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苦痛を好むくせに、許されることや褒められることも好む。
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植物は昼間光合成を行い、夜には気孔を開き全身を湿らせながら日中得た養分を身体に取り込んで成長する。一日中光をあて続けても育つことは無く枯れてしまう。霧野は湿ったコンクリート、マンホール、苔の上を通過しながら、元いた場所に戻りつつあった。
急ぐわけでもないのに、行く道より帰る道は、2人にとって非常に早く感じるのであった。霧野は診療所が見えてきて、「終わってしまう」と思ったほどであった。身体が彼を導く人間の脚に擦れた。脇腹が擦れると熱された身体の上で余韻の残る2つの蕾が隆起して、空気が肉に擦れ、下腹部に響き、手袋の中で握れない手が汗ばみミチミチと音を鳴らしていた。
美里は大ぶりの犬が、右に、左に、尾と尻を揺らしながら自身の足元に付き従うのをよく見ていた。前を見て自分を導かせるのは犬に任せていた。前を見ていなくても、彼が全てやってくれた。
何よりも彼を視てやることが大切だった。視ていると、犬はそれを刺激として、ちくちくと、感じるらしいからだった。何をさせたり、何を指示したりしたわけでもないのに、時おり身体をくゆらせて、息を吐き、唸っていた。闇の中に上気した皮膚と傷跡が浮かびあがっていた。
傷、以前であればやりすぎ、生死にかかわると思われる傷にばかり目がいったのに、今では細かい部分まで、だれになにをどうやってされたかまで気になり、異様に想像が掻き立てられ、想像の中で様々な男の手が彼を掴みあげて嬲っていた。 美里は自分の顔の表面が引きつってくるのを感じた。頭の奥の方が針でも刺されてるかのようにちくちくとして、何故かイライラとした。
たまに、遠くから人間の視線を感じたが、美里がそちらの方へ目をやると、気配は逃げるように急いで立ち消えるのだった。なにかおかしかった。今までも嫌でも人に見られることの方が多かったというのに、睨んだつもりもないのに人が消える。
ポケットで携帯が震えていた。1度足を止めて携帯を出した。鎖が一瞬音を立ててのびかけて、たわんだ。携帯を見ながら脛を犬の半身にはわせていた。強い脈拍が布越しに伝わった。
「·····はい」
電話の向こう側で誰かが何か喋っていたが美里にとっては、今、もはや全てのことが、どうでもよかった。ぼんやりと要件だけ聞きながら、空を見ながら足元の肉を踏んでいた。
「は?ああ、·····聞いてるよ。」
犬が声を上げまいと耐えてるのを感じる。余計に強く踏みしだき、しっぽの付け根あたりを靴底で押した。犬は身体を震わせながら軽く体をのけぞらせてから、身を低くして伏せっていた。
「ん?そうだよ、ノアと遊んでんの。な、ノア!」
下を向いた。
「·····!!」
言ったそばから、電話の内容が頭から飛んでいき、余計に足元でひとり反応する彼の肉、身体、顔に惹き付けられて目が離せない。暗い路地の底からぎらぎらとした瞳がこちらを見上げていた。獣が自分の足元で鎖に繋がれ蹲って今にも爆発しそうな気配で悦んで息づいていた。
電話を切り、要件だけ忘れないようメモしながら散歩を続けた。打った端から全て忘れながら、診療所に戻った。今ならばどこへだって行けるような気がした。今、この時間だけは。
「欲しいものはなんだって手に入る。与えてやってもいい。」と川名が言った。
魂だけだった物質に肉体が戻った。
結局金は大事だ。
街から少し離れた場所に、新しく家を借りた。家具も服も鞄も何もかも最初からついていた。川名が似合うものを選んだ。彼の選択、センスに間違いはなかった。車だけは自分で選んで買った。初めて物質に愛着を持った。1人でどこまでも行ける気がした。実際は、この街の中をただぐるぐると回っているだけとわかっていたけれど。
「物はもういい?じゃあ次は何がしたい?」
親殺し。人間の魂を破壊、破滅させること。
·····とは、答えなかった。言わなくても、通じていると思った。他の人間にはわからなくても。川名の元に来てからも、浮いていると感じる。誰と話しても何か話しが噛み合っていないような。川名とはまだ、話ができたが、彼も彼で常に美里とは別の場所を見ていた。
「特に·····」
親殺しは順調に行かなかったが、人間の、肉体や魂が壊れていくところ、破滅するところを沢山見ることが出来た。
それなのに満たされるどころか渇いた。破壊された魂は手元に残らなかった。一瞬の煌めき後で塵になってきえ、しばらく思い出として残るが、すぐ記憶から薄れ、誰が誰だったのかもうわからない。あれだけ儚かった人の魂がすぐにゴミになる。誰かが復讐に訪れることもあったが、誰の事か思い出すのに時間がかかった。川名はすっかり忘れて思い出しもしなかった。
このまま行くと止まらないだろうと残った良心が騒いだが、川名と同じになるならば、それはそれで、いいのではないだろうか。というか、何が悪い?他に何も求めるものもない。親殺しにも近づける。
遠くで犬の遠吠えがするのを2人は聞いた。
薄暗く散らかった部屋の床を霧野は這っていた。手の拘束、膝あては外されて、首輪と耳と尾が残っていた。影の中に白く美しい形が浮いて、床についた。しっとりとして、ぺた、と可愛らしい音を立てていた。彼はベッドの上に腰掛けてこちらを見降ろしていた。
姿勢を低くして口を開くと獣になったようだ。上から声がしていたが、気持ちのいい音として頭の中を反響して、意味を持ったり持たなかったりした。言葉よりも、下腹部の内側から疼き燃える感じの方を、明確に感じた。這って居る限り、強まり弱まりを繰り返し渦巻く快楽が永遠に続いた。
あられも無い姿を見られ、厳しく躾られ、人間を降りさせられている、と、意識するほど心が乱される、その心を捨てさり、相手に受け渡す。もっと、見せてはいけない姿を見せてしまったっていいのだ、見て欲しい、と霧野の気持ちは、伏せられたカードが次々とめくられるように反転していった。危いことをしていたい。
脚に口をつけた瞬間に、甘やかな気分が蘇る。ふ、ふ、と霧野の口から息が漏れ、足を咥えたまま上目遣いで美里を見上げた。月明かりの中で、濡れた口が動いていたが、よく聞き取れず、しかし、わかる。物言わぬ濡れた脚と反対に、彼の強い雄が頭上でシルエットを浮き立たせていたからだった。
視線を再び下げて、足を見た。皮膚が透けて青い血管がさっきより浮いてみえる。舐める程溶けるよう。これ以上舐めていたら溶け無くなるのではなかろうか。いつまでも脚に舌を這わせていたかったが、霧野の純な気持ちを裏切るかのように、霧野の雄も、いつの間にか目の前に見せつけられた戒めの塔に呼応するように、ピンと勃って赤く染めた先を濡らして、堂々と天をついていた。見て欲しいと思いながらも、隠したく、身体を伏せたまま、霧野の開いていた太腿が緊張して震え、閉じかける。下半身が重くなっていき、先端で熱を持った火傷の痛みを、ピアスの重みと共に、じん、と感じていた。
美里は大人しくされるがままにさせていた足を引っ込めて、霧野の顔の下に差し込んだ。
「かけてやるから、顔を上げてこっちに来いよ。」
美里の足の甲は、表面の青白さからは想像できない程、焼かれたように熱く、ヌルヌルとしていた。濡れた霧野の顔が股の狭間に上がってくる。美里は、そのまま太ももで顔を締めてやろうと思うが、そうせずに、自身の雄を、さっきまで脚で撫でていた彼の薄い頬に擦り付けた。
霧野は嫌悪と歓喜の入り交じったような複雑な表情のまま、ひゅっ、と息を吸った。そのまま呼吸すると微かな息遣いが敏感な美里の雄の胴体を擽るのだった。霧野の半開きの口で唾が糸をひいて、中で動いていた舌が肉の中に隠れるようにゆっくりと引っ込んで行き代わりに、ふぅ、と湿った息が漏れ出て雄を濡らす。それが繰り返される。一つ別の生き物が口の中に棲んでいるよう。
霧野は、美里の股の間で、指示をした訳でもないのにお座りの姿勢とったまま、紅潮した頬を欲望に擦り付けるようにしていた。まるでマテをさせられたいる犬だ。しっぽが臀の向こう側に垂れていた。
「顔が真っ赤だぞ。はぁはぁして·····、しゃぶりたくて仕方ないらしいな?立派なもんだよな!」
「·····」
「それとも、お前は、口に尿をぶちまけられるのを期待しているのか?もう、犬は辞め、また、便器にするか?散々餌の代わりにして飲ませたからな。忘れられないだろう?」
「·····、·····」
霧野が、太ももの間で顔を一瞬遠ざけようとする素振りを見せる。逃がすものかと、後頭部を掴んで引き寄せ、開きっぱなしの唇の隙間に限界を迎えそうなはち切れんばかりの雄を突き入れた。喉を抉られた犬は軽く吠えたが、手の下で強い抵抗は無くなっていく。小さく唸りながら、霧野は口内の雄を口から喉の奥まで使って丁寧にくちくちと吸いたてていた。トイレに使っていた時と同じ口とはとても思えなかった。間もなくゆるやかな射精の予兆がある。
