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22 甘いけど甘くない
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「あのー、ルディアス」
私はその場で立ち止まり、隣を歩くルディアスに声をかける。
「何だ?」
「そんなに距離を取って歩かなくても大丈夫ですよ……」
ルディアスが歩みを止めたのを確認すると、そう突っ込みを入れた。
彼は先程からずっと、手を伸ばしても届かない程の距離を取って私の隣を歩いている。実に、不自然極まりないのだ。
「……こうでもしないと、抱きつきたい衝動に駆られてしまうからな」
「だから、極端すぎるって言ったじゃないですか。す、少しくらいなら……くっついても大丈夫ですよ? 流石に、四六時中べったりだと何もできなくなるので困りますけど……」
相変わらず自重しているルディアスに『寂しいから少しはくっついてほしい』という意味を込めてそう返す。
しかし、彼はそんな意図にも気付かず「いや、でもな……」と言いながら躊躇していた。
「仕方ないですね……ちょっと、そこに座って貰えますか?」
私は、そう言いながら衣料品店の脇にあるベンチを指差す。
「?」
彼は不思議そうに私の顔を見ながらも、言われた通りに側にあるベンチに座った。
「……これでいいのか?」
私は小さく溜め息をつくと、ルディアスの目の前まで歩いていった。
「はい、そのまま動かないで下さい。……今日は、特別にサービスしてあげます」
私はそう言ってルディアスの前髪を手で上げると、彼の額にそっと口付けた。
本当に、軽く。触れるか触れないか程度に。私が自分から行動するとなると、これが精一杯だった。
ルディアスは目を見開いて頬を染めている。うーん。少し、大胆過ぎたかな?
ちなみに、額へのキスは『友情』の意味があるらしい。だけど……彼がそれを知っているかは謎だし、自分からこういうことをするのは初めてだから、流石に変に思われたかも知れない。
そんなことを思いながら、私は恥ずかしさのあまりルディアスに背中を向ける。
「せっかく、我慢していたのに……」
突然、そんな声が聞こえたかと思うと、背後からルディアスの手が伸びてきた。
「えっ……?」
私が意表を突かれていると、彼はそのまま後ろから私を強く抱き寄せた。
「──こんなことされたら、自制が利かなくなるだろ?」
ルディアスは私を抱く手に力を込めながら、耳元でそう囁いてきた。
ちょっと待って! 吐息が耳にかかってるんですけど!
……まさか、こう来るとは思わなかった。ドキドキしすぎて、このままじゃリアルの私の心臓が持たないよ。
彼はそんな気持ちに微塵も気付かず、私の肩に頭を乗せながら、恍惚とした表情で『ユリア』を堪能している。
「……暫く、こうしててもいいか?」
私が内心取り乱していると、ルディアスは遠慮がちにそう聞いてきた。
ええ。暫くと言わず、ずっとこうしてて下さい! ……と、言いたいところだけど周りの目があるし、そういうわけにもいかないよね。
そう思って周囲を確認すると、衣料品店から出てきた一人のプレイヤーが「あらあら」なんて言いながら、私たちを眺めていた。
うわぁ……見られてる。これは恥ずかしい。
でも、一見ただのバカップルに見えるんだろうなぁ……実はすごく複雑な事情があるなんて思わないんだろうなぁ……。
とりあえず、人前でこれ以上イチャイチャするわけにもいかないのでこの辺でやめさせないと。
「もう、調子に乗らないで下さい!」
私はそう叫ぶと、素早くルディアスの手を解いた。
「もう終わりか……」
彼は残念そうにそう呟くと、しょんぼりした表情で肩を落とす。
うっ……ちょっと可哀想だったかな?
