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第1部 メアリー・グレヴィル

第4話

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 アリス・ボークラールが登場したのは、この頃だった。
 元皇帝ジェームズから、アンへの使者として遣わされる宮中女官というのが初出だった。

 元皇帝ジェームズは、アンに対して、アリスを使者として送り、皇帝ジョンについて、マーガレットを皇后に、キャロラインを皇貴妃にすればいい、と勧めてきたのだ。
 それにアンは軽々しくのってしまう。

 これについて、チャールズは更にへそを曲げることになる。
 大公家から、皇后は出しても、皇貴妃は出さない、というのが長年の不文律、慣行になっていたからだ。
 何故か、というと。

 帝国の国教の真教では、二人の正妻を認めており、それもあって、皇帝の正妻として、皇后と皇貴妃という二つの地位が認められている。
 また、帝位継承の為もあり、皇帝が、皇妃という名の愛人を複数(4人程度)持つことも認められてはいるが。
 大公家出身者が、皇后と皇貴妃両方を占めては、他の貴族との関係を良好に保てなくなるとして、不文律として、大公家は皇后は出しても、皇貴妃は出さないことになっていたのだ。

 アンにしてみれば、元皇帝ジェームズ、つまり、帝室からの申し入れなのだから構わないのでは、と軽々しく考えたのだが、このことは、チャールズのへそを曲げてしまった。
 そして、チャールズは、一応はアンの判断を諫めたが、アンは元皇帝ジェームズからの仰せだから、とチャールズの反対を押し切ってしまい、更にこのことは他の貴族にも大公家の分裂の始まりを印象付けてしまう。

 そして、マーガレットは入内して、皇后になるのだが。
 チャールズの懸念通り、マーガレットは、皇后に相応しい行動がとれず、アンは後宮に事実上は詰めないといけない羽目になってしまう。
 更に、このことは悪影響が出ることになった。

 チャールズは、アンは元皇帝ジェームズに好意を抱いて、後宮に上がったのでは、と邪推し。
 また、元皇帝ジェームズは、孤閨を保って後宮に入ってきたアンを、半ば強引に口説き出す。
(ついでに言えば、アリス・ボークラールは、この仲介役を務め、アンの側近の宮中女官になる)

 アンとチャールズがつながっていれば良かったのだが、アンはチャールズとの争いに疲れていたことや、チャールズがマーガレットの後見をしなくなったこともあり、元皇帝ジェームズの口説きに応じてしまう。
 アンは、マーガレットの後見人に元皇帝ジェームズがなる、という甘言もあり、元皇帝ジェームズの事実上の愛人になり、更に准皇后に叙せられるのだ。
 この養女のマーガレットを想ってのアンの行為が、チャールズとアンとの間を完全に割くことになった。  

(准皇后とは?
 帝国において、皇族等の高位の女性に与えられる称号で、大皇太后、皇太后、皇后、皇貴妃に次ぐ地位。
 なお、帝国において、大公妃は、准皇后に次ぐ公的地位とされている
 アンは皇帝の孫娘なので、准皇后に叙せられる資格がある)

 アンは完全に自分を裏切って帝室側に立った、と判断したチャールズは、アンの懸命の弁解も聴かず、キャロラインを皇貴妃として入内させる。
 そして、キャロラインは、実母譲りの美貌と才智から、ジョンの寵愛を受けることになり、すぐに第一皇子のトマスを妊娠出産する。
 一方、マーガレットは、自らの不妊に悩んでいた。
(裏設定を言えば、マーガレットは不妊症だったのだ)
 そして、アンは、元皇帝ジェームズとの間の子を身籠ってしまう。

 流石に外聞もあり、アンはこの妊娠をできる限り、秘密にするが、このことは元皇帝ジェームズが謀略を巡らせるきっかけとなり、更にキャロラインに寵愛を奪われたマーガレットが、元皇帝ジェームズに加担するという事態を招いてしまう。
 ここに動乱の導火線が生まれた。
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