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番外編
チョコレートと儚い夢(望side)
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「望、起きて。早く起きないと遅刻するよ?」
聞き慣れた心地よい声音。それに気付き目を覚ますと、最愛の人がベッドの傍らに立って俺の顔を覗き込んでいた。
「……おはよう。千鶴」
「おはよう! ……相変わらず、寝起きだけは悪いよね」
「昨日、夜遅くまで調べ物をしていたから余計に眠くて……」
そう返すと、千鶴は「そうなんだ」と言ってベッドに腰掛けた。
千鶴は俺の片思いの相手であると同時に、双子の姉だ。生まれた時からずっと一緒で、隣にいるのが当たり前の存在だった。
そして──気が付けば、俺は彼女に恋をしていた。俺の片思いは一時的な気の迷いなんかじゃなく、子供の頃から現在までずっと続いている。
この気持ちを初めて自覚した時、「自分はおかしい。異常なんだ」と思い散々悩んだ。
一人で悩んでいることに耐えられなくなり、ネット上の匿名掲示板で相談をしたこともある。けれども……やはり、回答は想像した通りのものだった。「ずっと一緒に暮らしていたら、普通は好きにならない」とか「今まで離れて暮らしていて、姉弟だと知らなかったならわかるけど」とか「可哀想だけど、気持ちは伝えないほうがいいかも」とか、皆口を揃えて俺に姉への想いを断つよう勧めた。
世間の反応を見て、俺は何度も千鶴のことを諦めようとした。でも、諦めようとすればするほど千鶴への想いは強くなっていった。
悩んだ末、俺はこう決心した。
無理に諦めようとしても、余計に辛くなるだけだ。だから、一生千鶴だけを想って生きていこう。いつか彼女に恋人が出来て結婚してしまっても、変わらず『理想の弟』を演じ続け、ずっと彼女を見守っていこうと……。
俺は絶対、千鶴が血の繋がった姉じゃなかったとしても彼女のことを好きになっていたと思う。「双子の姉を本気で愛している」と言えばとても重苦しく聞こえるが、自分にとっては同じクラスの女子を好きになったりする感覚と何ら変わらなかった。それくらい、自然と恋に落ちたのだ。
きっと、運悪く双子の姉弟として生まれてきてしまっただけなのだと……そう自分に言い聞かせることで、俺は何とか日々平常心を保っていた。
「まったく……毎朝、起こしに来る私の身にもなって欲しいよ。いくら幼馴染だからって、頼るのも程々に──」
「幼馴染? 何を言ってるんだ? お前は、俺の双子の姉だろ?」
「え? 望こそ、何寝惚けてるの? 私達は幼馴染で、幼稚園の頃からの付き合いでしょう?」
「……!?」
「そりゃあ、確かに同い年だし家も隣同士だし、学校も今までずっと一緒だったからきょうだいのように育ったけど……私達は、正真正銘赤の他人。私が望のお姉ちゃんなわけないでしょう?」
きょとんとした表情をしている千鶴を見て、気付いた。これは『夢』なのだと。
どうやら、夢の中の千鶴は俺の幼馴染という設定らしい。常日頃から抱いている願望が夢になって現れたみたいだ。
「あ……ああ、そうだったな……」
「変な望……」
慌てて誤魔化す俺を見て千鶴は怪訝な表情を浮かべ、ため息をついた。
「……夢を見ていたんだ」
「夢?」
「ああ。夢の中の俺達は双子の姉弟だった。そして、俺は実の姉であるお前に恋をしていたんだ。……変な夢だろ?」
「なっ……」
俺が夢の内容を語ると、千鶴は頬を赤く染め狼狽え始めた。
「……ず、随分と凄い夢を見たね」
「そうだな……。でも──」
「でも……?」
そこまで言いかけて俺は口を噤む。つい、「本当はこっちが夢なんだけどな……」と言いそうになってしまったからだ。