「あ、その……人目が気になるので。それに私、リノさんと待ち合わせをしているので、そろそろ行かないと……」
「リノと?」
「ええ。クエストを手伝ってもらう予定なんです」
「それなら、俺に言え。何でリノなんだ?」
ルディアスは、少しむっとした様子でそう言った。
あ、ちょっと怒ってる……。相方的には、自分がいる時に他の人に声をかけてパーティ組まれるのって嫌なのかな。
「だってルディアス、これからバイトですよね? もう落ちる時間じゃないですか」
「む……もうそんな時間か。それは仕方ないな」
「ほら、急がないと遅刻しますよ。いってらっしゃい」
私はそう言うと、手を振りながら彼を送り出す。
なんかこういうのって、夫婦っぽくていいよね。
これをリアルで言える関係になりたいなぁ。って、流石にそれはちょっと気が早いかな。
いや……リアル嫁の座を狙うなら、やっぱりこれくらいの意気込みがあったほうがいいよね。
「……ユリア」
「あれ? ログアウトしないんですか?」
「いや、その……ありがとう」
「どうしたんですか、急に」
「かえって、気を使わせてしまったと思ってな」
「いえ、そんなことはないですよ。……なんか最近、性格が丸くなりましたね。正直、ちょっと気持ち悪いです」
「……失礼な。俺は元から優しいぞ?」
「まあ、そういうことにしておいてあげます……ふふっ」
私が笑うと、ルディアスもつられるように笑った。
「それじゃ……行ってくる」
「はい、いってらっしゃい」
ログアウトした彼を見送った私は、リノとの待ち合わせ場所に向かうために歩き出した。
ぼんやりと空を見上げながら、ふと思う。
このまま想いを伝えずに、この関係を続けていた方が良いのではないかと。『相方』として信頼関係を築いている現在がベストなのではないかと。
考えてみれば、私たちって本当に不思議な関係なんだよね。
さっきのやり取りだって、傍から見れば甘すぎるくらいなんだろうけど、リアルじゃ全然そんなことしないわけだし……。
気持ちを伝えて、仲が拗れるリスクを考えたら……甘いけど甘くない──そんな関係を続けている方が、幸せなのかも知れない。
私はその場で立ち止まり、隣を歩くルディアスに声をかける。
「何だ?」
「そんなに距離を取って歩かなくても大丈夫ですよ……」
ルディアスが歩みを止めたのを確認すると、そう突っ込みを入れた。
彼は先程からずっと、手を伸ばしても届かない程の距離を取って私の隣を歩いている。実に、不自然極まりないのだ。
「……こうでもしないと、抱きつきたい衝動に駆られてしまうからな」
「だから、極端すぎるって言ったじゃないですか。す、少しくらいなら……くっついても大丈夫ですよ? 流石に、四六時中べったりだと何もできなくなるので困りますけど……」
相変わらず自重しているルディアスに『寂しいから少しはくっついてほしい』という意味を込めてそう返す。
しかし、彼はそんな意図にも気付かず「いや、でもな……」と言いながら躊躇していた。
「仕方ないですね……ちょっと、そこに座って貰えますか?」
私は、そう言いながら衣料品店の脇にあるベンチを指差す。
「?」
彼は不思議そうに私の顔を見ながらも、言われた通りに側にあるベンチに座った。
「……これでいいのか?」
私は小さく溜め息をつくと、ルディアスの目の前まで歩いていった。
「はい、そのまま動かないで下さい。……今日は、特別にサービスしてあげます」
私はそう言ってルディアスの前髪を手で上げると、彼の額にそっと口付けた。
本当に、軽く。触れるか触れないか程度に。私が自分から行動するとなると、これが精一杯だった。
ルディアスは目を見開いて頬を染めている。うーん。少し、大胆過ぎたかな?