「ん、·····、ぁ、」
美里は彼の頭を左手で強く抱くようにして、股座に強く押し付け、右手で自身の顔をおおった。指に力が入る。身体が震えて、頭の奥の方に疼くような感覚がある。ぶるぶると身体というよりも脳神経が揺らされ、感じていた。
「く……」
普段よりも、人前でする時よりよほど、違う感覚の中で高まっていく。あれほど眺めていたい霧野の顔を見られない。目をきつく閉じ、深い息を吐きだしながら、美里は達した。
彼の中に吐き出しながら、引き抜いていくと、白い糸が引き、漏れ、唇から顎をつたい垂れて胸に滴りほとばしり、正面からの月光に照らされて身体にラメを塗られたように白く輝いていた。だらしなく開いた唇と同じように、瞳がだらしなく濁り、病んだそのもの獣であった。
美里は思わず彼の頬を打った。顔が左を向き、そのまま俯いて、表情が見えないが、彼は我に返ったようになって、口を押えて軽く嘔吐きはじめた。打たれ我に返って嘔吐いたというのに、犬のペニスは赤く腫れたまま一切萎えることも無く、そりたって、いつまでも美里の方を向いていた。
「なんだ、今の淫乱面は。酷い顔だ·····。」
顔を上げた彼は、さっきとは違う鋭い普段の目付きで美里を見上げたが、やはり若干の淫蕩の気配がある。軽く嘔吐いたせいか、物理刺激で瞳の縁に涙が溜まり、目の下を上気させ、額に汗が浮いている。理性がどうであれ、興奮し、息が上がっていることには変わらず、物欲しそうに身体を震わせながら、這うようにして近づいてくる。彼が、左腕で美里の太ももを鷲掴み、右腕でベッドのシーツを掴み、腰を上げようとする。ベッドの上に這いあがるつもりか。美里は手綱を引くように、首輪を下に向かって引き下げた。霧野の頭が下を向き、素青に再び床に膝をつき、手も離れていった。掴まれた太ももが痛んだ。美里は声も上げず顔にも出さず、ほんの少しだけ眉をしかめ、耐え忍んだが背中にびっしょりと汗をかいていた。偶然にも神崎に刺され抉られた傷の痕の上だったのだ。
「…‥勝手に俺の身体に触るな。なんだ?俺に顔を叩かれてムラムラきたか?欲しくなったかよ、犬!さかりやがったな!こちらに尻を向け、尻尾を振って俺に、ぶちこんでほしいと、おねだりしてみろ。」
霧野は美里の足元で黙っていた。
「なぜやらない?日本語がわからないか?申し訳ないが、こっちはこっちで犬語はわからないんだ。大体、『戻ったら何でもお受けする』んじゃないのか?ん?俺がやれと言ったことをお前はやればいいんだ。お前の気持ちはお前ではなく、俺が判断してやる。お前ほどのあまのじゃくを他に知らないからな。」
彼は俯いたまま、のそのそと身体を動かし、美里に尻を向けて這い、豊満な双肉を向け、尻尾を振った。大きな尻の間でふぁさふぁさと揺れる尾を美里の脚の指が床に打ちとめて、そのまま引いた。淫らに腰をこすりたてていた霧野の身体が一度大きく跳ね、肉穴が収縮、拡張を繰り返しながら、裏返りめくれていった。震えながら、小さく狂乱の声をあげている。入口のところで引きを強めたり弱めたりすると、孔が大きく広がった。
「ぁぁ゛っ、!」
「はやくねだらないか。ずっとこのままにしたっていいんだぜ。」
「ぅ……っ、くふ、……、ぅ‥‥‥‥いれて、‥ぇ‥…そこに、ぶちこんでくれ……っ」
「そこ?そこってなんだ?」
「ぅ……、く……、尻のっ、中、っ」
「は??……もう一度だけチャンスをやるから言ってみろ。くだらねぇ誤魔化し方したら俺はもう帰るし、お前の前に二度と現われないぞ。」
「……ま゛、んこ…に…」
美里の脚が勢いよく尻尾を引き抜いた。ごと、と中身が落ちたその向こうに、ぽっかりと口を開いた肉穴が、ひくんひくんと蠢き、大きな尻がひときわ大きく蠢いた。
「ぁぁ!」
「マンコが余程気持ちよかったらしいな。ん?」
美里は足を彼の尻の上に乗せ、肉を伸ばすようにしながら、よく観察した。桃色に裂けた肛門から恥骨、背骨の際にかけてまで桃色は広がって、背中までを赤く染めていた。くち、と音を立てて、門がまた締まる。緩い股とは反対に、霧野の拳は強く、爪を立てて握られてフルフルと震え、青い血管が手から腕、それから首筋にはっきりと浮き出ていた。
美里は、彼の秘所に足の親指を擦りつけた。彼は一瞬驚いたように身体を浮かせ、それから姿勢を低くし、獣のような鳴き方で小さく呻きながら、豊満な尻を震わせた。親指を軽く肉の上で押しただけで、くぷぷ、と中にすべりこむように飲み込まれていった。脚ですると、精神をくすぐられるのか、玩具で攻めた時より、小さくてもよほど感じるようで、粘着質な音が響き渡る。
「ふん、人様の足の指で犬マンコをほじくられて、濡れ、勃起させて。なかなか最悪だぞ、今のお前って。」
「ふ、……っぐ、……っ、ひっ」
「気分はどう?」
肉を一層締めたてながら、一層低く霧野の頭が下がっていった。下がる頭の代わりにペニスは上に上がり、肉はすぼまって美里の親指を痙攣しながら抱き留めた。指を引き抜く。彼が目の前でぐったりと脱力していく。さっきよりほぐされ、さらに赤らんだ秘所、艶めかしく光ってもっと欲しいと震えていた。
「よかったのか?ありがとうございます。と、吠えていいぞ。」
「…ぁ…。ありがとう、ございます……犬のおマンコ、躾けていただい、……て……、」
犬は自分で言って自分で勝手に高まったらしく震えて、情けなく嗚咽し始めた。美里は嗚咽を聞きながら心の中が癒されていくのを感じ、また下半身に昂ぶりを覚えていた。情けが無いのだろうが、気持ちよくてたまらないようだ。それがマゾという哀れな生き物。それから、美里が見降ろす中、彼は体を起こし、緩慢なしぐさで美里の足元に這い戻ったかと思うと、また、さっき躾けたばかりだというのに、美里の身体を強く掴み、這い上ってこようとする。美里の中で、もう一度躾けてやろうという気持ちより、ここまでする犬がどうするのか様子を見てやろうという気持ちが勝った。
「いいぞ、お前が、したいようにして見せろ。礼もちゃんとできたし、ご褒美をやると言ったのは俺だからな。本来許されないが、少しくらい甘やかしてやる。」
彼は腰をこすりつけるようにして美里の上に跨った。その重みで倒れそうになるのを、美里は片腕をベッドについてふんばった。再び昂りを取り戻した美里の雄の上に、霧野はどっしりと腰を堕としていくのだった。
「ん、く…‥」
美里は自分の雄が彼の身体の中に格納されていくのを首輪を引き寄せながら見ていた。どすん、と、すっかり中にはいってしまうと、中のマグマのような熱さと柔らかさに、自他の境目がなくなっていくのだった。チェーンを握った手の中が湿り、すべり、力が入りづらくなっていく。美里の指先が震え、発汗した。発汗した美里の首筋に霧野の手が伸びた。美里の視線の先に霧野の臍が見えた。筋肉と薄い脂肪の上を皮膚が覆い、臍の窪みは深く腹筋をえぐり、彼の呼吸にあわせて、形を小さく変えていた。彼の全身が呼吸していた。美里は、リードを持った方の手を彼の腰に這わせた。
「なんだ……また殺人未遂か?できもしねぇくせに。」
霧野の指先に若干力が入ったが、それ以上締め上げられることも無く、触れられる程度になり、掴むというより撫で始めた。反対に美里はチェーンを強く引いた。黙ったままの彼の頭が、首輪に導かれて、下がる感じがした。同時に中が蠢いて締まるのを美里の雄は感じ、中で一層大きくなって、チェーンを持つ手が緩む。
美里が軽く身体を揺らすと、大きくなった雄が、霧野を抉り、彼が「ぁっ」と声を上げ、軽く身体をのけぞらせて天を仰ぎ、鎖が音を立てて美里の手の中から蛇のように逃げようとする。再びしっかりとチェーンを握り止め思い切り下に引いた。ジャッと鎖が音を鳴らし、また彼の頭が引きさがる。
美里のすぐ上に彼の顔があるのがわかる。ふぅふぅ、と、濃い湿った息遣いが、美里の髪を揺らし、額を濡らしていた。しばらくそのまま、息遣いだけが薄暗い部屋の中で響いていた。美里より大きな霧野が、上に跨っているので、必然的に美里が彼の顔を伺うには顔をあげ、見上げなくてはいけなかった。それがなかなかできない。一つ息をついて、美里は彼を見上げた。
闇の中で煌々とした瞳が美里を見降ろしており、呟いた。
「こうして、ほしかったんだろ……」
脳の奥の方、灰の中で燻っていた火花のような感覚が業火とへ化け、今ここに彼とあるという感覚以外の全てを焼き尽くし、身を激しく滾らせた。毛が逆立つような感覚と共に、彼を掴む指先に力が入っていく。そのまま皮膚を突き破ってしまいたい。初めて何かを欲しいと思った。破壊とは別のやり方で。
◆
星が、朝焼けの空の中で太陽と同化して、鋭い輝きを失いつつあった。
