堕ちる犬

四ノ瀬 了

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無理?根性が足りないな。まだ反省できてない良い証拠だ。本当に反省しているならこれくらい耐えられるはずだな。

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「全治二週間だとよ。」

開かれた朝刊の向こうから、神崎が怠そうな声を掛けてきた。霧野は「そうですか」と生返事をしながら、自分のデスクに腰掛けた。ガサ、と新聞が下げられる音がし、彼の方を見る。神崎がじっとりとした目でこちらを見ていた。

「何か?言いたいことでも。」 

じっと見返した。神崎は動じることなく何の反応も示さない。幽霊のような目つきだと思った。
彼の目の下にはいつでも濃いクマがあり、どこか虚脱的な目をしていた。彼のどこか陰鬱な表情を見ていると、張り合う気が失せた。神崎の顔は、数日間そっていないであろうひげが濃くなってきていたが、不思議と不快な気分にならない。無気力な雰囲気、元々彫が深く日本人離れした顔つきをしているのが手伝っているのだろう。神崎がひげにまみれた口を開いた。

「無抵抗だったと本人が言ってるらしいけど。」
しかし、その声質はどこか威圧的だった。霧野は張り合うように強い口調で言った。
「信じるんですか?そんなわけないでしょ。ナイフ持って向かってきておいて、よく言いますね。」

神崎は前日に霧野が現行犯で逮捕した強盗犯のことを言っていた。連続空き巣、強盗犯で次に現れるであろう場所に目星をつけて張っていた。犯人は再犯であった。調査によると、前回捕まった時は子供を人質に取り、子供の顔に消えない傷をつけた。それでも初犯、何も盗らなかった、致命的な傷はつけなかった、最終的には自ら出頭したなどの理由から大した懲役刑にもならず釈放されていた。

いよいよ逮捕というところで、犯人がナイフを持って抵抗してきたので警棒を使用して制圧したのだった。

最初に手首を打ってナイフを落とす。それから肩、太ももを何度か打擲すると、犯人はほとんど身体を制御できなくなったようで、壊れた人形の様な動きをした。それでも体当たり的にこちらに向かってくるので、脇腹に数発入れてから、抱きかかえるようにして締め落とした。
 
その間中、霧野の気分は高揚したままであった。犯人の落としたナイフが、光に照らされてぎらぎら光っていた。制圧した感覚が満ちて、余計に良い気分になった。持って帰っていいならばナイフを持って帰りたいが、これは仕事であり、許されない。

すべてが終わった今でも身体が思い出せるような心地よさがあった。良くないことだと思っていても、スポーツや競技とはまた違った高揚感が身体を満たすのだった。リアリティ、生きてる感じ、緊迫感がたまらない。

犯人を締め落としてから、地面に落としていた自分の警棒を拾って長さを元に戻し、軽く振ってもう一度長く引き出した。太陽光に照らされて美しく光る黒い打擲棒を眺めた。カチカチと子気味の良い音がして、暴力の形をとるこの棒のことを、気に入っていた。地面で伸びている男が半目を開け、何か言いながら地面を惨めに這おうとしていた。

上から様子をじっと見入っている内に、警棒を握っている方の手がじっとりと汗ばんで、口の中に血のような味が広がってきた。鼻の奥の方がどくどくし、口から長いため息のような物が出ていった。

「人間の屑が……」

このようなショボい悪人は、捕まえてもすぐに再犯する。刑務所でろくに懲罰もされない。刑務所からの社会復帰だって現状の制度では大したことをしない。このままもう一発二発くらい打ち付けて身体に恐怖を覚え込ませた方がコイツのためにも世の中のためにもよいに決まっている。……。その時落ちていたはずの男が再び起き上がろうとした。