ちなみに、額へのキスは『友情』の意味があるらしい。だけど……彼がそれを知っているかは謎だし、自分からこういうことをするのは初めてだから、流石に変に思われたかも知れない。
そんなことを思いながら、私は恥ずかしさのあまりルディアスに背中を向ける。
「せっかく、我慢していたのに……」
突然、そんな声が聞こえたかと思うと、背後からルディアスの手が伸びてきた。
「えっ……?」
私が意表を突かれていると、彼はそのまま後ろから私を強く抱き寄せた。
「──こんなことされたら、自制が利かなくなるだろ?」
ルディアスは私を抱く手に力を込めながら、耳元でそう囁いてきた。
ちょっと待って! 吐息が耳にかかってるんですけど!
……まさか、こう来るとは思わなかった。ドキドキしすぎて、このままじゃリアルの私の心臓が持たないよ。
彼はそんな気持ちに微塵も気付かず、私の肩に頭を乗せながら、恍惚とした表情で『ユリア』を堪能している。
「……暫く、こうしててもいいか?」
私が内心取り乱していると、ルディアスは遠慮がちにそう聞いてきた。
ええ。暫くと言わず、ずっとこうしてて下さい! ……と、言いたいところだけど周りの目があるし、そういうわけにもいかないよね。
そう思って周囲を確認すると、衣料品店から出てきた一人のプレイヤーが「あらあら」なんて言いながら、私たちを眺めていた。
うわぁ……見られてる。これは恥ずかしい。
でも、一見ただのバカップルに見えるんだろうなぁ……実はすごく複雑な事情があるなんて思わないんだろうなぁ……。
とりあえず、人前でこれ以上イチャイチャするわけにもいかないのでこの辺でやめさせないと。
「もう、調子に乗らないで下さい!」
私はそう叫ぶと、素早くルディアスの手を解いた。
「もう終わりか……」
彼は残念そうにそう呟くと、しょんぼりした表情で肩を落とす。
うっ……ちょっと可哀想だったかな?
「あ、その……人目が気になるので。それに私、リノさんと待ち合わせをしているので、そろそろ行かないと……」
「リノと?」
「ええ。クエストを手伝ってもらう予定なんです」
「それなら、俺に言え。何でリノなんだ?」
ルディアスは、少しむっとした様子でそう言った。
あ、ちょっと怒ってる……。相方的には、自分がいる時に他の人に声をかけてパーティ組まれるのって嫌なのかな。
「だってルディアス、これからバイトですよね? もう落ちる時間じゃないですか」
「む……もうそんな時間か。それは仕方ないな」
「ほら、急がないと遅刻しますよ。いってらっしゃい」
私はそう言うと、手を振りながら彼を送り出す。
なんかこういうのって、夫婦っぽくていいよね。
これをリアルで言える関係になりたいなぁ。って、流石にそれはちょっと気が早いかな。
いや……リアル嫁の座を狙うなら、やっぱりこれくらいの意気込みがあったほうがいいよね。
「……ユリア」
「あれ? ログアウトしないんですか?」
「いや、その……ありがとう」
「どうしたんですか、急に」
「かえって、気を使わせてしまったと思ってな」
「いえ、そんなことはないですよ。……なんか最近、性格が丸くなりましたね。正直、ちょっと気持ち悪いです」
「……失礼な。俺は元から優しいぞ?」
「まあ、そういうことにしておいてあげます……ふふっ」
私が笑うと、ルディアスもつられるように笑った。
「それじゃ……行ってくる」
「はい、いってらっしゃい」
ログアウトした彼を見送った私は、リノとの待ち合わせ場所に向かうために歩き出した。
ぼんやりと空を見上げながら、ふと思う。
このまま想いを伝えずに、この関係を続けていた方が良いのではないかと。『相方』として信頼関係を築いている現在がベストなのではないかと。
考えてみれば、私たちって本当に不思議な関係なんだよね。
さっきのやり取りだって、傍から見れば甘すぎるくらいなんだろうけど、リアルじゃ全然そんなことしないわけだし……。
気持ちを伝えて、仲が拗れるリスクを考えたら……甘いけど甘くない──そんな関係を続けている方が、幸せなのかも知れない。
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