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第7章 背面軍の奮闘と熊本城完全解囲

第11話

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 林忠崇大尉は犬養毅からの取材を終え、一息ついた。
 あの後、2人の間では予想外に話が弾んでしまった。
 犬養は前回の取材で反省したのか、質問は投げかけるものの、聞き手に基本的に徹しており、林の返答を生かそうとする姿勢を見せていた。

 それに林の経歴は、元大名でありながら、自ら脱藩をして、終には、フランスに留学までする等、取材する者としてみれば、幾らでも質問したくなる経歴である。
 そんなこともあり、予想外に時間が経っていたのだった。

「林大尉、山県参軍がお呼びです」
 犬養の取材を終え、我に返った林大尉の元に伝令が来た。
 林大尉は速やかに山県有朋参軍の元に向かった。

「よく来てくれた。早速だが、海兵隊全てを持って前線に赴いてもらいたい」
 山県参軍は、林大尉に言った。
 林大尉の横では、土方歳三少佐が、山県参軍の命令を共に受けている。
 海兵隊全てと言っても、2個大隊に過ぎない。
 植木方面で戦っている陸軍は、それより遥かに多い。
 一体、何が起こったのか、林大尉は緊張した。

「植木を何とか占領したものの、西郷軍は何としても熊本城救援を阻止しようと奮闘している。
 こちらも田原坂突破のために、弾薬等の補給を大量に消費したし、八代から熊本城救援に向かう背面軍にも補給をまわしたために、前線では補給不足になってしまい、ますます熊本城救援が困難になるという悪循環だ。
 現在、荻迫方面で戦っていた第14連隊が西郷軍の反撃を受け、包囲されて苦戦している。
 速やかに救援してほしい」
 山県参軍が命令を下した。

「了解しました」
 土方少佐と林大尉は答えて、前線に赴くことになった。

「今度は第3海兵大隊に先に行かせてくれ」
 土方少佐が林大尉に言ったが、林大尉は意見具申という形で、それを拒絶した。
「私よりも、土方少佐の方が実戦経験豊富です。
 第1海兵大隊が苦戦に陥った際に、土方少佐なら適切に救援できるでしょうが、第3海兵大隊が苦戦したときに、私では適切に救援できません。
 私が先に進みます」

 実際、林大尉の言葉の方が道理がある。
 土方少佐は、林大尉の主張を受け入れた。

 荻迫に近づくにつれ、前線独特の緊迫した空気が漂ってきた。
 田原坂での激戦を切り抜けた兵がいるとはいえ、初めての実戦を迎える兵も少なからずいる。
 林大尉は(本音としてはもう少し後ろで大隊全体の指揮を執りたかったが)大隊のほぼ先頭に立って、進軍した。
 事実上の大隊長自らが先陣を切る、この光景は部下の士気を高揚させた。

「ふむ、伏兵に遭ったか。
 両翼に部隊を少しだけ展開しろ。
 包囲網を突破して、第14連隊を救援する。
 その後は速やかに後退だ」
 第14連隊が苦戦している戦況を、林大尉は観察して、命令を下した。

 山県参軍は、第14連隊の救援だけを命じている。
 戦線の突破までは命じていない。
 第1海兵大隊は、林大尉の命令を受けて突撃した。
 勿論、その先頭は林大尉が務める。

 こういった際の白兵戦は、海兵隊の十八番である。
 白兵戦で西郷軍を一時的に混乱させ、第1海兵大隊は第14連隊の戦線までたどり着いた。
 退路は、今のところは、土方少佐率いる第3海兵大隊が確保してくれている。

「今のうちに第14連隊は退却してください。今なら間に合います」
 第14連隊を率いていた乃木少佐に、林大尉は意見を具申した。

「分かった」
 第14連隊を率いていた乃木少佐は負傷していたが、指揮は執れる状況だった。
 乃木少佐は、内心では退却したくはなかったが、戦況に鑑みて、林大尉の意見具申に道理があると認めた。
 乃木少佐の指揮の下、第14連隊は何とか退却に成功した。

「あの時、海兵隊のおかげで死に損なったな」
 乃木少佐は、西南戦争が終わった後々まで、林大尉に述懐した。
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