堕ちる犬

四ノ瀬 了

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意地になって、まったく可愛らしい。

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霧野は、時間の経過と共に痛み始めた指の付け根を舐め、時に歯を引っ掻けを繰り返していた。二点の指の付け根が痛む。どのくらいの間こうしているのだろう。

「おいおい、早速、誰かに遊ばれてるじゃないか。酒の飲みすぎで療養中と聞いてたけど随分と元気そうだ。」
「まいったなぁ。」

廊下の向こう側から知っている声が聞こえた。霧野は歯を結束バンドに食い込ませるのをやめ、そっと手の中に顔を埋めた。竜胆と久瀬の声だった。どうして彼らがここに来るのか。川名が迎えをよこしたのだろうか。暗く湿った地下室の香りが鼻の奥に蘇ると、様々な記憶がフラッシュバックして身体と心とを痛ませた。戻される前にできることは何も無いのだろうか。

「おい、お前。」

直ぐ上から久瀬の声がする。

「一人前に服を着せられてるみたいだが、霧野だろ?その尻、見間違えようが無い。散々犯してやったからな。馬鹿な格好晒して一体何やってるんだ?それも治療のひとつなのかな?最近の医療って凄いよな~。」

彼らには散々恥ずかしい姿を見られたというのに、それでも今の情けない姿を彼らの前に晒すのはやはり嫌だった。しかし、どうにもならず、顔を隠し続けた。久瀬の革靴の側面が霧野の頬に擦り付けられた。雨の降った後だから、泥の匂いがした。今も、何処かから二条や姫宮に見られている気がして、霧野は彼らへの答え方を迷いながら、言葉を吐いた。

「……。廊下で粗相をしてしまったので、……反省をさせられています…、」

面白くなって高笑いする竜胆の横で久瀬が「どうりで辺り一面酷く臭いわけだ。お前のお漏らしのせいとは。ついに肛門括約筋が壊れたのか?」と鼻で笑った。

「違……」
違うと言いながら、漏らしたことは事実であり、それ以上言葉を継げない。
「このロープはなんだよ。」
「……」
久瀬が脚でロープを引っ掻けると、玉の付け根がピンっとひっぱられて「わっ、やめっ……」と思わず苦しい声が漏れた。
「無暗に、動いて、それをっ、鏡を、倒さないようにしろと、……」
「最初からそう説明すればいいんだよ。廊下の向こう側からでも真っ先にお前の漏らしたてほやほやの尻穴が見えたよ。」
「う……」
ロープから脚を外した久瀬の靴先が手と顔の間に侵入してきた。すぐ近くに竜胆が並んで立つ気配がした。
「可愛い顔を上げて俺にみせてみな。」

拘束された腕をだらんと垂らしながら、親指どうしを結ばれた安定しない、下半身のむっちりした太ももを、開いて膝を着いてバランスを取りながら身体を起こした。

目の前に男根があった。上半身を起こしきると同時に、目の前に竜胆の肉棒が見せつけられ顔面を思い切り押し付けられるのだった。思わず、驚いて声も出せずに顔を背けると頭を後ろから掴まれ、ぐりぐりと肉棒を顔にこすりつけられる。

「ん゛!!?っ、なに゛、」
「なにじゃねぇんだよ、まずはご挨拶だろ。」

口の中に無理に肉棒の先端が押し込まれたと思うと、今度は顔を下から掴みあげられ、奥まで、ばちゅん!と、ねじ込まれてしまう。いつまで経っても慣れないものが口の中を無理に犯し始めた。
「……ん、!!?ん!!」
そのまま頭を抱えられ、出せないようにされてしまう。
「ん…‥っ」
意地になって、口の中のものをぐちゃぐちゃと吸い立てる。いやいやな霧野と反対に、霧野の口の粘膜は潤った。入ってきた物を迎合でもするように、溢れんばかりの唾液が口の中に満ち、つつ、とよだれが一筋、霧野の唇の下を汚していった。霧野の嫌がる目付きの中に少しずつ催眠にかかったようなとろんとした気配が立ち上って、息をすればするほどに濃く、精の感じが身体の中に満ちた。

