自分の描いた作品世界に転生するとは

第１部 メアリー・グレヴィル

第２４話

　私は、アンの内心を推測した。
　原作のアンとは、何故にここまで、この世界のアンは異なってしまったのか。

　変な話だが、人を許す、という行為は、許す側が基本的に優位、せめて対等な立場にあり、更に謝罪する側が心から行うのが大前提だ。
　いい例が、学校等において、いじめられっ子がいじめっ子を許す場合だ。

　学校等で、いじめっ子が反省して、頭を下げた場合、いじめられっ子は許します、と大抵は言うが。
　実際は、学校の教師から、いじめっ子が頭を下げるのだから、勘弁してあげなさい、といじめられっ子は、半ば強制して言わされており、いじめっ子側は先生から頭を下げさせられている、というのが現実だ。
　その結果、往々にして。

　いじめられっ子側は、いじめっ子は、実は反省していない、と不満を後々まで引きずることになり。
　いじめっ子側は、こちらから下げたくもない頭を下げてやったのに何だ、と不満を持つことになる。

　今回のアンの場合で言えば。
　原作では、アンとチャールズが結婚式で真実を知った後、メアリは高慢な態度を執り、チャールズはアンと結婚出来ればよかった、としょっちゅう溜息をこぼす一方、アンは、私のせいで、姉夫婦は上手くいっていない、と悩むことになる。
　更にキャロラインが産まれたのを知った際に、メアリは、何で他の女が産んだ子を私が引き取らない、といけないの、チャールズの子どもなら私が産むわ、と怒り、チャールズは、メアリの怒りの前に、キャロラインを実家に預ける羽目になったのだ。
　だから、尚更、アンは姉夫婦の仲を更に壊したのは自分だ、と自責の念に駆られてしまう。

　だが、この世界では。
　メアリ、私はチャールズと結婚当初から夫婦仲が良く、更にキャロラインが産まれたら、諸手を挙げて、キャロラインを引き取る有様なのだ。
　更に、キャロラインは、私に完全に懐いてしまい、アンを人見知りして避ける有様になっている。

　私はチャールズに、結果的にもてあそばれただけ、更に姉は、チャールズもキャロラインも公然と奪い取った末にそれを見せつけるのか。
　とアンが、いわゆるブチ切れてしまうのも無理はない。

　そして、アンは私に復讐の方法を考えるようになったのではないだろうか。
　私は、そこまで考えを進めた。

　私が恨まれるのは、ある程度は仕方ない。
　だが、その恨みが、チャールズ、更に大公家にまで被害をもたらすのなら別だ。
　この世界に完全に馴染み、毒されていた私はそう考えた。

　アン、あなたは悪魔、魔王に喧嘩をうることになるのよ。
　人間の身で勝てる、と想っているの。
　私は最悪の場合を想定し、その場合は、アンと戦うことを決意した。
　
　さて、どうすべきかな。

　アンの考えが、ヘンリー大公と結婚することで、大公妃となり、大公世子妃である私より上位に立ちたい、という考え程度なら、私は甘受してもいいだろう。
　だが、問題は。

　アンが、ヘンリー大公の子を産むことで、チャールズの跡取りに自分の子を押し込もう、と考えている場合だ。
　ヘンリーが大公になったのは、実の息子がいなかったから、というのも理由だった。
　チャールズの父アーサーは、ヘンリーの死後、チャールズに大公が戻り、チャールズの子孫が大公家を継ぐ、と考えて、ヘンリーを中継ぎの大公にしたのだ。
　だが、ヘンリーの息子をアンが産んで、アンが自分の子を大公世子にしようと考えたら、ヘンリーの子孫とチャールズの子孫で大公家が分裂するというリスクが起きてしまう。

　原作では、エドワードがチャールズの子なので、大公家分裂のリスクが当初は回避されたが、最終的にエドワードが廃嫡され、大公家分裂リスクが起きてしまった。
　私は、どうしたらよいのだろうか。
　私は考えに耽ることになった。