早朝の空気は、淀んだ路地を全く違ったものに見せる。どこからか、とんとんとん、と、まな板の上で包丁を動かす音が聞こえる。あの部屋にキッチンがあれば便利だ、と美里は一瞬思った。急速に腹が減り始めた。明確な空腹を感じるのは久しぶりの事だった。身体が飢えていた。なんでもいいから口に含みたい。自分がこんなに減るということは、目覚めたら、奴はもっと腹を空かせているに違いないが、当分は目覚めないだろうと思われた。
一度家に帰り何かを作って持ってくる、それをお皿にこんもり盛って足元で食べさせる。想像をすると気分が高まったが、そうも言っていられないのだ。姫宮に、台所を貸してくれという仲でもない。彼のプライベートなことは詳しく知らない。年で言えば、二条とほとんど変わらないか少し上くらいに見える。川名や葉山を除けば、珍しく彼と親しくタメ口をきける人間だった。
靴の下で何か踏んだ感触があった。靴をあげると渇いた蛾の死骸だった。
踏む前から羽が焦げ爛れて鱗粉を撒き散らしていた。
美里は舌打ちをして、革靴の底を地面にこすりつける。素足のせいで、靴の中が蒸れ、余計に気持ちが悪い。
美里が気晴らしの散歩から戻ると、姫宮が診療所の外で屈みこんでいた。彼は外に置かれた植木鉢に水をやっていた。朝露に濡れた植物の上で玉のようになった水が浮いていた。
「早いんですね。闇医者なんて夕方くらいから起きてくるのかと思ってましたよ。」
「夜中、君達が随分と煩かったからね。」
彼は真っ赤なジョウロを傾けながら言って、美里を意味深な笑みで振り向いた。反対に美里の表情が強ばった。
「……なんてね。おいおい、そんな怖い顔をするなよ。俺はいつでもぐっすり快眠派だからな。心配するな。それに、昼は昼で必要あればマトモに診察する。不法入国者や戸籍の無い子どもなんかも最近じゃ多いからね。オールマイティにやることにしている。オールマイティにやればやるほど敵を作りにくい。これは助言だよ。」
彼は立ち上がり、また別の鉢に水をやり、葉の様子を確認し、土に指を挿しいれて湿り気を確認する。植物は様々な形をしているがどれも生き生きとして太陽にその葉を晒していた。
一つの鉢の前で美里も屈んでみた。最初、美里が水を滴らせていると思った植物は、よく見れば食虫植物で、水と思っていた浮いた水滴は、虫を捕らえるための粘液であった。黒い染み、掠れた汚れのような物がひとつ、不自然に葉の上に浮いていた。
「興味がある?」
「·····。なくもないですね。俺が、というか、川名さんが時々俺に花を買ってこさせたり、切花の手入れをさせるから。育て方が気になった。俺の手入れが良くないのか、すぐに枯らしてしまうことがある。」
「なるほど。残念ながらここにある物達はあまり花は咲かせない。じっくりと栄養で身体を肥え太させながら、成長するタイプだ。·····汚れが気になるかい?それは3日くらい前まで蝿だった物だ。·····困るんだよ。まだ成長過程にある物については、栄養過多にし過ぎても植物の身体には毒なのだ。勝手に忍び込んで栄養になって、勝手に死にやがった!ふん……、そこに、少し元気のないネペンテスがあるだろう。そうだ、そこの赤い奴。たまに近所の子どもなんかが悪戯で蟻や子蜘蛛なんか中に堕とす時もあるんだ。困ったものだよな。まぁ、子どものやることだ、いちいち叱る気も起きないけれど。本来ならもっと大きく肉厚に育ったはずなんだがね。」
真っ赤に熟れたどくどくしい色をしたネペンテスには育ちが良い物と悪い物があった。育ちの悪い物は小ぶりで、皮も薄く、発色も悪く黒い。一方、育ちのいい物は人間のペニス程のサイズを誇り、どっしりと肉厚であるというのに、ぽっかりと開き捲れた口を濡らし、涎を垂らしながら食欲を満たそうと来客をいまかいまかと待ち受けていた。思わず指をいれたくなってしまう気持ちはわかる。
「·····。」
「アネモネをあそこに置いたのも君だな。」
「見舞いとして置くように言われたから、適当に選んで置いただけです。」
「誰も手入れをしないから、大分腐っていたよ。」
さっきから、何か遠回しな嫌味なのだろうかと横目で姫宮を見ていたが、彼は、下の方で枯れた葉を毟って地面に捨て、土になじませるように踏んで潰していた。川名に慣れすぎて何もかも深くとらえすぎなのだろうか。
「君はこれから仕事かな。」
「そうですね、1度家で湯浴みもしたいし、そろそろ行かないといけません。近々迎えに来ると思いますが。」
「そうかい。そりゃあ残念だな。」
姫宮は霧野を嬲っただろうが、抱きもしただろうと思った。どんな風に抱いただろう。きっと彼の精神を脅かすやり方をしたのではないか。彼自身のいやらしい部分を自覚させるようなやり方で。
「·····。」
美里は、病室に戻る前に病院の裏手に回った。そこに小さな裏庭がある。
昨日の日中帯に一度、ここに立ち寄っていた。姫宮も霧野も見当たらず、出かけているのか、とあきらめて帰ろうとした時だった。診療所の建物と塀の間に微妙な狭い通路があるのを見つけた。普段であったら、そんな場所を通ろうとは思わないのだが、直観的にひきつけられた。
細道を抜けると、塀に囲まれ、芝が引かれ植木に囲まれた小さな裏庭があった。
姫宮はそこで、キャンピングチェアを置いて座って本を読んでいた。
「昼間から優雅なもんですね。」
言いながら、美里は裏庭の少し淀んだ空気に、来たは良いものの居心地を悪くし始めていた。何が、というわけではない。ただ、川名の邸宅にも同じような特殊な雰囲気を感じる場所が存在した。この感じは事務所の地下室にも近い。
「美里君か、随分といいタイミングで来たね。ここはプライベートな空間だから本来は立ち入ってほしくないんだが、君だったら·····まあ、仲間に入れもいい。二条辺りは嫌がるだろうが。」
姫宮は意味深な笑みを浮かべた。
「それに、下手に締め出して君の主の機嫌を損ねてもことだからな。」
彼はしばらく本に目を落としてた。彼はパタリと本を閉じて立ち上がった。
「アイツは。」
「霧野君?そこにいるよ。」
裏庭にいるのは、どう見ても姫宮と美里だけである。目を凝らしてみるが他に人の姿はない。姫宮は指を何も無い空間、芝の方に向かってさした。
「そこだよ、そこ。」
「?」
埋めた?よく見ると、伸びた芝の中に、正方形の錆びた重くるしい鉄の扉があった。扉は間を空けて3つあり、1番左の扉にだけ、南京錠がかかっていた。
「1番左にいれてある。手術台に乗せて遊んでいる内に勝手にぶっ壊れて、起きなくなった罰として堕としておいたんだ。とはいえ、あそこは1番楽な場所だから、意外と居心地よく寝ているのかもしないね。後のふたつはもっときついから。」
「なんすか、あれ。」
「『穴牢』と呼んでいる。名前の通り地面に直接穴を掘って作らせた牢だ。左が1番浅く、壁も土を固めて作らせてある。ほとんど光は入らないが、扉に微かに隙間があるから、苦しいかもしれないが窒息することも無い。しかし、暗く、狭く、身動きも取れない土の中で、身体をじわじわと蒸され焼かれるのだ。いつ開くかも分からない穴の底でな。冬は冬で、裸のまま地中に埋めてもある程度耐えられる構造だから、孤独に長い時間を過ごせる。そうしているうちに、たまに上を歩いてやっただけで悦ぶようになるんだよ。才能があれば射精さえ。」
「·····」
「この時間、今の季節はまだマシな方だよ。真夏だと地獄を見ることになるからね。だから一番愉しいのも夏ということだ。ここは好みもわかれるだろうけど。尋問にも使えるだろうから、君達もとりいれたら?」
姫宮は霧野が入っているという扉の上に立った。
「また、こうして簡単に穴を塞いでやることも出来る。」
姫宮は足で扉の隙間の上にたち、軽く土をかけた。
「光と空気まで、こちらの一存で簡単に奪える。相手を見ずに殺すことだって。面白いだろう。」
身体にじわりと嫌な汗をかいたが、共に奇妙な高揚感が立ち上る。彼が下層空間に閉じ込められ暗闇で悶えていることを考えると、なにか擽られる。姫宮はは土を払い除け、扉からどいた。
「君もここに立ってみろよ。起きてたら、下の彼も上に人に立たれ、自分の存在を踏みつけにされ、命を握られていることがわかるはず。そういう意味でこれはいいんだ。立場を精神的に解らせるのに良い。」
「·····。」
姫宮の方に近づき扉の上を何度か通過した。中からは音ひとつせず、そこに、本当にあの大きな男が入っているのか疑問だった。中で気を失い、そのまま……、ぞっとするものがある。
「これじゃあ、中で死んでても、わからないんじゃ……」
「大丈夫だ、それは。」
姫宮はポケットから計器のようなものを取りだし、微笑んだ。それは、手の中にすっぽり収まる小ささだ。計器の中で複数の針が揺れていた。姫宮は手の中で微かに震えながら揺れ続ける針を見つめた。命が握られているようだった。