「終わったら次こっちだからな。早くしろよ。」

準備された久瀬の一物が霧野の上気した顔にこすりられつつあった。火照る頬に、同じくらいの熱をもった肉棒が押し当てらるのだ。瞬きする睫毛の先が肉の表面を擦った。

「く……」

会話が始まったと思えば直ぐにこれ。竜胆の処理をしている最中に、待てないというように久瀬の熱い雄の先端が、ぬこぬこと濡れた唇に当たり始め、霧野の頭上で喧嘩が始まった。
霧野は竜胆の一物をせっせと舐めながら「またか……」と呆れた半ば馬鹿にするようなまなざしで二人を見上げていたが、彼らは彼らの喧嘩に夢中になっていく。

「なんだよさっきから、次まわしてやるから焦るなって……ちっ、そんなに欲求不満かよっ、最後にミクさんに抜いてもらったのいつ?最近はハルちゃんとヤッてる方が多いんじゃないのか?」

「うるせぇな、お前だって今日は女のところ行くとか言ってたくせに、結局こっちに先よってんじゃねぇかよ……、見ろ。臭いをたくさん嗅がせてこのホモの気分を上げてやってるんだよ。見てみろ、さっきより興奮が抑えきれてないじゃないか。霧野みたいな汚らしく卑しいマゾホモはな、周囲に男根をならべてやればやるほど悦ぶんだからな。な、霧野。輪姦してやった時のお前の興奮のしようといったら。回を重ねる毎に悦びを増していくものな。」

「はあ、そりゃあいいことかもしれないが、気が散るんだよなぁ…。あ?、ハルちゃん、俺がしゃぶらせてない間に随分他のをしゃぶったのかな?うますぎるくらい………誰かがつけてやった舌ピアスがまたいいのかもしれないねぇ、唾液の量がすごいんだよ、ほら、すっごい音を立てて……ぐちゃぐちゃと」

竜胆が無理に前後させたせいで、ぐちゃぐちゃという音共にびゅっと唾液と汁の混ざった物が飛び散った。喉を突かれてせき込むと余計に唾液が溢れて彼らを悦ばせた。

「おい、霧野、おいしそうにやっているな?さっさと竜胆の分を口でこいて、早々終わらせろよ。初めてじゃないんだから、いや、この街で一番くらいにしゃぶっているんだから、それくらいできんだろ。あと3分以内にできなければその口に無理やり俺の分も突っ込んでやるからよ。お前の口にはギリ2本入ることはわかってんだからな、涙流そうがやめてやらねぇ。絶対に。」

久瀬のペニスが唇から再び目前に移動し、顔に押し当てられる。霧野の視界いっぱいに、2本のペニスしかうつっていなかった。視界の外で久瀬が、革靴の先で、霧野の、身体が口淫のせいで軽く動くのに合わせて、ぷらぷらと小さく揺れ主張していた雄をこずいた。

「んぉ゛!お、ふ…っ、ふっ……ぅ」
「プラプラと、こんなもん人様の前で揺らしてよ、恥ずかしくないのかよ、お前。」
「んぐっ……ぅ、っ、」 

霧野の肉棒の先が真っ赤に染まり、むっと軽く膨張する。同時に上の口が竜胆の亀頭をすすり立てるようにして吸い付いてようやく射精をうながし、射精させる。糸を引いて口の中から抜けていくと矢継ぎ早に、休む間もなく今度は久瀬の物が霧野の口を犯し始めた。

「んお゛…っ…うっ」
苦しさに顔をしかめた霧野だが、いびるような外道を行う久瀬に弱いところを見せたくなく、すぐに苦しさを苛立たしさにかえて、久瀬をキッと睨み上げた。
「ん~、そんな顔するなよ~。本当は嬉しくてたまらないくせによ~。」

竜胆がは、霧野の横で置きっぱなしにされていた謎の荷物をいじり始めた。霧野が横目でそちらを見ると廊下に見たくもないような玩具が散らばり始めていた。ペニスを無理やりくわえさせられながら、息をのむのが久瀬にも伝わったらしく、頭を抱え込む指にぎゅと力が入っていた。
「んっ……ん、」
「期待して涎垂らしているのか?淫乱な野郎だ。」
「んんん゛っ、んん゛!!」
違う違うと必死に主張するとみるみる久瀬に陰湿な視線が粘っこくなっていった。
そうして、不安な心、不安な姿勢のまま、二人の処理、「ご挨拶」を終えた。

