川名が立ち上っても霧野はそのまま俯いて、顔を上げることができずにいた。
「どうだ。俺の言った通り、誰が、どう見たって、元気だろ、こいつは。お前の心配なぞ杞憂なんだよ。……。いいぞ、連れて帰って。地下にでも戻しておいてやれ。こいつのためにも、これから色々と準備することがあるからな。」
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