「入る前に足首に脈拍計をつけさせることにしてる。牢の中にもわからないように小さい計器や機材をいくつか埋めてるんだ。異常があればすぐに分かる。·····、俺が、一体、何のために医者になったと思ってるんだい?」
「·····。そうですか、物好きなものだ。」
「雛鳥は生まれた瞬間に見たものを親だと思うだろう。ここではそれに近いことが出来る。」
「·····つまり?」
「この狭い穴蔵の中、限界状態に陥ってすることもなく、只管、闇の中にいるしかない。いつ開くかもわからぬ空を眺め続けて、朦朧とした意識の中、文字通り身焦がしながら、待ち続けて、自己存在を反省する。解放の時、許された時の感覚はきっと凄まじいものがあると思わないかい。」
姫宮のやろうとしていること、言わんとしていることはよくわかった。良いタイミングで来たという訳も。
「なるほど。マゾは苦痛を好むくせに、許されることや褒められることも好む、矛盾した、気持ちの悪い魂を持った生物ですからね。」
「·····ふふ、面白いこと言うね。ちょうどそろそろ開けてやろうとおもってたんだ。計器は無事とはいえ、朦朧とした状態で堕としたからな。看てやる必要もある。金を払った奴隷、俺の奴隷という訳でもないし。」
奴隷、姫宮の口からその言葉が平然と出ていくのを美里はぼんやりと聞いていた。二条も美里に奴隷の話をした。自分の奴隷が欲しいのかと。そもそもこの場所は一体なんだ?奴隷とやらを躾けるためにわざわざ作られた場所とでも言うのだろうか。
美里は姫宮が牢を開けるのをすぐ横に立ってみていた。むわっとした土の香りと熱気が立ち上る。土で固められた穴の底、2m半程下の底のところに、汗ばんだ、一糸まとわぬ、熱で赤らんだ肉が蹲っていた。
肉は、壁に手を着いて立とうとするが、できず、滑り落ち、全体に朦朧とし、口が半ば開いて喘ぐように呼吸をしていた。
美里と姫宮は何も言わずソレを見ていた。上界では涼しい風がふいて美里と姫宮の髪を揺らしていた。
虚ろな瞳がゆっくりと上を見上げ、黒い瞳が濡れて揺れ、大きく見開かれたと思えば、一瞬だけ恍惚とした輝きと共に、眩しそうに細られ、姫宮と美里の姿を黒い瞳の中にとらえていた。しばらくそうしていたかと思うと、騒ぎ立てることも無く、また気を失うように体から力を抜き、目を閉じてぐったりと蹲ってしまう。目を開こうと頑張っている様子、口を開こうとしているのもわかるが、半ば意識が飛んだままなのか、うまくできないでいる。
「·····。」
「まだ眠いらしい。でも、これで軽い刷り込みは終わった。彼は無意識に俺と君の姿を脳に刻んだはずだ。ま、これくらいじゃ弱い。お試し版だな。気休め程度なら効果はあるかもな。後はシロに引き上げてもらうから、君は見学か、手伝ってくれてやってもいいし、帰ってもいい。今すぐ彼と遊ぶのは無理だろうから、夜にでも出直すといい。看ておくよ。もし何かあったら声をかけてくれ。」
そうして姫宮と入れ替わるようにシロと呼ばれた一人の男がやってきて、霧野を引きあげたのだった。彼は挨拶さえなく、何も言わない。姫宮が奴隷という直接的な言葉を出したから、嫌な想像が働く。名前からして怪しいではないか。
美里も興味がなく、ほとんど相手を見なかった。知りたくなかったこともあり、男の存在を無視していた。人間と関わる時、敢えて無視をする必要があることがある。得体の知れない初対面の下層の人間と接する時はそれが一番いい。ファーストインプレッションは重要だ。だからこそ、一番最初に徹底的に無視をするに限る。それに、霧野が何か錯乱したように小さくうなされており、それを観察している方が面白かった。さっきまで真っ赤だったというのに、まだらに白くなっている。
彼を手伝って病室まで霧野を運び、1度病院を後にしたのだった。
そして再び、いま、裏庭に。穴牢はどれも鍵がつけられておらず、空室のようだった。美里はここを去る前に他のふたつの穴の中がどうなっているのかを確認したかった。
2つ目の穴は、コンクリートで補強され、1つ目の穴よりずっと深かった。3つ目の穴は棺のように浅い。しかし、壁の四方に薄い鉄かアルミ板のようなものが張られていた。美里は2つ目の穴より3つ目の穴をよく観察した。よく見れば扉の内側に爪で引っ掻いたような痕が複数残っていた。使用実績があるということだ。
「ふふ·····、何が穴牢だよ。小洒落たこと言いやがって、ただの人間蒸し器じゃねぇか·····悪趣味だぜ、先生。」
中に誰もいないのに、汗と血の臭いを嗅いだような気になった。くぐもった悲鳴さえ聞こえてきそうだった。負の感情の積もった暗闇を見下ろしていると、恐怖より先に、何故か気持ちが落ち着いたが、中に入れられる人間はたまったものではないだろう。早々に熱中症になり、身体より先に頭がどうにかなるだろう。
人間の脳はタンパク質でできている。という話を二条から聞いた覚えがある。澤野が、二条から引き継いで面倒を見ているらしい農場から鶏卵をもらってきて、必要ならやる、と返事も聞かずに勝手に人のデスクの上に1パック分置いたのだった。別にいらないが、と、口には出さず彼を見ると、彼は卵は高たんぱくで筋肉の成長にもよく、と聞いても無い無駄知恵話をいつまでも話そうとする。遮っても面倒なので黙って聞いてやっていると、二条がやってきて一つ卵を手に取った。彼の手の中に卵がはまりこんで小さく見える。
「ここのは餌がいいんだから、もらっておけよ。」
二条が餌がイイというと、余計に怪しい卵に見えて嫌だったが、彼にまで推されて拒否はできないのだったし、彼が話し出せば澤野も黙るのだった。
「脳もタンパク質でできている。人間の頭を焼くとな、脳が物理的にさらに固く変質するんだよ。生卵を茹でると固くなるように、ぶにぶにと。硬ゆで卵のような状態になる。」
「人間の頭を、焼く?」
澤野の鶏卵の栄養についてのどうでもいい話より興味をそそられた。
「お前も軽い熱中症くらいかかったことがあるだろう。その時くらくらくるのも脳が茹で上がって脳そのものが変容しているからだ。脳神経がぷちぷちと圧迫されるんだな。嘔吐するのもそういうわけだ。」
「へぇ·····それは元に戻るもんなんすかね?」
二条が嬉々として話し続けた。普段美里に対してあからさまに見下した態度をとる彼であったが、時折わかりやすく気分が良い時は、そうでもなかった。その度に川名がまた餌でも与えたかな、と思うことにしていた。元々弁が立つ男だったが、さらに饒舌になった。しかし、澤野と二条の二人に囲まれていると相乗効果で圧が増してむさ苦しい。もし彼らがセールスなどで玄関先に来たら話も半ば理解しないままに早々に印鑑を押して追い払いたくなる一般人も多いだろう。それから彼は続けた。
「古今東西、熱を利用した拷問は非常に多い。数えあげればキリがないが、歴史の浅いアメリカにさえあるんだから。学がないお前に想像が着くかな。」
「·····さぁ。俺はアメリカがいつできたかもよく知らねぇですから。行ったこともありませんし。国旗くらいは知ってますけど。」
お子様ランチに刺さった星条旗が思い浮かんだ。頭の中で国旗をオムライスから抜き、尖った部分を誰かの皮膚に突き刺すことを考えた。
「奴隷の躾に使うのさ。屋敷の庭で1番日当たりのいいところ、それから屋敷から見えるところに穴を掘り、鉄でできた人が1人寝れるかどうかの空間を作る。そこに裸にした奴隷を入れ、放置して焼くのだ。数時間?、1日?、死なぬ程度の休息を入れて数日?1週間、とか?なんでもいいな。」
美里は最も過酷な牢の扉を閉めて立ち上がり、霧野のいる部屋へ戻った。朝陽に溢れた部屋は夜と趣を異にする。光線が部屋を白く照らす。
辺りに散乱した物を片付け、大半をバッグに詰め戻した。結構な物音を立てたが、彼は眠ったままだった。それから、勝手に拝借した洗面器とタオルも片付ける。昨夜出来上がった彼の身体を、風呂にいれさせる代わりに、隅々まで拭いたのだ。
彼は恥ずかしがりくすぐったいらしく、自分でやると嫌がった。
「臭いし汚いんだよお前は、散歩の後は犬だって足くらい大人しく主に拭かれるだろ。痛みには強いくせして、そのくらいのことも、耐えられないのか?犬以下の蛆虫のような奴だ。……それとも、また、ベッドに拘束して、じっくりとやる方がいいかよ?あ?……まだ終わってないんだよ。それに、お前がそんな臭い身体、四六時中どこでも淫臭を振りまいていたら、管理がなってないと俺が怒られる。」
美里がそういうと、彼は大人しく、恥じながらも、頭の先から脚の裏、脇の下、股の間から性器や肛門の窪みまで、拭かれていた。
美里は髪をかきあげながら、暫く彼を無表情に見降ろしていた。頭まで布団を被っているから表情は見えないが、静かに布団が規則的に上下していることを見るとよく寝れているらしい。
「腹立たしい犬だな。」