「どうしようか?」

二人分の処理を終え、項垂れて息を整えている霧野の横で、久瀬と竜胆が携帯を見ながら話し合いを始めていた。久瀬がうーんとうなり、霧野を見降ろした。見降ろした時は冷めた目をしていたが、霧野の顔を汚した様子を改めて見て、またにやにやと嫌な笑い方をし始めた。

「霧野、地下で、いつもそんな感じで馬鹿やってるのか?ウケるな。ふふ、どちらにせよ、お前が地上にいる内に仕事をなんとかしたくてな。それが俺たちがわざわざここに来た理由だ。」
「仕事?」

仕事という言葉に、心なしか霧野の声が明るくなった。霧野は手の甲で口元をぬぐいながら二人を見上げた。ろくな仕事ではないかもしれないが、いつまでも性拷問を受けているより一瞬でも気が晴れたのだった。後々、仕事とその後の自身の状況とに落差を感じて余計に嫌な気持ちにさせられるのは確かだったが。

川名や二条がたびたび、霧野がまだ使えるのか試すように、また試しの場がやってきたのかもしれない。仕事を受けるということは組織に加担することになるのだが、霧野には自分の状況を今より悪くする選択を選ぶ余地は無かった。仕事の時は少なくとも「ヒト」として扱われたし、コミュニケーションもとれた。多少の交渉のできるチャンスもあるかもしれない。目の前の苦痛を回避したいのも、もちろんなのだが。

霧野の反応に対して竜胆がにやにやしながら答える。

「そうだよ、仕事だよ。ハルちゃんの大好きなお仕事。ハルちゃんはハルちゃんで償いに忙しいようだけど、お前の欠けたぶん、みんな忙しいからな。だから、お前が地上にいる内に、俺達の別の仕事を軽く手伝ってもらおうと思ってたわけ。組長にも許可を取ってる。”たまには生活費分位は小銭を稼いでもらってもいいかもな、あの愚か者に丁度いい仕事だ”とおっしゃっていた。食費も、美里のポケットマネーから出ているらしいじゃない。毎日奢ってもらって、食っちゃ寝して、獣だね。」

「……獣?」

霧野は笑いを含んだ声で答えた。

「……獣を囲んで性行為を迫る。お前らの方が余程ケダモノだと思うけど。」

竜胆が霧野の言葉を無視するようにして、傍らにしゃがみこんだ。

「いつまでも生き恥晒して。もしかして、気に入っちゃったのかな?今の立場が……」

「うるさい、気に入る?馬鹿なこと抜かすな……」

「ふーん、ああそう。……久瀬、元気になったらしいハルちゃんの俺達に対する態度も相も変わらずスーパーウザいことだし、せっかくだからゲームしないか?負けた方が夕飯おごりといこうよ。」

「いいね。」

霧野はまた始まった!と思った。脚で背中を押され、再び身体を元の様に伏せさせられる。

「ハルちゃん、可愛いお尻を丸出しにして。そんなお尻してたら駄目じゃない?いじめたくなっちまう。」

竜胆が、尻を開くように、左側の肉の上に足を乗せ、靴の底が霧野の尻の右側にべったりと泥の足跡をつけた。ロープがひっぱられて鏡が音を立てるが、倒れはしない。

ゲームは、床に散らばっている玩具を霧野の尻の穴に交互に突っ込むなどして、先に根をあげさせ、中身をひとつでも身体、穴から外に飛び出させた方が勝ちという。久瀬が先攻、竜胆が後攻となった。霧野自身は頭を下げているから、二人が何を選んでいるのかわからない。久瀬が背後に立つ気配がある。

「あははっ、随分汚い黒ひげ危機一髪だと思わないか、霧野。おい、俺を負けさせたりしたら、今度食事に同席する際にお前の飯の中にこっそりとノアの糞でも混ぜておいてやるからな。アイツは庭に放しておくと煽るように気に入らない下っ端の前で堂々糞をすることがあるから、集めるのは簡単だ。」
久瀬のすぐ横で竜胆が首をかしげながら続けた。
「うーん、もし久瀬を勝たせたら、そうだな、次入ってくる新しいヤクのお試し役でもやってもらおうかな?どのくらいトベて、どのくらいで帰ってこれるのか、それとも、帰ってこられないのか……。楽しみだね。」
「……」
「悪態のひとつ無しか?」
「おかしいな……俺が勝つための条件が一つも無い、」