なぜだかわからないが、それを口に出した瞬間この幸せな夢から覚めてしまうような気がした。だから、本当のことは言えない。一分一秒でも長く、この夢に微睡んでいたい。
「……なんでもない」
「さっきから変なことばかり言ってるね。……でも、本当にそうだったら困るな」
「困る?」
「うん。だって、私……昔から望のこと……」
千鶴はそう言って口籠り、恥ずかしそうに俺を見上げた。
「……?」
「ご、ごめん! 今のは忘れて!」
焦った様子でそう返した千鶴の瞳は、僅かに潤んでいるように見えた。
……ああ、そうか。夢の中の千鶴は俺のことが好きなのか。
それに気付いた途端、「俺は何て都合のいい夢を見ているんだろう」と思わず自嘲した。
現実の千鶴は、当然ながら俺を弟としか思っていない。その上、彼女は自分の親友と付き合っているというのに。
「千鶴」
「えっ……な、何?」
俺は千鶴の手首を掴んで自分の方に引き寄せると、彼女の背中に手を回し強い力で抱き締めた。
「俺も千鶴のことが好きだった。子供の頃から、ずっと好きだった」
「の、望……?」
千鶴は顔を真っ赤にして「苦しいよ」と訴えていたが、俺は気にせず彼女を抱き締め続けた。
夢でも構わない。今は『幼馴染』の関係である千鶴に堂々と想いを伝えたい。後ろめたさを感じることなく彼女を愛したい。
「俺は誰よりもお前を愛している。絶対、幸せにしてみせるから……だから、ずっとそばにいて欲しい」
「……うん。私も望のことが誰よりも好きだよ。ずっと一緒にいようね」
そうやってお互いの気持ちを確かめ合っていると、不意に頭上から自分の名前を呼ぶ声が聞こえた。
「──望!」
「……ん……」
「望、起きて!」
目を開けると、俺の顔を覗き込んでいる千鶴と目が合った。
「望、朝だよ!」
「もう朝か……」
そう呟きながら俺は上体を起こし、寝ぼけ眼をこすりながら片手で頭を抱える。案の定、寝不足で疲れがとれていないようだ。
そして、同時に「やっぱりあれは夢だったのか」と改めて実感させられ、切ない気持ちになる。
「おはよう、望!」
「……おはよう」
「朝ご飯もう出来てるから、早く着替えてね」
「ああ、わかった」
そう返すと、千鶴はくるっと背中を向けて部屋から出ていこうとした。
俺達双子を引き取った叔母夫婦とは、一応同じ家に住んでいるものの顔を合わせることが少ない。大体、夜遅く帰ってきて、俺達が起きる頃にはもう家を出ているからだ。
千鶴は、忙しい叔母達に代わって我が家の家事を担当している。俺はいつも「手伝おうか」と声を掛けるのだが、「これくらい私にやらせて」と返され断られてしまう。
「千鶴」
「ん? どうしたの?」
思わず呼び止めると、ドアノブに手を掛けた千鶴がこちらを振り返った。
「俺達って、姉弟だよな……?」
「え!? 当たり前でしょう? ……もしかして、寝惚けてる?」
「ああ、いや……何故か、千鶴が隣の家に住む幼馴染になった夢を見たんだ」
「へえ、そうなんだ! 夢の中の私はどんな感じだったの?」
「それは──」
興味津々に聞いてくる千鶴に対して、夢の内容を言えるはずもなく、俺は言葉に詰まってしまう。「夢の中のお前は俺と両想いだった」なんて言ったら、彼女はどんな顔をするのだろうか……。
「……」
「望……?」
「そ、その……別に、いつもと変わらなかった」
「そっか。でも……私と望なら、姉弟じゃなかったとしてもきっと仲良くなれていたと思うな」
千鶴は呟くようにそう言うと、動揺している俺に向かって柔らかな笑みを返した。
「じゃあ、準備してくるね」
千鶴は俺にそう一声掛けると、ドアを開けて部屋から出ていった。
急いで着替えを済ませた俺は、早足でリビングに向かい、椅子に腰掛ける。
