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第3章 新選組の旗の再生と台湾出兵

第3話

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 長崎に到着した土方歳三は、目の前の状況に、苦笑いをせざるを得なかった。
 確かに自分が中隊長である以上、中隊において中隊員がとった行動について、全責任を負うべき立場ではある。
 だが、小隊長全員が結託して中隊長の自分に秘密裏に行った行動について、自分が責任を取れと言われても、というのが本音だった。
 それに自分自身、小隊長たちが取った行動について嬉しく思いこそすれ、叱る気にはとてもなれなかった。

 小樽港から長崎港へ輸送船で運ばれた第一屯田兵中隊は、中隊長である土方を先頭にして、長崎港から長崎近郊に臨時に設けられた駐屯地へと行進した。
 土方はその先頭を常に進んでいて、ほとんど後ろを振り向かなかったので、駐屯地にたどり着くまで気づかなかったのだが、最後尾では新選組のかつてのあの旗、誠の一字を入れた旗が旗手によって掲げられて、第一屯田兵中隊は長崎の街を行進したのだった。

 駐屯地の入り口で土方が隊員を出迎えていると、その旗が目に入ってきたので土方は仰天する羽目になった。
 何故、あの旗がここにある、と周囲に聞くと、周囲の者は口々に答えた。

 実は、小隊長全員に、我々は口止めされていました。
 土方中隊長と共に、皆で屯田兵村の開拓に勤しむうちに、自分たち屯田兵村、屯田兵中隊の象徴を作ろう、という話になりました。
 それで何がいい、という話になり、ここには土方中隊長がおられる以上、新選組のあの旗を作ろう、という話に決まりました。
 それで、村で最初に収穫できた亜麻を提供して、リンネル布の旗を作ってもらい、更に亜麻の一部は金に換えて、そのお金で小樽の染物屋で旗を染めてもらい、ようやく作ったのです。
 土方中隊長を驚かせよう、と小隊長全員が相談し、各分隊長や各班長の多くも賛同して作成しました。

 この件について、土方自身は悪い気はしなかったが、周囲にどんな影響を及ぼすのかが心配だった。
 下手をすると大問題になりかねない気がしたのだ。
 だが、長崎の海兵隊内部は、特に問題視するどころか、むしろ好意的な反応が多く、土方は拍子抜けした。

 海兵隊大隊長を務める古屋佐久左衛門は、
「第一屯田兵中隊は新選組だったのか、その名にふさわしい活躍をしてくれ」
 の一言で済ませてしまった。

 海兵隊第2中隊長を務める滝川充太郎に至っては、
「新選組が編制されたのなら、伝習隊や衝鋒隊も編制したいな。
 第1中隊が伝習隊、我々第2中隊が衝鋒隊といったところか、その名にふさわしい活躍をせねば」
 と悪乗り寸前の言動をする有様だった。

「本当にいいのですか」
 と土方の方がむしろ心配したが、古屋や滝川、更に他の海兵隊士官の多くが。
「構わん、構わん」
 と言って済ませた。
 気の乗らない台湾出兵を、我々がせねばならない以上、これくらいの悪戯くらいはさせろ、というのが、長崎にいる海兵隊士官の大方の意見だったのだ。

 ちなみに、この新選組の旗の件は、長崎の新聞に載ったことを発端に、日本各地に広く知られることになった。
 そして、薩長を中心とした政府首脳陣の一部が、この件で激怒した。
 その怒りを宥めようと、荒井郁之助や大鳥圭介、しまいには榎本武揚や勝海舟らまでもが、彼らを懸命になだめたり、すかしたりして、ようやく話は収まることになったのだが、それはまた別で語るべきだろう。
 また。

 後で述べるが、この新選組の旗の一件は、日本各地に広まることで、かつての新選組の仲間らに、土方が屯田兵村の村長として健在であることを知らせた。
 そして、彼らに、事があれば、新選組の旗の下に集いたいものだ、という想いを、予めさせたのだ。
 話が先走るが、西南戦争時、これが、かつての新選組の仲間が競うように集った一因になった。
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