少しの間があって、どちらともなく二人が笑い出した。久瀬が口を開く。

「お前の勝ち?そんなの始めからあるわけないだろ、……と、言いたいところだが、そうだな、お前がどちらかの罰を回避するために忖度してもつまらんからな。俺達二人が飽きるまで耐え抜いて見せたらお前の勝ちにしてやるよ。もちろん罰も無し。せいぜい、がんばってみせてみな。じゃあ、始めようか。」

肉に固い先端がぬちぬちと当たっては離れ、当たって離れた。入口が解け、咥えこむ準備を万全にしているというのに、ぷつ、と何かの先端が入ってきたと思うと、抜け、入口を無駄に刺激し続ける。

反応などしたくないのに身体が無意識に揺れ、震えてしまう。また背後で鏡がガタっと音を立てる。霧野は思わず二人に聞こえるように舌打ちしていた。

「……、やる゛なら、っ、さっさと、やらないか、!」
「「……」」

白饅頭のようなむっちりとした蒸れた双臀の間で、肉の裂け目が二人に向けて口を開いていた。



「なんだこれ、凄いなあ。若い子は元気だねぇ。」

姫宮は口元に手を当てて、視線をくるりと一度二条に向けて、廊下の惨状を二条と並んで見降ろしていた。

「すみません、勝手に、」

久瀬が、現われた二条に対して謝るのを二条が手で制しながら「いい、別に、」と言った。

四人に囲まれた足元で、霧野が最初の姿勢のまま伏せ、責め苦を受けていた。

ぷっくり膨らんだ陰嚢には洗濯ばさみが二つ噛まされて、体のビクつきにあわせて揺れている。

ピンク色をした、アナルパールのハート形の取っ手が、肉の動きに合わせてプルプルと揺れ、紫色と透明の二本の太いバイブの持ち手が、それぞれ筒から斜め左右に突き出しいた。二本のカラフルなペニスに犯されたようになって、霧野の菊門を左右から攻めて立て大きく不自然に楕円形に拡張していた。

二本のバイブがせめぎ合うように、それぞれ違う動きをする。互いに競い合うように音を立てて、カチカチと擦り合う隙間に、無理やり入れたらしい細身の黒いディルドの底が動いていた。

ディルドは、菊門の引き締まる動きに合わせて、呼吸でもしているかのようにぐりんぐりんと動いて、肉壁の襞をぐちゃぐちゃとこすりたてていた。

門というには余りに開きすぎた可愛らしいピンク色の肉の隙間から、ピンク色をしたローターのコードが3本、黒の太いコードが一本垂れ、リモコンが三つぶらさがって、カタカタ揺れていた。リモコンのスイッチは最大振動に振りきれながら、床の上で音を立て、時折、とびっ子のように跳ねまわる。

口の小さな花瓶いっぱいに大輪の花を生けられたかの如く、放射状に、霧野の身体の外に肉の外に玩具が広がって、ぎちぎちであった。今にも引っ張られた肉自体がみちゅっ、みちゅっ、音をたてそうであった。

振動玩具は、音を立てながら、細かく敏感な神経のみっちりと張り巡らされた、常にほかほかした霧野の肉筒の中を、延々ぐちゃぐちゃ掻きまわし、疲れを知らず同じ強さで穿ち、掘り続ける。肉が柔くなればなるほどに勢い増して、穿ち続ける。

ぴん、と拡張された桃色の粘膜の縁から、温かな淫汁がとめどなく漏れて、尻、太ももをつたい床に、ぴちゃ、ぴちゃ、と漏れる。五百円玉程度の小さなみだらな水たまりが、彼の尻の下に拡がっていた。

玩具に遊ばれ、満たされた肉穴から、食べ物を砕き掻きまわすミキサーのような機械音と、淫液の弾け、滴る音がなり続ける。それらに上書されて、聞こえづらくはあるが、床に擦り付けられた、霧野の頭の下からは、必死の呻き声が混ざり、立ち登っていた。

声は二つの種類の呻きの間を往復していた。元々の落ち着いた、低い霧野の声質とは違う、猫の手で弄ばれて逃げられず瀕死の小動物の出すような高い声と、罠にかけられた大型の獣がもがき呻く低い声との間を、波のように彷徨う。吐息が漏れる。

