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第2章 海兵隊の整備

第4話

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 大鳥圭介は海兵隊に入隊して以来、ずっと多忙だった。
 海兵隊の組織を、いざという場合に、実戦に耐えうるものにし、装備を整え、教育を施していかねばならない。
 荒井郁之助は、榎本武揚が海軍を退いた後は、海軍において旧幕府系出身者の筆頭的立場にあり、海兵隊を庇護してきていた。
 大鳥は荒井の下で、海兵隊の充実にその手腕をふるっていた。
 明治6年初頭現在、大鳥の地位は海軍省海兵局の副局長という役職にあった。
 荒井が局長で対外的な折衝を引き受けており、大鳥が海兵隊内部のことを取り仕切っているという現状があった。

 ダグラス少佐を団長とするイギリス海軍顧問団がようやく来日することが決定して、その指導を受けて海兵隊の組織をより充実させることがようやくできそうな一方、英仏に派遣した留学生は対照的な状況を引き起こしていた。
 イギリスのダートマス海軍兵学校に入った北白川宮殿下は、皇族ということもあり、勉学よりも、イギリス王室関係者や貴族との関係を築くことに、傾きつつあるらしかった。
 大鳥が、北白川宮殿下に対して、もう少し勉学に励むように書簡を送るべきだろうか、と悩むレベルだった。

 それに対し、フランスのサン・シール陸軍士官学校に入った林忠崇少尉は、逆に勉学に精励しすぎているのではないか、とブリュネ少佐等に心配をかけている有様らしかった。
 林の成績は極めて優秀であり、運輸通信等を含む工兵全般を、海兵隊の将来を見据えて、林に学ばせるためにフォンテンブロー砲工学校に更に進学させてはどうか、という書簡がブリュネ少佐等から、大鳥には届いており、林本人からも、そうしたいという書簡が届く有様で、大鳥はそれを認めるつもりだった。

 その一方、海兵隊の組織の現況は極めて微妙な状況になっていた。
 現在、実戦に投入できる常設の海兵中隊は2個に過ぎず、残りの海兵は分隊単位で各軍艦等に配属されていた。
 後、軍楽隊と砲兵中隊1個(四斤山砲6門を装備)が、部隊として存在はしていた。
 いざというときは、各軍艦等に配属されている海兵分隊を取りまとめて、更に2個海兵中隊を編成することが可能であり、実際にその予定ではあった。
 だが、それでも全部を合計しても増強独立大隊1個程度の戦力であり、例えば、本来なら海兵隊のために必要な教育機関の1つである海兵士官学校は、経費削減のためもあって海軍兵学校と統合されている有様だった。
(アメリカでもやっていることだから、むしろ当然のことかもしれないが)

 海軍で主流を占める薩摩出身者等の間では、海兵隊を常設することは無いという意見(海兵隊の金を、軍艦整備等に回せということ)が強いうえに、戦力としては少なすぎるというのも、大鳥にとっては、心配の種だった。、

 大鳥は予算面等の現状にかんがみると、海兵隊のこれ以上の通常時の戦力増は無理と考えていた。
 むしろ戦時に、海兵隊の戦力を、急速に強化することを考えるべきだった。
 大鳥には一案があった。
 それは、北海道の開拓に合わせて、徐々に増えつつある屯田兵中隊を、戦時に海兵中隊にしてしまうことだった。
 荒井局長に相談しよう、終に大鳥は決断したが。

 そのための方策となると。
 実際問題として、徳川家の陰の護衛として、榎本武揚らが、密かに考えていた海兵隊と屯田兵を整備増強する、という考えが、徳川家がそれなりに存続しそうな以上、無意味と化しつつあった。
 だから、組織維持に奔らざるを得ない、と大鳥自身が考えざるを得なかった。
 だが、その一方で。

 皮肉なことに、維新の元勲を輩出している薩長土肥の地元において、不満が横溢しているという情報が、大鳥らの下にも入っている。
 大鳥は、それを悪用しようとも考えた。
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