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第10章 城山における最後の戦い
第1話
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8月17日の夜、闇の中を黙々と数百人の男たちが進んでいた。
今やそれが、西郷軍の全ての兵だった。
可愛岳を越えよう、そして政府軍の囲みを突破しよう、ほぼそれのみを考えて男たちは進んでいた。
その中には、小倉処平も混じっていた。
小倉は、ふと戦争勃発からこれまでのこと、特に最近のことを思い起こした。
西郷隆盛さんが決起した、と東京で自分は聞いて、飫肥へ戻り、鹿児島を経て、熊本で既に出発していた飫肥隊と合流したのだった。
それから、熊本城が攻防戦の末に政府軍に解囲されて、起死回生の一策として、野村忍助らの奇兵隊と共に、大分方面への進出を自分達は試みたが、所詮は多勢に無勢、次第に政府軍に追い詰められていった。
西郷軍の主力も人吉の陥落、鹿児島からの完全撤退、と次第に政府軍に追われ、宮崎でしばらくは粘ったが、結局は押されていった。
延岡で、自分達が最終的に西郷軍主力と合流したのは、8月初めのことだった。
その時にいた西郷軍は、全部で4000名近くだったと思う。
8月15日、和田越で政府軍に決戦を挑んだが、政府軍は3万は少なくともいた。
更に海軍による艦砲の支援もあった。
また、こちらはまともな銃弾すら事欠き、食事も1日粥のみの1食で大方が腹を空かせているのに、政府軍は銃砲弾は豊富で、食事もまともに食べているのだから、どうにもならなかった。
わずか1日で大敗、政府軍に西郷軍は完全包囲された。
8月16日から17日まで投降か、脱出か、全滅するまで戦うか激論を幹部間で交わした。
そして、西郷さんの解軍宣言があった。
自分は飫肥隊にそのことを伝えた。
小倉は、眼前にありありとその時の情景が目に浮かぶように、更に想い起こした。
「西郷さんから解軍宣言が出た。
私は飫肥隊の生き残りの最高指揮官として、諸君に命じる。
飫肥隊全員で政府軍に降伏するように」
小倉がそう言ったところ。
「小倉先生は?」
隊員の1人が質問した。
「西郷さんに最期まで付き添いたい。
西郷さんの後を追うつもりだ」
「それなら私も同行します」
「私も」
小倉の言葉に、隊員からは、次々と小倉に同行したい旨の発言が相次いだ。
「駄目だ。指揮官の命令に従え」
小倉は一喝したが、発言は収まらない。
「先生、どうかお願いします。
一緒に連れて行ってください」
中には泣きながら頼む者までいる。
そうしたことから、小倉と隊員は更なるやり取りをした。
「これ以上、死ぬ必要はない。
私の最後の命令に従い、政府軍に降伏してくれ。
そして、生き残って、新たな礎を、郷里に国に築いていってくれ。
私の最期の願いだ」
最後には、半ばこちら、小倉が哀願するような感じにまでなった。
それでもついていくと言い張る者がいて、2人ほどが結局、自分、小倉に付いてきていた。
あの場に、小村寿太郎がいなくて本当に良かった。
あいつは、未来の日本国に必要な人材だ。
あいつが国内にいたら、自分についてきていたに違いない。
あいつが、米国にいてよかった。
小倉は、ふと感傷的な想いにかられた。
そして、最終的に可愛岳を越えて、西郷さんと最期を共にする決意を固めた者のみの脱出策が、西郷軍では採られることになったのだった。
可愛岳を越えて、どこに行くのか、それすら決まっていない。
可愛岳を越えるという奇襲策を執ることで、政府軍の包囲網を突破できるだろう、という希望的観測から、西郷軍内の話し合いの末に、この作戦が執られることになったのだ。
この作戦に成功したところで、どうなるというのだろう、という想いが、心の片隅でしないことは無い。
