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第4章 西南戦争の勃発
第1話
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明治9年の年末、東京の某所にて、陸軍の一部の幹部達が密談していた。
何故に陸軍省内で話さないのか?
それは話す内容が、微妙極まりないことであり、陸軍内部でも意見が割れていて、下手に新聞等に漏れると、トンデモナイ事態が引き起こされる可能性が高いために、敢えて陸軍省外で話し合うことにしたのだった。
「鹿児島の現状を、これ以上は見過ごすことはできん。
特に陸軍の主力小銃であるスナイドル銃の弾薬製造を、鹿児島に頼っているのは危険極まりない。
この際、スナイドル銃の弾薬製造所を大阪に移すべきではないか。
そうすれば、いざという際でも安心できると思う」
「しかし、それは間違いなく西郷隆盛らにとっては、挑発行為になるぞ。
本当に薩摩士族が武装して全面挙兵するトンデモナイ事態になりかねない」
「薩摩士族の挙兵が、早いか遅いかの違いだ。
これ以上は、ためらう必要はない。
彼らは何時かは挙兵すると考えるがな」
「それにしても誰を行かせる。
本当に弾薬製造所を移しに行った者から、死者が出かねないぞ」
「海兵隊を遣う。
川村純義海軍大輔も派遣自体には賛成するだろう。
真意を知れば、川村は反対するだろうから、表向きは鹿児島との口約束通り、事前に通報して、日中に小舟を使い、小規模に弾薬製造設備の移送を、沖合に停泊した商船に行う、ということで川村には言っておくが、通報はこちらでやると言っておいて、事前通報はせず、商船を接岸させて大規模に昼夜を問わずに急いで搬出する。
そして、武装した海兵隊員を、万が一に備えるためと言って乗船させておく。
これだけのことをすれば、確実に奴らから暴発してくれる。
ともかく、先に1発目を撃たせて、死傷者を出させる。
それが肝要だ。我が陸軍の兵士を死なせるわけにはいかん」
「汚いが仕方ないか。
それに海兵隊が犠牲になるのなら、構わない話かもしれんしな」
彼らは密談を終えた後、三々五々と帰宅していった。
新年早々、荒井郁之助海兵局長は、川村海軍大輔に呼び出しを受けていた。
「海兵隊1個小隊を、警備のために赤龍丸に乗船させろ、とのことですか」
「そうだ。陸軍から要請があった。
鹿児島の火器硝薬製造工場を大阪に移すのだが、鹿児島は現在、不穏極まりない情勢にある。
それ故、移送に使う商船に、武装兵を万が一に備えて乗船させておく必要があるのだが、陸軍の兵は船上での行動は不慣れだ。
だから、船上での行動に慣れている海兵隊に、警備をお願いしたいとのことだ」
川村海軍大輔は、特に危機感を覚えておらず、何でもないことのように、荒井に命じた。
だが、その言葉が却って、荒井の不安感を高めた。
「気になりますな。
海兵隊は、正直に言って旧幕府系の集まりです。
鹿児島に行ったら、親の仇のような扱いを受けるのが目に見えています。
下手をすると、海兵隊の軍服を着て鹿児島城下を歩くだけで斬られますよ」
荒井は、そう半ば警告したが、川村は、鹿児島情勢がそこまで険悪とは、考えてもいなかった。
「幾らなんでも、鹿児島の情勢がそこまで悪化はしてはいないだろう。
それに、きちんと事前に鹿児島県庁には通報して、やり方についても、打ち合わせは準備万端に整えておく、とのことだ。
あくまでも、万が一に備えたいとのことだから、安心しろ。
海兵隊1個小隊を派遣しても大丈夫だろう」
「そこまで、言われるのなら、分かりました。
念のために、その小隊は本多幸七郎大尉に直接率いさせます。
江華島でも実戦を経験していますし、彼なら安心でしょう」
荒井と川村は、そうやり取りをした。
荒井は内心では大きな不安を覚えたが、反対しきれる理由もないので、渋々川村に同意して、海兵隊の派遣準備に取り掛かった。
何故に陸軍省内で話さないのか?