「死んだわけでもなし、大げさなんですよ。」
「お前はゲイのサディストだな。」
「……。神崎さんだってこのくらいしてたんでしょう。」
「俺の時は良いんだよ。今はダメだ、時世的にな。昨今の警察は悪者にされがちだからイメージが悪いんだよ。ま、言ってもお前が聞くとも思えないから、やるならもっとうまくやれ、せめて人目は避けろ。ま、前回と違って頭狙わなかったとこだけは、俺の言いつけが守れてるな。」

偉そうなことを言う……と思いながらも、何故か神崎の言うことはよく聞けた。
彼の独特の雰囲気がそうさせるのだろうか。



「お前、ちゃんと寝てるのか?」

甘ったるいお香が焚かれた部屋、ローテーブルを挟んだ美里の向かい側のソファに似鳥が座っていた。ローテーブルの上にはアタッシュケースが開かれた状態で載っている。中に薬品が入っていた。今日は集金と薬類の受け渡し、経営状況など話す日だった。美里は似鳥の背後を半ば裸の女が通過していくのを目で追った。女は欠伸をしながらこちらに流し目を送ってくる。今は興味がない。

「寝れてないなら、前みたく睡眠薬を出してやろうか。」
似鳥が笑い身体を揺らしながらそう言った。こちらに伸びてくる手を払いながら鼻で笑う。
「いいですよ、いつから薬局になったんすか。」
「ま、いいからいいから。」
似鳥は美里が何を言おうと、アタッシュケースの隅の方に紙袋を詰め込んでくる。そもそも本当に睡眠薬なのだろうか。もっといかがわしい薬なのでは。
「あからさまにイラついた顔してるな。お前らしくもない。」
「……」
脳裏に似鳥の血にまみれたグロテスクな肉棒の姿がフラッシュバックした。その血は似鳥の物ではなく、男が貫いた者から流れ出た血だ。今だったら出血しないだろうか。ご愁傷様だ。

「座薬のほうがいいかな?いれてやるぞ。」
「きしょいこと言わないで下さい。そのままでいいです。」

その時、聞くに堪えない下品な笑い声が聞こえてきた。ビルの外からだ。窓の向こうに目をやると細い、笑っているような月がビルの隙間に浮かんでいるのが見えた。また一段と甲高い笑い声が響いた。

「最近治安が悪くて困る。ちゃんと仕事してくんねぇとな?高い金納めてんだから。」
似鳥の声のトーンが少し低くなっていた。こちらが放置していたら彼個人で対処でもしそうな勢いだ。
「わかってますよ……。」
似鳥のにやついた瞳が「本当か?」とこちらを嘲笑しているように見えた。自分を軽く見ている。いや、似鳥は軽く見ていることを見せつけて、こちらの反応を愉しんでいるだけだ。むきになった方が負けだ。
「挑発しないでください。」
「ああ、さすがにわかったかい。お前のムキになっている顔はイイからな。」

なめたこと言いやがって……。
川名に会った最初の頃、彼は美里にこんなことを言っていた。

「なめられた?一般人ならまだしも、年かさの同業者なら当たり前だ。お前はまだ若いし、見た目に威圧感が乏しい。でも、お前はとっさの判断力に優れるし、自分の都合だけを優先して人を扱うのもまあうまい。なめられるってことはある意味武器だぜ。相手を油断させられるからな。ま、俺だけはいつでもお前の実力をわかってやれてるつもりだから。人に何言われようが、安心して仕事に励むと良い。何かあったら言えよ。」

霧野も川名に似たようなことを言ってきたのを思い出す。債務者の男女が事務所につれてこられ、アルコールを無理やり身体に入れられ、アルコール中毒で死にかけていた。
野次馬が部屋に集まってきており、霧野と美里は何をするでもなく壁際に立っていた。最初こそ見張りとして命じられて、男女が抵抗したり逃げようとしたりするのを軽く妨害していたが、今や何の意味もない。しかし勝手に出ていくわけにもいかず、ただその惨状を眺めていた。酒がそこら中に転がっていたので幾らか拝借して飲んでいた。