彼は、低い声で人でも呪う様に唸っていたかと思うと、ふいに、急所をつかれたか高い声で啼いて身体をくゆらすのだった。それでイクかと思えば、イッてしまえば、身体が玩具をひり出すことがわかっているから、理性で押しとどめている。

苦楽の間で、また、穿たれ続ける菊門の奥、気持ちのいい痴の花園から、ひと際大きく細かな振動音が鳴り響き、霧野のたぎった中の肉をふるわせ、濁った淫汁がびゅう飛び散らせ、廊下にまたひとつ水たまりを増やす。

「う゛ううう‥‥‥‥っ!!ぐ……っ、ふ……!!!」

霧野は額を自らの手にこすりつけるようにして、時に自らの手を出血する程に噛み、痛みを与えて、震え、耐え、悶えていた。

本当に自分が物になり果て、ただ感じるだけの肉になったようにさえ感じられた。自分は犬、ではなく、自分はモノ、彫刻、こういう置物だと言い聞かせ、眼を細め、閉じ、じっと耐え続ける。

理性と気持ちよさ、日常と非日常の中で、口角が不自然に上がっていた。自覚があり、その度、やはり顔を下に押し付けて、誰にも見られないようにしながら耐えるのだった。気を紛らわすために、自分を物と思えば思う程、何故かみじめに高まってしまう。生き物でさえない!痴態を見られ続けている。

時折、霧野のどっしりした身体が、背骨を浮かせるようにビクッと跳ねるが、鏡を倒しそうになるのを必死に倒さないようにふんばる。

惨めな姿勢のまま、まるで床にへばりつくようにして、うんうんと、踏ん張って耐える。しかし、踏ん張って耐えるということは身体に無駄な力が入ってしまい、玩具を締め立てることになり、霧野をまた悶えさせ、絶望させた。

尻の表面に玉のような汗が浮かび上がり、尻全体をてらてらと蒸らす。髪の隙間から微かに見え隠れするうなじも濡れ赤く染っていた。

冷たい廊下の上、霧野の周辺だけが熱気に満たされて、いまにも湯気が立ちそうであった。

いじらしく、中から玩具の一つも出しもせず、ぎゅうと咥え込んだままでいる。

「コイツが、いつまでたっても音を上げないから……」

竜胆が気分悪げに言った。それでも地に這う彼の姿から、目を離すことができず、じっと見降ろし続けている。久瀬は、三人で何をしていたかを姫宮と二条に簡単に伝えた。

「ふふふ、遥にはそういうところがあるからな。意地になって、まったく可愛らしい。」

「身体に力が入りすぎていて、このままでは指が少し心配だな。……霧野君、聞こえてるかな?指のバンドを切っても、君がその姿勢を維持できるというなら、足だけでも一度切ってやろう。できるのなら尻を一度軽くあげて意思表示して見せてごらん。」

少しの間があって姫宮の足元で、霧野の尻が軽く主張するように持ち上がった。

姫宮がその場に屈みこみ、懐の医療ばさみで足のバンドを切ってやる。バンドを切っても、霧野の指同士はぴったりとくっついたまま、血流を確認するように軽く握られ、開かれた。はっ、はっ、と言葉を話す代わりに、強く息をする。

「優秀、優秀。そのまましていな。」

今は久瀬の番だったが、どう頑張っても、もう霧野の肉穴には物が入る隙間は一切無く、ぴっちりと伸び切り、中に入れた物の振動もとっくに一番強いところまで進めていた。

久瀬は、可能な限りいつまでも、この卑しくいやらしい肉が奏でる淫靡で絶望的な音楽を聞いていたいと思った。ゲームの勝ち負け以前に。時折、川名が久瀬に至上の音楽理論を久瀬に語ることがある。人間の魂を揺らす音とは何か。どうやってそれを作り上げるのか。

霧野の、淫らな花瓶のようになった肉穴の下で、性棒が真っ赤になってはれあがり臭いたち、もぞもぞと霧野が居心地悪げに動くたび、太ももと腹の間で擦れて刺激されるのだった。