彼は身体をうつ伏せにして寝ていたが、手首に擦れた赤みのついた片手を枕の下に突っ込んでいた。枕の下からは青紫の布の一部が覗いていた。
「……。」
革靴の中で指がむず痒くなる。美里は居心地悪そうに靴の中の素足の指を動かした。
急ぐわけでもないのに、行く道より帰る道は、2人にとって非常に早く感じるのであった。霧野は診療所が見えてきて、「終わってしまう」と思ったほどであった。身体が彼を導く人間の脚に擦れた。脇腹が擦れると熱された身体の上で余韻の残る2つの蕾が隆起して、空気が肉に擦れ、下腹部に響き、手袋の中で握れない手が汗ばみミチミチと音を鳴らしていた。
美里は大ぶりの犬が、右に、左に、尾と尻を揺らしながら自身の足元に付き従うのをよく見ていた。前を見て自分を導かせるのは犬に任せていた。前を見ていなくても、彼が全てやってくれた。
何よりも彼を視てやることが大切だった。視ていると、犬はそれを刺激として、ちくちくと、感じるらしいからだった。何をさせたり、何を指示したりしたわけでもないのに、時おり身体をくゆらせて、息を吐き、唸っていた。闇の中に上気した皮膚と傷跡が浮かびあがっていた。
傷、以前であればやりすぎ、生死にかかわると思われる傷にばかり目がいったのに、今では細かい部分まで、だれになにをどうやってされたかまで気になり、異様に想像が掻き立てられ、想像の中で様々な男の手が彼を掴みあげて嬲っていた。 美里は自分の顔の表面が引きつってくるのを感じた。頭の奥の方が針でも刺されてるかのようにちくちくとして、何故かイライラとした。
たまに、遠くから人間の視線を感じたが、美里がそちらの方へ目をやると、気配は逃げるように急いで立ち消えるのだった。なにかおかしかった。今までも嫌でも人に見られることの方が多かったというのに、睨んだつもりもないのに人が消える。
ポケットで携帯が震えていた。1度足を止めて携帯を出した。鎖が一瞬音を立ててのびかけて、たわんだ。携帯を見ながら脛を犬の半身にはわせていた。強い脈拍が布越しに伝わった。
「·····はい」
電話の向こう側で誰かが何か喋っていたが美里にとっては、今、もはや全てのことが、どうでもよかった。ぼんやりと要件だけ聞きながら、空を見ながら足元の肉を踏んでいた。
「は?ああ、·····聞いてるよ。」
犬が声を上げまいと耐えてるのを感じる。余計に強く踏みしだき、しっぽの付け根あたりを靴底で押した。犬は身体を震わせながら軽く体をのけぞらせてから、身を低くして伏せっていた。
「ん?そうだよ、ノアと遊んでんの。な、ノア!」
下を向いた。
「·····!!」
言ったそばから、電話の内容が頭から飛んでいき、余計に足元でひとり反応する彼の肉、身体、顔に惹き付けられて目が離せない。暗い路地の底からぎらぎらとした瞳がこちらを見上げていた。獣が自分の足元で鎖に繋がれ蹲って今にも爆発しそうな気配で悦んで息づいていた。
電話を切り、要件だけ忘れないようメモしながら散歩を続けた。打った端から全て忘れながら、診療所に戻った。今ならばどこへだって行けるような気がした。今、この時間だけは。
「欲しいものはなんだって手に入る。与えてやってもいい。」と川名が言った。
魂だけだった物質に肉体が戻った。
結局金は大事だ。
街から少し離れた場所に、新しく家を借りた。家具も服も鞄も何もかも最初からついていた。川名が似合うものを選んだ。彼の選択、センスに間違いはなかった。車だけは自分で選んで買った。初めて物質に愛着を持った。1人でどこまでも行ける気がした。実際は、この街の中をただぐるぐると回っているだけとわかっていたけれど。
「物はもういい?じゃあ次は何がしたい?」
親殺し。人間の魂を破壊、破滅させること。
·····とは、答えなかった。言わなくても、通じていると思った。他の人間にはわからなくても。川名の元に来てからも、浮いていると感じる。誰と話しても何か話しが噛み合っていないような。川名とはまだ、話ができたが、彼も彼で常に美里とは別の場所を見ていた。
「特に·····」
親殺しは順調に行かなかったが、人間の、肉体や魂が壊れていくところ、破滅するところを沢山見ることが出来た。
それなのに満たされるどころか渇いた。破壊された魂は手元に残らなかった。一瞬の煌めき後で塵になってきえ、しばらく思い出として残るが、すぐ記憶から薄れ、誰が誰だったのかもうわからない。あれだけ儚かった人の魂がすぐにゴミになる。誰かが復讐に訪れることもあったが、誰の事か思い出すのに時間がかかった。川名はすっかり忘れて思い出しもしなかった。
このまま行くと止まらないだろうと残った良心が騒いだが、川名と同じになるならば、それはそれで、いいのではないだろうか。というか、何が悪い?他に何も求めるものもない。親殺しにも近づける。
遠くで犬の遠吠えがするのを2人は聞いた。
薄暗く散らかった部屋の床を霧野は這っていた。手の拘束、膝あては外されて、首輪と耳と尾が残っていた。影の中に白く美しい形が浮いて、床についた。しっとりとして、ぺた、と可愛らしい音を立てていた。彼はベッドの上に腰掛けてこちらを見降ろしていた。
姿勢を低くして口を開くと獣になったようだ。上から声がしていたが、気持ちのいい音として頭の中を反響して、意味を持ったり持たなかったりした。言葉よりも、下腹部の内側から疼き燃える感じの方を、明確に感じた。這って居る限り、強まり弱まりを繰り返し渦巻く快楽が永遠に続いた。
あられも無い姿を見られ、厳しく躾られ、人間を降りさせられている、と、意識するほど心が乱される、その心を捨てさり、相手に受け渡す。もっと、見せてはいけない姿を見せてしまったっていいのだ、見て欲しい、と霧野の気持ちは、伏せられたカードが次々とめくられるように反転していった。危いことをしていたい。
脚に口をつけた瞬間に、甘やかな気分が蘇る。ふ、ふ、と霧野の口から息が漏れ、足を咥えたまま上目遣いで美里を見上げた。月明かりの中で、濡れた口が動いていたが、よく聞き取れず、しかし、わかる。物言わぬ濡れた脚と反対に、彼の強い雄が頭上でシルエットを浮き立たせていたからだった。
視線を再び下げて、足を見た。皮膚が透けて青い血管がさっきより浮いてみえる。舐める程溶けるよう。これ以上舐めていたら溶け無くなるのではなかろうか。いつまでも脚に舌を這わせていたかったが、霧野の純な気持ちを裏切るかのように、霧野の雄も、いつの間にか目の前に見せつけられた戒めの塔に呼応するように、ピンと勃って赤く染めた先を濡らして、堂々と天をついていた。見て欲しいと思いながらも、隠したく、身体を伏せたまま、霧野の開いていた太腿が緊張して震え、閉じかける。下半身が重くなっていき、先端で熱を持った火傷の痛みを、ピアスの重みと共に、じん、と感じていた。
美里は大人しくされるがままにさせていた足を引っ込めて、霧野の顔の下に差し込んだ。
「かけてやるから、顔を上げてこっちに来いよ。」
美里の足の甲は、表面の青白さからは想像できない程、焼かれたように熱く、ヌルヌルとしていた。濡れた霧野の顔が股の狭間に上がってくる。美里は、そのまま太ももで顔を締めてやろうと思うが、そうせずに、自身の雄を、さっきまで脚で撫でていた彼の薄い頬に擦り付けた。
霧野は嫌悪と歓喜の入り交じったような複雑な表情のまま、ひゅっ、と息を吸った。そのまま呼吸すると微かな息遣いが敏感な美里の雄の胴体を擽るのだった。霧野の半開きの口で唾が糸をひいて、中で動いていた舌が肉の中に隠れるようにゆっくりと引っ込んで行き代わりに、ふぅ、と湿った息が漏れ出て雄を濡らす。それが繰り返される。一つ別の生き物が口の中に棲んでいるよう。
霧野は、美里の股の間で、指示をした訳でもないのにお座りの姿勢とったまま、紅潮した頬を欲望に擦り付けるようにしていた。まるでマテをさせられたいる犬だ。しっぽが臀の向こう側に垂れていた。
「顔が真っ赤だぞ。はぁはぁして·····、しゃぶりたくて仕方ないらしいな?立派なもんだよな!」
「·····」
「それとも、お前は、口に尿をぶちまけられるのを期待しているのか?もう、犬は辞め、また、便器にするか?散々餌の代わりにして飲ませたからな。忘れられないだろう?」
「·····、·····」
霧野が、太ももの間で顔を一瞬遠ざけようとする素振りを見せる。逃がすものかと、後頭部を掴んで引き寄せ、開きっぱなしの唇の隙間に限界を迎えそうなはち切れんばかりの雄を突き入れた。喉を抉られた犬は軽く吠えたが、手の下で強い抵抗は無くなっていく。小さく唸りながら、霧野は口内の雄を口から喉の奥まで使って丁寧にくちくちと吸いたてていた。トイレに使っていた時と同じ口とはとても思えなかった。間もなくゆるやかな射精の予兆がある。
「ん、·····、ぁ、」