「悪趣味だなー。」
美里がそう言うと、霧野は一瞬だけ驚いた顔をしてから「そうだな。で、殺す気もないから質が悪い」と言った。
「何故そんなことがわかるんだ?別にここで殺してもバレないだろ。」
「かかってる保険金の額が安すぎるから。まだとれるよ。どうせ、まだ脅しの段階で、どっちかと言うと遊びだろ。あの感じでは事故って殺しそうな勢いだが。だから馬鹿に拷問させるなって言ってるのに……」
「脅しなんかせずに、最初から高い金掛けて殺せばいいのに。」
そう言うと、彼は酔っているのか普段より自然に声を出して笑っていた。顔が軽く紅いせいで、いつも棘のある目の下に薄っすらとつけているクマが紛らわされて人相が和らぎ、精悍な青年に見えた。笑い声はすぐに部屋の喧騒に掻き消された。
「何が面白いんだよ。」
「馬鹿いうなよ。殺したくないんだよ、普通。だってそうだろ、直接手を下した奴にはリスク、責任、罪悪感が付いて回る。そういうとこだな、お前の最悪なところは。感情が無いか、壊れてるのか?」
「何?」
「いちいち怒るなよ。めんどくさい。」
彼はそう言うと伸びをして猫のように欠伸をした。薄っすら顔が赤かった。
「お前は、仕事と感情を切り離せるタイプだって意味だよ。俺なんかは気持ちこめて仕事しちゃう方だからな。良くないけど。たまに俺はお前が怖いと思うよ、そうやって人間らしく怒ってる時の方がまだ怖くない。」
「……あ、そう。それは、一応褒めてくれてるわけ?」
彼はバツが悪そうに目をそらしてそれっきり黙った。

川名、霧野は人の長所を発見するのに長けた。美里が面と向かって褒められたのはこの二人からくらいであった。
長所を見抜く力に長けた人間は仕事を振るのもうまい。特に霧野は短所についても、無為に人格を貶めることをほとんどせず、何かミスを発見した場合、人格否定から入る人間が多いのに対し、徹底して原因を掘ってきて、彼自身ソレを愉しんでいた節もあった。ある意味川名よりタチが悪い。

アタッシュケースを手にさっさと建物から出た。建物のすぐ脇に三笠組の若い者が3人、こちらに背を向けてたむろしているのが見えた。
「おい」
声を掛けたと同時に後ろからアタッシュケースの角で男の顔面を殴りつけた。何が起きたかわかっていない男の顔面にもう一発叩き込む失神して倒れ、呆気にとられている男の内一人に向かってケースを放り投げとびかかり、そのまま馬乗りになって殴り続けた。面白いくらいサクサクと拳が入っていく。

「今日は月がきれいだろ。同じ月を見るたびに俺の顔を思い出すといい。」

残った男一人が何度か掴みかかろうとしてきたが、その度より強く男を、上からたたきつけるようにして殴り血が吹き飛んだ。拳の下で嫌な感覚がして気持ちが悪い。これは奴の鼻の骨が折れたなと思った。楽しくはない、ただの労働、作業だ。暴力や死体処理をしている時、身体が眠っている時のように冷えてくる。普段よりずっと冷静になって、心の底から、何か芯の様なものが死んでいく。

気が付くと、自分の足の下に溺死体のように顔を膨らませた、しかし胸を上下させた男がひとり転がっていた。

「またここで見かけたら、次は殺すからな。」
ゆっくりと残った一人に視線を上げると、今にも逃げ出しそうなそぶりであとずさりしていた。
「安心しな、お前には何もしない。連絡係として、生かしてやったんだよ。三笠組の奴らになめた真似をするなと伝えろ。次にウチのシマでデカい顔した奴をこの辺りで見かけたら、お前を一番最初に拉致して殺す。それも、こんなぬるい方法じゃなく、お前の原型が分からなくなった状態でお前の事務所に送り返してやる。わかったな。」
「……」
「本当に分かったのか?」
「わ、わかった。」
「じゃあとっとと失せろ。五秒以内だ。」