すると、キッチンにいる千鶴がこちらを振り返り、食卓の方へ歩いてきた。
「はい、望」
突然、千鶴が綺麗な包装紙でラッピングされた箱を差し出してきた。
「……これは?」
「ほら、今日はバレンタインデーでしょう?」
そう返され、「ああ、そう言えばそうだったな」と今日がバレンタインデーだったことを思い出す。
千鶴は、毎年俺にこうやって手作りのチョコレートをくれる。本命チョコではないと頭では理解しつつも、それが何だか特別な事のように思えて嬉しかった。
「ありがとう、千鶴」
「ううん。望には、普段から迷惑掛けっぱなしだから……こういう日くらい、感謝の気持ちを形にしたいなと思って。私、料理とかお菓子作りだけは得意だから。……他のことに関しては不器用なんだけどね」
そう言いながら、千鶴は苦笑を浮かべた。
千鶴に「今食べてもいいか?」と尋ねると「いいよ」と返ってきたので、俺は包装紙を開け、箱の中に入っているチョコを一粒取り出し、それを口に放り込んだ。
「どうかな……? 美味しい?」
「勿論。また腕が上がったんじゃないか?」
そう言って褒めると、千鶴は照れくさそうに自分の頬を人差し指で掻いた。
「そ、そうかな……? 要くんも喜んでくれるかな?」
そう言いながら浮き浮きした表情を浮かべる千鶴を見て、チョコを咀嚼していた俺の口の動きが止まる。
テーブルの端のほうに視線を移すと、もう一つラッピングされた箱が置いてあることに気付いた。これを、後で要にも渡すのだろうか……。
「どうしたの……?」
俺の様子がおかしいことに気付いた千鶴は、不思議そうな顔をしてそう尋ねてきた。
「あ、ああ……悪い。そうだな……こんなに美味しいんだから、きっとあいつも喜ぶと思う」
そう返事をしながら、嫉妬心を抑え無理やり笑顔を作る。俺の気持ちに気付かない千鶴は、それを聞いて嬉しそうに無邪気な笑みを浮かべた。
そんな彼女を横目に俺はチョコをもう一粒指で摘み、そのまま口に運んだ。
最愛の人が作ったそのチョコは、甘くて切ない涙の味がした。
聞き慣れた心地よい声音。それに気付き目を覚ますと、最愛の人がベッドの傍らに立って俺の顔を覗き込んでいた。
「……おはよう。千鶴」
「おはよう! ……相変わらず、寝起きだけは悪いよね」
「昨日、夜遅くまで調べ物をしていたから余計に眠くて……」
そう返すと、千鶴は「そうなんだ」と言ってベッドに腰掛けた。
千鶴は俺の片思いの相手であると同時に、双子の姉だ。生まれた時からずっと一緒で、隣にいるのが当たり前の存在だった。
そして──気が付けば、俺は彼女に恋をしていた。俺の片思いは一時的な気の迷いなんかじゃなく、子供の頃から現在までずっと続いている。
この気持ちを初めて自覚した時、「自分はおかしい。異常なんだ」と思い散々悩んだ。
一人で悩んでいることに耐えられなくなり、ネット上の匿名掲示板で相談をしたこともある。けれども……やはり、回答は想像した通りのものだった。「ずっと一緒に暮らしていたら、普通は好きにならない」とか「今まで離れて暮らしていて、姉弟だと知らなかったならわかるけど」とか「可哀想だけど、気持ちは伝えないほうがいいかも」とか、皆口を揃えて俺に姉への想いを断つよう勧めた。
世間の反応を見て、俺は何度も千鶴のことを諦めようとした。でも、諦めようとすればするほど千鶴への想いは強くなっていった。
悩んだ末、俺はこう決心した。
無理に諦めようとしても、余計に辛くなるだけだ。だから、一生千鶴だけを想って生きていこう。いつか彼女に恋人が出来て結婚してしまっても、変わらず『理想の弟』を演じ続け、ずっと彼女を見守っていこうと……。
俺は絶対、千鶴が血の繋がった姉じゃなかったとしても彼女のことを好きになっていたと思う。「双子の姉を本気で愛している」と言えばとても重苦しく聞こえるが、自分にとっては同じクラスの女子を好きになったりする感覚と何ら変わらなかった。それくらい、自然と恋に落ちたのだ。
