上 下
9 / 48

9 相方という存在

しおりを挟む
 突然、私の目の前でルディアスの胸に飛び込んだリノという女性キャラ。
 彼女は目に涙を浮かべ、恍惚とした表情で彼を見上げている。それを見て、私は胸がチクリと痛んだ。
 なんで……? なんでそんなに親しそうなの……?

「ルディ……私、ずっと会いたかった……」
「……何故、ここにいる?」

 嬉しそうなリノに対して、ルディアスは強張った表情でそう言った。
 その様子から、何となく会いたくない相手なんだろうなぁということは想像できた。

「ルディアス……これは一体、どういうことなんですか? 説明してほしいんですけど?」

 私は咳払いを一つして、彼を睨みながらそう言った。
 一体、誰なんだろう? とりあえずこのリノって人は、雰囲気から察するにリアル女性っぽいけど……三次元に興味がないルディアスに限って、嫁(ユリア)を裏切ってまで浮気するなんてありえないだろうし……。

「……元嫁だ」
「元嫁!?」

 ああ、なるほど……何度かゲーム内で結婚してるのは知っていたけど、ネカマばかりだと思ってた。
 でも、こんなに熱い眼差しでルディアスを見つめているくらいだから、たぶん中身は女性だよね……。

「あのー……詳しく聞かせてもらえませんか?」

 とりあえず、広場の隅に移動する私たち。
 私が不機嫌な態度を全面に出して説明を求めると、ルディアスはようやく口を割った。
 どうやらリノという人は『星彩の騎士団』の元ギルドメンバーで、一年程前にゲーム内で結婚していた相手らしい。
 でもある時、急にゲームの引退を宣言して、ギルドも自分から脱退していったのだとか。
 そして、私とシオンの他にルディアスの本性を知る人物でもある……という話だった。
 そんな彼女が突然ゲームに復帰したのだから、驚くのも無理はない。

「大体の事情はわかりましたけど……」

 自分で言ってて思った……なんか今、私すごい嫁ヅラしてるよね。
 いや、実際に嫁だからいいんだろうけど、彼が好きなのはアバターの方だし私が出張るのは何か違う気もする……。

「『なんで引退宣言なんかしたの?』って聞きたそうな顔してるわね」

 突然、リノが私に向かってそう言った。

「……ルディに振られたのよ。私が勝手に本気になって、告白したら玉砕したってわけ。それで、自棄になって……ギルドを抜けて引退宣言したの」
「え……」

 ……先に実行してた人がいた。そして、見事玉砕かぁ……まあ、そうなりますよね。
 でも、この人は彼が二次コンだってことは知らなそう。

「宣言しちゃった手前、もう二度と来ないつもりだったんだけど……またルディに会いたくなって、来ちゃったの。そしたら、会えた……運命だと思った。でも……」

 そう言いながら、リノは私の方をちらりと見る。

「既に、新しいお嫁さんがいたみたいね」
「あ……えっと。なんか、すみません」
「謝ることないわよ。これで、やっと私も吹っ切ることができたから」

 リノはそう言うと、寂しそうに笑った。
 吹っ切るって……残念ながら、私もアバターしか見てもらえてませんよ。
 ……それにしても、冷静に考えると変な光景だ。
 一見、修羅場なのに当のルディアスはどちらにも(中身には)興味ないという……。
 彼が見てるのは私たちのアバターだけ。ああ、何だろう……この妙な敗北感。

 しかもルディアスは、なんか退屈そうに腕を組みながら壁に背を預けて、空を仰いでるし。
 まあ、どうせ今日放送する深夜アニメのことでも考えてるんだろうけど。
 あるいは、今度発売するアトレイアのフィギュアのことについてかも知れない。
 うん、あの顔は絶対そうだ……間違いない。安定のブレなさだ。
 ……って、最近は彼が考えていそうなことまでわかるようになってしまった。
 まあ、そんなことはどうでもいいんだよ。
 とにかく、貴方のことで二人とも悩んでるんですよって言いたい。

「話は終わったか?」

 リノとの話が一区切りついた頃を見計らって、離れていたルディアスが戻ってきた。
 こ、こいつ……! 本来なら自分も最後まで参加するべき話でしょうが!
 大体の説明だけして、私たち二人が話し始めたら少し遠くに離れて行きやがりましたよ。

「ええ、終わったわよ」
「それで、どうするんだ? 復帰するのか?」
「考え中よ。ねえ、もし暇なら……久しぶりに一緒にダンジョンに行かない? あ、もちろんユリアさんも一緒に」

 そう提案して、にっこりと微笑むリノ。

「別に、構わないが……ユリアは?」
「私、どっちかっていうとまだ初心者なので、足引っ張ることになりますけど……」
「大丈夫よ。しっかり援護するから」
「は、はい……」