彼が見えなくなったのを確認しながら、無感動に血にまみれた拳をシャツの裾でぬぐっていると視線を感じた。建物の方を見上げると窓の枠に手をかけた似鳥とその後ろに女が立ってこちらを見ていた。

「どうすか!ちゃんともらった分やってるだろ!」

当てつけるように叫ぶと、声がビルに反響した。周囲の数棟のビルにまで響き渡る声は、どこかさわやかで、もう少し、どすが効いた声でも出せばよかったと思った。似鳥は何も言わずに、軽くうなずいて女を伴って建物の奥に消えた。霧野ならもっとスマートにやったんだろうか。わからない。しかし奴が居なくとも何とかなるのだ。

翌朝は、いつもより少しマシな寝覚めであった。似鳥の睡眠薬はよく効い、て久しぶりに寝起きが最悪ではなく、やや悪程度になったのだった。昨日までは悪態つきながらしていた誰かの食事の準備も無感動に作業としてできる。
「赤ちゃんのお世話してる気分だ……」
紙バックの中にもろもろ準備して詰めていく。健康状態を見て、食事を与えて、糞便の世話をし、身体を洗い流す一連の行動は、準備や行くまでは面倒くさかったが実際彼を目にすると特に苦も無く遂行することができた。日に日に自分に対して従順な姿勢を見せるようになる霧野が気味が悪くないわけではなかったが、悪い気分では無かった。

地下室の扉を開けたと同時に、先客がいたことが分かった。普段の位置から彼が大きく移動しているのだ。
何故か特段腹立たしさは無かった。荷物を作業台の上に置いてから、霧野の方に向かった。彼は腹を下に、うつ伏せにした状態で縄で緊縛され、死体処理用の天井の滑車のついたフックから吊りさげられていた。
霧野の様な生きた大の男が吊られている様は迫力があり、生け捕りにされて吊られた熊や巨大マグロの解体ショーを彷彿とさせた。

脚を折り曲げられて縛られ吊られているため、部屋の入口の方に向けて恥部がむき出しになっている。恥部には何か太く黒い棒のようなものが深く、突き立てられたままになっており、肉の塊となった彼が呼吸をするたびに軽く動いていた。彼の頭の方に回ると、目隠しをされていたが、近くに人がいる気配を感じたのか頭を上げ、身体を軽く揺らして惨めに意思表示をしていた。美里の中に何か不思議な、滾るような感覚が芽生えた。

「いつからこうなんだ?ん?」

指先で軽く髪を梳いて耳に髪をかけてやると、小さな黒色の耳栓がはめこまれた耳が見えた。誰がここに立っているのかもわかっていないようだ。軽く耳の当たりを触っていると感じているのか、声を出し始めた。耳栓をしているせいで身体から出る音を制御できなくなって、普段より幾分箍の外れた、大きな声を聴くことができた。

彼は身体を縛るのと同じ縄を口に咥えていた。それは固定されているのではなく、彼自ら咥えていたのだった。縄の下に何か書かれた薄手の板がぶら下がっている。歯を食いしばって落とさないように必死に咥えているようで、縄も板も涎で濡れていた。軽く屈んで板を見ると『私は裏切り者の警察犬です、反省しています。』とマジックで書かれていた。いや、自分で書かされたのか、彼の丁寧な字体によく似た美しい字だった。

「馬っ鹿みたいだな……」

板の向こう側で、乳首と陰茎の先端につけられたピアスから軽い錘が垂れ下がって揺れていた。引っ張られた性感帯が感じているのかいないのか、嫌でもサイズを大きく魅せた。

背後で扉の開く音が氏、入口の方に目を向けると二条が立っていた。彼が入口に立っているだけで、空間が支配されたような逃げ場がない感じがして嫌だった。
「おはようございます。」
彼は大股でこちらに近づいてくると、美里と霧野の方を見降ろした。