きっと、運悪く双子の姉弟として生まれてきてしまっただけなのだと……そう自分に言い聞かせることで、俺は何とか日々平常心を保っていた。
「まったく……毎朝、起こしに来る私の身にもなって欲しいよ。いくら幼馴染だからって、頼るのも程々に──」
「幼馴染? 何を言ってるんだ? お前は、俺の双子の姉だろ?」
「え? 望こそ、何寝惚けてるの? 私達は幼馴染で、幼稚園の頃からの付き合いでしょう?」
「……!?」
「そりゃあ、確かに同い年だし家も隣同士だし、学校も今までずっと一緒だったからきょうだいのように育ったけど……私達は、正真正銘赤の他人。私が望のお姉ちゃんなわけないでしょう?」
きょとんとした表情をしている千鶴を見て、気付いた。これは『夢』なのだと。
どうやら、夢の中の千鶴は俺の幼馴染という設定らしい。常日頃から抱いている願望が夢になって現れたみたいだ。
「あ……ああ、そうだったな……」
「変な望……」
慌てて誤魔化す俺を見て千鶴は怪訝な表情を浮かべ、ため息をついた。
「……夢を見ていたんだ」
「夢?」
「ああ。夢の中の俺達は双子の姉弟だった。そして、俺は実の姉であるお前に恋をしていたんだ。……変な夢だろ?」
「なっ……」
俺が夢の内容を語ると、千鶴は頬を赤く染め狼狽え始めた。
「……ず、随分と凄い夢を見たね」
「そうだな……。でも──」
「でも……?」
そこまで言いかけて俺は口を噤む。つい、「本当はこっちが夢なんだけどな……」と言いそうになってしまったからだ。
なぜだかわからないが、それを口に出した瞬間この幸せな夢から覚めてしまうような気がした。だから、本当のことは言えない。一分一秒でも長く、この夢に微睡んでいたい。
「……なんでもない」
「さっきから変なことばかり言ってるね。……でも、本当にそうだったら困るな」
「困る?」
「うん。だって、私……昔から望のこと……」
千鶴はそう言って口籠り、恥ずかしそうに俺を見上げた。
「……?」
「ご、ごめん! 今のは忘れて!」
焦った様子でそう返した千鶴の瞳は、僅かに潤んでいるように見えた。
……ああ、そうか。夢の中の千鶴は俺のことが好きなのか。
それに気付いた途端、「俺は何て都合のいい夢を見ているんだろう」と思わず自嘲した。
現実の千鶴は、当然ながら俺を弟としか思っていない。その上、彼女は自分の親友と付き合っているというのに。
「千鶴」
「えっ……な、何?」
俺は千鶴の手首を掴んで自分の方に引き寄せると、彼女の背中に手を回し強い力で抱き締めた。
「俺も千鶴のことが好きだった。子供の頃から、ずっと好きだった」
「の、望……?」
千鶴は顔を真っ赤にして「苦しいよ」と訴えていたが、俺は気にせず彼女を抱き締め続けた。
夢でも構わない。今は『幼馴染』の関係である千鶴に堂々と想いを伝えたい。後ろめたさを感じることなく彼女を愛したい。
「俺は誰よりもお前を愛している。絶対、幸せにしてみせるから……だから、ずっとそばにいて欲しい」
「……うん。私も望のことが誰よりも好きだよ。ずっと一緒にいようね」
そうやってお互いの気持ちを確かめ合っていると、不意に頭上から自分の名前を呼ぶ声が聞こえた。
「──望!」
「……ん……」
「望、起きて!」
目を開けると、俺の顔を覗き込んでいる千鶴と目が合った。
「望、朝だよ!」
「もう朝か……」
そう呟きながら俺は上体を起こし、寝ぼけ眼をこすりながら片手で頭を抱える。案の定、寝不足で疲れがとれていないようだ。
そして、同時に「やっぱりあれは夢だったのか」と改めて実感させられ、切ない気持ちになる。
「おはよう、望!」
「……おはよう」