霧野は伏せられた頭の下で、「あ゛……っ、あ゛っ、ぅ」とうなり、また、視線が定まらなくなってきていた。口から飛び出た舌から涎が垂れ延々と床を濡らしていた。

見せられない、こんな顔は。しかし、霧野は顔が伏せられているのをいいことに、顔の神経に気を遣わずに、なすがままにしていた。すると途中まで、快楽に抵抗し、痙攣していた目の端や口の端がじょじょに弛緩して惚けていくのだった。いつの間にか、顔の下にも小さく温かな水たまりができていた。

時折、玩具が、つつ、と外に出ようとすると、菊門の周辺の筋肉が、きゅん、きゅん、と外側から、プラスチック製の肉棒を愛撫でもするように引き締まり、器用にキュウと淫肉を濡しながら、玩具の脱出押しとどめ、それがまた身体を刺激するか、身体といきり立った性棒を震わせていた。

咥えこむ淫靡な肉の動きに合わせて、中で固いプラスチック同士が擦れあって機械の音以外にも、くちゅっ、くちゅっ、と中をこねくり回すような粘着質音がたちはじめ、霧野自身と霧野を囲む人間達をより煽情的にさせた。いつの間にか、玩具の、身体の外に飛び出た部分もぬらぬらと体液で濡れそぼる。

切羽詰まった呼吸と湿った野太い喘ぎ声、霧野の獣じみた小さな怒り唸る叫び声とその隙間で、何かを呟く声が聞こえてきた。

二条が一番初めに霧野の喘ぎの中に、何かヒト語の気配を感じ取った。

「んん~?何か必死にわめいているようだが、聞いてやらないのか?」

二条が久瀬を焚きつけた。久瀬は一瞬迷ったが、二条の手前無視するわけにも行かず、霧野の側に屈み「何だよ。もういいから、頭をあげろ」と静かに言った。

霧野は、人に顔を見せたくないのか、伏せた頭を左右に小さく振りながら意固地になって、余計に身体を固くした。久瀬が霧野の頭を掴んで、どれだけあげさせようとしても、力で勝てず、仕方なく久瀬の方から顔を近づけることにした。

「なんだよ!」
「‥‥‥れっ、いい、っ、…ひ…ぃ、ん゛んっ、っ」
「聞こえない。」

少しの強張った喘ぎ、間の後に「お……ぉ゛れの゛ぉ、、!かちで、いい゛!、って、ことだな゛っ、」とくぐもった湿った声が聞えてきた。おれのかちでいいんだな、と言っている。

「こいつ……」

久瀬は唾を飲み込み、半ば恐怖の入り混じった顔で、霧野を見下げた。ここまでして勝ちたいものだろうか。久瀬の足元で丸まって、小刻みに震える大きな獣。それがまた一段と大きく唸り声をあげた。

「いい、いい!、わかったよ、お前の勝ちでいいから……」
「!!」

久瀬が言い終えるや否や、霧野は、一段と大きく、猫が伸びでもするように体をくゆらせた。

ふりきれたように、「あっ…んぁぁぁ…ぁっ」と甘えた声を出しながら、力が抜けたか、辛かったらしい正座の姿勢を、股を開き、尻を床に落とすようにして女の子座りの様に崩した。熱い鉄のような肉棒が、マーキングのように無意識に、床にこすこすと擦り付けられる。

両手両足、それから、指にぎりぎりと力が入って、猫が爪を立てるように折れ曲がり、指の拘束を外さんばかりにもがき震え始めた。その獣じみた暴れによって流石にロープが勢いよくひかれるが、倒れかけた鏡を、二条が片手で支える。

びんっ!びんっ!とロープが家畜が逃げるのをとどめるように引かれて玉の付け根をいじめ立てるが、それされ刺激になって霧野に半ば白目を向くような快楽を与えた。

野太い喘ぎと共に、ゴトっと太い紫のバイブの一本が抜け落ちて、ブインブインと凄まじい音を立てながら廊下の上を跳ね回り始める。

抜け落ちたと同時に「あ゛あ゛ぁぁっ!!!」と機械音をかき消す湿った雄たけびが上がっていた。

霧野の全身が、がくがくと何か乗り移ったかのように激しく震えて、ほんのり赤かった皮膚がより熱を持って、首筋と、傷口の周辺は特に際立って真っ赤に燃え上がる炎の様な美しい色彩を見せた。