「へぇ甲斐甲斐しくお世話しに来たのか?ご苦労様、でも残念ながら、まだ降ろしてやる気は無いから、夕方にでも来るんだな。まあソイツの態度次第では夕方になってもこのままかもしれないが。」
「……いつからやってるんですか、これ。」
「昨日の夕方からやって夜は降ろして軽く休ませ、また早朝からまた吊ってる。組長に吊っておけと言われたから最初は普通に吊っておいたが、いつまでも気に喰わない、生意気な顔をしているからこうなるんだよ。な、遥。」

二条の大きな手が振りかぶられたかと思うと、霧野の尻に勢いよく当たって肉のはじけるいい音を立てた。
 
はじけたように彼の身体が反応して、縄が音を立てて軋み、ブラブラと錘が揺れた。喉の奥から苦悶の呻き声が聞こえると共にギリギリと縄を噛みしめる音が聞こえた。

「お、今度は看板もコレも落とさなかったな。えらいじゃないか。」

二条はコレと言いながら、霧野の身体に突き立てられた黒い棒の飛び出ている部分を握り、ぐりぐりと押し込んだ。

これ以上入らないようで、同じ場所を棒がこすり上げて、霧野は喉の奥でぐるぐると呻きながら身体を震わせていた。白い尻にくっきりと赤い手形がついており、よく見れば同じことを複数回された痕がうっすらと残っていた。その他にも何か鞭より太い物が打ち付けられたような変わった形をした痣が尻から太ももにかけて幾つかついていた。

「毎朝使ってやっているのか?ココを。」
二条が黒い棒から手を離して末端のあたりを指ではじいた。それだけでも軽く彼は反応を見せて鳴いていた。余程吊られたまま放置されているのが堪えたのだろうか。

「いや、こんな汚いところでしたくないですから。口でさせてます。」
「あ、そう。そりゃあ残念だな、普段とはまた違った心地のいい肉になり果て、せっかく気持ちがいいのに。高さだって滑車で調節すれば、お前の良い位置にもってこれる。」
「……へぇ」

興味がなくも無かったが、二条の見ている前でするというのがどうしても嫌だった。他にも複数人いれば話は変わるが、彼だけの視線を感じながら霧野を犯すというのは居心地が悪い。こっちまで消費されている気分になる。二条は何かを察したのか軽く鼻で笑った。

「ま、俺がいないときに好きに使えばいい。ただし使ったら元の状態に戻しておけよ。」

彼はポケットから煙草とライターを取り出した。煙草に火をつけてもそのまま火のついたライターを手に持っていた。ゆらゆら揺れる火が霧野の内腿のあたりに近づけられていき、また切迫した悲鳴と共に縄が軋んだ。黒い棒が筋肉の緊張に反応して少しだけ外に出た。
ライターの火がそのまま陰部の直下に近づけられ、陰毛と性器をあぶり始めた。

「ここの火炙りはお前の負債の1つらしいからな、俺が消化してやるよ。感謝しろ。」

パチパチと音を立て焼ける匂いが周囲に漂い始めた。より一層身体が無為に、もがくように揺れ、ずるずると中に収まっていたものがでてきてしまう。

「こらこら、出てきてるじゃないか。ダメだなァ」

強い平手が尻に、さっきと同じ個所に二度、三度と飛ぶと、ついにずるりと中に収まっていた物が抜け音を立てて床に落ちた。

重量感のある音がして、それが性玩具ではなく別の何か棒状の道具であったことが分かった。二条は「あーあ、落としちゃった。」と言って、それを掴み上げると、二回ほど腕を大きく振った。シュッと何かが引き出される、金属のこすれるような音がして、二条の手にあった棒の長さが1.5倍程度長くなった。彼はカチカチと棒を調整し引き延ばした状態で固定した。
美里が呆気に取られてそれを見ていると、二条は微笑みながら美里を見ろし、手の中で棒を弄んでいた。

