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第2章 海兵隊の整備

第3話

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 フランスのサン・シール陸軍士官学校に留学するために、日本からはるばる来た林忠崇海兵隊少尉は、ブリュネ少佐を訪問していた。
 ブリュネ少佐は、林少尉の顔を、つくづくと見ながら考えた。
 この人物とは、どこかで自分は会ったことがあるが、どこで会ったのだろう、どうしても思い出せない、妙にこういうことは、癇に障るものだな、と思ってしまっていた。

 一方、林の方は、感激に満ちた目でブリュネを見続けていた。
 その林の目は、ブリュネを却っていらだたせるものでもあった。
 ブリュネは、思い切って林にいつ会ったのかを尋ねることにした。
「申し訳ない。林少尉とはどこかで私はお会いしたはずなのだが、どうしても思い出せない。
 どこでお会いしたのか、教えていただけないか」

「あなたが覚えておられなくて当然です。
 私はあの戊辰戦争の際に、土方さんと共にあなたが私達が所属していた遊撃隊の降伏の説得に来られた際に、遊撃隊に所属していた一員の1人です。
 あなた方の説得や交渉のおかげで、我々旧徳川家の家臣というか、旧幕臣の多くが生き延びることが出来ました。
 私達にとっては感謝しても感謝しきれません」

 林の言葉は、ブリュネのかつての出来事を思い起こさせた。
「あなたは、あの時の一員でしたか。
 まさか、こんなに早くパリで再会できるとは」
 ブリュネは驚いた。
 そして、土方歳三は、どうしているだろうか、と想いを馳せた。

「土方歳三さんの消息を、あなたは知りませんか」
「私も直接にお会いして話した訳ではありませんが、土方さんは結婚して、かつての蝦夷地、今の北海道に渡っていて、屯田兵村の村長となって、北の大地の開拓と防衛に当たっている、と私は聞いています」
「そうですか。土方さんは結婚されて、北に赴かれたのですか」
 林の返答は、ブリュネを感慨に耽らせた。
 何時か、再会しよう、とお互いに約束したが、その約束は、いつ果たせるだろうか。

 そんなブリュネの想いを半ば無視して、林は言葉を継いでいた。
「サムライ、武士として、フランスの方々に命を救われた恩義を、我々や子孫は忘れません。
 何時か、フランスが窮地に陥った時に、我々や子孫は駆けつけるでしょう」
「そんな日が来ないことを、フランス人としては願いたいですな。
 わざわざ日本から来ていただくということは、大変な国難が起きた時ですから」
「確かにその通りですね」
 ブリュネと林は、更にやり取りをした。

「でも、その言葉は有難い。
(フランスの象徴とされる)マリアンヌ姫を、白馬の騎士の如く、サムライ達、日本の方々が救うことがあれば、フランス国民は、心から感謝するでしょう」
 そうブリュネは、林に笑って言った。

 そして、先走った話になるが。
 ブリュネの死後にはなったが、林はその言葉を守ったのだ。
 また、林の周囲や子孫も同様だった。

 それから、40年余り後、第一次世界大戦が勃発したのだ。
 林は、日本海兵隊のトップの一員として、サムライならば、今こそ戊辰戦争時の恩義に報いる時、とフランス救援を叫び、自らその総司令官を務めた。
 そして、フランス救援のために赴いた日本海兵隊員の中には、戊辰戦争時の恩義に今こそ報いようと、土方歳三の子や孫も含まれていた。
 更に海兵隊を先陣として、日本の陸海軍の将兵も、欧州へと数十万人の規模で赴き、日露戦争時並みの大量の血を4年の間に欧州の戦野で流した。

 その光景を見た、かつてのブリュネの上官、シャノワーヌ将軍は、この光景をブリュネに生きて見せたかった、と感慨に耽ることになる。
 また、第一次世界大戦という未曽有の戦乱に遭ったフランス国民にも、大変感謝されることになり、21世紀までの日仏友好の懸け橋に、林と海兵隊はなった。
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