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第2部 アリス・ボークラール
幕間(エドワードー4)
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特に私の養母のメアリーが、警戒心を抱いた。
念のために、養母の異母弟にして、私の目の前にいる、この叔父リチャードとフローレンス・マイトラント嬢との縁談を、養母がマイトラント伯爵に持ち掛けたところ、歯牙にもかけない態度に近かった、というのだ。
そこまでくると、マイトラント伯爵の底意を、養父や私でさえ深読みせざるを得ない。
マイトラント伯爵は、あわよくば大公家を乗っ取ろうとしているのではないか。
だが、それに対抗して大公家が講じられる手段となると、極めて限られているのも現実だ。
何しろ、「帝都大乱」の結果、マイトラント家に対峙していた二大軍事貴族の一方の雄、ボークラール家は完全に没落していたからだ。
だから、マイトラント伯爵家に歯向かえる軍事貴族は無いようにさえ思えたが。
皮肉なことに、私の義兄弟になったジョン皇帝が、ボークラール宗家を援助していた。
そして、現在のボークラール宗家の当主となるダグラス・ボークラールは、東国で力を蓄えつつあった。
大公家としては、「帝都大乱」での憎しみ等を水に流すために、ダグラス・ボークラールの復権を黙認していたのだが、このような状況になったことから、これは別の意味を持つようになった。
特に、養母が熱心になった。
ダグラス・ボークラールの妹、アリスと自分を結ばせよう、と養母は動き、キャロライン皇貴妃付の侍女にアリスを雇わせて、私が自然と目に入るように仕向けたのだ。
そして、アリスは、自分に好意を抱くようになっているようだ。
だが、その一方で。
フローレンス・マイトラントもそうだが、アリス・ボークラールも異常な程、芯が強く、下手に私が他の女性に手を出すと、私も他の女性も殺す、と言わないばかりの気配を漂わせているのを、私は察知した。
これを察知した時、私は半ば覚悟を固めざるを得なかった。
どうやら、私は二人の内どちらかを選ぶしかなくなったようだと。
二人以外を選んだら、双方から刺される運命が、私を待っている。
だが、その一方で。
何故か、私の心の一部が浮き立つものを覚えたのも事実だった。
武芸の修練をする際、何事にも命を懸ける、というのを私が教えられたせいかもしれないし、他に原因があるのかもしれないが。
命懸けの恋も、また、楽しからずや、という想いが私にはしたのだ。
そうしたことからすれば、アリス・ボークラールは、二重に私が好きになれる相手だった。
アリスの兄ダグラスは、先日、碁石に偽装した黄金を献上してきたが。
これは、ダグラスが、勝手に金貨を鋳造しかねないことを、暗にやらかして、誇示しているのも同様なのだ。
アリスは気が付かなかったようだが、それこそ通貨偽造未遂は重罪だ、として裁判に掛けられてもおかしくない。
それを平然とやってのける兄ダグラス。
鷹の子は鳩にはならない、と聞く。
ダグラスが、ボークラール宗家の血を承けているのは間違いないようで、私の血を良い意味で騒がせてくる。
そんなことをつらつらと考えている内に、私の汗は引いていた。
「さて、もう少し、弓馬術の修練をしますか」
「いいですな」
私は、叔父に声を掛け、叔父はそれに応じた。
馬に乗りながら、私は想った。
ダグラスと逢って、その本性を見極めたいものだ。
そして、それなりの人物と見極められたら、義兄弟になるかな。
下手をすると、お互いに寝首を掻こうと画策し合う義兄弟というのも、乙な気がしてならない。
もっともその前に。
「今の夫婦関係をどうするか、それも大事だな」
私は口に出した。
キャサリンとの関係を決めた上で、アリスとの関係を決めねば。
私が、前途で温かい家庭を築くのには、色々と乗り越えねばならないことが、本当に多々あるようだ。
念のために、養母の異母弟にして、私の目の前にいる、この叔父リチャードとフローレンス・マイトラント嬢との縁談を、養母がマイトラント伯爵に持ち掛けたところ、歯牙にもかけない態度に近かった、というのだ。
そこまでくると、マイトラント伯爵の底意を、養父や私でさえ深読みせざるを得ない。
マイトラント伯爵は、あわよくば大公家を乗っ取ろうとしているのではないか。
だが、それに対抗して大公家が講じられる手段となると、極めて限られているのも現実だ。
何しろ、「帝都大乱」の結果、マイトラント家に対峙していた二大軍事貴族の一方の雄、ボークラール家は完全に没落していたからだ。
だから、マイトラント伯爵家に歯向かえる軍事貴族は無いようにさえ思えたが。
皮肉なことに、私の義兄弟になったジョン皇帝が、ボークラール宗家を援助していた。
そして、現在のボークラール宗家の当主となるダグラス・ボークラールは、東国で力を蓄えつつあった。
大公家としては、「帝都大乱」での憎しみ等を水に流すために、ダグラス・ボークラールの復権を黙認していたのだが、このような状況になったことから、これは別の意味を持つようになった。
特に、養母が熱心になった。
ダグラス・ボークラールの妹、アリスと自分を結ばせよう、と養母は動き、キャロライン皇貴妃付の侍女にアリスを雇わせて、私が自然と目に入るように仕向けたのだ。
そして、アリスは、自分に好意を抱くようになっているようだ。
だが、その一方で。
フローレンス・マイトラントもそうだが、アリス・ボークラールも異常な程、芯が強く、下手に私が他の女性に手を出すと、私も他の女性も殺す、と言わないばかりの気配を漂わせているのを、私は察知した。
これを察知した時、私は半ば覚悟を固めざるを得なかった。
どうやら、私は二人の内どちらかを選ぶしかなくなったようだと。
二人以外を選んだら、双方から刺される運命が、私を待っている。
だが、その一方で。
何故か、私の心の一部が浮き立つものを覚えたのも事実だった。
武芸の修練をする際、何事にも命を懸ける、というのを私が教えられたせいかもしれないし、他に原因があるのかもしれないが。
命懸けの恋も、また、楽しからずや、という想いが私にはしたのだ。
そうしたことからすれば、アリス・ボークラールは、二重に私が好きになれる相手だった。
アリスの兄ダグラスは、先日、碁石に偽装した黄金を献上してきたが。
これは、ダグラスが、勝手に金貨を鋳造しかねないことを、暗にやらかして、誇示しているのも同様なのだ。
アリスは気が付かなかったようだが、それこそ通貨偽造未遂は重罪だ、として裁判に掛けられてもおかしくない。
それを平然とやってのける兄ダグラス。
鷹の子は鳩にはならない、と聞く。
ダグラスが、ボークラール宗家の血を承けているのは間違いないようで、私の血を良い意味で騒がせてくる。
そんなことをつらつらと考えている内に、私の汗は引いていた。
「さて、もう少し、弓馬術の修練をしますか」
「いいですな」
私は、叔父に声を掛け、叔父はそれに応じた。
馬に乗りながら、私は想った。
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そして、それなりの人物と見極められたら、義兄弟になるかな。
下手をすると、お互いに寝首を掻こうと画策し合う義兄弟というのも、乙な気がしてならない。
もっともその前に。
「今の夫婦関係をどうするか、それも大事だな」
私は口に出した。
キャサリンとの関係を決めた上で、アリスとの関係を決めねば。
私が、前途で温かい家庭を築くのには、色々と乗り越えねばならないことが、本当に多々あるようだ。
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