 リノに誘われて、成り行きでダンジョンに行くことになってしまった。
 というか、元嫁と現嫁を引き連れてダンジョンに行くとか、普通に気まずすぎるでしょ……。
 全く気にしないところが、流石ルディアスだよね……。

 リノのジョブはアーククレリック。引退宣言して来なくなる前は、ヒーラーとして活躍していたらしい。
 ルディアスについていけるくらいだから、結構キャラ育ててたのかな。
 なんか色々と不安だけど、もう返事しちゃったから行くしかないかぁ……。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

私が愛する王子様は、幼馴染を側妃に迎えるそうです

こことっと
恋愛
それは奇跡のような告白でした。 まさか王子様が、社交会から逃げ出した私を探しだし妃に選んでくれたのです。 幸せな結婚生活を迎え3年、私は幸せなのに不安から逃れられずにいました。 「子供が欲しいの」 「ごめんね。 もう少しだけ待って。 今は仕事が凄く楽しいんだ」 それから間もなく……彼は、彼の幼馴染を側妃に迎えると告げたのです。

あなたなんて大嫌い

みおな
恋愛
 私の婚約者の侯爵子息は、義妹のことばかり優先して、私はいつも我慢ばかり強いられていました。  そんなある日、彼が幼馴染だと言い張る伯爵令嬢を抱きしめて愛を囁いているのを聞いてしまいます。  そうですか。 私の婚約者は、私以外の人ばかりが大切なのですね。  私はあなたのお財布ではありません。 あなたなんて大嫌い。

【完結】愛していないと王子が言った

miniko
恋愛
王子の婚約者であるリリアナは、大好きな彼が「リリアナの事など愛していない」と言っているのを、偶然立ち聞きしてしまう。 「こんな気持ちになるならば、恋など知りたくはなかったのに・・・」 ショックを受けたリリアナは、王子と距離を置こうとするのだが、なかなか上手くいかず・・・。 ※合わない場合はそっ閉じお願いします。 ※感想欄、ネタバレ有りの振り分けをしていないので、本編未読の方は自己責任で閲覧お願いします。

側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります。

とうや
恋愛
「私はシャーロットを妻にしようと思う。君は側妃になってくれ」 成婚の儀を迎える半年前。王太子セオドアは、15年も婚約者だったエマにそう言った。微笑んだままのエマ・シーグローブ公爵令嬢と、驚きの余り硬直する近衛騎士ケイレブ・シェパード。幼馴染だった3人の関係は、シャーロットという少女によって崩れた。 「側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります」 ********************************************        ATTENTION ******************************************** *世界軸は『側近候補を外されて覚醒したら〜』あたりの、なんちゃってヨーロッパ風。魔法はあるけれど魔王もいないし神様も遠い存在。そんなご都合主義で設定うすうすの世界です。 *いつものような残酷な表現はありませんが、倫理観に難ありで軽い胸糞です。タグを良くご覧ください。 *R-15は保険です。

帰らなければ良かった

jun
恋愛
ファルコン騎士団のシシリー・フォードが帰宅すると、婚約者で同じファルコン騎士団の副隊長のブライアン・ハワードが、ベッドで寝ていた…女と裸で。 傷付いたシシリーと傷付けたブライアン… 何故ブライアンは溺愛していたシシリーを裏切ったのか。 *性被害、レイプなどの言葉が出てきます。 気になる方はお避け下さい。 ・8/1 長編に変更しました。 ・8/16 本編完結しました。

やり直すなら、貴方とは結婚しません

わらびもち
恋愛
「君となんて結婚しなければよかったよ」 「は…………?」  夫からの辛辣な言葉に、私は一瞬息をするのも忘れてしまった。

【完結】殿下、自由にさせていただきます。

なか
恋愛
「出て行ってくれリルレット。王宮に君が住む必要はなくなった」  その言葉と同時に私の五年間に及ぶ初恋は終わりを告げた。  アルフレッド殿下の妃候補として選ばれ、心の底から喜んでいた私はもういない。  髪を綺麗だと言ってくれた口からは、私を貶める言葉しか出てこない。  見惚れてしまう程の笑みは、もう見せてもくれない。  私………貴方に嫌われた理由が分からないよ。  初夜を私一人だけにしたあの日から、貴方はどうして変わってしまったの?  恋心は砕かれた私は死さえ考えたが、過去に見知らぬ男性から渡された本をきっかけに騎士を目指す。  しかし、正騎士団は女人禁制。  故に私は男性と性別を偽って生きていく事を決めたのに……。  晴れて騎士となった私を待っていたのは、全てを見抜いて笑う副団長であった。     身分を明かせない私は、全てを知っている彼と秘密の恋をする事になる。    そして、騎士として王宮内で起きた変死事件やアルフレッドの奇行に大きく関わり、やがて王宮に蔓延る謎と対峙する。  これは、私の初恋が終わり。  僕として新たな人生を歩みだした話。  

処理中です...