「これはな、本職の警察官が使っているのと同型の警棒だ。コイツの勤めていた支部で支給されている物を調べて全く同型を取り寄せた。」
「……」
「きっと遥もこれを使って随分愉しんでいたんだろう。別の愉しみ方を教えてやるんだよ。これを使うと面白いくらい惨めに鳴くからな。単に痛いだけじゃつまんないだろ。」

二条が警棒を軽く振り上げたので、美里は数歩後ろに下がった。
すぐに警棒が尻に打ち下ろされて、肉の弾かれる音と鈍器が当たるような鈍い音がした。激しい苦悶の腹の奥から絞り出したような低い声が響き、たったの一発で身体が跳ねた。痛みの余韻で声が収まらずに、嘔吐した後のような苦し気声が漏れ続けていた。しかし、どこか愉楽を感じているのか全身が鳥肌立ち、塞いでいた物を失って開いていた尻穴が、きゅうきゅうと求め、痙攣するように締まっていた。
尻には横一文字の太い濃い赤い痕がじわじわと浮き上がっていく。奇妙な形の痣がこのカーボン棒によって付けられたことがわかる。

打擲は尻、太ももに追加で二、三度と繰り返され、そのたびに霧野の発する声は、怯え、耐え忍ぶように小さくなったが、相対して漏れ出る呼吸がどんどん荒くなっていった。少し遠くに立っていても、ぜえぜえと痰の混じったような激しい呼吸が聞こえ、全身が目に見えて汗ばみ震えて、今にも湯気が出そうなほどだった。

警棒の先端が痣の上を優しく擦っていた。擦られる度に、いつ来るのか?と恐怖に沈んだ霧野の体がビクビクと跳ねて、ふっふっと荒い、不規則な呼吸が漏れ出ていた。

「まだ耐える。じゃあ後一発くれてやるよ。」

振り上げられた警棒は霧野の尻と、先端が陰嚢を直撃した。ほとんど何の声もあがらなかったが、それがあまりの衝撃によるものであり、代わりに咥えていた板が床に落ちてカラカラとふざけた軽い音を立てていた。開いた口から大量の涎と共に、嗚咽、珍しくむせび泣く様な声が聞こえていた。

「駄目じゃないか~。両方とも落として。」

二条は霧野の頭の方に回ると、彼の目隠しをずらし、耳から丁寧な手つきで栓を抜いて目の前に屈みこんだ。それでも床に向かって項垂れたまま、ただ息をしている霧野の顎の下に警棒の持ち手を差し込んで、顔を上げさせた。

「また落としたな?何回目だ?そんなに俺に叩かれるのが大好きなのか?」
「ちが……、ぁぁ…むりだ…っ…こんな」
蚊の鳴くような声が荒い息遣いに混ざって吐き出されていた。
「無理?根性が足りないな。まだ反省できてない良い証拠だ。本当に反省しているならこれくらい耐えられるはずだな。」
「……してるっ!、もう゛、だから゛!」
「嘘をつくなよ遥、反省しているなら何で生意気にも反省板を許可もなく、勝手に床に落とすような真似ができるんだ?してないってことだろ、それは。」
「なんで、して、う゛……っ」
再び彼の口に縄が咥えさせられそこから馬鹿げた板が釣り下がった。

「謝罪のひとつもなし。最悪だな、落とすたびにお前が反抗したと見做す。お前が反抗的な態度を続ける間中吊っておいてやるからな。これもな。」

二条が警棒を霧野の顎の下から取り払い、彼の目の前で煽るように軽く揺らしていた。さっきまで、絶望的な表情しかしていなかった霧野の眉がしかめられ、怒りと憎しみのこもった眼が蘇り、警棒とその向こう側にいる二条に向けられていた。二条は一層楽しそうな顔をして彼を眺めていた。