「朝ご飯もう出来てるから、早く着替えてね」
「ああ、わかった」
そう返すと、千鶴はくるっと背中を向けて部屋から出ていこうとした。
俺達双子を引き取った叔母夫婦とは、一応同じ家に住んでいるものの顔を合わせることが少ない。大体、夜遅く帰ってきて、俺達が起きる頃にはもう家を出ているからだ。
千鶴は、忙しい叔母達に代わって我が家の家事を担当している。俺はいつも「手伝おうか」と声を掛けるのだが、「これくらい私にやらせて」と返され断られてしまう。
「千鶴」
「ん? どうしたの?」
思わず呼び止めると、ドアノブに手を掛けた千鶴がこちらを振り返った。
「俺達って、姉弟だよな……?」
「え!? 当たり前でしょう? ……もしかして、寝惚けてる?」
「ああ、いや……何故か、千鶴が隣の家に住む幼馴染になった夢を見たんだ」
「へえ、そうなんだ! 夢の中の私はどんな感じだったの?」
「それは──」
興味津々に聞いてくる千鶴に対して、夢の内容を言えるはずもなく、俺は言葉に詰まってしまう。「夢の中のお前は俺と両想いだった」なんて言ったら、彼女はどんな顔をするのだろうか……。
「……」
「望……?」
「そ、その……別に、いつもと変わらなかった」
「そっか。でも……私と望なら、姉弟じゃなかったとしてもきっと仲良くなれていたと思うな」
千鶴は呟くようにそう言うと、動揺している俺に向かって柔らかな笑みを返した。
「じゃあ、準備してくるね」
千鶴は俺にそう一声掛けると、ドアを開けて部屋から出ていった。
急いで着替えを済ませた俺は、早足でリビングに向かい、椅子に腰掛ける。
すると、キッチンにいる千鶴がこちらを振り返り、食卓の方へ歩いてきた。
「はい、望」
突然、千鶴が綺麗な包装紙でラッピングされた箱を差し出してきた。
「……これは?」
「ほら、今日はバレンタインデーでしょう?」
そう返され、「ああ、そう言えばそうだったな」と今日がバレンタインデーだったことを思い出す。
千鶴は、毎年俺にこうやって手作りのチョコレートをくれる。本命チョコではないと頭では理解しつつも、それが何だか特別な事のように思えて嬉しかった。
「ありがとう、千鶴」
「ううん。望には、普段から迷惑掛けっぱなしだから……こういう日くらい、感謝の気持ちを形にしたいなと思って。私、料理とかお菓子作りだけは得意だから。……他のことに関しては不器用なんだけどね」
そう言いながら、千鶴は苦笑を浮かべた。
千鶴に「今食べてもいいか?」と尋ねると「いいよ」と返ってきたので、俺は包装紙を開け、箱の中に入っているチョコを一粒取り出し、それを口に放り込んだ。
「どうかな……? 美味しい?」
「勿論。また腕が上がったんじゃないか?」
そう言って褒めると、千鶴は照れくさそうに自分の頬を人差し指で掻いた。
「そ、そうかな……? 要くんも喜んでくれるかな?」
そう言いながら浮き浮きした表情を浮かべる千鶴を見て、チョコを咀嚼していた俺の口の動きが止まる。
テーブルの端のほうに視線を移すと、もう一つラッピングされた箱が置いてあることに気付いた。これを、後で要にも渡すのだろうか……。
「どうしたの……?」
俺の様子がおかしいことに気付いた千鶴は、不思議そうな顔をしてそう尋ねてきた。
「あ、ああ……悪い。そうだな……こんなに美味しいんだから、きっとあいつも喜ぶと思う」
そう返事をしながら、嫉妬心を抑え無理やり笑顔を作る。俺の気持ちに気付かない千鶴は、それを聞いて嬉しそうに無邪気な笑みを浮かべた。
そんな彼女を横目に俺はチョコをもう一粒指で摘み、そのまま口に運んだ。
最愛の人が作ったそのチョコは、甘くて切ない涙の味がした。
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