「なるほど?まるで全身の肉が裏返ったかの様な気持ちよさだろう。よかったな。勝者への褒美にふさわしい。」

姫宮は、楽し気な二条の声かけに対し、「ふーん、随分と惨めな勝者なことだ。」と答えた。二条と姫宮が楽しそうにことを見守るのに対し、あまりの迫力に久瀬と竜胆は呆気にとられた顔で一部始終を見守っていた。

続いて、次々、断続的な声と共に、玩具が菊門を通過していった。ぬぽっと玩具の抜け去る時には、電気でも通されたかのように身体が跳ね、さけんだ。

肉に埋まっていた玩具達は勢いよく、汁を伴って大量に、彼の中からこぼれ出ていった。一度勢いがつけばもうとまらない。喘ぎと共に勢いよく、出産されるように噴出されていった。もがいた拍子に洗濯ばさみも外れ飛んでいく。

モーターを激しく回転させながら霧野の温かく感じやすい肉を中からいじめ立てていた機械達は、いじめの対象を失ったことに怒るように、廊下の上で凄まじい、まるで削岩機がコンクリートを削るかのような音を立て、跳ね、暴れ始めていた。霧野の愛液で濡れ、汁をしたたらせながら、暴れる玩具はプラスチックのはずがグロテスクな生き物のようにも見える。

霧野の強い肉圧によって吸収されていた爆音が、今一斉に外の空気を振動させ爆音をかなでているのだった。音とは空気の振動によってなるものだと改めて理解させられるほどに。

噴射された、汁にまれた玩具のあまりの五月蠅さに、久瀬は自分がやったにもかかわらず耳を塞いで舌打ちをした。そうしてほとんどすべての玩具が抜け、一本だけ、黒いコードのしっぽが霧野から生えている。

霧野は、余韻にひたり、獣の出産を終えたようなヒトとは思えぬ声をあげながら、悶え果てていた。

その場にいた全員が、彼が射精し、失禁したとわかるほどの、凄まじい精と尿の臭いをむわむわとあたり一面に発散させ始めた。霧野は、見られていると意識するほどに、反対に、自分が抑えられなくなって燃え果てていった。

それから、呼吸音も寝息の様に小さくなり、霧野はほとんど死んだように動かなくなったが、時折身体をぴくっと跳ねさせる。

彼が言葉を失ったことで、余計に廊下で暴れ狂う機械の音が際立つのだった。しばらくそのままにしていると、また動きがなくなるのだが、伏せられた身体の中で、時折、電気を流されたように、ぴくっぴくっと手足の指先が震えていた。

「凄い迫力だったな、久々に面白い。しかし、落ちちゃったんじゃないの、コレ。」

姫宮が霧野の側に屈みこみ、死体のようになった身体を抱えあげた。しかし、死体とは思えないすさまじい熱さを姫宮は霧野から感じた。まるで身体が内側から燃やされているようだ。

姫宮の細腕の中、霧野は彼に全体重を預けるようにぐったりとしていた。指の拘束が解けていないせいで、霧野の両手は互いに握り合うようにして力が入っていた。それは、許しを請う様に、もしくは、何か必死の祈りの最中で気を失った聖者か狂信者のように見えた。窓から降り注ぐ午後の光線が霧野の身体を照らした。

白い太陽光の下で、彼の眼は開いてはいるが、そこに光は無く、どこを見ているでもなく、光の中でそこだけが闇に濡れていた。引き締まる力を失い、脱力した孔という孔から透明な液を垂れ、闇に沈む瞳の代わりのように、光の中できら、と、液が滴った場所が、線になって輝いていた。砕け散った精巧な彫刻を、接着剤でつなぎ止め、まだ乾く前のよう。指一本でも触れれば、壊れてしまいそうな危うさがあった。

姫宮の耳を霧野の涎塗れの薄い唇の奥から漏れる病んだ呼吸がくすぐった。姫宮が「すごいすごい、えらえらい、」と軽く抱きしめてやると、一段と大きく身体が跳ねて、残っていた最後のローターがびゅぅ!!と霧野の身体から勢いよく転がり出ていった。

「ぁ……っ!!、ああ…‥‥、‥‥…ん」

霧野が姫宮の中でぶるぶると熱い身体を震わせる。極太バイブやローターにより、すっかりほぐされたほかほかした熱い肉筒が、誘う様に、見る者の前にぽっかりと円い口を開いていた。
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