それは話す内容が、微妙極まりないことであり、陸軍内部でも意見が割れていて、下手に新聞等に漏れると、トンデモナイ事態が引き起こされる可能性が高いために、敢えて陸軍省外で話し合うことにしたのだった。
「鹿児島の現状を、これ以上は見過ごすことはできん。
特に陸軍の主力小銃であるスナイドル銃の弾薬製造を、鹿児島に頼っているのは危険極まりない。
この際、スナイドル銃の弾薬製造所を大阪に移すべきではないか。
そうすれば、いざという際でも安心できると思う」
「しかし、それは間違いなく西郷隆盛らにとっては、挑発行為になるぞ。
本当に薩摩士族が武装して全面挙兵するトンデモナイ事態になりかねない」
「薩摩士族の挙兵が、早いか遅いかの違いだ。
これ以上は、ためらう必要はない。
彼らは何時かは挙兵すると考えるがな」
「それにしても誰を行かせる。
本当に弾薬製造所を移しに行った者から、死者が出かねないぞ」
「海兵隊を遣う。
川村純義海軍大輔も派遣自体には賛成するだろう。
真意を知れば、川村は反対するだろうから、表向きは鹿児島との口約束通り、事前に通報して、日中に小舟を使い、小規模に弾薬製造設備の移送を、沖合に停泊した商船に行う、ということで川村には言っておくが、通報はこちらでやると言っておいて、事前通報はせず、商船を接岸させて大規模に昼夜を問わずに急いで搬出する。
そして、武装した海兵隊員を、万が一に備えるためと言って乗船させておく。
これだけのことをすれば、確実に奴らから暴発してくれる。
ともかく、先に1発目を撃たせて、死傷者を出させる。
それが肝要だ。我が陸軍の兵士を死なせるわけにはいかん」
「汚いが仕方ないか。
それに海兵隊が犠牲になるのなら、構わない話かもしれんしな」
彼らは密談を終えた後、三々五々と帰宅していった。
新年早々、荒井郁之助海兵局長は、川村海軍大輔に呼び出しを受けていた。
「海兵隊1個小隊を、警備のために赤龍丸に乗船させろ、とのことですか」
「そうだ。陸軍から要請があった。
鹿児島の火器硝薬製造工場を大阪に移すのだが、鹿児島は現在、不穏極まりない情勢にある。
それ故、移送に使う商船に、武装兵を万が一に備えて乗船させておく必要があるのだが、陸軍の兵は船上での行動は不慣れだ。
だから、船上での行動に慣れている海兵隊に、警備をお願いしたいとのことだ」
川村海軍大輔は、特に危機感を覚えておらず、何でもないことのように、荒井に命じた。
だが、その言葉が却って、荒井の不安感を高めた。
「気になりますな。
海兵隊は、正直に言って旧幕府系の集まりです。
鹿児島に行ったら、親の仇のような扱いを受けるのが目に見えています。
下手をすると、海兵隊の軍服を着て鹿児島城下を歩くだけで斬られますよ」
荒井は、そう半ば警告したが、川村は、鹿児島情勢がそこまで険悪とは、考えてもいなかった。
「幾らなんでも、鹿児島の情勢がそこまで悪化はしてはいないだろう。
それに、きちんと事前に鹿児島県庁には通報して、やり方についても、打ち合わせは準備万端に整えておく、とのことだ。
あくまでも、万が一に備えたいとのことだから、安心しろ。
海兵隊1個小隊を派遣しても大丈夫だろう」
「そこまで、言われるのなら、分かりました。
念のために、その小隊は本多幸七郎大尉に直接率いさせます。
江華島でも実戦を経験していますし、彼なら安心でしょう」
荒井と川村は、そうやり取りをした。
荒井は内心では大きな不安を覚えたが、反対しきれる理由もないので、渋々川村に同意して、海兵隊の派遣準備に取り掛かった。
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