美里は彼の頭を左手で強く抱くようにして、股座に強く押し付け、右手で自身の顔をおおった。指に力が入る。身体が震えて、頭の奥の方に疼くような感覚がある。ぶるぶると身体というよりも脳神経が揺らされ、感じていた。
「く……」
普段よりも、人前でする時よりよほど、違う感覚の中で高まっていく。あれほど眺めていたい霧野の顔を見られない。目をきつく閉じ、深い息を吐きだしながら、美里は達した。
彼の中に吐き出しながら、引き抜いていくと、白い糸が引き、漏れ、唇から顎をつたい垂れて胸に滴りほとばしり、正面からの月光に照らされて身体にラメを塗られたように白く輝いていた。だらしなく開いた唇と同じように、瞳がだらしなく濁り、病んだそのもの獣であった。
美里は思わず彼の頬を打った。顔が左を向き、そのまま俯いて、表情が見えないが、彼は我に返ったようになって、口を押えて軽く嘔吐きはじめた。打たれ我に返って嘔吐いたというのに、犬のペニスは赤く腫れたまま一切萎えることも無く、そりたって、いつまでも美里の方を向いていた。
「なんだ、今の淫乱面は。酷い顔だ·····。」
顔を上げた彼は、さっきとは違う鋭い普段の目付きで美里を見上げたが、やはり若干の淫蕩の気配がある。軽く嘔吐いたせいか、物理刺激で瞳の縁に涙が溜まり、目の下を上気させ、額に汗が浮いている。理性がどうであれ、興奮し、息が上がっていることには変わらず、物欲しそうに身体を震わせながら、這うようにして近づいてくる。彼が、左腕で美里の太ももを鷲掴み、右腕でベッドのシーツを掴み、腰を上げようとする。ベッドの上に這いあがるつもりか。美里は手綱を引くように、首輪を下に向かって引き下げた。霧野の頭が下を向き、素青に再び床に膝をつき、手も離れていった。掴まれた太ももが痛んだ。美里は声も上げず顔にも出さず、ほんの少しだけ眉をしかめ、耐え忍んだが背中にびっしょりと汗をかいていた。偶然にも神崎に刺され抉られた傷の痕の上だったのだ。
「…‥勝手に俺の身体に触るな。なんだ?俺に顔を叩かれてムラムラきたか?欲しくなったかよ、犬!さかりやがったな!こちらに尻を向け、尻尾を振って俺に、ぶちこんでほしいと、おねだりしてみろ。」
霧野は美里の足元で黙っていた。
「なぜやらない?日本語がわからないか?申し訳ないが、こっちはこっちで犬語はわからないんだ。大体、『戻ったら何でもお受けする』んじゃないのか?ん?俺がやれと言ったことをお前はやればいいんだ。お前の気持ちはお前ではなく、俺が判断してやる。お前ほどのあまのじゃくを他に知らないからな。」
彼は俯いたまま、のそのそと身体を動かし、美里に尻を向けて這い、豊満な双肉を向け、尻尾を振った。大きな尻の間でふぁさふぁさと揺れる尾を美里の脚の指が床に打ちとめて、そのまま引いた。淫らに腰をこすりたてていた霧野の身体が一度大きく跳ね、肉穴が収縮、拡張を繰り返しながら、裏返りめくれていった。震えながら、小さく狂乱の声をあげている。入口のところで引きを強めたり弱めたりすると、孔が大きく広がった。
「ぁぁ゛っ、!」
「はやくねだらないか。ずっとこのままにしたっていいんだぜ。」
「ぅ……っ、くふ、……、ぅ‥‥‥‥いれて、‥ぇ‥…そこに、ぶちこんでくれ……っ」
「そこ?そこってなんだ?」
「ぅ……、く……、尻のっ、中、っ」
「は??……もう一度だけチャンスをやるから言ってみろ。くだらねぇ誤魔化し方したら俺はもう帰るし、お前の前に二度と現われないぞ。」
「……ま゛、んこ…に…」
美里の脚が勢いよく尻尾を引き抜いた。ごと、と中身が落ちたその向こうに、ぽっかりと口を開いた肉穴が、ひくんひくんと蠢き、大きな尻がひときわ大きく蠢いた。
「ぁぁ!」
「マンコが余程気持ちよかったらしいな。ん?」
美里は足を彼の尻の上に乗せ、肉を伸ばすようにしながら、よく観察した。桃色に裂けた肛門から恥骨、背骨の際にかけてまで桃色は広がって、背中までを赤く染めていた。くち、と音を立てて、門がまた締まる。緩い股とは反対に、霧野の拳は強く、爪を立てて握られてフルフルと震え、青い血管が手から腕、それから首筋にはっきりと浮き出ていた。
美里は、彼の秘所に足の親指を擦りつけた。彼は一瞬驚いたように身体を浮かせ、それから姿勢を低くし、獣のような鳴き方で小さく呻きながら、豊満な尻を震わせた。親指を軽く肉の上で押しただけで、くぷぷ、と中にすべりこむように飲み込まれていった。脚ですると、精神をくすぐられるのか、玩具で攻めた時より、小さくてもよほど感じるようで、粘着質な音が響き渡る。
「ふん、人様の足の指で犬マンコをほじくられて、濡れ、勃起させて。なかなか最悪だぞ、今のお前って。」
「ふ、……っぐ、……っ、ひっ」
「気分はどう?」
肉を一層締めたてながら、一層低く霧野の頭が下がっていった。下がる頭の代わりにペニスは上に上がり、肉はすぼまって美里の親指を痙攣しながら抱き留めた。指を引き抜く。彼が目の前でぐったりと脱力していく。さっきよりほぐされ、さらに赤らんだ秘所、艶めかしく光ってもっと欲しいと震えていた。
「よかったのか?ありがとうございます。と、吠えていいぞ。」
「…ぁ…。ありがとう、ございます……犬のおマンコ、躾けていただい、……て……、」
犬は自分で言って自分で勝手に高まったらしく震えて、情けなく嗚咽し始めた。美里は嗚咽を聞きながら心の中が癒されていくのを感じ、また下半身に昂ぶりを覚えていた。情けが無いのだろうが、気持ちよくてたまらないようだ。それがマゾという哀れな生き物。それから、美里が見降ろす中、彼は体を起こし、緩慢なしぐさで美里の足元に這い戻ったかと思うと、また、さっき躾けたばかりだというのに、美里の身体を強く掴み、這い上ってこようとする。美里の中で、もう一度躾けてやろうという気持ちより、ここまでする犬がどうするのか様子を見てやろうという気持ちが勝った。
「いいぞ、お前が、したいようにして見せろ。礼もちゃんとできたし、ご褒美をやると言ったのは俺だからな。本来許されないが、少しくらい甘やかしてやる。」
彼は腰をこすりつけるようにして美里の上に跨った。その重みで倒れそうになるのを、美里は片腕をベッドについてふんばった。再び昂りを取り戻した美里の雄の上に、霧野はどっしりと腰を堕としていくのだった。
「ん、く…‥」
美里は自分の雄が彼の身体の中に格納されていくのを首輪を引き寄せながら見ていた。どすん、と、すっかり中にはいってしまうと、中のマグマのような熱さと柔らかさに、自他の境目がなくなっていくのだった。チェーンを握った手の中が湿り、すべり、力が入りづらくなっていく。美里の指先が震え、発汗した。発汗した美里の首筋に霧野の手が伸びた。美里の視線の先に霧野の臍が見えた。筋肉と薄い脂肪の上を皮膚が覆い、臍の窪みは深く腹筋をえぐり、彼の呼吸にあわせて、形を小さく変えていた。彼の全身が呼吸していた。美里は、リードを持った方の手を彼の腰に這わせた。
「なんだ……また殺人未遂か?できもしねぇくせに。」
霧野の指先に若干力が入ったが、それ以上締め上げられることも無く、触れられる程度になり、掴むというより撫で始めた。反対に美里はチェーンを強く引いた。黙ったままの彼の頭が、首輪に導かれて、下がる感じがした。同時に中が蠢いて締まるのを美里の雄は感じ、中で一層大きくなって、チェーンを持つ手が緩む。
美里が軽く身体を揺らすと、大きくなった雄が、霧野を抉り、彼が「ぁっ」と声を上げ、軽く身体をのけぞらせて天を仰ぎ、鎖が音を立てて美里の手の中から蛇のように逃げようとする。再びしっかりとチェーンを握り止め思い切り下に引いた。ジャッと鎖が音を鳴らし、また彼の頭が引きさがる。
美里のすぐ上に彼の顔があるのがわかる。ふぅふぅ、と、濃い湿った息遣いが、美里の髪を揺らし、額を濡らしていた。しばらくそのまま、息遣いだけが薄暗い部屋の中で響いていた。美里より大きな霧野が、上に跨っているので、必然的に美里が彼の顔を伺うには顔をあげ、見上げなくてはいけなかった。それがなかなかできない。一つ息をついて、美里は彼を見上げた。
闇の中で煌々とした瞳が美里を見降ろしており、呟いた。
「こうして、ほしかったんだろ……」
脳の奥の方、灰の中で燻っていた火花のような感覚が業火とへ化け、今ここに彼とあるという感覚以外の全てを焼き尽くし、身を激しく滾らせた。毛が逆立つような感覚と共に、彼を掴む指先に力が入っていく。そのまま皮膚を突き破ってしまいたい。初めて何かを欲しいと思った。破壊とは別のやり方で。
◆
星が、朝焼けの空の中で太陽と同化して、鋭い輝きを失いつつあった。
早朝の空気は、淀んだ路地を全く違ったものに見せる。どこからか、とんとんとん、と、まな板の上で包丁を動かす音が聞こえる。あの部屋にキッチンがあれば便利だ、と美里は一瞬思った。急速に腹が減り始めた。明確な空腹を感じるのは久しぶりの事だった。身体が飢えていた。なんでもいいから口に含みたい。自分がこんなに減るということは、目覚めたら、奴はもっと腹を空かせているに違いないが、当分は目覚めないだろうと思われた。
一度家に帰り何かを作って持ってくる、それをお皿にこんもり盛って足元で食べさせる。想像をすると気分が高まったが、そうも言っていられないのだ。姫宮に、台所を貸してくれという仲でもない。彼のプライベートなことは詳しく知らない。年で言えば、二条とほとんど変わらないか少し上くらいに見える。川名や葉山を除けば、珍しく彼と親しくタメ口をきける人間だった。
靴の下で何か踏んだ感触があった。靴をあげると渇いた蛾の死骸だった。
踏む前から羽が焦げ爛れて鱗粉を撒き散らしていた。
美里は舌打ちをして、革靴の底を地面にこすりつける。素足のせいで、靴の中が蒸れ、余計に気持ちが悪い。
美里が気晴らしの散歩から戻ると、姫宮が診療所の外で屈みこんでいた。彼は外に置かれた植木鉢に水をやっていた。朝露に濡れた植物の上で玉のようになった水が浮いていた。
「早いんですね。闇医者なんて夕方くらいから起きてくるのかと思ってましたよ。」
「夜中、君達が随分と煩かったからね。」
彼は真っ赤なジョウロを傾けながら言って、美里を意味深な笑みで振り向いた。反対に美里の表情が強ばった。
「……なんてね。おいおい、そんな怖い顔をするなよ。俺はいつでもぐっすり快眠派だからな。心配するな。それに、昼は昼で必要あればマトモに診察する。不法入国者や戸籍の無い子どもなんかも最近じゃ多いからね。オールマイティにやることにしている。オールマイティにやればやるほど敵を作りにくい。これは助言だよ。」
彼は立ち上がり、また別の鉢に水をやり、葉の様子を確認し、土に指を挿しいれて湿り気を確認する。植物は様々な形をしているがどれも生き生きとして太陽にその葉を晒していた。
一つの鉢の前で美里も屈んでみた。最初、美里が水を滴らせていると思った植物は、よく見れば食虫植物で、水と思っていた浮いた水滴は、虫を捕らえるための粘液であった。黒い染み、掠れた汚れのような物がひとつ、不自然に葉の上に浮いていた。
「興味がある?」
「·····。なくもないですね。俺が、というか、川名さんが時々俺に花を買ってこさせたり、切花の手入れをさせるから。育て方が気になった。俺の手入れが良くないのか、すぐに枯らしてしまうことがある。」
「なるほど。残念ながらここにある物達はあまり花は咲かせない。じっくりと栄養で身体を肥え太させながら、成長するタイプだ。·····汚れが気になるかい?それは3日くらい前まで蝿だった物だ。·····困るんだよ。まだ成長過程にある物については、栄養過多にし過ぎても植物の身体には毒なのだ。勝手に忍び込んで栄養になって、勝手に死にやがった!ふん……、そこに、少し元気のないネペンテスがあるだろう。そうだ、そこの赤い奴。たまに近所の子どもなんかが悪戯で蟻や子蜘蛛なんか中に堕とす時もあるんだ。困ったものだよな。まぁ、子どものやることだ、いちいち叱る気も起きないけれど。本来ならもっと大きく肉厚に育ったはずなんだがね。」
真っ赤に熟れたどくどくしい色をしたネペンテスには育ちが良い物と悪い物があった。育ちの悪い物は小ぶりで、皮も薄く、発色も悪く黒い。一方、育ちのいい物は人間のペニス程のサイズを誇り、どっしりと肉厚であるというのに、ぽっかりと開き捲れた口を濡らし、涎を垂らしながら食欲を満たそうと来客をいまかいまかと待ち受けていた。思わず指をいれたくなってしまう気持ちはわかる。
「·····。」
「アネモネをあそこに置いたのも君だな。」
「見舞いとして置くように言われたから、適当に選んで置いただけです。」
「誰も手入れをしないから、大分腐っていたよ。」
さっきから、何か遠回しな嫌味なのだろうかと横目で姫宮を見ていたが、彼は、下の方で枯れた葉を毟って地面に捨て、土になじませるように踏んで潰していた。川名に慣れすぎて何もかも深くとらえすぎなのだろうか。
「君はこれから仕事かな。」
「そうですね、1度家で湯浴みもしたいし、そろそろ行かないといけません。近々迎えに来ると思いますが。」
「そうかい。そりゃあ残念だな。」
姫宮は霧野を嬲っただろうが、抱きもしただろうと思った。どんな風に抱いただろう。きっと彼の精神を脅かすやり方をしたのではないか。彼自身のいやらしい部分を自覚させるようなやり方で。
「·····。」
美里は、病室に戻る前に病院の裏手に回った。そこに小さな裏庭がある。
昨日の日中帯に一度、ここに立ち寄っていた。姫宮も霧野も見当たらず、出かけているのか、とあきらめて帰ろうとした時だった。診療所の建物と塀の間に微妙な狭い通路があるのを見つけた。普段であったら、そんな場所を通ろうとは思わないのだが、直観的にひきつけられた。
細道を抜けると、塀に囲まれ、芝が引かれ植木に囲まれた小さな裏庭があった。
姫宮はそこで、キャンピングチェアを置いて座って本を読んでいた。
「昼間から優雅なもんですね。」
言いながら、美里は裏庭の少し淀んだ空気に、来たは良いものの居心地を悪くし始めていた。何が、というわけではない。ただ、川名の邸宅にも同じような特殊な雰囲気を感じる場所が存在した。この感じは事務所の地下室にも近い。
「美里君か、随分といいタイミングで来たね。ここはプライベートな空間だから本来は立ち入ってほしくないんだが、君だったら·····まあ、仲間に入れもいい。二条辺りは嫌がるだろうが。」
姫宮は意味深な笑みを浮かべた。
「それに、下手に締め出して君の主の機嫌を損ねてもことだからな。」
彼はしばらく本に目を落としてた。彼はパタリと本を閉じて立ち上がった。
「アイツは。」
「霧野君?そこにいるよ。」
裏庭にいるのは、どう見ても姫宮と美里だけである。目を凝らしてみるが他に人の姿はない。姫宮は指を何も無い空間、芝の方に向かってさした。
「そこだよ、そこ。」
「?」
埋めた?よく見ると、伸びた芝の中に、正方形の錆びた重くるしい鉄の扉があった。扉は間を空けて3つあり、1番左の扉にだけ、南京錠がかかっていた。
「1番左にいれてある。手術台に乗せて遊んでいる内に勝手にぶっ壊れて、起きなくなった罰として堕としておいたんだ。とはいえ、あそこは1番楽な場所だから、意外と居心地よく寝ているのかもしないね。後のふたつはもっときついから。」
「なんすか、あれ。」
「『穴牢』と呼んでいる。名前の通り地面に直接穴を掘って作らせた牢だ。左が1番浅く、壁も土を固めて作らせてある。ほとんど光は入らないが、扉に微かに隙間があるから、苦しいかもしれないが窒息することも無い。しかし、暗く、狭く、身動きも取れない土の中で、身体をじわじわと蒸され焼かれるのだ。いつ開くかも分からない穴の底でな。冬は冬で、裸のまま地中に埋めてもある程度耐えられる構造だから、孤独に長い時間を過ごせる。そうしているうちに、たまに上を歩いてやっただけで悦ぶようになるんだよ。才能があれば射精さえ。」
「·····」
「この時間、今の季節はまだマシな方だよ。真夏だと地獄を見ることになるからね。だから一番愉しいのも夏ということだ。ここは好みもわかれるだろうけど。尋問にも使えるだろうから、君達もとりいれたら?」
姫宮は霧野が入っているという扉の上に立った。
「また、こうして簡単に穴を塞いでやることも出来る。」
姫宮は足で扉の隙間の上にたち、軽く土をかけた。
「光と空気まで、こちらの一存で簡単に奪える。相手を見ずに殺すことだって。面白いだろう。」
身体にじわりと嫌な汗をかいたが、共に奇妙な高揚感が立ち上る。彼が下層空間に閉じ込められ暗闇で悶えていることを考えると、なにか擽られる。姫宮はは土を払い除け、扉からどいた。
「君もここに立ってみろよ。起きてたら、下の彼も上に人に立たれ、自分の存在を踏みつけにされ、命を握られていることがわかるはず。そういう意味でこれはいいんだ。立場を精神的に解らせるのに良い。」
「·····。」
姫宮の方に近づき扉の上を何度か通過した。中からは音ひとつせず、そこに、本当にあの大きな男が入っているのか疑問だった。中で気を失い、そのまま……、ぞっとするものがある。
「これじゃあ、中で死んでても、わからないんじゃ……」
「大丈夫だ、それは。」
姫宮はポケットから計器のようなものを取りだし、微笑んだ。それは、手の中にすっぽり収まる小ささだ。計器の中で複数の針が揺れていた。姫宮は手の中で微かに震えながら揺れ続ける針を見つめた。命が握られているようだった。
「入る前に足首に脈拍計をつけさせることにしてる。牢の中にもわからないように小さい計器や機材をいくつか埋めてるんだ。異常があればすぐに分かる。·····、俺が、一体、何のために医者になったと思ってるんだい?」
「·····。そうですか、物好きなものだ。」
「雛鳥は生まれた瞬間に見たものを親だと思うだろう。ここではそれに近いことが出来る。」
