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序章

そんな簡単に上手くはいかない

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 あれからどれくらい歩いたのだろう。森を越え、谷を越え、気がつけば蒼かった空が紅く染まり出していると言うにも関わらず、リリアナを先頭にまーた森の中を歩いている。
 それもそのはず地図も無ければ方位磁針も無い為、メトロノームみたいに頭をキョロキョロしながら歩いてるだけで人にすら会わない。ちょいちょい休んでるとはいえ、俺は疲れ果ててゴリラみたいな肉体を持つシェリィにおんぶされている。

「なぁ俺達……遭難してね?」

「してませんから。ヘタレは黙っていてください」

「ほぉヘタレときたか。ならお前は方向音痴だな。ばーか」

 すると、聞き捨てならないと言わんばかりに耳をピクリとさせて立ち止まり、眉間に皺を寄せご立腹な表情を浮かべながら近寄ってくる。『言い過ぎよダーリン? リリアナちゃんの乙女のハートにひびが入ったわよ絶対』と耳打ちされる。表情を見る限りそんな風には見えないし、そもそも性別が行方不明な人に言われても説得力ないんですけど。

「な・に・か! 言いましたか?」

「べ、別にー? それより、そんな梅干しみたいな表情してたら皺が増えんぞ?」

「――ッ!」

 どうやら墓穴を深く掘る才能が俺にはあるらしく、言葉のショベルでせっせと掘る様に、はぁーとため息をつきながら首を振り呆れるシェリィに対して、サボテンの如く毛を逆立てながら鬼の形相で激昴しだすリリアナ。

「シェリィ逃げろ! 殺される! 殺されちゃう! 」

「それは男らしくないわ~却下ね」

「はいぃぃぃ!? 何を馬鹿な事言ってるんですか!? 梅干しから更に皺を寄せて乾燥梅に進化したあいつを俺にどうしろってんだ!」



 ――あ、やべ。
 


 リリアナに背を向ける形でスッと降ろされ、俺の両肩を掴むシェリィの表情は何故か感極まっていた。

「修羅場だけでは物足りず、更に上の地獄を望むなんて……今のダーリンは、とっても男らしいわ!」

「こんな状況下でも、何のフォローも入れてくれないお前もどうかと思うがな」

「あたしは他人の不幸を見るのが大好きなのよん。さぁ覚悟を決めましょ?」

「意外に性格悪いんだな」

 もはや逃れる事は不可能か。ならば、シェリィの言う通り男……否! 漢になってやろうじゃないか! ふぅーと深呼吸をしてリリアナの方へ向き直り『さぁ!こいやぁぁぁあ!』なんて一応気合いを入れてみたが、手加減なしの全力のグーが腹部をとらえ痛みと吐き気のマリアージュを味わいながら、呆気なくその場にしゃがみ込む。

「ふんっ! しばらく休憩にします!」

「は、はい」





 ◇◆◇◆◇◆





 翌日、そよ風が砂埃を上げ目に地味な悪戯をしてくるが、天候は雲が多少あるものの晴天で非常に清々しい。

 結局あの後歩く事はなく一夜を明かした。焚き火をしてバーベキューを楽しみながら、やっほい宴じゃー! 踊れ! 踊れ! なんて天国みたいな一夜になるはずもなく、お怒りなリリアナ様に土下座してひたすら謝り続けた挙句、石が転がる痛てぇ地面で我慢しながら寝ている中、シェリィに抱き枕にされ殆ど眠れず……正に地獄の一夜を過ごした。故に、俺は今睡魔と言う名の強敵と戦っている。

「んー瞼が思うように開かないですけど……はぁ~あ」

 あくびはマシンガンの様に止まること知らず、両腕を力なく垂らし、姿勢は自然と猫背になりもはやゾンビ。

 おまけに砂埃と睡魔の共闘で余計に目が開きにくく、少し気を抜けばあっという間に夢の世界へ連れて行かれ二度と戻ってこれないかもしれない。今は森を抜け道幅の広い平坦な道が続いている為何ともないが、森を歩いている時は転がっている石につまずいたり、木や岩に接吻しそうになった。

「リリアナ……ねみぃ」

「シャキッとしてください! シェリィさんはちゃーんとついてきてるのに何故、愁也だけそんなにだらけているんです?」

 そのシェリィもこうなってる原因の一つなんだけどね。

「ダーリン大丈夫? いつでも、おんぶしてあげるわよ?」

「是非お願いします」

 微笑みながらしゃがみ込むシェリィの背中に乗ろうとした時、『甘えすぎです! まだこの世界に来たばかりなんですよ? 今からこんなんでどうするんですか』と襟足を掴まれ引き離される。

「ちょっとだけだから」

「だーめです。ほら歩いてください」

 また殴られるのも嫌なので、一つため息をつき足取り重く歩き出す。はぁー元いた世界なら一晩くらい寝なくても大丈夫だったんだけどな、流石にここまで環境が変化すると辛いものがあるか。陽の光に照らされ額から流れる汗を頬に伝わせながら徐ろに後ろを振り返ると、巨大な球体がこちらに転がってきている。

 これまでの疲労とストレスが蓄積してとうとう目がおかしくなったのかなと、目を擦って見直してもやはり映る光景は同じ。つまり、非常にまずい。



「な、なぁリリアナちゃん?」

「気色悪い呼び方しないでください。もう一度殴られたいんですか?」

「……それでは皆様、後方をご覧下さい」

 リリアナ、シェリィが俺の手を向ける方へ視線を移す。

「ね?」

「愁也……短い付き合いでしたね!」

 体力が残っているリリアナはニコッと微笑んでから一気に走り出し、シェリィも俺を置いて走り出す。みんなの性格の悪さが現れ、取り残された俺の体力は限りなく無に近くそ走るなんて当然出来ない。



 そして、球体はもう目と鼻の先――終わった。





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