52 / 120
第5章 新選組の再集結
第5話
しおりを挟む
長崎に着いて、早めに寝入っていた島田魁が完全に目を覚ました時は、夜明け直前だった。
昨日、23日に長崎に到着してから海兵隊の志願兵採用面接を受けたり、当座の給料を受け取ってそれを妻に送金したりと忙しく、更に船旅の間、意外と熟睡もできていなかったのか、夕食後、仮宿舎で横になるとすぐに睡魔に襲われてしまい、島田は寝入ってしまっていたのだ。
余りにも早く寝てしまったせいか、目覚めた時には、眠気が全く無くなっていて、寝具の中でごろごろ転がっているのもどうかと思い、島田は仮宿舎の外に出て散歩でもすることにした。
島田が、宿舎の外に出て体を伸ばした瞬間、
「島田か、島田魁か」
と声が掛けられた。
誰だろうか、と島田が周囲を見回すと旧知の顔があった。
「斎藤一さん?」
「やはり島田だったか。
わしも早く目が覚めてしまって、これから散歩しようと思っていたところだ」
斎藤一が笑っていた。
「一体どうしてというか。どこにおられたのです?」
島田は歩きながら斎藤に尋ねた。
「島田と別れたのは会津でだったかな」
斎藤は、反問した。
「そのとおりです。
私は土方さんと共に仙台に向かい、斎藤さんは会津を見捨てられないと言って、会津に残られたと覚えています」
島田の答えを聞いた後、斎藤は半ば自分に対して呟いた。
「あの後、会津藩の面々と共に戦って、結局は斗南まで、わしは行ったよ。
だが、やはり食うに困ってしまってな。
3年前に東京に出て、警視庁に勤めていた。
そして、土方さんの消息や新選組の旗の事を新聞記事で知ってな。
今回の事態を知って、逡巡するところが自分にはあったが、妻の時尾に背を押された。
『もう会津のことを引きずらないで下さい。
あの新選組の旗の下に行って下さい。
あなたは、心の奥底では、そうしたいのでしょう』
その妻の言葉を聞いて、自分でも踏ん切りがついたよ。
警視庁の上司も妙に理解があってな。
わしが休職して長崎に行きたいと言ったら、認めてくれたよ。
そういうお前はどうしていたんだ?」
斎藤の問いかけに、島田は答えた。
「戊辰戦争が終わった後、妻子と合流して京都に行きました。
それで、甘い物屋をやったのですが、上手く行かずにすぐに店を畳んで、京都で貧乏剣道場主をやっています」
「成程な、島田らしいといえば、島田らしいな」
斎藤は、ぼそっと呟いた。
他にも色々と、2人で話しながら歩くうちに、木刀を振る音に共に気づき、2人してそちらに向かって行った。
そして、30代前半の男が木刀を振るっているのが、2人の視界に入った。
その男の木刀の素振りを、2人して暫く見つめていると、
「ほう、中々の腕と見えるな」
斎藤が、ため息を吐きながら小声で言った。
「そこまでの腕ですかね」
島田には、いわゆるピンと来なかったが。
「何を言っている、わしらの上司になる方だぞ」
「えっ」
「見て分からないのか。
元請西藩藩主でもある、林忠崇海兵大尉だ。
新編の第3海兵大隊の副大隊長、つまり土方大隊長の副長になられる方だ。
お前も最終面接で会った際に、そう自己紹介された筈だぞ」
「すみません、私には分かりませんでした」
そんな風に、斎藤と島田が、小声でやり取りをしている内に。
2人が見ているうちに、林大尉は素振りを止め、模擬戦闘を始めた。
正眼に構え、突き技を繰り出す。
その動きは、2人の目を釘付けにした。
「沖田総司さんを思い出しますね。
色々と違うのが、分かっているのに」
「全くだな、なぜか沖田総司を思い出すな」
その突き技を見ながら、思わず、2人は声を大きくしてしまっていた。
その声が耳に入った林大尉は刀を動かすのを止めて、周囲を見回した。
林大尉の視界に、島田と斎藤の姿が入り、更に目があった。
昨日、23日に長崎に到着してから海兵隊の志願兵採用面接を受けたり、当座の給料を受け取ってそれを妻に送金したりと忙しく、更に船旅の間、意外と熟睡もできていなかったのか、夕食後、仮宿舎で横になるとすぐに睡魔に襲われてしまい、島田は寝入ってしまっていたのだ。
余りにも早く寝てしまったせいか、目覚めた時には、眠気が全く無くなっていて、寝具の中でごろごろ転がっているのもどうかと思い、島田は仮宿舎の外に出て散歩でもすることにした。