「·····つまり?」
「この狭い穴蔵の中、限界状態に陥ってすることもなく、只管、闇の中にいるしかない。いつ開くかもわからぬ空を眺め続けて、朦朧とした意識の中、文字通り身焦がしながら、待ち続けて、自己存在を反省する。解放の時、許された時の感覚はきっと凄まじいものがあると思わないかい。」
姫宮のやろうとしていること、言わんとしていることはよくわかった。良いタイミングで来たという訳も。
「なるほど。マゾは苦痛を好むくせに、許されることや褒められることも好む、矛盾した、気持ちの悪い魂を持った生物ですからね。」
「·····ふふ、面白いこと言うね。ちょうどそろそろ開けてやろうとおもってたんだ。計器は無事とはいえ、朦朧とした状態で堕としたからな。看てやる必要もある。金を払った奴隷、俺の奴隷という訳でもないし。」
奴隷、姫宮の口からその言葉が平然と出ていくのを美里はぼんやりと聞いていた。二条も美里に奴隷の話をした。自分の奴隷が欲しいのかと。そもそもこの場所は一体なんだ?奴隷とやらを躾けるためにわざわざ作られた場所とでも言うのだろうか。
美里は姫宮が牢を開けるのをすぐ横に立ってみていた。むわっとした土の香りと熱気が立ち上る。土で固められた穴の底、2m半程下の底のところに、汗ばんだ、一糸まとわぬ、熱で赤らんだ肉が蹲っていた。
肉は、壁に手を着いて立とうとするが、できず、滑り落ち、全体に朦朧とし、口が半ば開いて喘ぐように呼吸をしていた。
美里と姫宮は何も言わずソレを見ていた。上界では涼しい風がふいて美里と姫宮の髪を揺らしていた。
虚ろな瞳がゆっくりと上を見上げ、黒い瞳が濡れて揺れ、大きく見開かれたと思えば、一瞬だけ恍惚とした輝きと共に、眩しそうに細られ、姫宮と美里の姿を黒い瞳の中にとらえていた。しばらくそうしていたかと思うと、騒ぎ立てることも無く、また気を失うように体から力を抜き、目を閉じてぐったりと蹲ってしまう。目を開こうと頑張っている様子、口を開こうとしているのもわかるが、半ば意識が飛んだままなのか、うまくできないでいる。
「·····。」
「まだ眠いらしい。でも、これで軽い刷り込みは終わった。彼は無意識に俺と君の姿を脳に刻んだはずだ。ま、これくらいじゃ弱い。お試し版だな。気休め程度なら効果はあるかもな。後はシロに引き上げてもらうから、君は見学か、手伝ってくれてやってもいいし、帰ってもいい。今すぐ彼と遊ぶのは無理だろうから、夜にでも出直すといい。看ておくよ。もし何かあったら声をかけてくれ。」
そうして姫宮と入れ替わるようにシロと呼ばれた一人の男がやってきて、霧野を引きあげたのだった。彼は挨拶さえなく、何も言わない。姫宮が奴隷という直接的な言葉を出したから、嫌な想像が働く。名前からして怪しいではないか。
美里も興味がなく、ほとんど相手を見なかった。知りたくなかったこともあり、男の存在を無視していた。人間と関わる時、敢えて無視をする必要があることがある。得体の知れない初対面の下層の人間と接する時はそれが一番いい。ファーストインプレッションは重要だ。だからこそ、一番最初に徹底的に無視をするに限る。それに、霧野が何か錯乱したように小さくうなされており、それを観察している方が面白かった。さっきまで真っ赤だったというのに、まだらに白くなっている。
彼を手伝って病室まで霧野を運び、1度病院を後にしたのだった。
そして再び、いま、裏庭に。穴牢はどれも鍵がつけられておらず、空室のようだった。美里はここを去る前に他のふたつの穴の中がどうなっているのかを確認したかった。
2つ目の穴は、コンクリートで補強され、1つ目の穴よりずっと深かった。3つ目の穴は棺のように浅い。しかし、壁の四方に薄い鉄かアルミ板のようなものが張られていた。美里は2つ目の穴より3つ目の穴をよく観察した。よく見れば扉の内側に爪で引っ掻いたような痕が複数残っていた。使用実績があるということだ。
「ふふ·····、何が穴牢だよ。小洒落たこと言いやがって、ただの人間蒸し器じゃねぇか·····悪趣味だぜ、先生。」
中に誰もいないのに、汗と血の臭いを嗅いだような気になった。くぐもった悲鳴さえ聞こえてきそうだった。負の感情の積もった暗闇を見下ろしていると、恐怖より先に、何故か気持ちが落ち着いたが、中に入れられる人間はたまったものではないだろう。早々に熱中症になり、身体より先に頭がどうにかなるだろう。
人間の脳はタンパク質でできている。という話を二条から聞いた覚えがある。澤野が、二条から引き継いで面倒を見ているらしい農場から鶏卵をもらってきて、必要ならやる、と返事も聞かずに勝手に人のデスクの上に1パック分置いたのだった。別にいらないが、と、口には出さず彼を見ると、彼は卵は高たんぱくで筋肉の成長にもよく、と聞いても無い無駄知恵話をいつまでも話そうとする。遮っても面倒なので黙って聞いてやっていると、二条がやってきて一つ卵を手に取った。彼の手の中に卵がはまりこんで小さく見える。
「ここのは餌がいいんだから、もらっておけよ。」
二条が餌がイイというと、余計に怪しい卵に見えて嫌だったが、彼にまで推されて拒否はできないのだったし、彼が話し出せば澤野も黙るのだった。
「脳もタンパク質でできている。人間の頭を焼くとな、脳が物理的にさらに固く変質するんだよ。生卵を茹でると固くなるように、ぶにぶにと。硬ゆで卵のような状態になる。」
「人間の頭を、焼く?」
澤野の鶏卵の栄養についてのどうでもいい話より興味をそそられた。
「お前も軽い熱中症くらいかかったことがあるだろう。その時くらくらくるのも脳が茹で上がって脳そのものが変容しているからだ。脳神経がぷちぷちと圧迫されるんだな。嘔吐するのもそういうわけだ。」
「へぇ·····それは元に戻るもんなんすかね?」
二条が嬉々として話し続けた。普段美里に対してあからさまに見下した態度をとる彼であったが、時折わかりやすく気分が良い時は、そうでもなかった。その度に川名がまた餌でも与えたかな、と思うことにしていた。元々弁が立つ男だったが、さらに饒舌になった。しかし、澤野と二条の二人に囲まれていると相乗効果で圧が増してむさ苦しい。もし彼らがセールスなどで玄関先に来たら話も半ば理解しないままに早々に印鑑を押して追い払いたくなる一般人も多いだろう。それから彼は続けた。
「古今東西、熱を利用した拷問は非常に多い。数えあげればキリがないが、歴史の浅いアメリカにさえあるんだから。学がないお前に想像が着くかな。」
「·····さぁ。俺はアメリカがいつできたかもよく知らねぇですから。行ったこともありませんし。国旗くらいは知ってますけど。」
お子様ランチに刺さった星条旗が思い浮かんだ。頭の中で国旗をオムライスから抜き、尖った部分を誰かの皮膚に突き刺すことを考えた。
「奴隷の躾に使うのさ。屋敷の庭で1番日当たりのいいところ、それから屋敷から見えるところに穴を掘り、鉄でできた人が1人寝れるかどうかの空間を作る。そこに裸にした奴隷を入れ、放置して焼くのだ。数時間?、1日?、死なぬ程度の休息を入れて数日?1週間、とか?なんでもいいな。」
美里は最も過酷な牢の扉を閉めて立ち上がり、霧野のいる部屋へ戻った。朝陽に溢れた部屋は夜と趣を異にする。光線が部屋を白く照らす。
辺りに散乱した物を片付け、大半をバッグに詰め戻した。結構な物音を立てたが、彼は眠ったままだった。それから、勝手に拝借した洗面器とタオルも片付ける。昨夜出来上がった彼の身体を、風呂にいれさせる代わりに、隅々まで拭いたのだ。
彼は恥ずかしがりくすぐったいらしく、自分でやると嫌がった。
「臭いし汚いんだよお前は、散歩の後は犬だって足くらい大人しく主に拭かれるだろ。痛みには強いくせして、そのくらいのことも、耐えられないのか?犬以下の蛆虫のような奴だ。……それとも、また、ベッドに拘束して、じっくりとやる方がいいかよ?あ?……まだ終わってないんだよ。それに、お前がそんな臭い身体、四六時中どこでも淫臭を振りまいていたら、管理がなってないと俺が怒られる。」
美里がそういうと、彼は大人しく、恥じながらも、頭の先から脚の裏、脇の下、股の間から性器や肛門の窪みまで、拭かれていた。
美里は髪をかきあげながら、暫く彼を無表情に見降ろしていた。頭まで布団を被っているから表情は見えないが、静かに布団が規則的に上下していることを見るとよく寝れているらしい。
「腹立たしい犬だな。」
彼は身体をうつ伏せにして寝ていたが、手首に擦れた赤みのついた片手を枕の下に突っ込んでいた。枕の下からは青紫の布の一部が覗いていた。
「……。」
革靴の中で指がむず痒くなる。美里は居心地悪そうに靴の中の素足の指を動かした。
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