「これも、勝手に許可なく落とすなよ。ちょうど今のお前のケツにはちょうどすっぽり嵌るんだから。最近使われすぎてこのままじゃガバつく一方だろ、今からトレーニングしておかないとな。お前のマンコのトレーニングにも、単に調教するのにも使えて素晴らしい道具だな、これは。そう思うだろ?」
「……う゛う……」
「何か言いたげだな。それでも健気に看板を犬のように咥えて、えらいえらい。その調子だ。ご褒美にこの調教棒で中を掻き回して軽くイカせてやるよ。」

二条は何か言いたげに呻く霧野の頭をわしゃわしゃなでながら、立ち上がり、再び霧野の目隠しと耳栓を元に戻した。目を隠される直前までその目は二条をじっと睨んでいたが、隠されると同時に再び頭が下に深く諦めたようにうなだれていた。締まっていた後孔が、再び弛緩し始め、霧野の求めるようにヒクついていた。

「仕置きされたことで期待してここを疼かせて、最低のマゾだな。」
「……。」
美里は少し離れた場所で腕を組んで二条と霧野の方を見ていたが、二条がふいに美里の方を向いた。

「本当にいいのか?お前が今使ってやれば、お前に今の醜態を見られていたことに気が付いて余計に絶望を与えられるというのに。俺とお前のペニスの違いくらい、遥はここで理解できるぞ、多分な。」
二条の指が霧野の後孔を押し開くと、濡れた淫靡な音が響いた。

「いいですよ、俺は。気分じゃないです。」
「ふーん、ご主人様は優しいんだな。そんなんだから噛まれるんじゃないのか?」

二条は片腕で霧野の腰のあたりを抱えるようにして、警棒の先端を太腿の下の方からゆっくりと這わせて、濡れた霧野の恥部に、元の鞘に収めるように再び警棒を突き入れた。尻を叩かれた時と同時に一段と大きな声が漏れ出て、縄がしなった。警棒はそのまま中で引っ掻くように動かされて、咥えさせられた縄の奥で快楽と苦悶の入り混じった小さな、切迫した声が聞こえ始めた。感じたくないのに、感じてしまい息を荒くしているようだ。

「変態共が……」

美里が1人つぶやくと、聞こえていたのか二条が軽く笑っていた。特に怒っている様子も無く、警棒をねじりねちっこく角度を変えて彼の恥部を貫いている。貫くたびに縄がギシギシなり、肉の孔は吸いつくようにして奥までじっとりと警棒を咥え込んでいた。

「そうだな、俺もそうだが、コイツは特上に変態で期待できる。開発、調教すればするほどに適応して伸びてくれるな。こんなにされて感じてんだから。大体、お前だってコイツを変態に仕立て上げようとしてるじゃないか。」
「俺のはまだマシですよ。俺の言うことを素直に聞けるようにしてるだけなんだから。そうすれば、戻ってきた時にも楽に使える。別に変態に仕立て上げたいわけじゃありません。」

また二条が笑っていた。今度は嫌な、侮蔑の混じった笑い声で、ずっと霧野の方に向いていた顔がこちらに向き、暗く濁った眼が嘲笑の趣を帯びていた。

「お前……、それ本気で言ってんのか?」

何か背筋に寒気が走って言おうとした言葉が何も出てこなくなった。彼はこちらの動揺を読み取ってさらに楽しそうに破顔した。

「”戻ってきた時?”何言ってんだよ。同じように元に戻れるわけないだろ。こいつが。」

警棒が、霧野に対してより激しく強くぐりぐりと押し貫かれ、吊られた身体がうめき声を上げながら一層激しく跳ねていた。動けば動くほどに、縄が体を擦り上げ、非人間的な浮遊感に感じてしまうというのに。
いつのまにか身体にくっつくほど反り返り怒張したペニスからダラダラと透明な汁を垂れ流れ、床に染みを作っていた。
「感じたくないと思えば思うほど感じる男だからな、お前は。最高だ。」
二条がその身体を一層強く抱え込み警棒から手を離すと、警棒が体からずるずると抜け落ち、派手な音を立てて床を転がった。同時に、いつ出されたかわからない二条の物と思われる精液がびゅっびゅっと音を立ててこぼれ出ていった。警棒が収まっていた快楽の園は口をだらしなく開いたままになって、次に来る責め苦を進んで待ち構えているようにさえ見えた。

「あーあ、またやった。わざとやってんのか?」

二条の腕の中で霧野が中を乱暴に貫かれた快楽とこれから起こることの恐怖と期待とでガクガクと震えていた。

二条の空いた方の手が霧野の勃起しきった陰茎の先端に伸び、指がピアスリングの中に通され、一気に下に引かれた。猛るような悲鳴と共に、引っ張られた肉棒が青筋をたててビクビクと痙攣し、むせび泣きながら、口に咥えていた板が下に落ちた。それでもペニスは怒張を続けて濁った汁を垂れ流し、肉体の激しい拒絶とは逆に、穏やかに果てたようだった。

「ふふ、だらしねぇ奴だな。」

二条の視線が霧野の下半身から再び美里の方へ戻ってきた。彼の瞳はここに入ってきた時より生き生きとしていたが、やはりどこか病み、ずっと見ていたくはなかった。

「というか、俺が戻させてやらない。」
声を荒げたわけでもないのに、低く威圧的な声が響き、皮膚の表面がぴりぴりとする。
「一旦降格させてやるのが妥当だと思わないか?ありがたいことに、俺に発砲までしてくれてるからいくらでも理由はつけれる。全員がコイツのやらかしたことを知っている諜報部の最下層の末端構成員にさせてやるのがいいんだ。そうすればいつだって、日中堂々とコイツを犯してやることができるし、なんなら朝から部の全員の相手をすることを仕事として与えてやったっていい。職場復帰のリハビリにちょうどいいだろ。」

「何を言って、そんなの」
「組長が許さないか?本当にそう思うか?お前が提案した通り、二重スパイさせるなら、お前の隣ではなく、諜報部こそいるべき場所じゃないのかな~?どう思う?俺はそう諌言するね。」
「適当なことを、言わないで下さいよ。」

思った以上に強い口調になってしまい、言った後から後悔した。二の腕が痛んだ。いつのまにか組んでいた腕に手に力が入り、爪先が腕に食い込んでいた。

「あはは、怒ったのか?雌犬。まあいいよ、今のは許してやるよ。今の俺はコイツのおかげで気分いいからな。で、いつまでそこに突っ立ってる気だ?俺の前でコイツとヤって見せる気もないなら、俺の気分が変わる前にさっさと失せろ。まだまだふたりで愉しむ予定でいっぱいだからな。」
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ママが連れてきたパパは超美人でした。 美しい声、引き締まったボディ、スラリと伸びた美しいおみ足。 スタイルも良くママよりも綺麗…でもそんなパパには太くて立派なおちんちんが付いていました。 これは…そんなパパに快楽地獄に堕とされた母と息子の物語… ※DLsite様でCG集販売の予定あり

メス堕ち元帥の愉しい騎士性活

環希碧位
BL
政敵の姦計により、捕らわれの身となった騎士二人。 待ち受けるのは身も心も壊し尽くす性奴化調教の数々── 肉体を淫らに改造され、思考すら捻じ曲げられた彼らに待ち受ける運命とは。 非の打ちどころのない高貴な騎士二人を、おちんぽ大好きなマゾメスに堕とすドスケベ小説です。 いわゆる「完堕ちエンド」なので救いはありません。メス堕ち淫乱化したスパダリ騎士が最初から最後まで盛ってアンアン言ってるだけです。 肉体改造を含む調教ものの満漢全席状態になっておりますので、とりあえず、頭の悪いエロ話が読みたい方、男性向けに近いハードな内容のプレイが読みたい方は是非。 ※全ての章にハードな成人向描写があります。御注意ください。※

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