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第8章 城東会戦と人吉攻防戦

第2話

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 海兵隊幹部の会合が終わった後、それぞれが部隊に戻ろうとしたが。
 林忠崇大尉は、そっと土方歳三少佐に覚られないように身を隠して、あらためて滝川充太郎少佐と、秘密裏に面談することにした。
 滝川少佐は林大尉の行為に戸惑ったが、面談自体は受け入れてくれた。

「単刀直入に言わせてください。
 土方少佐は最前線に出さないでください」
「いきなり何を言い出すのだ」
 林大尉の言葉に、滝川少佐は内心では慌てたが、表面上は内心を押し隠して答えた。

「土方少佐は、心の奥底では死を追い求めておられます。
 古屋佐久左衛門少佐らの戦死がそれを更に後押ししてしまったようです。
 私としては、戦闘の過程で已む無く戦死するというのなら、それは受け入れますが。
 土方少佐が死を追い求め、その結果として亡くなられるのは避けたいと思うのです」
 林大尉は、滝川少佐に言い募った。

「しかし、どうしてそんな思いを土方少佐は」
「私の推測ですが、戊辰戦争で奮闘して、そこで死ぬつもりだったのに生き延びてしまった、という思いが、土方少佐は、内心の奥底ではぬぐえないのではないでしょうか。
 私も実はその1人かもしれません。
 でも、屯田兵として今は生活していて、妻子もいる土方少佐を、積極的に死に追いやるようなことを、私は避けたいのです」
 滝川少佐と林大尉は、更にやり取りをした。

「確かに言われてみれば、私もそうだな」
 林大尉の推測を聞いてみれば、滝川少佐も土方少佐の内心が分かる気がした。

 あの戊辰戦争は、仙台藩の降伏やブリュネ少佐の説得等もあって終結には至ったが、あの戦争で散ろうと思っていた者が、結果的とはいえ、多く生き残ったのも、また事実なのだ。
 そういう者にとって、この戦争は、ある意味では落とし前をつける絶好の機会なのかもしれない。

「分かった。
 できる限りは、土方少佐を最前線に出さないようにする」
「ありがとうございます」
 滝川少佐の言葉に感謝しながら、林大尉は辞去した。
 その一方で。

 政府軍との一大会戦を決意した西郷軍にとって、その機会が巡ってくるのは、意外と早かった。
 御船、健軍地域は、一時的に背面軍等が制圧していたのだが、熊本城救援に政府軍が部隊を集結させた結果、西郷軍が奪還に成功していたのだ。
 熊本城解放に成功した政府軍は、まずこれらの地域の奪回に全力を挙げることにし、それに西郷軍も対応して、兵力を展開した。
 ここに熊本城東において、政府軍と西郷軍の大会戦の機運が高まることになった。
 こうした状況を受けて。

「海兵隊をできる限り、一括して運用していただけないでしょうか。
 補給等もその方が楽になりますし」
 滝川少佐は、山県有朋参軍に直訴していた。

「確かにそうだな。
 それで、海兵隊が一括して赴きたいところはあるか」
 山県参軍は、滝川少佐の言葉に道理があると認め、滝川少佐に尋ねた。

「あえて言えば土地勘のある御船ですが、山県参軍の判断に従います」
「それなら健軍に行ってもらおう。
 御船ともそう離れていないし、西郷軍との会戦に際しては、戦線の中央を扼する要衝になる。
 海兵隊はこれまでの戦いで精鋭ぶりを示している。
 健軍を海兵隊が奪還することで、それをさらに示してくれ」
 滝川少佐の答えに、山県参軍は、そう海兵隊に対して、指示を下した。

「分かりました」
 滝川少佐は、山県参軍の命令を受けた。
 
 熊本城近郊にいる海兵隊は、健軍奪還に全力を投じることになった。
 林大尉率いる第1海兵大隊、滝川少佐率いる第2海兵大隊、土方少佐率いる第3海兵大隊は、臨時の海兵団に編制されて、健軍奪還へと向かう。

 滝川少佐は、臨時の海兵団を率いながら、心の片隅で想った。
 自分も、この戦争で落とし前を付けることになるのでは。
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