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第2部 アリス・ボークラール
第27話
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そんな事情から、結果的にだが、私はエドワード大公世子殿下のお宅に、1月余りというより2月近く住み込む羽目になってしまった。
そのために、言うまでもなく、秋の園遊会の準備等にも、私は不参加になってしまった。
更にその結果、というか、思わぬ余波まで生じてしまった。
「まさか、アリス様にここでお会いするとは」
「何か問題があるのですか」
「いえ、エドワード殿下によろしくお伝えください」
兄ダグラスからの大公世子の娘出産祝いの使者は、私を見て少なからず取り乱して、そんなやり取りをした。
私は、不穏な気配を感じ、わざと微笑んで、その使者にささやいた。
「安心して、私からキャロライン皇貴妃に頼み込んで、ここに来たの。やはり、正解だったようね。秘密裡に皇帝陛下に献上しておくわ」
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
詳しい事情を知らない使者は、私にあっさり騙されてしまった。
私は、こっそり祝いの品の中身を見た。
「やはり」
私は呟かざるを得なかった。
碁石金が、ぎっしり詰まっている。
私が、キャロライン皇貴妃殿下に渡したのと同じくらいの量だろう。
兄は、やはり帝室と大公家と二股をかけているのだ。
さて、どうすべきだろうか。
私は、ある意味、折衷案を執ることにした。
その日、エドワード殿下は、参議府での通常業務を終えて、キャサリン妃殿下を見舞った後、夕食を済ませて、私の下に来た。
産まれてきたアイラ様も、エドワード殿下は伴われている。
最近、完全にアイラ様が私に懐いてしまわれたようで、母代みたいに私が面倒を見ることが増えているのだ。
そして。
「兄からの献上品です。エドワードご夫妻に、とのことでした」
私は碁石金を、エドワード殿下に差し上げた。
これなら、表面上は兄の思惑に私は反していない。
兄の思惑通り、キャサリン妃殿下を介して、ジョン皇帝陛下に渡した、と私は言い張れる。
更に。
「ほう。これはこれは。大した献上品。ダグラス殿に、お礼を申し上げてくれ、帝室に対する忠誠を、妻が称賛していたとな」
エドワード殿下は、私に微笑まれながら言った。
実際、献上品の価値から言って、下級貴族の間では、最高額に近い贈り物を兄はしている。
だから、エドワード殿下の言葉は間違ってはいない。
そして、この献上品の実際の流れとなると。
言うまでもなく、エドワード殿下、大公家の懐に、この碁石金は入ることになる。
私は、結果論からすれば、兄を裏切った、ということになるのかもしれない。
だが、実は兄の行動は微妙に危ない橋だった。
キャサリン妃殿下に碁石金を渡し、ジョン皇帝陛下に更に密かに渡そう、と兄は考えたのだろうが、エドワード殿下等の目や耳に、兄からの碁石金のやり取りが入っては、大公家から兄は謀叛の嫌疑を掛けられてもやむを得ない。
だが、私がこうして行動しておけば、兄は謀叛の嫌疑を掛けられずに済むはずだ。
そして、エドワード殿下は、私のある意味、猿芝居を見抜いて下さっていた。
「ところで、これは私が受け取るよりも、妻が受け取るべきだ、と想うのだが。私が受け取って良かったのかな」
「いえ、キャサリン妃殿下は、初めて産まれた御子の顔を見るのもつらい有様ですので、エドワード殿下に、と私は考えました」
「それでは、本来の受取人に届かないのでは」
「果て何のことでしょう。大公家と帝室は一体ではありませんか。エドワード殿下に渡して差し障りがある等、あり得る筈がありません」
私とエドワード殿下は、お互いに惚けた会話を交わし、どちらからともなく笑い出した。
そして、笑いをお互いに収め。
「そういうことだな」
「そういうことです」
お互いに真実は分かっているが、そうすることにした。
そのために、言うまでもなく、秋の園遊会の準備等にも、私は不参加になってしまった。
更にその結果、というか、思わぬ余波まで生じてしまった。
「まさか、アリス様にここでお会いするとは」
「何か問題があるのですか」
「いえ、エドワード殿下によろしくお伝えください」
兄ダグラスからの大公世子の娘出産祝いの使者は、私を見て少なからず取り乱して、そんなやり取りをした。
私は、不穏な気配を感じ、わざと微笑んで、その使者にささやいた。
「安心して、私からキャロライン皇貴妃に頼み込んで、ここに来たの。やはり、正解だったようね。秘密裡に皇帝陛下に献上しておくわ」
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
詳しい事情を知らない使者は、私にあっさり騙されてしまった。
私は、こっそり祝いの品の中身を見た。
「やはり」
私は呟かざるを得なかった。
碁石金が、ぎっしり詰まっている。
私が、キャロライン皇貴妃殿下に渡したのと同じくらいの量だろう。
兄は、やはり帝室と大公家と二股をかけているのだ。
さて、どうすべきだろうか。
私は、ある意味、折衷案を執ることにした。
その日、エドワード殿下は、参議府での通常業務を終えて、キャサリン妃殿下を見舞った後、夕食を済ませて、私の下に来た。
産まれてきたアイラ様も、エドワード殿下は伴われている。
最近、完全にアイラ様が私に懐いてしまわれたようで、母代みたいに私が面倒を見ることが増えているのだ。
そして。
「兄からの献上品です。エドワードご夫妻に、とのことでした」
私は碁石金を、エドワード殿下に差し上げた。
これなら、表面上は兄の思惑に私は反していない。
兄の思惑通り、キャサリン妃殿下を介して、ジョン皇帝陛下に渡した、と私は言い張れる。
更に。
「ほう。これはこれは。大した献上品。ダグラス殿に、お礼を申し上げてくれ、帝室に対する忠誠を、妻が称賛していたとな」
エドワード殿下は、私に微笑まれながら言った。
実際、献上品の価値から言って、下級貴族の間では、最高額に近い贈り物を兄はしている。
だから、エドワード殿下の言葉は間違ってはいない。
そして、この献上品の実際の流れとなると。
言うまでもなく、エドワード殿下、大公家の懐に、この碁石金は入ることになる。
私は、結果論からすれば、兄を裏切った、ということになるのかもしれない。
だが、実は兄の行動は微妙に危ない橋だった。
キャサリン妃殿下に碁石金を渡し、ジョン皇帝陛下に更に密かに渡そう、と兄は考えたのだろうが、エドワード殿下等の目や耳に、兄からの碁石金のやり取りが入っては、大公家から兄は謀叛の嫌疑を掛けられてもやむを得ない。
だが、私がこうして行動しておけば、兄は謀叛の嫌疑を掛けられずに済むはずだ。
そして、エドワード殿下は、私のある意味、猿芝居を見抜いて下さっていた。
「ところで、これは私が受け取るよりも、妻が受け取るべきだ、と想うのだが。私が受け取って良かったのかな」
「いえ、キャサリン妃殿下は、初めて産まれた御子の顔を見るのもつらい有様ですので、エドワード殿下に、と私は考えました」
「それでは、本来の受取人に届かないのでは」
「果て何のことでしょう。大公家と帝室は一体ではありませんか。エドワード殿下に渡して差し障りがある等、あり得る筈がありません」
私とエドワード殿下は、お互いに惚けた会話を交わし、どちらからともなく笑い出した。
そして、笑いをお互いに収め。
「そういうことだな」
「そういうことです」
お互いに真実は分かっているが、そうすることにした。
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