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第2部 アリス・ボークラール

幕間(メアリーとキャロライン-2)

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 私は、養母、メアリー母さんの話を、あらためて頭の中で反芻した。
 マイトラント伯爵が、本気で野心を持ち出した場合、大公家はどうやって対抗すべきだろうか。
 マイトラント一族に対峙できる軍事貴族が、ボークラール一族以外にあるだろうか。
 そして、ボークラール一族を、大公家に取り込む手段となると、どんな手段があるだろうか。
 更に、アリス・ボークラールの立場を考え合わせていくと。

 私は、お茶の香りを、あらためて楽しむ振りをしながら、自分の考えを整理していった。
 軍事貴族の両雄と言えば、マイトラント一族とボークラール一族なのは、間違いない話だ。
 他の軍事貴族では、騎士1000騎を集めるのも容易ではないが、マイトラント一族なら数千騎が集まるのは確実だし、ボークラール一族に至っては、騎士1万騎が集まるかもしれぬ、という勢威を持っている。
 何故に、これ程の格差が、他の軍事貴族との間に生じたのか。

 まず軍事貴族とは何か。
 帝国の貴族は、基本的に伯爵以上の上級貴族と、子爵以下の下級貴族に、まず分けられる。
 そして、貴族は一代貴族が原則とはいえ、嫡出の長男なら、父と同等の爵位まで陞爵していくのが通例で、だから公爵家、侯爵家、伯爵家、子爵家、男爵家と呼ばれることが多い。
 軍事貴族とは、下級貴族の中の更に一部が属する。

 下級貴族は、主に2種に分けられる。
 主に帝都で中央行政官としての経歴を積む貴族と、主に帝都外で地方行政官としての経歴を積む貴族とにだ。
(勿論、実際には、中央行政官を務めた後、地方行政官として出ていく等の交流が無いわけではない)
 軍事貴族は、主に地方行政官としての経歴を積む貴族から起こった。
 彼らの一部は地方に赴き、その子弟を赴いた先の地方の有力者と結婚させる等して土着させ、荘園を開発した。
 そして、その荘園を、帝室や大公家、教会に寄進し、その荘園の自衛等のために、騎士を育てていき。
 最終的に、その騎士を束ねる軍事貴族が成立していった。

 だが、それだけでは、ボークラール一族やマイトラント一族は、他の軍事貴族と懸絶した軍事貴族にならなかっただろう。
 この二つは、更に別の切り札を持っていたのだ。
 ボークラール一族は、帝室との濃い血縁という権威に加え、牧場と金等の鉱山経営という力が加わった。
 マイトラント一族は、大公家との濃い血縁という権威に加え、香辛料の海外貿易等という力が加わった。

 この権威と力という両輪が、地方の小さな騎士集団を、この二つに引き寄せ、更なる力を生み出したのだ。
 まさに、兵と金と力(権威)による鉄のトライアングルで、この二つは強大になった。

 だが、このことが、「ボークラール一族の共食い」も生み出した。
 牧場経営も、鉱山経営も、早々、身内だからと言って譲歩していては、自らの味方を失うことになりかねない。
 だから、ボークラール一族同士で争いが生じた場合は徹底してやる、ということが多発することになり、「ボークラール一族の共食い」という忌まわしい言葉を生み出したのだ。

 そして、話を戻すと、アリス・ボークラールは、言うまでもなくボークラール一族の宗家の娘であり、ボークラール一族の力を大公家が取り込もうとするのなら、格好の相手と言える。

 私は、自分の母親を殺されたという感情と、大公家の将来の政治的な状況を、冷静に考えた末に。
「分かりました。この件については、エドワードの判断に任せます」 
 とうとう、そう言わざるを得なかった。

「よろしくね」
 その答えを聞いたメアリー母さんは、そう言って四阿から去っていった。
 下手に話すと、私の気が変わるかも、と思われたのだろう。

 私は更に一人考えた。
 アリスとエドワードは結ばれるのだろうか。
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