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第1部 メアリー・グレヴィル

エピローグ(第1部)

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 あれから、15年近くが経つのか、私は養子のエドワードの結婚式を前に、ふと、時の流れの速さに想いを馳せざるを得なかった。
 妹のアン、それにヘンリー大公が焼死し、更に、元皇帝ジェームズが自裁という結末を迎えた「帝都大乱」から、それだけの歳月が流れていた。

 あの後、ジョン皇帝陛下の執った態度は、私の目からすれば、何とも言えないものだった。
 実父であるジェームズ元皇帝陛下でさえ、自裁に追い込まれた。
 今の大公家に逆らえば、どんな事態が引き起こされるのか、恐怖感にジョン皇帝陛下は駆られたのだろう。

 ヘンリー大公の遺児、マーガレット公女を6年後に皇后として迎える、とジョン皇帝陛下は言われた。
 マーガレットは、その時、9歳だ。
 だから、この世界では成人してすぐの結婚といってもよい。
 だが。

 私は反対した。
 マーガレットが不妊症なのを、原作者として知っているからだ。
 マーガレットが、不妊症で悩み、歪んでしまう事態を回避せねば、と私は想ったのだ。
 しかし。

 そのことは、ジョン皇帝陛下に更なる恐怖を与えたらしい。
 それならば、更にチャールズ大公の娘、キャロラインを朕の皇貴妃として迎え、朕の姉妹キャサリンを、チャールズ大公の養子にして、ヘンリー大公の遺児になるエドワードの妻として降嫁させる、とまでジョン皇帝陛下は仰られる、という事態が起きてしまった。
 幾ら何でも、なりふり構わないにも程がある、と私は思ったが、ジョン皇帝陛下がそこまで仰せの事を拒めるはずもない、拒んでは、それこそ大公家はジョン皇帝陛下の廃位を考えている、と思われるだろう。
 チャールズも、そう言い、私も同意せざるを得なかった。
 とは言え。

 前途は多難極まりないようだ。
 良くも悪くも、ある意味、おつむの足りないマーガレットは皇后陛下になって、10年近くが経ったが、ジョン皇帝陛下に今も愛されている。
 過去の「帝都大乱」をマーガレットは棚上げして、ジョン皇帝陛下を安らがせているのだ。
 その一方で。

 キャロラインは、皇貴妃殿下と呼ばれる立場になり、3年前に入内して、トマス皇子をすぐに産んだ。
 だが、聡すぎるキャロラインは、トマス皇子をすぐにマーガレット皇后の養子にした。
 裏表がなさすぎるマーガレット皇后は、素直に喜んだが、ジョン皇帝陛下は、余りにも素直過ぎ、と不満らしい。
 ジョン皇帝陛下としては、この1件で大公家内部に波風を立てたかったのだろうが、キャロラインの行動により、マーガレットとキャロラインは、(少なくとも表面上は)極めて仲良くなってしまった。
 そして。

 エドワードは、不承不承、キャサリン皇女と結婚する羽目になった。
 キャサリン皇女は27歳、15歳の男性、エドワードにしてみれば、全く年上女房にも程がある事態だ。
 キャサリン皇女も、「帝都大乱」の経緯から、気が進まない結婚らしい。
 私は、溜息しか出なかった。

 私は、ふと思いついた。
 そうだ、アリス・ボークラールを、エドワードの第二夫人にするのは、どうだろうか。
 もし、彼女が、転生してきているのなら、彼女のかつての願いを後押しすることになるのでは。
 この世界では、妻を二人まで娶れる。

 私としては、アリス・ボークラールが、エドワードと顔を逢わせられるところまでしかお膳立てはできないが。
 その後は、アリスの努力次第だろう。
 もっとも、ロミオとジュリエットどころではない、壁が二人の間にはある。

 アリスの父、ボークラール子爵の配下の騎士が、エドワードの(表面上の)両親、ヘンリー大公とアン大公妃を焼き殺しているのだ。
 つまり、加害者と被害者の子ども同士、ということに二人はなるのだ。
 この壁をアリスは乗り越えられるだろうか、私は物思いに耽った。
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