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第1部 メアリー・グレヴィル
第9話
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「それにアン様も、お姉様はお忙しそうだから、いつものことだし、黙って私は北山の別荘に行った方がいいわね、と言われていましたし」
侍女は続いて弁解した。
私は(内心でだが)舌打ちするしかなかった。
確かに、夏の暑さに耐え難くなってくると、北山の別荘で避暑をするのは、我が家では夏の恒例である。
帝都は盆地にあり、夏の暑さが厳しいのだ。
それもあって、我が家を含む上級貴族の間では、仕事のある男性貴族はともかく、その妻子は夏の間、暫くは北山の別荘で避暑のために暑さを凌ぐのが、半ば当たり前の話になっている。
とは言え、流石に結婚の準備に忙しい私は、北山の別荘には、本来は行くどころの話ではない。
だから、アンが気遣って、黙って行くというのは、ある意味、私は想定しておくことだったかもしれないが、原作では、アンは私に告げてから出発したし。
と、ここまで考えを巡らせて、私はある事実に気付いた。
チャールズも、手紙によれば、昨日から二泊三日で北山に行っている筈だ。
ということは、原作通りに。
私はパニックに陥った。
「メアリ様、顔色が真っ青ですよ」
「急に気分が悪くなったの。ベッドで横になって、そのまま眠るわ」
「はっ、はい」
侍女の声が少し遠く聞こえる。
やらかした、取り返しのつかない大失敗だ。
ベッドに横になって、声を殺して私は泣き出した。
原作通りの展開なのに、私は阻止に失敗したのだ。
北山の別荘に避暑に来たアンは、夜中に目覚めた際、月の光に照らされた庭を見て、庭の中の散策を思い立つ。
その散策中のアンを、月夜に誘われて散歩に出たチャールズは見初めるのだ。
原作でも屈指の美しいシーンで、作画家の彼女の画力に称賛の声が読者から浴びせられた。
そして。
夜中に散策するとは、侍女だろう。
婚約者の妹アンが、そんなことをするとは思えない。
グレヴィル公爵家には、あんな美少女の侍女がいるのか、自分の召人にしたいな。
そう考えたチャールズは、
「あなたのお部屋で話をさせていただけませんか」
とアンに申し込んだ。
チャールズを一目見て、上質な衣装等から、上級貴族と判断したアンは、話くらいなら、と応じてしまう。
(侍女といえど下級貴族の子女からなる上級貴族の場合、侍女も個室があるのが普通)
ところが。
「あなたのお部屋で話をさせていただけませんか」
というのは、この世界では、あなたと肉体関係を持ちたい、という隠語なのだ。
例えて言えば、一緒にラブホテルの一室に泊まりたい、と申し込まれて、アンはそれを受けたのだ。
世間知らずにも程がある、と言われても仕方が無いが、皇帝の孫娘で、十代半ばの公爵家の娘が、そういった隠語を知っている方がむしろ問題だろう。
だから、チャールズは、その気になって、部屋の中で、そういった行動を取り、アンは、いきなりそんなことをされるとは思ってもいなかったので、パニック状態になり、声も挙げられず、抵抗できない有様になってしまった。
そして。
チャールズは、アンを気に入り、また、連絡します、と行って去っていく。
チャールズにしてみれば、グレヴィル公爵家の侍女であり、メアリと結婚後に会えると思ったのだ。
一方、アンにしてみれば、思わぬ災難、悲劇だった。
21世紀なら、携帯電話ですぐに連絡できる。
だが、魔法のないこの中世、近世レベルの世界では。
私から、アンやチャールズに今から連絡する手段は無い。
ということは。
アンとチャールズが関係を持ち、キャロラインが産まれるという、原作通りの展開が起きるということになってしまったのだ。
私は頭を抱え込んだ。
確かに、チャールズが他の女性に産ませた子を、私は養子にするつもりだったが。
アンの子を養子にするとは。
侍女は続いて弁解した。
私は(内心でだが)舌打ちするしかなかった。
確かに、夏の暑さに耐え難くなってくると、北山の別荘で避暑をするのは、我が家では夏の恒例である。
帝都は盆地にあり、夏の暑さが厳しいのだ。
それもあって、我が家を含む上級貴族の間では、仕事のある男性貴族はともかく、その妻子は夏の間、暫くは北山の別荘で避暑のために暑さを凌ぐのが、半ば当たり前の話になっている。
とは言え、流石に結婚の準備に忙しい私は、北山の別荘には、本来は行くどころの話ではない。
だから、アンが気遣って、黙って行くというのは、ある意味、私は想定しておくことだったかもしれないが、原作では、アンは私に告げてから出発したし。
と、ここまで考えを巡らせて、私はある事実に気付いた。
チャールズも、手紙によれば、昨日から二泊三日で北山に行っている筈だ。
ということは、原作通りに。
私はパニックに陥った。
「メアリ様、顔色が真っ青ですよ」
「急に気分が悪くなったの。ベッドで横になって、そのまま眠るわ」
「はっ、はい」
侍女の声が少し遠く聞こえる。
やらかした、取り返しのつかない大失敗だ。
ベッドに横になって、声を殺して私は泣き出した。
原作通りの展開なのに、私は阻止に失敗したのだ。
北山の別荘に避暑に来たアンは、夜中に目覚めた際、月の光に照らされた庭を見て、庭の中の散策を思い立つ。
その散策中のアンを、月夜に誘われて散歩に出たチャールズは見初めるのだ。
原作でも屈指の美しいシーンで、作画家の彼女の画力に称賛の声が読者から浴びせられた。
そして。
夜中に散策するとは、侍女だろう。
婚約者の妹アンが、そんなことをするとは思えない。
グレヴィル公爵家には、あんな美少女の侍女がいるのか、自分の召人にしたいな。
そう考えたチャールズは、
「あなたのお部屋で話をさせていただけませんか」
とアンに申し込んだ。
チャールズを一目見て、上質な衣装等から、上級貴族と判断したアンは、話くらいなら、と応じてしまう。
(侍女といえど下級貴族の子女からなる上級貴族の場合、侍女も個室があるのが普通)
ところが。
「あなたのお部屋で話をさせていただけませんか」
というのは、この世界では、あなたと肉体関係を持ちたい、という隠語なのだ。
例えて言えば、一緒にラブホテルの一室に泊まりたい、と申し込まれて、アンはそれを受けたのだ。
世間知らずにも程がある、と言われても仕方が無いが、皇帝の孫娘で、十代半ばの公爵家の娘が、そういった隠語を知っている方がむしろ問題だろう。
だから、チャールズは、その気になって、部屋の中で、そういった行動を取り、アンは、いきなりそんなことをされるとは思ってもいなかったので、パニック状態になり、声も挙げられず、抵抗できない有様になってしまった。
そして。
チャールズは、アンを気に入り、また、連絡します、と行って去っていく。
チャールズにしてみれば、グレヴィル公爵家の侍女であり、メアリと結婚後に会えると思ったのだ。
一方、アンにしてみれば、思わぬ災難、悲劇だった。
21世紀なら、携帯電話ですぐに連絡できる。
だが、魔法のないこの中世、近世レベルの世界では。
私から、アンやチャールズに今から連絡する手段は無い。
ということは。
アンとチャールズが関係を持ち、キャロラインが産まれるという、原作通りの展開が起きるということになってしまったのだ。
私は頭を抱え込んだ。
確かに、チャールズが他の女性に産ませた子を、私は養子にするつもりだったが。
アンの子を養子にするとは。
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