島田が、宿舎の外に出て体を伸ばした瞬間、
「島田か、島田魁か」
と声が掛けられた。
誰だろうか、と島田が周囲を見回すと旧知の顔があった。
「斎藤一さん?」
「やはり島田だったか。
わしも早く目が覚めてしまって、これから散歩しようと思っていたところだ」
斎藤一が笑っていた。
「一体どうしてというか。どこにおられたのです?」
島田は歩きながら斎藤に尋ねた。
「島田と別れたのは会津でだったかな」
斎藤は、反問した。
「そのとおりです。
私は土方さんと共に仙台に向かい、斎藤さんは会津を見捨てられないと言って、会津に残られたと覚えています」
島田の答えを聞いた後、斎藤は半ば自分に対して呟いた。
「あの後、会津藩の面々と共に戦って、結局は斗南まで、わしは行ったよ。
だが、やはり食うに困ってしまってな。
3年前に東京に出て、警視庁に勤めていた。
そして、土方さんの消息や新選組の旗の事を新聞記事で知ってな。
今回の事態を知って、逡巡するところが自分にはあったが、妻の時尾に背を押された。
『もう会津のことを引きずらないで下さい。
あの新選組の旗の下に行って下さい。
あなたは、心の奥底では、そうしたいのでしょう』
その妻の言葉を聞いて、自分でも踏ん切りがついたよ。
警視庁の上司も妙に理解があってな。
わしが休職して長崎に行きたいと言ったら、認めてくれたよ。
そういうお前はどうしていたんだ?」
斎藤の問いかけに、島田は答えた。
「戊辰戦争が終わった後、妻子と合流して京都に行きました。
それで、甘い物屋をやったのですが、上手く行かずにすぐに店を畳んで、京都で貧乏剣道場主をやっています」
「成程な、島田らしいといえば、島田らしいな」
斎藤は、ぼそっと呟いた。
他にも色々と、2人で話しながら歩くうちに、木刀を振る音に共に気づき、2人してそちらに向かって行った。
そして、30代前半の男が木刀を振るっているのが、2人の視界に入った。
その男の木刀の素振りを、2人して暫く見つめていると、
「ほう、中々の腕と見えるな」
斎藤が、ため息を吐きながら小声で言った。
「そこまでの腕ですかね」
島田には、いわゆるピンと来なかったが。
「何を言っている、わしらの上司になる方だぞ」
「えっ」
「見て分からないのか。
元請西藩藩主でもある、林忠崇海兵大尉だ。
新編の第3海兵大隊の副大隊長、つまり土方大隊長の副長になられる方だ。
お前も最終面接で会った際に、そう自己紹介された筈だぞ」
「すみません、私には分かりませんでした」
そんな風に、斎藤と島田が、小声でやり取りをしている内に。
2人が見ているうちに、林大尉は素振りを止め、模擬戦闘を始めた。
正眼に構え、突き技を繰り出す。
その動きは、2人の目を釘付けにした。
「沖田総司さんを思い出しますね。
色々と違うのが、分かっているのに」
「全くだな、なぜか沖田総司を思い出すな」
その突き技を見ながら、思わず、2人は声を大きくしてしまっていた。
その声が耳に入った林大尉は刀を動かすのを止めて、周囲を見回した。
林大尉の視界に、島田と斎藤の姿が入り、更に目があった。
0
お気に入りに追加
44
あなたにおすすめの小説
永き夜の遠の睡りの皆目醒め
七瀬京
歴史・時代
近藤勇の『首』が消えた……。
新撰組の局長として名を馳せた近藤勇は板橋で罪人として処刑されてから、その首を晒された。
しかし、その首が、ある日忽然と消えたのだった……。
近藤の『首』を巡り、過去と栄光と男たちの愛憎が交錯する。
首はどこにあるのか。
そして激動の時代、男たちはどこへ向かうのか……。
※男性同士の恋愛表現がありますので苦手な方はご注意下さい
四代目 豊臣秀勝
克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。
読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。
史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。
秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。
小牧長久手で秀吉は勝てるのか?
朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか?
朝鮮征伐は行われるのか?
秀頼は生まれるのか。
秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
旧式戦艦はつせ
古井論理
歴史・時代
真珠湾攻撃を行う前に機動艦隊が発見されてしまい、結果的に太平洋戦争を回避した日本であったが軍備は軍縮条約によって制限され、日本国に国名を変更し民主政治を取り入れたあとも締め付けが厳しい日々が続いている世界。東南アジアの元列強植民地が独立した大国・マカスネシア連邦と同盟を結んだ日本だが、果たして復権の日は来るのであろうか。ロマンと知略のIF戦記。
織田信長IF… 天下統一再び!!
華瑠羅
歴史・時代
日本の歴史上最も有名な『本能寺の変』の当日から物語は足早に流れて行く展開です。
この作品は「もし」という概念で物語が進行していきます。
主人公【織田信長】が死んで、若返って蘇り再び活躍するという作品です。
※この物語はフィクションです。
枢軸国
よもぎもちぱん
歴史・時代
時は1919年
第一次世界大戦の敗戦によりドイツ帝国は滅亡した。皇帝陛下 ヴィルヘルム二世の退位により、ドイツは共和制へと移行する。ヴェルサイユ条約により1320億金マルク 日本円で200兆円もの賠償金を課される。これに激怒したのは偉大なる我らが総統閣下"アドルフ ヒトラー"である。結果的に敗戦こそしたものの彼の及ぼした影響は非常に大きかった。
主人公はソフィア シュナイダー
彼女もまた、ドイツに転生してきた人物である。前世である2010年頃の記憶を全て保持しており、映像を写真として記憶することが出来る。
生き残る為に、彼女は持てる知識を総動員して戦う
偉大なる第三帝国に栄光あれ!
Sieg Heil(勝利万歳!)
天竜川で逢いましょう 起きたら関ヶ原の戦い直前の石田三成になっていた 。そもそも現代人が生首とか無理なので平和な世の中を作ろうと思います。
岩 大志
歴史・時代
ごくありふれた高校教師津久見裕太は、ひょんなことから頭を打ち、気を失う。
けたたましい轟音に気付き目を覚ますと多数の軍旗。
髭もじゃの男に「いよいよですな。」と、言われ混乱する津久見。
戦国時代の大きな分かれ道のド真ん中に転生した津久見はどうするのか!?
いや、婿を選べって言われても。むしろ俺が立候補したいんだが。
SHO
歴史・時代
時は戦国末期。小田原北条氏が豊臣秀吉に敗れ、新たに徳川家康が関八州へ国替えとなった頃のお話。
伊豆国の離れ小島に、弥五郎という一人の身寄りのない少年がおりました。その少年は名刀ばかりを打つ事で有名な刀匠に拾われ、弟子として厳しく、それは厳しく、途轍もなく厳しく育てられました。
そんな少年も齢十五になりまして、師匠より独立するよう言い渡され、島を追い出されてしまいます。
さて、この先の少年の運命やいかに?
剣術、そして恋が融合した痛快エンタメ時代劇、今開幕にございます!
*この作品に出てくる人物は、一部実在した人物やエピソードをモチーフにしていますが、モチーフにしているだけで史実とは異なります。空想時代活劇ですから!
*この作品はノベルアップ+様に掲載中の、「いや、婿を選定しろって言われても。だが断る!」を改題、改稿を経たものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる