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第2部 アリス・ボークラール
第29話
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「少し話が変わりますが、あなたが行った贈り物の処理については、色々とよかったですよ。エドワードから例のモノは、きちんと大公家が受け取りました。今頃、お礼を兼ねた連絡が、あなたの兄の下に行っているでしょう」
「ありがとうございます」
キャロライン皇貴妃殿下は、意味深な表情を浮かべて言った。
私は、ホッとした。
これで、兄が諦めてくれると良いのだが。
「話を戻すと、ともかく、こうしたことから、あなたを私の下で私的な侍女として仕えさせる、というのが、色々と難しくなったのです。私の下を、エドワードが訪ねて来たら、あなたの下も訪ねているのだ、とマイトラント伯爵らが邪推して騒ぎ立てるでしょう。そして、キャサリン妃殿下の耳にも入るでしょうし。ともかく、マーガレット皇后陛下の宮中女官らの綱紀粛正から時間が経たないのに、このような騒動が私の膝下で起こるのは困るのです」
キャロライン皇貴妃殿下の少し長いお言葉に、私は肯かざるを得なかった。
フローレンス・マイトラントが、マーガレット皇后の下に宮中女官として出仕したのは、綱紀粛正のためだ。
そして、ようやくその綱紀粛正が成った直後に、キャロライン皇貴妃の下で騒動が起きるのは、確かによくない。
だから、私をキャロライン皇貴妃の下で仕えさせるということが、やりづらくなってしまったのだ。
「それで、エドワードが言ったのです。アリスに報いるために、宮中女官にして叙爵するが、すぐに自発的な辞任をアリスにさせるというのは、どうだろうか、と。その後、自分が引き取ると」
ええっ、それって。
私は驚愕した。
私は、エドワード殿下の傍に住むことになるの。
「養母も賛成しました。むしろ、そうすべきではないか、と。ともかく、キャサリンの態度は、流石に目に余り過ぎます。お腹を痛めた娘を愛せないことについて、私とて気持ちは分からなくも無いのです。自分の血を分けた娘とはいえ、同時にエドワードの娘でもある訳ですから。父の仇の孫だ、と想うと、どうしても邪けんにしてしまう。そのようにキャサリンは、腹心の侍女にこぼしているそうです。ですが、これではどうにも」
キャロライン皇貴妃のお言葉は、私の胸に刺さらざるを得なかった。
私とて細かいことを言えば、大公家の方々について、親の仇と思わないことも無い。
更に言えば、姉が病死したのも、間接的には「帝都大乱」によるものだから、姉の死にも、大公家は間接的に関与しているともいえる。
しかし、それがあったのは、既に10年以上前の話で、しかも、ある意味、弓矢の沙汰の末と言える。
それに私の前世の21世紀の日本というより世界は、地球上で戦禍の絶えない世界でもあった。
その一方、この異世界、帝国においては、地方はともかく、帝都は数百年にわたり平和を謳歌していたのだ。
更に、その戦禍の映像をある意味、前世では見慣れていた私に対し、帝都の住民にしてみれば、戦争等は遠い何日もかけていかないといけない場所で、目に入らない話でもあった。
その感覚の差が、私とキャサリン妃殿下の差を産んでいる。
私にしてみれば、過去のことは過去のこと、更に大公家の方々は和解に努められたのだから、そんなに恨むべきではない、と感覚もあって、割り切れるのだが。
キャサリン妃殿下は、父親の仇の息子に嫁いで、更に、その子を産まされてしまうとは、と却って恨みを募らしてしまうのだろう。
更にエドワード殿下にしてみれば、そうはいっても、そもそも仕掛けてきたのは帝室だし、私は許しているのに妻のキャサリンは、どうして和解しようとしてくれないのか、と今の夫婦関係に疲れてしまっているのだろう。
私は色々と考えこんでしまった。
「ありがとうございます」
キャロライン皇貴妃殿下は、意味深な表情を浮かべて言った。
私は、ホッとした。
これで、兄が諦めてくれると良いのだが。
「話を戻すと、ともかく、こうしたことから、あなたを私の下で私的な侍女として仕えさせる、というのが、色々と難しくなったのです。私の下を、エドワードが訪ねて来たら、あなたの下も訪ねているのだ、とマイトラント伯爵らが邪推して騒ぎ立てるでしょう。そして、キャサリン妃殿下の耳にも入るでしょうし。ともかく、マーガレット皇后陛下の宮中女官らの綱紀粛正から時間が経たないのに、このような騒動が私の膝下で起こるのは困るのです」
キャロライン皇貴妃殿下の少し長いお言葉に、私は肯かざるを得なかった。
フローレンス・マイトラントが、マーガレット皇后の下に宮中女官として出仕したのは、綱紀粛正のためだ。
そして、ようやくその綱紀粛正が成った直後に、キャロライン皇貴妃の下で騒動が起きるのは、確かによくない。
だから、私をキャロライン皇貴妃の下で仕えさせるということが、やりづらくなってしまったのだ。
「それで、エドワードが言ったのです。アリスに報いるために、宮中女官にして叙爵するが、すぐに自発的な辞任をアリスにさせるというのは、どうだろうか、と。その後、自分が引き取ると」
ええっ、それって。
私は驚愕した。
私は、エドワード殿下の傍に住むことになるの。
「養母も賛成しました。むしろ、そうすべきではないか、と。ともかく、キャサリンの態度は、流石に目に余り過ぎます。お腹を痛めた娘を愛せないことについて、私とて気持ちは分からなくも無いのです。自分の血を分けた娘とはいえ、同時にエドワードの娘でもある訳ですから。父の仇の孫だ、と想うと、どうしても邪けんにしてしまう。そのようにキャサリンは、腹心の侍女にこぼしているそうです。ですが、これではどうにも」
キャロライン皇貴妃のお言葉は、私の胸に刺さらざるを得なかった。
私とて細かいことを言えば、大公家の方々について、親の仇と思わないことも無い。
更に言えば、姉が病死したのも、間接的には「帝都大乱」によるものだから、姉の死にも、大公家は間接的に関与しているともいえる。
しかし、それがあったのは、既に10年以上前の話で、しかも、ある意味、弓矢の沙汰の末と言える。
それに私の前世の21世紀の日本というより世界は、地球上で戦禍の絶えない世界でもあった。
その一方、この異世界、帝国においては、地方はともかく、帝都は数百年にわたり平和を謳歌していたのだ。
更に、その戦禍の映像をある意味、前世では見慣れていた私に対し、帝都の住民にしてみれば、戦争等は遠い何日もかけていかないといけない場所で、目に入らない話でもあった。
その感覚の差が、私とキャサリン妃殿下の差を産んでいる。
私にしてみれば、過去のことは過去のこと、更に大公家の方々は和解に努められたのだから、そんなに恨むべきではない、と感覚もあって、割り切れるのだが。
キャサリン妃殿下は、父親の仇の息子に嫁いで、更に、その子を産まされてしまうとは、と却って恨みを募らしてしまうのだろう。
更にエドワード殿下にしてみれば、そうはいっても、そもそも仕掛けてきたのは帝室だし、私は許しているのに妻のキャサリンは、どうして和解しようとしてくれないのか、と今の夫婦関係に疲れてしまっているのだろう。
私は色々と考えこんでしまった。
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