だが、最早ここまで来た以上、西郷さんと同行して自分は死ぬまでだ、小倉は進みながら、あらためてそう内心で誓っていた。
今やそれが、西郷軍の全ての兵だった。
可愛岳を越えよう、そして政府軍の囲みを突破しよう、ほぼそれのみを考えて男たちは進んでいた。
その中には、小倉処平も混じっていた。
小倉は、ふと戦争勃発からこれまでのこと、特に最近のことを思い起こした。
西郷隆盛さんが決起した、と東京で自分は聞いて、飫肥へ戻り、鹿児島を経て、熊本で既に出発していた飫肥隊と合流したのだった。
それから、熊本城が攻防戦の末に政府軍に解囲されて、起死回生の一策として、野村忍助らの奇兵隊と共に、大分方面への進出を自分達は試みたが、所詮は多勢に無勢、次第に政府軍に追い詰められていった。
西郷軍の主力も人吉の陥落、鹿児島からの完全撤退、と次第に政府軍に追われ、宮崎でしばらくは粘ったが、結局は押されていった。
延岡で、自分達が最終的に西郷軍主力と合流したのは、8月初めのことだった。
その時にいた西郷軍は、全部で4000名近くだったと思う。
8月15日、和田越で政府軍に決戦を挑んだが、政府軍は3万は少なくともいた。
更に海軍による艦砲の支援もあった。
また、こちらはまともな銃弾すら事欠き、食事も1日粥のみの1食で大方が腹を空かせているのに、政府軍は銃砲弾は豊富で、食事もまともに食べているのだから、どうにもならなかった。
わずか1日で大敗、政府軍に西郷軍は完全包囲された。
8月16日から17日まで投降か、脱出か、全滅するまで戦うか激論を幹部間で交わした。
そして、西郷さんの解軍宣言があった。
自分は飫肥隊にそのことを伝えた。
小倉は、眼前にありありとその時の情景が目に浮かぶように、更に想い起こした。
「西郷さんから解軍宣言が出た。
私は飫肥隊の生き残りの最高指揮官として、諸君に命じる。
飫肥隊全員で政府軍に降伏するように」
小倉がそう言ったところ。
「小倉先生は?」
隊員の1人が質問した。
「西郷さんに最期まで付き添いたい。
西郷さんの後を追うつもりだ」
「それなら私も同行します」
「私も」
小倉の言葉に、隊員からは、次々と小倉に同行したい旨の発言が相次いだ。
「駄目だ。指揮官の命令に従え」
小倉は一喝したが、発言は収まらない。
「先生、どうかお願いします。
一緒に連れて行ってください」
中には泣きながら頼む者までいる。
そうしたことから、小倉と隊員は更なるやり取りをした。
「これ以上、死ぬ必要はない。
私の最後の命令に従い、政府軍に降伏してくれ。
そして、生き残って、新たな礎を、郷里に国に築いていってくれ。
私の最期の願いだ」
最後には、半ばこちら、小倉が哀願するような感じにまでなった。
それでもついていくと言い張る者がいて、2人ほどが結局、自分、小倉に付いてきていた。
あの場に、小村寿太郎がいなくて本当に良かった。
あいつは、未来の日本国に必要な人材だ。
あいつが国内にいたら、自分についてきていたに違いない。
あいつが、米国にいてよかった。
小倉は、ふと感傷的な想いにかられた。
そして、最終的に可愛岳を越えて、西郷さんと最期を共にする決意を固めた者のみの脱出策が、西郷軍では採られることになったのだった。
可愛岳を越えて、どこに行くのか、それすら決まっていない。
可愛岳を越えるという奇襲策を執ることで、政府軍の包囲網を突破できるだろう、という希望的観測から、西郷軍内の話し合いの末に、この作戦が執られることになったのだ。
この作戦に成功したところで、どうなるというのだろう、という想いが、心の片隅でしないことは無い。
だが、最早ここまで来た以上、西郷さんと同行して自分は死ぬまでだ、小倉は進みながら、あらためてそう内心で誓っていた。
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